「父が亡くなったとき、母がすべて相続すれば相続税はかからないと聞きました」というご相談を、私たちは毎月のようにお受けします。たしかに一次相続だけを見れば、その分け方で納税額が0円になることは珍しくありません。ところが、母が亡くなったときの二次相続まで含めて計算すると、家族全体で納める相続税の総額が数百万円単位で増えてしまう場合があります。
この記事では、配偶者と子がいるご家庭を想定し、一次相続の分け方によって一次・二次を通算した相続税がどれだけ変わるかを、遺産1億円の具体例で最後まで計算してお見せします。二次相続で税額が増える仕組み、その負担を抑える生前対策、そして配偶者の税額軽減をどこまで使うべきかの判断基準まで、国税庁の資料に基づいて順に整理していきます。
二次相続の定義と一次相続との違い
二次相続とは、一次相続で相続人となった配偶者が亡くなったときに発生する相続を指します。たとえば父が先に亡くなったときの相続が一次相続で、その後に母が亡くなったときの相続が二次相続です。法律上の正式な用語ではなく、二回続く相続を通算して考えるための実務上の呼び方です。
一次相続と二次相続で決定的に違うのは、相続人の顔ぶれです。一次相続では配偶者と子が相続人になりますが、二次相続では配偶者がすでにいないため、相続人は子だけになります。配偶者は常に相続人となり、子がいる場合の法定相続分は配偶者が2分の1、子が全員で2分の1です。国税庁 No.4132 相続人の範囲と法定相続分
この相続人の数の違いが、基礎控除額や各種の非課税枠、そして適用できる特例の範囲に直接影響します。つまり同じ財産が同じ家族の中を移動するだけでも、二回目のほうが税負担は重くなりやすい構造になっているのです。
二次相続で相続税が増える三つの理由
二次相続の税負担が重くなる原因は、大きく三つに整理できます。いずれも制度の仕組みそのものに由来するため、事前に知っておけば対策の余地があります。
法定相続人の減少による基礎控除の縮小
相続税は、正味の遺産額が基礎控除額を超える場合にのみかかります。基礎控除額は3,000万円に600万円と法定相続人の数を掛けた金額を加えて計算します。国税庁 No.4102 相続税がかかる場合
配偶者と子2人の家庭であれば、一次相続の法定相続人は3人です。二次相続では配偶者が抜けて子2人だけになるため、法定相続人が1人減ります。
この例では基礎控除額が600万円縮みます。課税される遺産の総額がその分だけ増え、しかも相続税は超過累進税率のため、増えた600万円には高い税率が適用されます。
配偶者の税額軽減の消滅
配偶者の税額軽減は、配偶者が遺産分割や遺贈で実際に取得した正味の遺産額のうち、1億6,000万円と配偶者の法定相続分相当額のいずれか多い金額までは相続税がかからないという制度です。国税庁 No.4158 配偶者の税額の軽減
非常に効果の大きい制度ですが、使えるのは配偶者が生きている一次相続だけです。二次相続では相続人が子だけになるため、この軽減は一切使えません。一次相続で配偶者に多くの財産を寄せるほど、軽減の使えない二次相続に課税対象がそのまま持ち越されることになります。
特例と非課税枠の縮小
小規模宅地等の特例は、被相続人が住んでいた宅地等のうち330平方メートルまでの部分について、相続税の課税価格に算入すべき価額を80パーセント減額できる制度です。配偶者が取得する場合は取得者ごとの要件がなく無条件で使えますが、同居していた親族が取得する場合は、相続開始の直前から相続税の申告期限まで引き続きその建物に居住し、かつその宅地等を申告期限まで所有し続けることが必要です。国税庁 No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)
一次相続では母が自宅を取得すれば無条件で特例を使えます。しかし二次相続で子が自宅を取得する場面では、子が別居しており自分名義の持ち家に住んでいる場合、同居親族にも別居親族の要件にも当てはまらず、特例を使えなくなる可能性があります。自宅の評価額が大きいご家庭ほど、この差は税額に強く跳ね返ります。
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生命保険金にも同じことが起こります。被相続人が保険料を負担していた死亡保険金を相続人が受け取った場合、500万円に法定相続人の数を掛けた金額までが非課税となります。国税庁 No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金
法定相続人が3人なら1,500万円、2人なら1,000万円です。二次相続では非課税枠も500万円分だけ小さくなります。
一次相続と二次相続の通算税額シミュレーション
ここからは実際に数字を追いかけます。相続税は、正味の遺産額から基礎控除額を差し引いた課税遺産総額を法定相続分で按分し、それぞれに税率を掛けて算出した税額を合計して相続税の総額を求め、その総額を各人が実際に取得した課税価格の割合で割り振るという順序で計算します。国税庁 No.4152 相続税の計算
前提条件と相続税の速算表
今回のモデルケースは次のとおりです。母には夫から相続する財産とは別に、自分名義の預貯金があるものとします。この母固有の財産は二次相続で課税対象に加算される点に注意が必要です。
| 父の遺産総額(一次相続) | 1億円 |
|---|---|
| 一次相続の相続人 | 母、長男、長女の3人 |
| 母固有の財産 | 2,000万円 |
| 二次相続の相続人 | 長男、長女の2人 |
| 特例の適用 | 小規模宅地等の特例および 生命保険金の非課税枠は考慮しない |
税額の計算には相続税の速算表を用います。今回の計算で使う部分を抜き出すと次のとおりです。国税庁 No.4155 相続税の税率
| 1,000万円以下 | 税率10パーセント、控除額なし |
|---|---|
| 1,000万円超から 3,000万円以下 |
税率15パーセント、控除額50万円 |
| 3,000万円超から 5,000万円以下 |
税率20パーセント、控除額200万円 |
| 5,000万円超から 1億円以下 |
税率30パーセント、控除額700万円 |
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一次相続の相続税の総額
まず一次相続の相続税の総額を求めます。この総額は誰がいくら取得するかにかかわらず、遺産総額と法定相続人の数だけで決まります。基礎控除額を差し引いて課税遺産総額を出すところから始めます。
この課税遺産総額を法定相続分で按分します。母が2分の1、長男と長女がそれぞれ4分の1です。
それぞれの金額を速算表に当てはめます。
算出した税額を合計したものが相続税の総額です。
配偶者が全財産を取得する場合
母が1億円すべてを取得するパターンです。相続税の総額630万円を、実際に取得した課税価格の割合で割り振ります。
母の取得額1億円は1億6,000万円以下ですから、配偶者の税額軽減により母の納付税額は0円になります。子2人は財産を取得していないため税額もありません。一次相続の納税額は0円です。
次に二次相続です。母の財産は、父から相続した1億円に母固有の2,000万円を加えた金額になります。
相続人は長男と長女の2人ですから、法定相続分は2分の1ずつです。
二次相続の税額は1,160万円です。一次相続の0円と合わせた通算額を求めます。
法定相続分どおりに分割する場合
今度は母が5,000万円、長男と長女がそれぞれ2,500万円を取得するパターンです。相続税の総額630万円は先ほどと同じで、割り振り方だけが変わります。
母の315万円は配偶者の税額軽減により0円になります。子2人の分は軽減の対象外ですので、そのまま納税します。
一次相続の納税額は315万円です。パターンAと比べると、この時点では315万円だけ多く納めることになります。
続いて二次相続を計算します。母の財産は父から相続した5,000万円と母固有の2,000万円の合計です。
二次相続の税額は320万円です。一次相続の315万円と合わせた通算額を求めます。
二つのパターンの通算税額の比較
両者の最終結果を並べます。一次相続だけを見れば納税が0円で済むパターンAのほうが有利に見えますが、二次相続まで通算すると評価が逆転します。
| 配偶者が全財産を取得 | 法定相続分どおりに分割 |
|---|---|
| 一次相続0円 | 一次相続315万円 |
| 二次相続1,160万円 | 二次相続320万円 |
| 通算1,160万円 | 通算635万円 |
差は525万円です。同じ財産が同じ2人の子に渡るにもかかわらず、一次相続での分け方を変えるだけでこれだけの差が生まれます。一次相続の納税額をゼロに近づけることと、家族全体の税負担を最小にすることは別の話だという点が、この試算のいちばん大切な結論です。
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二次相続を見据えた生前対策
分け方の工夫だけでなく、一次相続が起こる前から準備できる対策もあります。ここでは効果が大きく、比較的取り組みやすいものを挙げます。
生命保険金の非課税枠の活用
死亡保険金の非課税枠は、一次相続と二次相続でそれぞれ別に使えます。配偶者と子2人の家庭であれば、一次相続で1,500万円、二次相続で1,000万円の枠があり、合計で2,500万円分の財産を非課税で移せる計算です。父だけでなく母を被保険者とする契約も準備しておくと、二次相続の枠を取りこぼさずに済みます。
配偶者の財産の計画的な圧縮
二次相続の課税対象は、一次相続で配偶者が取得した財産と配偶者固有の財産の合計です。母がもともと自分名義の財産を多く持っている場合、一次相続で母の取り分を増やすと二次相続の負担が加速度的に重くなります。生前贈与によって配偶者の財産を計画的に子や孫へ移しておく方法は、この加速を和らげる有効な手段です。
自宅の取得者の事前検討
小規模宅地等の特例を二次相続でも使えるかどうかは、自宅を誰が取得するかで決まります。同居している子がいるならその子が取得すれば要件を満たしやすくなります。同居していない子しかいない場合でも、被相続人に配偶者がいないこと、相続開始前3年以内に自己や配偶者などが所有する家屋に居住したことがないことなどの要件をすべて満たせば、別居の親族でも特例の対象になります。二次相続では母に配偶者がいませんので、この経路が使える余地は一次相続より広がります。
相次相続控除の適用可否の確認
今回の相続開始前10年以内に、被相続人が相続などで財産を取得して相続税が課されていた場合、その相続人の相続税額から一定の金額を控除できます。控除額は前回の相続で課された相続税額を基礎に、1年につき10パーセントの割合で逓減させた金額です。国税庁 No.4168 相次相続控除
ここに実務上の盲点があります。控除額の計算の基礎となるのは、今回の被相続人が前の相続の際に課せられた相続税額です。一次相続で配偶者の税額軽減を限度まで使い、母の納付税額が0円になっていた場合、この基礎となる金額も0円となり、二次相続で控除できる金額は生じません。一次相続で税額をゼロにしたことが、二次相続の控除を失う結果につながるのです。
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配偶者の税額軽減を使う際の判断基準
配偶者の税額軽減を使わないほうがよい、という話ではありません。使い方の程度を決める基準を持つことが重要です。ここでは実務でよく使う三つの視点を紹介します。
遺産規模と配偶者固有の財産
判断の出発点は、母が最終的にいくらの財産を抱えた状態で二次相続を迎えるかです。母固有の財産と一次相続で取得する財産の合計が二次相続の基礎控除額に収まるのであれば、そもそも二次相続で相続税は生じません。この場合は一次相続で軽減を大きく使ったほうが有利になります。
逆に、その合計額が基礎控除額を大きく超え、しかも高い税率区分に入る見込みであれば、一次相続で子への配分を増やして二次相続の課税対象を抑えるほうが通算では軽くなります。先ほどのシミュレーションはまさにこの後者のケースでした。
配偶者の生活資金と納税資金
税額だけで分け方を決めてはいけません。母が残りの人生を安心して暮らせるだけの生活資金と、将来の医療費や介護費用を手元に確保しておくことが大前提です。税負担を数百万円減らせても、母の生活が立ち行かなくなっては本末転倒になります。
子の側にも視点が必要です。一次相続で子が財産を取得すればその分の相続税をすぐに納めなければなりません。取得したのが不動産ばかりで現金が乏しい場合、納税資金が用意できずに困ることがあります。分け方を検討する際は、税額と同時に手元の現金の動きも確認してください。
申告期限までの分割の完了
配偶者の税額軽減を受けるには、原則として申告期限までに遺産の分割が終わっていることが必要です。分割が終わっていない財産は軽減の対象になりませんが、申告書に申告期限後3年以内の分割見込書を添付し、期限から3年以内に分割された場合には軽減の対象とすることができます。
その申告期限は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内です。国税庁 No.4205 相続税の申告と納税
二次相続まで見据えた試算には、財産の評価と複数パターンの税額計算が必要です。10か月という期間は、相続人の把握や財産調査を並行して進めることを考えると決して長くありません。一次相続が始まったら、できるだけ早い段階で通算の試算に着手することをおすすめします。
まとめ
二次相続を含めて考えると、一次相続で配偶者に財産を寄せる分け方が必ずしも有利とは限りません。遺産1億円で配偶者と子2人のケースでは、配偶者が全財産を取得すると通算1,160万円、法定相続分どおりに分けると通算635万円となり、525万円の差が生じました。
差が生まれる理由は、二次相続で法定相続人が1人減って基礎控除額と生命保険金の非課税枠が縮小すること、配偶者の税額軽減が使えなくなること、そして小規模宅地等の特例の要件を満たしにくくなることの三点に集約されます。加えて、一次相続の納税額を0円にすると相次相続控除も生じないという盲点があります。
最適な分け方は、遺産の規模、配偶者固有の財産、自宅の評価額と同居の状況、そして家族の生活設計によって一件ずつ変わります。数字の比較だけで結論を出さず、生活資金と納税資金を確保したうえで判断してください。個別の財産構成やご家族の事情によって答えは変わりますので、具体的なケースは税理士へのご相談をおすすめします。
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- 国税庁 No.4132 相続人の範囲と法定相続分
- 国税庁 No.4102 相続税がかかる場合
- 国税庁 No.4158 配偶者の税額の軽減
- 国税庁 No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)
- 国税庁 No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金
- 国税庁 No.4152 相続税の計算
- 国税庁 No.4155 相続税の税率
- 国税庁 No.4168 相次相続控除
- 国税庁 No.4205 相続税の申告と納税
二次相続のよくある質問まとめ
Q.二次相続とは何ですか。
A.一次相続で相続人となった配偶者が亡くなったときに発生する相続を二次相続といいます。父が先に亡くなったときが一次相続、その後に母が亡くなったときが二次相続です。相続人が子だけになるため、一次相続より税負担が重くなりやすい点が特徴です。
Q.一次相続で配偶者が全財産を取得すると損になりますか。
A.必ず損になるわけではありません。配偶者固有の財産を含めた合計額が二次相続の基礎控除額に収まるなら、一次相続で配偶者の税額軽減を大きく使ったほうが有利です。合計額が基礎控除額を大きく超える場合は、一次相続で子への配分を増やすほうが通算では軽くなります。
Q.二次相続で基礎控除額はいくら減りますか。
A.基礎控除額は3,000万円に600万円と法定相続人の数を掛けた金額を加えて計算します。配偶者が抜けて法定相続人が1人減るため、二次相続では600万円だけ基礎控除額が小さくなります。
Q.二次相続でも小規模宅地等の特例は使えますか。
A.要件を満たせば使えます。同居していた親族が取得する場合は、申告期限まで居住と所有を継続することが必要です。別居の親族でも、被相続人に配偶者がいないことや相続開始前3年以内に自己などが所有する家屋に居住していないことなどの要件をすべて満たせば対象になります。
Q.相次相続控除はどのような場合に使えますか。
A.今回の相続開始前10年以内に被相続人が相続などで財産を取得し相続税が課されていた場合に使えます。控除額は前回課された相続税額を基礎に1年につき10パーセントの割合で逓減させた金額です。一次相続で配偶者の税額軽減により納付税額が0円だった場合は控除額も生じません。
Q.二次相続の対策はいつから始めるべきですか。
A.一次相続が発生する前から準備するのが理想です。相続税の申告期限は被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内で、財産調査と複数パターンの試算を行う時間を考えると余裕はありません。一次相続が始まった場合も、できるだけ早い段階で通算の試算に着手してください。