親御さんが住んでいた実家を相続したものの、誰も住む予定がなく空き家のままになっている。そんな状況で「このまま持っていて大丈夫なのか」「税金はいくらかかるのか」と不安を抱えている方は少なくありません。空き家は、持ち続けるだけでも固定資産税や管理費がかかり、判断を先送りするほど選択肢が狭まっていきます。この記事では、空き家を相続したときに発生する税金と、売る・貸す・住む・手放すという選択肢の判断基準、そして必ず期限内に対応すべき手続きを、相続税を専門とする税理士の視点で整理します。
相続した空き家に対して多くの方が抱える不安
空き家の相続でご相談をいただくとき、多くの方が同じ3つの不安を口にされます。「相続税がどれくらいかかるのか分からない」「放置していると罰則があると聞いた」「売りたいが税金で手取りが減るのが怖い」という3点です。
結論から申し上げると、この3つはいずれも制度を正しく理解すれば見通しを立てられます。相続税の評価額は公表された基準で計算でき、登記の義務には明確な期限があり、売却時には最大3,000万円を控除できる特例が用意されているためです。順番に確認していきましょう。
空き家の相続で発生する3つの税負担
空き家に関わる税金は、相続時・保有中・売却時の3つの場面に分かれます。それぞれ課税される税目も計算方法も異なるため、切り分けて考えることが大切です。
相続時にかかる相続税と不動産の評価方法
相続税を計算する際、土地は路線価方式または倍率方式で評価し、家屋は原則としてその年の固定資産税評価額によって評価します国税庁 No.4602 土地家屋の評価。路線価は市場価格より低めに設定されるのが一般的で、売却できる金額よりも相続税評価額のほうが小さくなるケースが多くあります。
注意が必要なのは、築年数の古い空き家でも土地の評価額は下がらないという点です。家屋が老朽化して評価額がほぼゼロに近くなっても、土地は路線価に基づいて評価されるため、都市部の実家であれば数千万円の評価額になることも珍しくありません。
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小規模宅地等の特例が使えないケース
被相続人が住んでいた宅地には、330平方メートルまで評価額を80%減額できる小規模宅地等の特例があります国税庁 No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)。ただしこの特例は、配偶者が取得する場合や、同居していた親族が申告期限まで住み続ける場合など、取得者ごとの要件を満たす必要があります。
誰も住まない空き家として相続する場合、この要件を満たせず特例を使えないことがあります。評価額が一気に4倍近くに跳ね上がるため、相続税額に与える影響は非常に大きくなります。空き家の相続では、この特例が使えるかどうかを最優先で確認してください。
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保有中にかかる固定資産税と住宅用地特例の除外
空き家を持ち続けている間は、毎年固定資産税と都市計画税がかかります。建物が建っている土地には住宅用地の特例があり、面積200平方メートル以下の部分は課税標準が6分の1に、200平方メートルを超える部分は3分の1に軽減されます政府広報オンライン 空き家の活用や適切な管理などに向けた対策が強化。トラブルになる前に対応を!。
問題は、管理を怠った空き家がこの軽減から外されることです。市区町村から特定空家または管理不全空家として勧告を受けると、その敷地は住宅用地の特例の対象外となり、固定資産税の負担が大きく増加します。放置のコストは、想像以上に現実的な金額として跳ね返ってきます。
売却時にかかる譲渡所得税
空き家を売却して利益が出た場合には、譲渡所得として所得税と住民税がかかります。計算式は次のとおりです。
相続で取得した不動産は、被相続人が取得した時期をそのまま引き継ぐため、多くの場合は所有期間5年超の長期譲渡所得となり、税率は所得税15%・住民税5%です国税庁 No.3208 長期譲渡所得の税額の計算。
取得費が分かる資料が見つからない実家も多くあります。その場合は譲渡価額の5%を取得費とみなして計算することが認められています国税庁 No.3258 取得費が分からないとき。ただし概算取得費を使うと譲渡所得が大きく計算されるため、購入時の売買契約書は必ず探してみてください。
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相続した空き家の4つの選択肢と判断基準
空き家の扱いは、売る・貸す・住む・手放すの4つに整理できます。どれが正解かは物件と家族の状況によって変わりますが、判断の軸は「維持コストを上回る価値を生めるか」という一点です。
| 選択肢 | 向いているケースと主な注意点 |
|---|---|
| 売る | 誰も住む予定がなく、立地に一定の需要がある場合。3,000万円特別控除の期限内に売れるかが分かれ目になります。 |
| 貸す | 駅近など賃貸需要が見込め、修繕費を回収できる場合。ただし賃貸に出すと空き家の3,000万円特別控除は使えなくなります。 |
| 住む | 相続人本人や子世代が居住する場合。耐震性と設備の更新費用を事前に見積もる必要があります。 |
| 手放す | 売却も賃貸も見込めない場合。相続土地国庫帰属制度や相続放棄が候補になりますが、要件と期限が厳格です。 |
貸す場合の評価上のメリットと制約
被相続人の生前から賃貸していた土地であれば、貸家建付地として評価額を引き下げられます国税庁 No.4614 貸家建付地の評価。一方で、相続後に賃貸へ出した場合は相続税評価には影響しません。
さらに重要なのは、相続してから売るまでの間に賃貸や事業に使ってしまうと、後述する空き家の3,000万円特別控除の要件を満たさなくなる点です。「とりあえず貸しておく」という判断が、数百万円単位の控除を失わせることがあります。
手放す場合の相続土地国庫帰属制度と相続放棄
売却も活用も難しい土地については、相続土地国庫帰属制度を利用して国に引き取ってもらう方法があります。土地一筆当たりの審査手数料は14,000円で、承認後に10年分の土地管理費用相当額にあたる負担金を納付することで所有権が国庫に帰属します法務局 相続土地国庫帰属制度。建物が建っている土地は対象外のため、原則として解体が前提となります。
もう一つの選択肢が相続放棄です。相続放棄は家庭裁判所への申述によって行い、原則として自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に手続きする必要があります裁判所 相続の放棄の申述。
ここで見落とされがちなのが、放棄しても管理の責任がすぐには消えないことです。放棄の時にその財産を現に占有していた場合は、相続人または相続財産の清算人に引き渡すまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって保存する義務が残りますe-Gov法令検索 民法第940条。また、相続放棄は空き家だけを選んで放棄することができず、預貯金を含めたすべての財産を放棄することになる点にも注意が必要です。
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空き家の売却で使える3,000万円特別控除の要件
相続した空き家を売却する場合、一定の要件を満たせば譲渡所得から最高3,000万円を控除できます。空き家の相続において、金額面で最もインパクトの大きい制度です。
主な適用要件
この特例は、被相続人が一人で住んでいた古い家屋を、相続人が耐震改修または取壊しをしたうえで売る場合を想定しています。主な要件は次のとおりです国税庁 No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例。
| 建築時期 | 昭和56年5月31日以前に建築された家屋であること |
|---|---|
| 建物の種類 | 区分所有建物登記がされている建物でないこと |
| 居住状況 | 相続開始の直前に被相続人が居住し、 被相続人以外に居住していた人がいなかったこと |
| 相続後の用途 | 相続の時から譲渡の時まで、事業・貸付け・ 居住のいずれにも使われていないこと |
| 売却代金 | 1億円以下であること |
| 建物の状態 | 耐震基準に適合すること、または 家屋の全部の取壊し等を行ったこと |
被相続人が老人ホームなどに入所していて、亡くなった時点では自宅に住んでいなかったケースでも、要介護認定を受けて入所したことなど一定の要件を満たせば対象になります国税庁 No.3307 被相続人が老人ホーム等に入所していた場合の被相続人居住用家屋。実家が空き家になった経緯によっては使える可能性があるため、あきらめずに確認してください。
令和6年以降の改正点と控除額の縮小
令和6年1月1日以後に行う譲渡では、家屋と敷地を相続または遺贈により取得した相続人の数が3人以上である場合、控除額の上限は2,000万円に縮小されます。兄弟姉妹3人で実家を共有相続したようなケースが該当します。
一方で緩和された点もあります。従来は売主が引渡し前に耐震改修や取壊しを済ませる必要がありましたが、譲渡の日の属する年の翌年2月15日までに耐震基準を満たすこととなった場合や、家屋の全部の取壊し等を行った場合も対象となりました。買主側で解体する契約でも特例が使えるため、売主の負担は軽くなっています。
二重にかかる適用期限
この特例には、期限が二重にかかっています。まず制度自体の適用期間として、譲渡は平成28年4月1日から令和9年12月31日までに行う必要があります。加えて、相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却しなければなりません。
どちらか早いほうが実質的な締切になります。空き家の売却は買主探しから引渡しまで半年以上かかることも多いため、逆算して早めに動き出すことが重要です。
相続登記の義務化と放置のリスク
令和6年4月1日から、相続登記の申請が義務化されました。相続によって不動産を取得した相続人は、その所有権の取得を知った日から3年以内に相続登記を申請しなければならず、正当な理由なく違反した場合は10万円以下の過料の対象となります法務局 相続登記が義務化されました(令和6年4月1日制度開始)~なくそう 所有者不明土地 !~。
令和6年4月1日より前に相続が開始していた場合も義務化の対象で、3年の猶予期間が設けられています。「昔に相続した実家の名義が祖父のままになっている」という状態も対象になりますので、心当たりのある方は登記事項証明書で名義を確認してください。
登記を放置すると、過料のリスクだけでなく、売却したくても買主に引き渡せないという実務上の問題が生じます。さらに世代が進むと相続人が十数人に増え、遺産分割協議そのものが成立しなくなることもあります。空き家の相続で最も避けたいのは、この「売れない・貸せない・処分できない」状態です。
空き家の相続で押さえるべき期限
空き家の相続は、複数の期限が並行して進みます。全体像を一覧で確認しておきましょう。
| 3か月以内 | 相続放棄・限定承認の申述(家庭裁判所) |
|---|---|
| 10か月以内 | 相続税の申告と納税 |
| 3年以内 | 相続登記の申請(取得を知った日から) |
| 3年経過する日の 属する年の12月31日まで |
空き家の3,000万円特別控除を使う売却 |
相続税の申告と納税は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内に行う必要があります国税庁 No.4205 相続税の申告と納税。相続税の納税資金を空き家の売却代金でまかなう予定であれば、申告期限から逆算した売却スケジュールを組む必要があります。
なお、相続税を納めた方が相続財産を売却する場合、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡すれば、納めた相続税の一部を取得費に加算できる特例もあります国税庁 No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例。空き家の特別控除とどちらを使うほうが有利かは、譲渡益の大きさや相続税額によって変わります。
関連コラム相続手続きの期限一覧|死亡後にやること全体像を税理士が解説▸
まとめ
空き家の相続で押さえるべき要点を整理します。相続税の計算では土地の評価額が下がらないこと、小規模宅地等の特例が使えるかどうかで税額が大きく変わることが出発点です。保有中は固定資産税がかかり、管理を怠って勧告を受ければ住宅用地の特例から外れて負担が増えます。
売却を選ぶ場合は、最高3,000万円の特別控除が使えるかを早い段階で判定してください。相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日という期限があり、その間に賃貸へ出してしまうと要件を満たさなくなります。あわせて、相続登記は3年以内という義務があることも忘れないでください。
空き家の相続は、相続税の申告・登記・売却の3つが期限で絡み合う分野です。判断を先送りせず、相続が発生した段階で全体のスケジュールを描いておくことが、結果的に手取りを最大化する近道になります。
参考文献
- 国税庁 No.4602 土地家屋の評価
- 国税庁 No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)
- 国税庁 No.4614 貸家建付地の評価
- 国税庁 No.4205 相続税の申告と納税
- 国税庁 No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例
- 国税庁 No.3307 被相続人が老人ホーム等に入所していた場合の被相続人居住用家屋
- 国税庁 No.3208 長期譲渡所得の税額の計算
- 国税庁 No.3258 取得費が分からないとき
- 国税庁 No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例
- 法務局 相続登記が義務化されました(令和6年4月1日制度開始)~なくそう 所有者不明土地 !~
- 法務局 相続土地国庫帰属制度
- 政府広報オンライン 空き家の活用や適切な管理などに向けた対策が強化。トラブルになる前に対応を!
- 裁判所 相続の放棄の申述
- e-Gov法令検索 民法第940条
本記事は一般的な制度の解説です。空き家の状態や相続人の構成によって適用できる特例は変わりますので、具体的なケースは税理士へのご相談をおすすめします。
お問い合わせはこちら ▸空き家の相続のよくある質問まとめ
Q.空き家を相続したら相続税はかかりますか。
A.遺産の総額が基礎控除額を超える場合にかかります。空き家であっても土地は路線価方式または倍率方式で評価され、家屋は固定資産税評価額で評価されます。老朽化していても土地の評価額は下がらないため、都市部の実家では相続税が発生することが多くあります。
Q.空き家の3,000万円特別控除はいつまで使えますか。
A.譲渡が平成28年4月1日から令和9年12月31日までの間に行われることが条件です。加えて、相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却する必要があり、いずれか早いほうが実質的な期限になります。
Q.相続した空き家を貸すと不利になりますか。
A.売却を予定している場合は不利になることがあります。空き家の3,000万円特別控除は、相続の時から譲渡の時まで事業や貸付け、居住に使われていないことが要件のため、一時的に賃貸へ出すと適用できなくなります。
Q.相続登記をしないとどうなりますか。
A.令和6年4月1日から相続登記の申請が義務化され、取得を知った日から3年以内に申請しない場合は、正当な理由がなければ10万円以下の過料の対象となります。また名義が変わらないと売却もできません。
Q.空き家だけを相続放棄することはできますか。
A.できません。相続放棄はすべての財産を放棄する手続きのため、預貯金など他の財産も受け取れなくなります。また放棄時にその財産を現に占有していた場合は、引き渡すまで保存義務が残る点にも注意が必要です。
Q.空き家を放置すると固定資産税は上がりますか。
A.上がる可能性があります。市区町村から特定空家または管理不全空家として勧告を受けると、住宅用地の課税標準を6分の1または3分の1に軽減する特例の対象外となり、税負担が大きく増加します。