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相続対策とは?3本柱の全体像と着手すべき順序を解説

2026-08-12
目次

相続対策と聞くと、まず「相続税を減らすこと」を思い浮かべる方が多くいらっしゃいます。しかし実務の現場で最も多くのご家族が苦労されるのは、税額そのものよりも、遺産の分け方でもめてしまうことや、納税のための現金が用意できないことです。順序を誤ると、せっかくの節税策が家族の対立を招いてしまうことさえあります。

そこで本記事では、相続対策の全体像を「分割対策」「節税対策」「納税資金対策」という3本柱に整理してご説明します。それぞれの目的と代表的な手段、そしてどこから着手すべきかという順序まで、相続税を専門とする税理士の視点で解説します。個別の制度の詳細は関連コラムでも扱っておりますので、まずは地図を手に入れるつもりでお読みください。

相続対策の全体像と3本柱

相続対策とは、被相続人がお元気なうちに財産の分け方と税負担、そして納税の資金繰りをあらかじめ整えておく取組みの総称です。目的が異なる3つの領域があり、どれか1つだけを進めても十分な備えにはなりません。まずは、それぞれが何を解決するための対策なのかを押さえていただくことが出発点になります。

分割対策 誰にどの財産を渡すかをあらかじめ決め、遺産分割をめぐる争いと手続きの停滞を防ぐための対策です。遺言書の作成や、財産の組替えによる分けやすさの確保が中心となります。
節税対策 相続税の課税価格や税額そのものを適法に引き下げるための対策です。生前贈与による財産の移転、宅地の評価減の特例、生命保険の非課税枠の活用などが代表例です。
納税資金対策 算出された相続税を期限までに現金で納められるように、資金の出どころを確保しておく対策です。金融資産の比率調整や生命保険金の受取設計が中心になります。

3本柱の相互関係

この3つは独立しているようでいて、実際には強く結びついています。たとえば自宅を配偶者が取得すれば宅地の評価減や配偶者の税額軽減が使える一方で、金融資産が子に偏ると配偶者の生活資金が細る、といった具合です。分割の決め方が税額を動かし、税額が納税資金の必要額を決めるという連鎖が生じます。

また、節税だけを先行させると危険な場面もあります。現金を生前贈与で減らしすぎた結果、相続開始後に納税資金が不足し、不動産を急いで売却せざるを得なくなるご家庭は少なくありません。分割対策で骨格を固め、納税資金対策で足元を固めたうえで、節税対策を上乗せしていく順序が安全です。

相続対策の要否を分ける基礎控除

相続対策の必要性を判断する最初の物差しは、相続税の基礎控除額です。正味の遺産額が基礎控除額の範囲内であれば、原則として相続税の申告も納税も必要ありません。基礎控除額は次の算式で計算します。国税庁 No.4102 相続税がかかる場合

3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数 = 基礎控除額

なお、被相続人に養子がいる場合、法定相続人の数に含める養子の数は、実子がいる場合は1人、実子がいない場合は2人までに制限されます。相続を放棄した人がいても、その放棄がなかったものとして人数を数える点にもご注意ください。

基礎控除額の早見表

法定相続人の数 基礎控除額
1人 3,600万円
2人 4,200万円
3人 4,800万円
4人 5,400万円
5人 6,000万円

ご自宅の土地建物と預貯金を合計しただけで基礎控除額を超えるご家庭は、都市部では珍しくありません。まずは概算で構いませんので、財産の合計額と基礎控除額を並べて比べてみることをおすすめします。

相続税の総額の計算手順

相続税は、各人が取得した財産に直接税率を掛けるのではなく、いったん課税遺産総額を法定相続分で分けたものとみなして計算します。正味の遺産額から基礎控除額を差し引いた残額が課税遺産総額です。国税庁 No.4152 相続税の計算

正味の遺産額 − 基礎控除額 = 課税遺産総額

この課税遺産総額を各法定相続人の法定相続分で按分し、その金額に応じた税率を適用します。税率は法定相続分に応ずる取得金額1,000万円以下の10パーセントから、6億円超の55パーセントまでの8段階です。国税庁 No.4155 相続税の税率

そして相続税の申告と納税の期限は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内です。この10か月という期間には、遺産の把握、遺産分割協議、名義変更、納税資金の準備までが含まれます。決して余裕のある期間ではないことが、生前からの相続対策が重要とされる最大の理由です。国税庁 No.4205 相続税の申告と納税

分割対策の中心となる遺言書

遺言書がない場合、遺産は相続人全員の協議によって分けることになります。全員の合意が得られなければ、預貯金の払戻しも不動産の名義変更も進みません。相続人の一人でも連絡が取りづらい方や、意見の異なる方がいらっしゃる場合には、遺言書の有無が手続きの成否を大きく左右します。

さらに税務上の観点からも、遺言書には大きな意味があります。配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例といった有利な制度は、申告期限までに遺産が分割されていることが前提となるためです。分割がまとまらないまま期限を迎えると、これらの特例をいったん使えない状態で申告し、余分な納税をすることになります。

遺言書の主な方式

公正証書遺言 公証人が関与して作成する方式です。原本が公証役場に保管されるため紛失や改ざんの心配がなく、方式の不備で無効になるおそれもほとんどありません。費用と証人の手配が必要になります。
自筆証書遺言 遺言者が自筆で作成する方式です。費用をかけずに作成できる反面、保管や形式不備の問題が生じやすいため、法務局の保管制度の利用が有効な選択肢となります。

自筆証書遺言書保管制度を利用すると、法務局の遺言書保管官による外形的なチェックを受けられるほか、紛失や相続人による破棄・改ざんを防ぐことができます。加えて、相続開始後に家庭裁判所の検認手続が不要になるため、残されたご家族の負担も軽くなります。東京法務局 自筆証書遺言書保管制度とは?

関連コラム公正証書遺言の作り方と費用|公証人手数料の一覧と必要書類

判断能力の低下への備え

相続対策で見落とされがちなのが、相続が起きる前の段階、すなわち認知症などによって判断能力が低下した場合の備えです。判断能力を失うと、遺言書の作成も、生前贈与も、不動産の売却も、原則としてできなくなります。相続対策には「できる期間」があるという点を、ぜひ意識していただきたいところです。

この局面に備える仕組みとしては、財産の管理を家族に託しておく家族信託や、あらかじめ支援者を決めておく任意後見契約があります。いずれもご本人に判断能力があるうちにしか設定できません。財産の凍結を避けたい場合には、遺言書の作成とあわせて早めにご検討ください。

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節税対策の主な選択肢

節税対策は、財産を生前に移して相続財産そのものを減らす方法と、相続時の評価額や税額を制度によって圧縮する方法に大きく分かれます。どちらか一方だけではなく、財産の構成に応じて組み合わせることが実務の基本です。ここでは代表的な4つの柱をご説明します。

生前贈与による財産の移転

贈与税の課税方法には暦年課税と相続時精算課税の2つがあります。暦年課税では、その年の1月1日から12月31日までに贈与を受けた財産の合計額から基礎控除額110万円を差し引いた残額に贈与税がかかります。合計額が110万円以下であれば贈与税はかからず、申告も不要です。国税庁 No.4402 贈与税がかかる場合

ただし、相続等により財産を取得した人が被相続人から加算対象期間内に暦年課税の贈与を受けていた場合、その財産は相続税の課税価格に加算されます。加算対象期間は、被相続人の相続開始日が令和8年12月31日以前であれば相続開始前3年以内、令和9年1月1日から令和12年12月31日までであれば令和6年1月1日から死亡の日までの間、令和13年1月1日以後であれば相続開始前7年以内となります。国税庁 No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)

もう一方の相続時精算課税は、原則として60歳以上の父母または祖父母などから18歳以上の子または孫などへの贈与について選択できる制度です。特定贈与者ごとに年110万円の基礎控除額を控除し、さらに累計2,500万円の特別控除額を控除した後の金額に一律20パーセントの税率が適用されます。一度選択すると同じ贈与者からの贈与について暦年課税へ戻せない点が最大の注意点です。国税庁 No.4103 相続時精算課税の選択

関連コラム生前贈与とは?使える制度の全体像と進め方を解説

不動産の評価額の引下げ

財産に占める自宅や賃貸物件の割合が高いご家庭では、小規模宅地等の特例が節税効果の中心になります。被相続人等の事業用または居住用に使われていた宅地等について、一定の面積までの評価額を大幅に減額できる制度です。国税庁 No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)

宅地等の区分 限度面積と減額される割合
特定居住用宅地等 330平方メートルまで80パーセント減額
特定事業用宅地等 400平方メートルまで80パーセント減額
特定同族会社事業用宅地等 400平方メートルまで80パーセント減額
貸付事業用宅地等 200平方メートルまで50パーセント減額

評価額1億円の自宅の敷地が330平方メートル以内であれば、この特例により課税価格に算入される金額は2,000万円まで下がります。効果が非常に大きい一方で、取得者の要件や申告期限までの分割といった条件を満たす必要があります。分割対策と一体で設計すべき制度の代表例です。

関連コラム小規模宅地の特例とは|4区分の限度面積と80%減額を徹底解説

生命保険の非課税枠の活用

被相続人が保険料を負担していた生命保険金は、相続等により取得したものとみなされて相続税の課税対象になります。ただし受取人が相続人である場合には、次の算式で計算した非課税限度額までは課税されません。国税庁 No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金

500万円 × 法定相続人の数 = 非課税限度額

預貯金のまま保有していれば全額が課税対象ですが、同じ資金を生命保険に振り替えれば非課税枠の分だけ課税価格が下がります。しかも保険金は受取人固有の財産として遺産分割協議を経ずに受け取れるため、納税資金の確保にも直結します。3本柱のうち2つに同時に効く、費用対効果の高い手段といえます。

関連コラム生命保険金の相続税非課税枠|500万円×法定相続人の計算

配偶者向けの制度

配偶者の税額の軽減は、配偶者が遺産分割や遺贈により実際に取得した正味の遺産額が、1億6千万円と配偶者の法定相続分相当額のいずれか多い金額までであれば、配偶者に相続税がかからないという制度です。適用には、相続税の申告期限までに遺産が分割されていることが必要となります。国税庁 No.4158 配偶者の税額の軽減

ただし、配偶者に財産を寄せすぎると、その配偶者が亡くなったときの二次相続で税負担が跳ね返ります。二次相続では法定相続人の数が減り、基礎控除額も配偶者の税額軽減も使えなくなるためです。一次相続と二次相続の合計税額で比較して配分を決めることが、実務上の要点になります。

また、婚姻期間が20年以上の夫婦の間で居住用不動産またはその取得資金の贈与が行われた場合、贈与税の申告をすることで基礎控除額110万円のほかに最高2,000万円まで控除を受けられます。同じ配偶者からの贈与については一生に一度しか適用できない特例です。国税庁 No.4452 夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除

納税資金の確保と延納・物納

相続税は、申告期限と同じ日までに金銭で一括して納付することが原則です。財産の大半が不動産や自社株というご家庭では、税額は算出できても納める現金がないという事態が起こります。相続対策の成否は、最終的にこの資金繰りで決まるといっても言い過ぎではありません。

納税資金を用意する手段は、大きく3つに整理できます。第一に、生命保険を活用して受取人に現金が届くようにしておくこと。第二に、収益不動産の一部売却や資産の組替えによって金融資産の比率を高めておくこと。第三に、相続人が納税額に見合う現金を受け取れるよう、遺言書で配分をあらかじめ指定しておくことです。

それでも現金での納付が難しい場合には、延納という制度があります。相続税額が10万円を超え、金銭で納付することを困難とする事由がある場合に、担保を提供して年賦により納付する方法です。なお延納税額が100万円以下で、かつ延納期間が3年以下であるときは担保の提供は不要とされています。延納期間中は利子税の納付が必要です。国税庁 No.4211 相続税の延納

延納によっても金銭で納付することが困難な場合に限り、相続財産そのもので納める物納を申請できます。物納できる財産には不動産や上場株式等を第1順位とする順位が定められており、境界が明らかでない土地など管理処分不適格財産に該当するものは認められません。境界確定や権利関係の整理には時間がかかるため、生前の準備が欠かせない領域です。国税庁 No.4214 相続税の物納

相続対策の着手順序と見直しの時期

3本柱を同時にすべて進めようとすると、どこから手をつけてよいか分からなくなります。実務では、現状把握から始めて分割、納税資金、節税の順に固めていく進め方が最も失敗が少ないと考えております。次の4段階を目安にお考えください。

段階 主な取組み
現状把握 財産と債務の一覧を作り、法定相続人を確定したうえで、基礎控除額との比較と相続税額の概算を行います。すべての判断はここから始まります。
分割の設計 誰にどの財産を渡すかを決め、遺言書として形にします。判断能力の低下に備える家族信託や任意後見契約の検討もこの段階です。
納税資金の確保 概算税額に対して不足する現金を洗い出し、生命保険の設計や資産の組替えで手当てします。物納を視野に入れる場合は境界確定などの準備も進めます。
節税策の実行 生前贈与の計画的な実行、宅地の利用状況の整理、配偶者向け制度の活用などを、分割と納税資金の設計に矛盾しない範囲で進めます。

着手の時期については、早ければ早いほど選べる手段が増えます。生前贈与は年数を重ねるほど移転できる財産が増えますし、遺言書も家族信託もご本人に判断能力があることが前提です。60代に入られた時点で一度全体像を確認しておくことをおすすめします。

そして相続対策は、一度作って終わりではありません。財産の増減、家族構成の変化、税制改正のいずれかがあれば前提が変わります。少なくとも3年に一度、あるいは不動産の売買や相続人の状況に変化があったときには、遺言書の内容と税額の見込みを見直してください。

まとめ

相続対策は、分割対策・節税対策・納税資金対策の3本柱で考えます。分割対策で遺産の分け方を決め、納税資金対策で納付原資を確保し、その土台の上に節税対策を重ねるという順序が、家族の対立と資金不足の両方を防ぐ最も確実な進め方です。

必要性を判断する物差しは基礎控除額です。3,000万円と600万円に法定相続人の数を掛けた金額の合計を正味の遺産額が超えるかどうかを、まず概算で確認してください。超える見込みであれば、小規模宅地等の特例、生命保険の非課税枠、配偶者の税額の軽減といった制度が、いずれも申告期限までの遺産分割を前提としている点を意識した設計が必要になります。

申告と納税の期限は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内です。この短い期間で慌てないためにも、財産の一覧化と相続税額の概算という第一歩を、判断能力とお時間に余裕のあるうちに踏み出していただければと思います。

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財産の構成やご家族の状況は一件ごとに異なり、どの対策をどの順序で行うべきかは試算をしてみなければ判断できません。具体的なケースについては、相続税を専門とする税理士へのご相談をおすすめします。

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参考文献

相続対策のよくある質問まとめ

Q. 相続対策は何から始めればよいですか。

A. 財産と債務の一覧を作り、法定相続人を確定して相続税額を概算するところから始めます。次に遺言書で分割の方針を決め、納税資金を確保し、最後に節税策を重ねるという順序が安全です。節税から入ると納税資金が不足するおそれがあります。

Q. 相続対策の3本柱とは何ですか。

A. 分割対策、節税対策、納税資金対策の3つです。分割対策は遺産の分け方を決めて争いを防ぐもの、節税対策は課税価格や税額を適法に下げるもの、納税資金対策は期限までに現金で納められるようにするものです。

Q. 相続税がかかるかどうかの目安を教えてください。

A. 正味の遺産額が基礎控除額を超えるかどうかが目安です。基礎控除額は3,000万円に600万円と法定相続人の数を掛けた金額を加えて計算します。法定相続人が3人であれば4,800万円となります。

Q. 相続対策はいつから始めるべきですか。

A. 判断能力とお時間に余裕のあるうちが適切で、60代に入られた時点で一度全体像を確認することをおすすめします。遺言書の作成も生前贈与も家族信託も、ご本人に判断能力があることが前提となるためです。

Q. 生前贈与だけで相続対策は十分ですか。

A. 十分とはいえません。相続等により財産を取得した人が加算対象期間内に受けた暦年課税の贈与は相続税の課税価格に加算されますし、現金を減らしすぎると納税資金が不足します。遺言書と納税資金の手当てとあわせて検討してください。

Q. 相続税を現金で納められない場合はどうなりますか。

A. 相続税額が10万円を超え金銭での納付が困難な事由がある場合は、担保を提供して年賦で納める延納を申請できます。延納によっても困難な場合に限り、相続財産で納める物納を申請できますが、要件が厳しいため生前からの準備が重要です。

事務所概要
社名
税理士法人プライムパートナーズ
住所
〒107-0052
東京都港区赤坂5丁目2−33
IsaI AkasakA 17階
対応責任者
税理士 島本 雅史

本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や人的ミス、個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊法人の税理士までお問い合わせください。

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