ご家族が遺したNISA口座、あるいはご自身のNISA口座の行く末について、「非課税のまま引き継げるのだろうか」と不安に感じていませんか。結論から申し上げると、NISA口座の非課税メリットは相続人に引き継ぐことができません。亡くなった方のNISA口座内の株式や投資信託は、相続人の課税口座(特定口座または一般口座)に移管され、その後の配当や値上がり益には通常どおり税金がかかります。
ただし、悲観する必要はありません。亡くなった日(死亡日)までの含み益は非課税のままで、所得税・住民税は一切かからずに課税関係が終了します。この記事では、相続税申告を専門とする税理士法人プライムパートナーズが、NISA口座の相続手続きの流れ、必要な届出書、相続税評価、売却時の税金、見落としがちなデメリットまで、国税庁の公的情報に基づいてやさしくご説明しますね。
NISA口座は相続でどうなる?非課税は引き継げないのが結論です
NISA(少額投資非課税制度)は、口座を開設した本人に限って、上場株式や投資信託の配当等・譲渡益が非課税になる制度です。2024年に始まった新NISAでは、つみたて投資枠が年間120万円、成長投資枠が年間240万円、非課税保有限度額は1,800万円(うち成長投資枠は1,200万円)とされています(国税庁タックスアンサーNo.1535「NISA制度」)。この非課税の権利はあくまで開設者本人のものであり、相続によって家族に引き継ぐことはできない仕組みになっています。
相続人のNISA口座には移せず、課税口座で受け入れます
相続人ご自身がNISA口座を持っていても、相続した株式や投資信託をそのままご自分のNISA口座に受け入れることはできません。国税庁のQ&Aでも、亡くなった方のNISA口座に受け入れられていた上場株式等は「相続人の特定口座や一般口座に移管されます」と明記されています(国税庁「NISAに関するQ&A」Q24)。つまり、相続した後に生じる配当や値上がり益は、通常の課税口座と同じように課税対象になるということですね。
死亡日までの含み益は非課税、死亡日以降の値上がりは課税されます
NISA口座の開設者が亡くなると、口座内の株式等は死亡日の終値に相当する金額で売却したものとみなされ、NISA口座から払い出されます。このとき、死亡日までに生じていた含み益には非課税措置が適用されるため、所得税はかかりません。課税されるのは、死亡日の終値を新たなスタート地点として、その後に生じた値上がり益や配当だけです。相続での取扱いを表に整理すると、次のようになります。
| 項目 | 相続での取扱い |
|---|---|
| 死亡日までの含み益 | 非課税(所得税・住民税はかかりません) |
| 死亡日以降の値上がり益・配当 | 課税口座に移管された後、通常どおり課税されます |
| 相続人のNISA口座への移管 | できません(特定口座・一般口座で受け入れます) |
| 相続税の取扱い | 死亡日の時価で評価され、相続税の課税対象になります |
NISA口座の相続手続き:非課税口座開設者死亡届出書の提出から移管まで
実務では、NISA口座の相続手続きは次の4ステップで進みます。特に最初の届出書は法令上の義務なので、後回しにしないことが大切です。全体の流れをつかんでから、それぞれのステップを見ていきましょう。
- 証券会社・銀行へ死亡の事実を連絡し、「非課税口座開設者死亡届出書」を提出する
- 残高証明書を取り寄せ、死亡日時点の銘柄と評価額を確認する
- 遺産分割協議でNISA口座内の株式・投資信託を誰が取得するか決める
- 取得する相続人の課税口座(特定口座・一般口座)へ移管する
非課税口座開設者死亡届出書は「遅滞なく」提出が必要です
相続人は、口座開設者が亡くなったことを知った日以後遅滞なく、「非課税口座開設者死亡届出書」を、亡くなった方がNISA口座を開設していた金融機関へ提出しなければなりません。亡くなった方が複数の金融機関にNISA口座を開設していた場合は、そのすべての金融機関への提出が必要です(国税庁「NISAに関するQ&A」Q24)。提出の際は戸籍謄本など相続関係を確認できる書類を求められるのが一般的ですが、必要書類や様式は証券会社により異なるため、各社の相続専用窓口にご確認ください。
遺産分割が終わるまで売却できない点に注意しましょう
金融機関が死亡の事実を確認すると、亡くなった方の口座は取引が制限され、相続手続きが完了するまで売却や出金ができなくなるのが一般的です。「株価が下がりそうだから先に売っておきたい」と思っても、遺産分割協議で取得者が決まり、移管が終わるまでは動かせません。その間も相場は変動し続けるため、価格変動リスクを負ったまま手続きを進めることになります。手続きにかかる期間や凍結の具体的な取扱いは証券会社により異なりますので、早めに確認しておくと安心ですよ。
NISA口座の株式・投資信託にも相続税がかかります
「NISAは非課税だから相続税もかからない」と誤解されがちですが、NISAの非課税はあくまで所得税・住民税に関する制度です。相続税の世界では特別扱いはなく、NISA口座内の株式や投資信託も死亡日の時価で評価され、他の遺産と合算して相続税の課税対象になります。ここでは財産の種類ごとの評価方法をご説明しますね。
上場株式は4つの価額のうち最も低い価額で評価できます
上場株式の相続税評価は、原則として死亡日(課税時期)の終値によりますが、次の4つの価額のうち最も低い価額を選ぶことができます(国税庁タックスアンサーNo.4632「上場株式の評価」)。相場が急騰した月に亡くなった場合などは、月平均額を使うことで評価額を抑えられることがあります。
- 死亡日の終値(その日に取引がない場合は一定の修正があります)
- 死亡日の属する月の毎日の終値の月平均額
- その前月の毎日の終値の月平均額
- その前々月の毎日の終値の月平均額
証券会社が発行する残高証明書に相続税評価用の参考価額が記載されることもありますが、最終的な評価額の選択は申告する側の判断です。計算の具体例は上場株式の相続税評価の解説記事で詳しくご紹介しています。
投資信託は解約したら受け取れる金額で評価します
つみたて投資枠で多く保有されている投資信託(証券投資信託の受益証券)は、死亡日に解約請求または買取請求をしたと仮定した場合に、証券会社などから支払いを受けることができる価額で評価します(国税庁タックスアンサーNo.4644)。基準価額をベースに、源泉徴収されるべき税額や信託財産留保額などを差し引いて計算するイメージです。詳しい計算手順は投資信託の相続税評価の解説記事をご覧ください。
遺産が基礎控除を超えるなら10か月以内に相続税申告が必要です
NISA口座の財産を含めた遺産総額が、基礎控除額「3,000万円+600万円×法定相続人の数」を超える場合には、相続税の申告が必要になります(国税庁タックスアンサーNo.4152)。申告と納税の期限は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内です。期限に遅れると加算税や延滞税がかかる場合があるため、NISA口座の評価を含めて早めに準備を始めましょう。
相続税申告のご相談はこちら(税理士法人プライムパートナーズ)
相続したNISAの株式を売却するときの税金:取得価額は死亡日の終値に洗い替えられます
相続手続きが終わった後、「相続した株をいつ売るか」で悩まれる方は多いです。売却時の税金を考えるうえで欠かせないのが、取得価額(取得費)の洗い替えというNISA特有のルールと、相続税を納めた方だけが使える取得費加算の特例です。順番にご説明しますね。
相続人の取得価額は「死亡日の終値に相当する金額」になります
通常、相続した株式を売却するときの取得費は、亡くなった方が買ったときの取得費をそのまま引き継ぎます。しかし、NISA口座から払い出された上場株式等は例外で、相続開始日(死亡日)の終値に相当する金額で相続人が取得したものとみなされます(国税庁タックスアンサーNo.1464「譲渡した株式等の取得費」)。死亡日までの値上がり分が非課税で確定する分、取得費が時価まで引き上げられるイメージです。
例えば、お父様が100万円で買った株式が死亡日に150万円になっていた場合、含み益50万円は非課税のまま課税関係が終了します。相続人はこの株式を150万円で取得したものとみなされ、その後170万円で売却したときに課税されるのは差額の20万円だけです。売却益には所得税15%・住民税5%の合計20%(2037年までは復興特別所得税が加わり合計20.315%)が課税されます(国税庁タックスアンサーNo.1463)。
相続税を納めた方は取得費加算の特例で税金を減らせます
相続税を納めた方が相続した株式を売却する場合には、納めた相続税のうち一定額を取得費に加算して譲渡益を圧縮できる「取得費加算の特例」があります(国税庁タックスアンサーNo.3267)。適用には、相続や遺贈で財産を取得した人であること、その人に相続税が課税されていること、そして相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日まで(相続開始からおおむね3年10か月以内)に売却していることの3つの要件をすべて満たす必要があります。この特例は確定申告をしなければ適用されません。計算方法や有利になるケースは取得費加算の特例の解説記事で詳しくまとめています。
NISA相続のデメリット・注意点5つ
実務でご相談を受ける中で、NISA口座の相続には「知らずに損をしやすいポイント」がいくつかあります。あらかじめ次の5点を押さえておくと、慌てずに対応できますよ。
- 非課税メリットを引き継げない:相続人の課税口座に移管された後の配当や値上がり益は、すべて課税対象になります。
- 死亡日以後の配当は非課税にならない:死亡日以後にNISA口座で支払われるべき配当等には非課税措置の適用がありません。非課税のつもりで受け取った配当が実は課税対象だった、という事態が起こりやすいポイントです。
- 含み損は税務上使えない:死亡日時点で値下がりしていても、その譲渡損失はなかったものとみなされ、他の口座の利益との損益通算や翌年以降への繰越控除はできません。
- 死亡届出書を放置するとさかのぼって是正が必要になる:届出をしないままだと、本来課税されるべき死亡日以後の配当等が非課税として処理され続け、後から手続きのやり直しが必要になります。死亡を知ったら速やかに提出しましょう。
- 手続き完了まで売却できない:口座の取引制限により、遺産分割と移管が終わるまでは値下がりしても売却できません。相場変動リスクを踏まえ、手続きは計画的に進めることが大切です。
NISAの相続のよくある質問とまとめ
最後に、NISA口座の相続についてお客様からよくいただくご質問にお答えし、この記事の要点をまとめます。似たような状況でお悩みの方は、ぜひ参考にしてくださいね。
NISAの相続のよくある質問まとめ
Q. 亡くなった親のNISA口座の株式を、自分のNISA口座に移管できますか?
A. できません。相続で取得した上場株式等は、相続人の特定口座または一般口座で受け入れます。取得価額は亡くなった日の終値に相当する金額となり、その後の値上がり益や配当は課税対象です。
Q. NISA口座の財産に相続税はかかりますか?
A. かかります。NISAの非課税は所得税・住民税に関する制度であり、相続税では死亡日の時価で評価されて課税対象になります。遺産総額が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える場合は、10か月以内の相続税申告が必要です。
Q. 相続した株式を自分のNISAで運用し直すことはできますか?
A. 相続した株式を現物のままNISA口座に入れることはできません。いったん課税口座で相続したうえで売却し、その資金で年間投資枠の範囲内で改めて買い付ける方法であれば、ご自身のNISAで運用できます。
Q. 非課税口座開設者死亡届出書を出さないまま放置するとどうなりますか?
A. 死亡日以後に支払われる配当等には本来非課税措置の適用がないため、後からさかのぼって是正の手続きが必要になります。亡くなったことを知った日以後遅滞なく、NISA口座のあるすべての金融機関へ提出してください。
まとめ:届出は早めに、税金は「死亡日の時価」が基準です
NISA口座の相続では、非課税メリットは引き継げない一方、死亡日までの含み益は非課税で確定し、相続人の取得価額は死亡日の終値に洗い替えられます。手続きの入口は「非課税口座開設者死亡届出書」の提出で、相続税は死亡日の時価評価、売却時は洗い替え後の取得費と取得費加算の特例がポイントでした。所得税と相続税の両方が関わるため、順序立てて進めれば決して難しくありません。
もっとも、評価額の選び方や特例の適用判断は、銘柄や遺産の全体像によって有利・不利が変わります。NISA口座を含む相続税申告や、売却のタイミングに関わる税金の試算など、具体的なケースは税理士へのご相談をおすすめします。
参考文献
- 国税庁タックスアンサーNo.1535「NISA制度」
- 国税庁「NISAに関するQ&A」(Q24・Q25)
- 国税庁 租税特別措置法第37条の14《非課税口座内の少額上場株式等に係る譲渡所得等の非課税》関係通達
- 国税庁タックスアンサーNo.1464「譲渡した株式等の取得費」
- 国税庁タックスアンサーNo.1463「株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)」
- 国税庁タックスアンサーNo.4632「上場株式の評価」
- 国税庁タックスアンサーNo.4644「貸付信託・証券投資信託の評価」
- 国税庁タックスアンサーNo.4152「相続税の計算」
- 国税庁タックスアンサーNo.4205「相続税の申告と納税」
- 国税庁タックスアンサーNo.3267「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」