障害のあるお子さまやご家族を持つ方にとって、「自分たちが亡くなった後、この子の生活費をどう遺せばよいのか」というご心配は、何よりも切実なものだと思います。まとまった財産を遺したいけれど、贈与税がかかるのではないか、本人が上手に管理できるだろうかと、悩みは尽きません。こうした不安に応えるために設けられているのが、特定贈与信託という制度です。信託銀行などに財産を託すことで、障害のある方の生活を守りながら、贈与税の負担を大きく軽減できます。
特定贈与信託の概要
特定贈与信託とは、特定障害者の方の生活費などに充てるため、その特定障害者を受益者として財産を信託した場合に、贈与税が非課税となる特例です[国税庁障害者と税]。ご家族などが信託銀行等に金銭などの財産を預け、その財産をもとに障害のある方へ生活費や医療費が計画的に給付される仕組みです。財産の管理を信頼できる第三者に任せられるため、ご本人が財産の管理を行うことが難しい場合でも、安定した生活を支えることができます。
この特例の根拠は、相続税法に定められています[e-Gov法令検索相続税法第21条の4]。障害のある方の将来の暮らしを社会全体で支えようという趣旨から設けられた、公的な非課税制度です。
非課税限度額と申告書
特定贈与信託の最大の特徴は、贈与税の非課税限度額が大きいことです。特別障害者の方は6,000万円まで、特別障害者以外の特定障害者の方は3,000万円までの財産について、贈与税がかかりません[国税庁No.4405 贈与税がかからない場合]。障害の程度に応じて、二段階の限度額が定められている点がポイントです。
この非課税の適用を受けるためには、障害者非課税信託申告書を提出する必要があります。この申告書は、信託会社(受託者の営業所等)を経由して、信託がされる日までに、納税地の所轄税務署へ提出します[国税庁B1-19 障害者非課税信託申告の手続]。実際の手続きは信託銀行等がサポートしてくれることが多いため、まずは取扱いのある金融機関へご相談いただくとよいでしょう。
特定障害者の範囲
特定贈与信託を利用できるのは、受益者が「特定障害者」に該当する場合です。特定障害者は、大きく次の二つに分けられます[国税庁障害者と税]。非課税限度額もこの区分によって変わります。
| 区分 | 主な対象と非課税限度額 |
|---|---|
| 特別障害者 | 重度の障害がある方(限度額6,000万円) |
| 特別障害者以外の 特定障害者 |
特別障害者以外の障害者のうち、精神に障害がある方。精神保健指定医等により知的障害者と判定された方や、精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている方等(限度額3,000万円) |
身体障害のみで特別障害者に当たらない方などは、この制度の対象とならない場合があります。ご自身のご家族が対象になるかどうかは、障害の程度や手帳の種類によって判断されますので、事前に確認しておくことが大切です。
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他の生前対策との違い
障害のあるご家族へ財産を遺す方法は、特定贈与信託だけではありません。暦年贈与や生命保険、成年後見、家族信託など、さまざまな選択肢があります。それぞれ目的や特徴が異なりますので、代表的なものを整理してみましょう。
| 制度 | 特徴 |
|---|---|
| 特定贈与信託 | 特定障害者を受益者として財産を信託し、大きな非課税枠のもとで生活費等を計画的に給付できる制度 |
| 暦年贈与 | 毎年少しずつ財産を贈与する方法。渡した財産の管理はご本人に委ねられる |
| 生命保険 | 保険金という形でまとまった資金を遺す方法。相続税では一定の非課税枠がある |
| 成年後見 | 判断能力が十分でない方の財産管理や契約を、後見人が本人に代わって行う制度 |
| 家族信託 | 信頼できる家族に財産の管理を託す方法。柔軟な設計ができる一方、費用や手続きの検討が必要 |
特定贈与信託は、これらの中でも「大きな非課税枠」と「第三者による計画的な給付」を両立できる点が大きな強みです。制度ごとに向き不向きがありますので、複数の対策を組み合わせて考えることも少なくありません。それぞれの詳しい内容は、以下の記事もあわせてご覧ください。
特定贈与信託のメリット
特定贈与信託には、障害のあるご家族の暮らしを守るうえで大切なメリットがあります。第一に、大きな非課税枠のもとで、まとまった財産を贈与税の負担なく遺せることです。特別障害者の方であれば6,000万円まで非課税となるため、将来の生活費を計画的に準備できます[国税庁No.4405 贈与税がかからない場合]。
第二に、財産の管理を信託銀行等に任せられる点です。ご本人が財産を管理することが難しい場合でも、必要な時期に必要な額が給付されるため、一度に大金を渡すことによる不安がありません。さらに、あらかじめ財産を信託しておくことで、ご家族が亡くなった後の相続対策としても役立ちます。
利用にあたっての注意点
一方で、利用にあたって知っておきたい点もあります。まず、信託できる財産には一定の範囲があり、金銭や有価証券など、取り扱う金融機関によって受け入れられる財産の種類が定められています。ご家族の財産が対象になるかどうか、事前の確認が必要です。
また、信託銀行等に財産の管理を任せるため、一般に手数料などの費用がかかります。費用の内容や、信託を途中で見直す場合の取扱いは金融機関ごとに異なりますので、契約前に十分な説明を受けることが大切です。制度の利用が本当にご家族に合っているかどうかは、他の対策と比べながら慎重に検討しましょう。
利用の流れ
特定贈与信託を利用する際の大まかな流れは、次のとおりです。まず、取扱いのある信託銀行等に相談し、受益者となる方が特定障害者に該当するかを確認します。次に、信託する財産の内容や給付の方法を決めて、信託契約を結びます。
そのうえで、障害者非課税信託申告書を信託会社を経由して、信託がされる日までに納税地の所轄税務署へ提出します[国税庁B1-19 障害者非課税信託申告の手続]。契約後は、あらかじめ定めた計画にもとづいて、受益者の方へ生活費などが給付されていきます。あわせて認知症など将来の判断能力に備えた対策を考えたい場合は、親の認知症に備える生前対策|何ができるかを解説もご参考ください。
まとめ
特定贈与信託は、障害のあるご家族の生活を守るために、大きな非課税枠のもとで財産を遺せる心強い制度です。特別障害者の方は6,000万円まで、それ以外の特定障害者の方は3,000万円まで贈与税が非課税となり、信託銀行等が計画的に給付を行ってくれます[国税庁No.4405 贈与税がかからない場合]。利用には障害者非課税信託申告書の提出が必要で、対象となる方の範囲や信託できる財産にも一定の要件があります。具体的なケースは税理士へのご相談をおすすめします。
参考文献
特定贈与信託のよくある質問まとめ
Q.特定贈与信託とは何ですか。
A.特定障害者の方の生活費などに充てるため、その方を受益者として財産を信託した場合に、贈与税が非課税となる特例です。
Q.非課税となる金額はいくらまでですか。
A.特別障害者の方は6,000万円まで、特別障害者以外の特定障害者の方は3,000万円まで贈与税が非課税となります。
Q.誰が利用できますか。
A.受益者が特定障害者に該当する場合に利用できます。特別障害者と、特別障害者以外の障害者のうち精神に障害がある方が対象です。
Q.利用するために必要な手続きはありますか。
A.障害者非課税信託申告書を、信託会社を経由して、信託がされる日までに納税地の所轄税務署へ提出する必要があります。
Q.どのような財産を信託できますか。
A.金銭や有価証券などが対象となりますが、受け入れられる財産の種類は取り扱う金融機関によって定められています。
Q.費用はかかりますか。
A.信託銀行等に財産の管理を任せるため、一般に手数料などの費用がかかります。内容は金融機関ごとに異なるため事前の確認が大切です。