相続税は、原則として現金で一括して納める必要があります。しかし、相続した財産の多くが不動産で手元に現金が少ない場合、納税資金をどう用意すればよいのか不安に感じる方は少なくありません。「期限までに払えなかったらどうなるのか」「土地で納めることはできないのか」といった疑問をお持ちの方に向けて、この記事では相続税を分割で納める延納と、財産そのもので納める物納の要件・手続き・期限を、具体的な数値とともに整理して解説します。
相続税の延納と物納の基本と位置づけ
相続税の納付には、法律上のはっきりとした優先順位があります。まず大前提として、相続税は金銭で一時に納付することが原則です。この現金一括納付が難しい場合に、次善の策として一定期間内の年賦(分割払い)で納める延納が認められます。そして、その延納によっても金銭で納めることが難しい場合に、最後の手段として相続した財産そのもので納める物納が認められます。
この原則となる納期限は、申告期限と同じく、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内です。この期限までに納付しないと延滞税が発生する可能性がありますので、まずはこの10か月という期限を押さえておいてくださいね。国税庁 No.4205 相続税の申告と納税
つまり「現金一括 → 延納 → 物納」という順序です。いきなり物納を選べるわけではなく、まず延納でも納付が困難であるという事情が必要になる点が、両制度を理解するうえで最も重要なポイントです。それぞれの要件と手続きを、以下で順に確認していきます。
相続税の延納の要件と手続き
延納は、相続税を分割して納める制度です。利用するには一定の要件を満たし、期限までに申請を行う必要があります。
延納の適用要件
相続税の延納が認められるためには、次のすべての要件を満たす必要があります。国税庁 No.4211 相続税の延納
- 相続税額が10万円を超えること
- 金銭で納付することを困難とする事由があり、その困難とする金額の範囲内であること
- 延納税額および利子税額に相当する担保を提供すること
- 納期限(申告期限)までに、延納申請書に担保提供関係書類を添付して税務署長に提出すること
なお、延納税額が100万円以下で、かつ延納期間が3年以下である場合には、担保を提供する必要はありません。担保の提供が難しいという理由だけで延納をあきらめる必要がないケースもあります。
延納期間と利子税の割合
延納できる期間と、その間にかかる利子税の割合は、課税相続財産に占める不動産等の割合による区分で決まります。不動産の割合が高いほど、長い期間にわたって低い利子税で納められる仕組みです。区分ごとの原則的な内容は次のとおりです。
| 不動産等の割合と 対象区分 |
延納期間 (最長) |
利子税の割合 (原則) |
特例割合 |
|---|---|---|---|
| 不動産等75%以上のうち 不動産等(森林計画立木を除く)に対応する部分 |
20年 | 年3.6% | 年0.6% |
| 不動産等75%以上のうち 動産等に対応する部分 |
10年 | 年5.4% | 年0.9% |
| 不動産等50%以上75%未満のうち 不動産等に対応する部分 |
15年 | 年3.6% | 年0.6% |
| 不動産等50%以上75%未満のうち 動産等に対応する部分 |
10年 | 年5.4% | 年0.9% |
| 不動産等50%未満 (一般の延納) |
5年 | 年6.0% | 年1.0% |
表の「利子税の割合(原則)」は本来の割合ですが、各年の延納特例基準割合が年7.3%に満たない場合には、これを基に計算した特例割合が適用され、負担は大きく軽くなります。上の表の特例割合は、令和8年1月1日現在の延納特例基準割合である年1.3%で計算されたものです。延納特例基準割合は毎年見直されるため、特例割合も変動します。実際に申請される際は、必ず所轄の税務署または国税庁のページで最新の割合をご確認くださいね。国税庁 No.4211 相続税の延納
利子税のイメージをつかむため、あくまで仮の数字で考えてみます。例えば延納税額1000万円を、特例割合の年0.6%で1年間延納したと仮定した場合の1年分の利子税は、次のように計算されます。
これは根拠にない金額を用いた説明のための仮定計算であり、実際の税額は延納税額・期間・その年の割合によって変わります。
延納の担保として提供できる財産
延納の担保として提供できる財産は、次に掲げるものに限られます。相続や遺贈で取得した財産だけでなく、相続人ご自身がもともと持っている財産や、共同相続人・第三者が所有している財産を担保に充てることもできます。国税庁 No.4211 相続税の延納
| 種類 | 具体例 |
|---|---|
| 有価証券 | 国債および地方債、社債その他の有価証券で税務署長等が確実と認めるもの |
| 不動産等 | 土地、建物・立木・登記される船舶などで保険に付したもの |
| 財団 | 鉄道財団、工場財団など |
| 保証人の保証 | 税務署長等が確実と認める保証人の保証 |
なお、提供された担保が適当でないと認められるときは、税務署長からその変更を求められることがあります。担保に充てられそうな財産がご家族の中にないか、早めに見渡しておくと安心ですね。
延納の申請手続きと期限
延納を希望する場合は、納期限(申告期限=相続の開始を知った日の翌日から10か月以内)までに、延納申請書に担保提供関係書類を添付して税務署長に提出します。担保提供関係書類がその期限までにそろわない場合には、届出により提出期限を1回につき3か月を限度に、最長6か月まで延長することができます。
申請後、税務署長は延納申請期限から3か月以内(許可・却下の判断に必要な調査などにより、状況によって最長6か月まで延長される場合があります)に、許可または却下を行います。
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相続税の物納の要件と手続き
物納は、延納によっても金銭で納めることが難しい場合に、相続した財産そのもので相続税を納める制度です。認められる財産や順位、価額の考え方に細かなルールがあります。
物納の適用要件
物納が認められるためには、延納によっても金銭で納付することを困難とする事由があり、その困難とする金額の範囲内であることが必要です。国税庁 No.4214 相続税の物納あくまで延納でも納付が難しい場合の制度である点が、繰り返しになりますが重要です。
また、物納に充てられる財産は、その相続税の課税価格計算の基礎となった相続財産で、日本国内に所在するものに限られます。相続とは無関係の財産や国外財産を物納に充てることはできません。
物納に充てられる財産の順位
物納に充てられる財産には順位が定められており、原則として上位の順位の財産から充てる必要があります。
| 順位 | 物納に充てられる財産 |
|---|---|
| 第1順位 | 不動産・船舶・国債証券・地方債証券・上場株式等 (物納劣後財産に該当する不動産・上場株式を含む) |
| 第2順位 | 非上場株式等 (物納劣後財産に該当する非上場株式を含む) |
| 第3順位 | 動産 |
収納価額と物納の申請手続き
物納した財産を国が引き取る際の価額(収納価額)は、原則として相続税の課税価格計算の基礎となった、その財産の価額(相続税評価額)となります。市場での売却額ではなく相続税評価額で評価される点に注意が必要です。
物納を希望する場合は、納期限または納付すべき日までに、物納申請書に物納手続関係書類を添付して税務署長に提出します。物納手続関係書類がそろわない場合には、届出により提出期限を1回につき3か月を限度に、最長1年まで延長することができます。
申請後、税務署長は物納申請期限から3か月以内(状況により最長9か月まで延長される場合があります)に、許可または却下を行います。
物納できない財産(管理処分不適格財産・物納劣後財産)
相続財産であっても、次のような財産は物納に充てられない、または制限があります。
- 管理処分不適格財産:担保権が設定されている不動産や、権利の帰属について争いがある財産などは、そもそも物納に充てることができません。
- 物納劣後財産:地上権などが設定された土地や、法令の規定に違反して建築された建物などは、他に適当な財産がない場合に限って物納が認められます。
手元の財産が物納の対象になるかどうかは個別の事情に大きく左右されるため、早めの確認が重要です。
延納と物納の比較
延納と物納は、どちらも現金一括納付が難しい場合の例外的な納付方法ですが、その性質は大きく異なります。違いを一覧で整理しておきますね。
| 比較の観点 | 延納 | 物納 |
|---|---|---|
| 納付の方法 | 相続税を金銭で年賦により分割して納めます。 | 相続税を相続財産そのもので納めます。 |
| 検討する場面 | 金銭で一時に納付することが困難な場合に検討します。 | 延納によっても金銭で納付することが困難な場合に検討します。 |
| 費用の負担 | 分割して納める期間に応じて利子税がかかります。 | 物納の許可までの期間に応じて利子税がかかる場合があります。 |
| 財産面の制約 | 延納税額および利子税額に相当する担保の提供が必要です。 | 充てられる財産に順位と適格性の制限があります。 |
どの財産をどの制度で納付に充てるかは、財産の構成やその後の資金計画によって最適な答えが変わります。まずは延納で納めきれるかどうかを確認し、それでも難しい部分について物納を検討する、という順序で整理していくとよいでしょう。
延納から物納への変更(特定物納制度)
いったん延納を選んだ後で、その後の資力の状況の変化により延納の分割金を納めることが難しくなる場合があります。このようなときのために、特定物納制度が設けられています。
特定物納制度では、申告期限から10年以内に限り、まだ分納期限が到来していない延納税額分について、延納から物納へ変更することができます。この場合の収納価額は、相続時の評価額ではなく、特定物納申請時の価額となる点が通常の物納と異なります。申請時の価額が相続時より下落していれば、その分不利になる可能性もあるため、変更の判断には慎重な検討が必要です。
延納・物納で注意すべきポイント
延納・物納を検討する際には、納付が遅れた場合の負担や、他の相続人との関係、特例制度との比較など、周辺の論点にも目を向けておく必要があります。
まず、延納や物納の申請が却下された場合や、期限までに適切な手続きをとらなかった場合には、本来の納期限にさかのぼって延滞税が課される可能性があります。延納・物納はあくまで所定の要件と期限を満たして初めて認められる制度である点に注意してください。延滞税の仕組みについては、以下のコラムで詳しく解説しています。
関連コラム相続税の加算税・延滞税の種類と税率|令和6年改正も解説▸
また、相続税には、相続人が互いに他の相続人の相続税について責任を負う連帯納付義務があります。自分が延納・物納を選ぶ場合はもちろん、他の相続人の納付状況によっては思わぬ請求を受けることもあるため、相続人全体で納税計画を共有しておくことが大切です。
関連コラム相続税の連帯納付義務とは|責任の限度と請求される流れ▸
さらに、農地を相続した場合には、延納・物納のほかに一定の要件のもとで納税を猶予する制度もあります。どの制度が適しているかは財産の内容によって異なるため、あわせて検討するとよいでしょう。
まとめ
相続税は現金一括納付が原則であり、それが難しい場合に延納、延納でも難しい場合に物納という順序で検討します。延納は相続税額が10万円を超えることなどの要件を満たせば利用でき、不動産等の割合による区分に応じて最長20年までの分割と利子税の負担が生じます。物納は課税の基礎となった国内財産を順位に従って充て、収納価額は原則として相続税評価額となります。いずれも納期限までの申請と、担保提供関係書類・物納手続関係書類の提出が必要で、期限管理が非常に重要です。延納から物納への変更(特定物納制度)も含め、財産構成やご家族の状況によって最適な選択は変わります。具体的なケースは税理士へのご相談をおすすめします。
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参考文献
相続税の延納・物納のよくある質問まとめ
Q.相続税の延納と物納はどちらを先に検討しますか。
A.相続税は現金で一時に納付するのが原則で、これが難しい場合にまず延納を検討します。延納によっても金銭で納付することが困難な場合に、はじめて物納を検討します。いきなり物納を選ぶことはできません。
Q.延納を利用できる相続税額の条件はありますか。
A.相続税額が10万円を超えることが要件の一つです。あわせて、金銭で納付することを困難とする事由があり、その困難とする金額の範囲内であること、原則として担保を提供することなどの要件を満たす必要があります。
Q.延納では必ず担保が必要ですか。
A.原則として延納税額および利子税額に相当する担保の提供が必要です。ただし、延納税額が100万円以下で、かつ延納期間が3年以下である場合には、担保を提供する必要はありません。
Q.物納に充てられる財産に順位はありますか。
A.あります。第1順位が不動産・船舶・国債証券・地方債証券・上場株式等、第2順位が非上場株式等、第3順位が動産で、原則として上位の順位の財産から充てる必要があります。
Q.物納した財産はいくらで評価されますか。
A.収納価額は原則として、相続税の課税価格計算の基礎となったその財産の価額、すなわち相続税評価額です。市場での売却額ではない点に注意が必要です。
Q.延納を始めた後で物納に変更できますか。
A.特定物納制度により、申告期限から10年以内であれば、分納期限が到来していない延納税額分について延納から物納へ変更できます。この場合の収納価額は特定物納申請時の価額となります。
Q.延納や物納の申請期限はいつまでですか。
A.延納も物納も、納期限または納付すべき日までに申請書を提出する必要があります。相続税の納期限は申告期限と同じく、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内です。この期限までに提出しなければ、原則として制度を利用できません。


