結論からお伝えすると、香典に相続税はかかりません。香典は亡くなった方の財産ではなく、葬儀を営むご遺族へ贈られるものなので、相続財産には含まれず、相続税の申告書に金額を書く必要もないんですよ。ただし、香典返しの費用は葬式費用として差し引けない、会社から受け取る弔慰金には非課税の限度額があるなど、申告のときに間違えやすい論点がいくつかあります。この記事では、香典の税務上の取り扱いを、葬式費用の控除や弔慰金との違いまで含めて、順を追って分かりやすくご説明しますね。
香典に相続税はかかる?結論は「原則かからない」
まず一番気になるところからお答えすると、原則として香典に相続税はかかりません。そのため、相続税の申告書に受け取った香典の金額を記載する必要もありません。なぜ非課税になるのか、その理由を2つの側面から見ていきましょう。
香典は故人の財産ではないから相続財産に入らない
相続税がかかるのは、亡くなられた方(被相続人)が所有していた財産、つまり相続財産です。一方で香典は、亡くなった後に、葬儀を営む喪主やご遺族に対して参列者から贈られるものです。故人が生前に持っていた財産ではないため、そもそも相続財産に含まれません。したがって、遺産分割の対象にもならず、相続人全員で分け合う性質のお金でもない、という整理になります。
個人から受ける香典は贈与税も非課税
では、相続財産でないなら贈与税がかかるのでは、と心配になるかもしれません。この点も大丈夫です。個人から受ける香典、花輪代、年末年始の贈答、祝物または見舞いなどのための金品で、社会通念上相当と認められるものには贈与税がかかりません国税庁 No.4405 贈与税がかからない場合。弔意を表す社会的な慣習として広く行われているものなので、常識的な範囲であれば税金の心配はいりません。
高額な香典を受け取ったときの税金の考え方
原則は非課税の香典ですが、「社会通念上相当」とは言えないほど高額な場合には、課税される可能性が出てきます。誰から受け取ったかによって税目が変わるので、そこを分けて押さえておくと安心です。
個人から高額な香典を受け取った場合は贈与税
個人の方から、相場を大きく超える金額の香典を受け取った場合、社会通念上相当と認められる範囲を超える部分は、贈与として扱われる可能性があります。贈与税は、その年の1月1日から12月31日までの1年間に贈与を受けた財産の合計額から、暦年課税に係る基礎控除額110万円を差し引いた残りの額にかかります国税庁 No.4402 贈与税がかかる場合。
つまり、その年の他の贈与と合わせて110万円以下であれば、そもそも贈与税はかからず、申告も不要です。
法人から高額な香典を受け取った場合は所得税(一時所得)
故人や喪主が勤めていた会社など、法人から財産を贈与により取得したときは、贈与税ではなく所得税がかかります。法人から贈与された金品は所得税の区分では一時所得にあたり、次の式で計算します国税庁 No.1490 一時所得。
特別控除額が最高50万円ありますので、その年の他の一時所得と合わせて50万円を超えなければ、結果として所得税はかかりません。なお、一時所得は、その金額の2分の1に相当する額を給与所得などと合計して税額を計算します。
「社会通念上相当」に決まった金額基準はない
では「社会通念上相当」とは具体的にいくらまでなのでしょうか。実は、税法で「〇〇万円を超えたら高額」という一律の金額基準は定められていません。故人や喪主の社会的な立場、贈った方との関係性によって、相当と言える金額は変わってくるからです。会社の代表者が亡くなられた場合と一般の従業員の場合とでは、香典の相場もおのずと違いますよね。一般的な相場の範囲内であれば、税金を気にする必要はほとんどないとお考えいただいて大丈夫です。
香典返しの費用は葬式費用として控除できない
ここが相続税の申告で最も間違えやすいポイントです。香典返しの費用は、葬式費用として遺産総額から差し引くことはできません国税庁 No.4129 相続財産から控除できる葬式費用。
理由は、受け取った香典が課税されないことと表裏の関係にあるからです。香典収入を相続税の計算に取り込まない以上、そのお返しである香典返しの支出も差し引かない、という整理になっているのですね。インターネット上には「香典返しも葬儀費用として控除できる」という誤った説明が見られることがありますが、控除できないのが正しい取り扱いですので、ご注意ください。
会葬御礼との違いに注意する
香典返しと似たものに「会葬御礼」があります。香典をいただいたかどうかに関係なく、通夜や葬儀の当日に参列者へお渡しするお礼の品のことです。葬式費用として差し引けるものには、埋葬・火葬・納骨などの費用のほかに「葬式の前後に生じた出費で通常葬式に伴うものと認められるもの」が含まれており、会葬御礼の費用はこちらで判断されます国税庁 第13条《債務控除》関係。
ただし、香典返しを別に行わず、会葬御礼だけで香典のお返しを兼ねているような場合は、実質的に香典返戻費用と判断されて控除が認められないことがあります。領収書や見積書の内訳で「会葬御礼」と「香典返し」が分かれているかを確認しておくと、後の判断がしやすくなりますよ。
相続財産から控除できる葬式費用・できない葬式費用
相続税を計算するときは、一定の相続人および包括受遺者が負担した葬式費用を遺産総額から差し引くことができます。
どの費用が対象になるかは通達で範囲が示されています。控除できるもの・できないものを整理すると、次のとおりです。
| 控除できる葬式費用 | 控除できない費用 |
|---|---|
| 葬式・葬送に際し、またはその前において、埋葬・火葬・納骨、遺体や遺骨の回送などに要した費用(仮葬式と本葬式を行った場合は両方) | 香典返戻費用(香典返しの費用) |
| 葬式に際して施した金品で、被相続人の職業・財産その他の事情に照らして相当程度と認められるものに要した費用(読経料などのお礼) | 墓碑および墓地の買入費、墓地の借入料 |
| 上記のほか、葬式の前後に生じた出費で通常葬式に伴うものと認められるもの(通夜にかかった費用など) | 初七日・四十九日などの法会に要する費用 |
| 死体の捜索、または死体もしくは遺骨の運搬に要した費用 | 医学上または裁判上の特別の処置に要した費用 |
お布施や心付けのように領収書が出ない支出もありますが、支払った日・相手先・金額をメモに残しておけば、申告のときに説明しやすくなります。葬儀社の請求書は、明細が分かる形で保管しておきましょう。
関連コラム相続税の債務控除と葬式費用の範囲|対象・対象外の一覧と注意点▸
香典を葬儀費用にあてたときの申告上の注意点
受け取った香典をそのまま葬儀費用の支払いにあてる、というのはよくあることです。ここで押さえておきたい点を2つご説明しますね。
香典は収入として申告書に載せない
香典は相続財産ではないため、いくら受け取ったとしても相続税の申告書に収入として記載することはありません。香典を葬儀費用に充当し、足りない分を相続財産から支払った場合は、その支払った分を葬式費用として遺産総額から差し引く形になります。特別な届出などの手続きは必要ありません。
相続放棄をした人が葬式費用を負担したとき
相続を放棄した人や相続権を失った人には、本来、債務控除の規定は適用されません。ただし、その人が現実に被相続人の葬式費用を負担した場合には、その負担額を、遺贈によって取得した財産の価額から差し引いて差し支えないという取り扱いが示されています。相続放棄をした方が生命保険金や遺贈で財産を受け取り、かつ葬儀費用を立て替えたようなケースでは、見落とさないようにしたいところです。
香典と間違えやすい「弔慰金」の取り扱い
会社などから受け取るお金には、香典のほかに「弔慰金(ちょういきん)」があります。故人の功労をねぎらい、ご遺族を慰めるために支払われるもので、香典とは扱いが少し異なります。
弔慰金や花輪代・葬祭料は通常は相続税の対象外
被相続人の死亡によって受ける弔慰金や花輪代、葬祭料などについては、通常、相続税の対象になることはありません国税庁 No.4120 弔慰金を受け取ったときの取扱い。
非課税となる限度額を超えた部分は相続税の対象
ただし、雇用主などから弔慰金などの名目で受け取った金銭のうち、実質上、退職手当金等に該当すると認められる部分は相続税の対象になります。また、それ以外の部分についても、次の金額を超える部分は退職手当金等として相続税の対象となります。
ここでいう普通給与とは、俸給、給料、賃金、扶養手当、勤務地手当、特殊勤務地手当などの合計額をいいます。会社から弔慰金を受け取ったら、まず就業規則や退職給与規程でその性格を確認し、金額がこの範囲に収まっているかを見ておくことが大切です。限度額を超えた部分は、死亡退職金と同じくみなし相続財産として課税対象になります。
関連コラムみなし相続財産とは|課税される財産一覧と非課税枠の計算▸
まとめ
今回は、香典の相続税申告上の取り扱いについてご説明しました。大切なポイントを振り返っておきましょう。
- 香典は故人の財産ではないため相続財産に含まれず、相続税はかかりません。申告書に記載する必要もありません。
- 個人から受ける香典で社会通念上相当と認められるものは贈与税も非課税です。相当な範囲を超える部分は、個人からなら贈与税(基礎控除110万円)、法人からなら所得税(一時所得・特別控除最高50万円)の問題になります。
- 香典返しの費用は葬式費用として控除できません。会葬御礼とは分けて考えます。
- 控除できる葬式費用は、埋葬・火葬・納骨の費用、読経料などのお礼、通夜など葬式に通常伴う出費、遺体や遺骨の運搬費用などです。墓地の購入費や法会の費用は対象外です。
- 相続放棄をした人でも、現実に葬式費用を負担していれば、遺贈で取得した財産から差し引ける取り扱いがあります。
- 会社から受け取る弔慰金には業務上の死亡なら普通給与の3年分、業務外なら半年分という目安があり、超えた分は相続税の対象です。
香典や葬式費用の扱いは、相続税の申告のなかでも特に判断を誤りやすいところです。とくに香典返しと会葬御礼の切り分け、弔慰金の限度額の計算は、金額が大きくなるほど影響も大きくなります。ご自身の判断に不安があるときは、相続税を専門とする税理士にご相談いただくと安心ですよ。
香典の相続税申告に関するよくある質問
Q.香典は相続税の対象になりますか?
A.原則として、香典は相続税の課税対象にはなりません。香典は故人の財産ではなく、葬儀を営むご遺族に対して贈られるものなので、相続財産には含まれないからです。
Q.受け取った香典は相続税の申告書に記載する必要はありますか?
A.香典は相続財産ではないため、相続税申告書に記載する必要はありません。ただし、故人の預金口座に一時的に入金した場合は、相続財産と区別して管理できるよう記録を残しておくことが大切です。
Q.高額な香典を受け取った場合も非課税ですか?
A.社会通念上相当と認められる金額であれば非課税です。相当と言える範囲を大きく超える場合は、個人からのものは贈与税、法人からのものは所得税(一時所得)の対象となる可能性があります。
Q.香典返し(返礼品)の費用は相続税の計算で控除できますか?
A.いいえ、できません。香典返戻費用は葬式費用に含まれないものとして明示されており、遺産総額から差し引くことはできません。当日に参列者全員へお渡しする会葬御礼の費用とは扱いが分かれるため、領収書の内訳で区別しておきましょう。
Q.会社から受け取る弔慰金も香典と同じ扱いですか?
A.弔慰金や花輪代、葬祭料は通常は相続税の対象になりません。ただし、実質的に退職手当金等にあたる部分や、業務上の死亡なら普通給与の3年分、業務外なら半年分を超える部分は、退職手当金等として相続税の対象になります。
Q.香典を葬儀費用にあてた場合、何か手続きは必要ですか?
A.特別な手続きは必要ありません。受け取った香典を葬儀費用に充当し、不足分を相続財産から支払った場合は、その支払った分を葬式費用として遺産総額から差し引くことができます。
Q.相続放棄をした人でも葬式費用を差し引けますか?
A.相続を放棄した人には債務控除の規定は適用されませんが、現実に被相続人の葬式費用を負担した場合には、その負担額を遺贈によって取得した財産の価額から差し引いて差し支えないという取り扱いが示されています。
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