孫やお子さまの配偶者を養子に迎えると、相続税の負担を抑えられると聞いたことがあるかもしれません。たしかに養子縁組は法定相続人の数を増やし、基礎控除や生命保険金の非課税枠を広げる効果があります。一方で、含められる養子の人数には制限があり、孫養子には相続税額の2割加算がかかるなど、知らないまま進めると思わぬ落とし穴もあります。この記事では、相続を専門とする税理士事務所の実務の視点から、養子縁組による節税の仕組みとデメリットの両面をやさしく整理します。
養子縁組で相続税が下がる仕組み
相続税には、相続人が受け取る財産のうち一定額まで税金がかからない「非課税の枠」がいくつか用意されています。これらの枠の多くは法定相続人の数に連動して大きくなるため、養子縁組で相続人が1人増えると、その分だけ枠が広がり、結果として税負担が軽くなります。
基礎控除への影響
まず影響が大きいのが基礎控除です。相続財産の合計額がこの基礎控除額を超えなければ、相続税はかかりません。計算式は次のとおりで、法定相続人が1人増えるごとに600万円ずつ枠が増えます [国税庁No.4152 相続税の計算]。
たとえば法定相続人が実子2人の場合、基礎控除額は次のように計算します。
ここに養子を1人加えて法定相続人が3人になると、基礎控除額は次のとおり増えます。
この例では、養子を1人迎えるだけで課税の対象となる財産が600万円分少なくなります。基礎控除の詳しい計算手順は、相続税の課税価格と基礎控除の計算方法をステップ解説もあわせてご覧ください。
生命保険金と死亡退職金の非課税枠
被相続人が亡くなったことで支払われる生命保険金や死亡退職金にも、法定相続人の数に応じた非課税枠があります。どちらも計算式は同じで、法定相続人が1人増えるごとに500万円ずつ枠が広がります [国税庁No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金][国税庁No.4117 相続税の課税対象になる死亡退職金]。
生命保険金の非課税枠のより詳しい注意点は、生命保険の相続税非課税枠500万円の仕組みと注意点で解説しています。
法定相続人に含められる養子の数の制限
ここが養子縁組による節税で最も注意したいポイントです。養子は何人でも迎えることができますが、相続税の計算上、法定相続人の数に含められる養子の数には上限が設けられています [国税庁No.4170 相続人の中に養子がいるとき]。
実子の有無で変わる上限
基礎控除額や生命保険金・死亡退職金の非課税枠、相続税の総額の計算では、次の人数までしか養子を法定相続人の数に含められません。
| 実子がいる場合 | 養子は1人まで |
|---|---|
| 実子がいない場合 | 養子は2人まで |
たとえば実子が2人いる方が孫3人を養子にしても、相続税の計算で法定相続人の数に加えられる養子は1人だけです。人数を増やせば増やすほど枠が広がる、というわけではない点にご注意ください。
制限の対象にならない養子
一定の養子は、この人数制限の対象外として実子と同じ扱いになります。代表的なのは、特別養子縁組による養子や、配偶者の実子(連れ子)を養子にした場合などです [国税庁No.4170 相続人の中に養子がいるとき]。養子を法定相続人の数に含める際の取り扱いは [e-Gov法令検索 相続税法第15条] に定められています。
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養子縁組の相続税デメリットと注意点
節税効果ばかりに目を向けると、あとで家族が困る場面もあります。ここでは実務でよく問題になるデメリットを整理します。
孫養子にかかる2割加算
被相続人の子や親、配偶者以外の人が財産を取得すると、その人の相続税額に2割が上乗せされます。これを相続税額の2割加算といいます [国税庁No.4157 相続税額の2割加算]。
孫を養子にした場合、その孫養子は原則としてこの2割加算の対象になります(子がすでに亡くなっているなどの理由で代襲相続人となっている孫養子は対象外です)。孫養子は相続を1回飛ばして財産を渡せる利点がありますが、税額が2割増える点も踏まえて判断する必要があります。2割加算の考え方は、相続人が兄弟姉妹のときの相続税|2割加算と法定相続分の注意点もご参照ください。
節税だけを目的とした養子の否認リスク
相続税法には、養子縁組によって相続税の負担を不当に減少させる結果になると認められる場合、その養子を法定相続人の数に含めないことができる、という定めがあります [e-Gov法令検索 相続税法第63条]。実態のある家族関係を築く意思がなく、税負担を減らすためだけの形式的な養子縁組と判断されると、期待した節税効果が認められないおそれがあります。
遺産分割をめぐるトラブル
養子は実子と同じ相続分を持つ法定相続人になります。そのため、養子が加わることで既存のお子さまの取り分が減り、家族間の感情的な対立につながることがあります。とくに孫養子を迎えると、その孫の親(被相続人の子)の兄弟姉妹との間で不公平感が生じやすくなります。生前に家族へ意図を丁寧に伝え、遺言書を整えておくことがトラブルの予防につながります。なお、代襲相続との関係は 代襲相続とは|起きるケースと相続人の範囲・相続分を解説 でも確認できます。
具体的なケースは税理士へのご相談をおすすめします。
まとめ
養子縁組は、法定相続人の数を増やして基礎控除や生命保険金・死亡退職金の非課税枠を広げ、相続税を軽くする有効な生前対策のひとつです。ただし、計算に含められる養子は実子がいれば1人、いなければ2人までに限られ、孫養子には2割加算がかかります。さらに、節税目的だけの形式的な養子縁組は否認されるおそれがあり、遺産分割をめぐる家族間の対立にも配慮が必要です。メリットとデメリットの両面を踏まえ、ご家庭の事情に合った形で検討を進めていきましょう。
参考文献
- No.4170 相続人の中に養子がいるとき
- No.4152 相続税の計算
- No.4157 相続税額の2割加算
- No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金
- No.4117 相続税の課税対象になる死亡退職金
- 相続税法第15条
- 相続税法第63条
養子縁組と相続税のよくある質問まとめ
Q.養子縁組をすると相続税は必ず下がりますか。
A.養子縁組で法定相続人の数が増えると、基礎控除額や生命保険金・死亡退職金の非課税枠が広がり、税負担が軽くなる傾向があります。ただし計算に含められる養子の数には制限があり、必ず下がるとは限りません。
Q.相続税の計算で養子は何人まで含められますか。
A.実子がいる場合は1人まで、実子がいない場合は2人までです。何人養子を迎えても、法定相続人の数に加えられる養子の人数はこの上限までに限られます。
Q.孫を養子にすると税金が増えることはありますか。
A.孫養子は原則として相続税額の2割加算の対象となり、税額が2割上乗せされます。ただし、子がすでに亡くなっているなどの理由で代襲相続人となっている孫養子は対象外です。
Q.節税目的だけの養子縁組は認められますか。
A.相続税の負担を不当に減少させる結果になると認められる場合、その養子を法定相続人の数に含めないことができると相続税法に定められています。実態のない形式的な養子縁組は否認されるおそれがあります。
Q.普通養子縁組と特別養子縁組では相続税の扱いが違いますか。
A.特別養子縁組による養子や配偶者の実子を養子にした場合などは、人数制限の対象外として実子と同じ扱いになります。普通養子縁組による養子は人数制限の対象です。
Q.養子縁組で家族が揉めることはありますか。
A.養子は実子と同じ相続分を持つため、既存の相続人の取り分が減り対立につながることがあります。生前に意図を家族へ伝え、遺言書を整えておくと予防に役立ちます。