「祖父の代から持っている土地を売ることになったが、買ったときの金額がまったく分からない」「相続した株を売りたいが、親がいくらで買ったのか記録が見当たらない」。古くから持つ資産を手放すとき、多くの方がまず取得費の壁に突き当たります。この記事は、古くから所有する土地・建物や株式を売却する個人の資産家・事業者の方、相続や贈与で資産を受け継いだ方に向けて、取得費が分からないときの扱いを整理したものです。
結論から申し上げると、取得費が分からない場合や、実際の取得費が売却代金の5パーセントに満たない場合は、売却代金の5パーセントを取得費(概算取得費)として計算できます。土地・建物だけでなく株式等にも同じ考え方があり、相続や贈与で取得した資産は、亡くなった方や贈与した方の取得費と取得時期を引き継いで判断します。以下で、使える場面、計算例、資料の探し方を順にご説明します。
概算取得費(譲渡価額の5パーセント)とは
概算取得費は、実際の購入代金が分からないときなどに、売却代金の一定割合を取得費とみなして譲渡所得を計算する仕組みです。まずは取得費の原則から確認しておきましょう。
取得費の原則と概算取得費の位置づけ
譲渡所得は、売った金額から取得費と譲渡費用を差し引いて計算します。取得費には、土地や建物の購入代金・建築代金、購入手数料のほか、設備費や改良費も含まれ、建物については所有期間中の減価償却費相当額を差し引いた金額になります国税庁 No.3252 取得費となるもの。
つまり本来は「実際にいくらで手に入れたか」を書類で示すのが原則です。ところが先祖伝来の土地や、何十年も前に買った資産では、その書類が残っていないことが珍しくありません。そうした場面の受け皿として用意されているのが概算取得費です。
概算取得費を使える2つの場面
国税庁は、売った土地建物が先祖伝来のものである、買い入れた時期が古いといった理由で取得費が分からない場合に、売った金額の5パーセント相当額を取得費にできると案内しています。あわせて、実際の取得費が売った金額の5パーセント相当額を下回る場合も、5パーセント相当額を取得費にできます国税庁 No.3258 取得費が分からないとき。
| 取得費が分からない場合 | 購入時の契約書などが無く、実際の取得費を示せないときは、売却代金の5パーセントを取得費にできる |
|---|---|
| 実際の取得費が 5パーセントに満たない場合 |
昔の安い価格で取得していて実額が小さいときも、売却代金の5パーセントを取得費にできる |
後者は見落とされやすい点です。資料がそろっていても、取得価額がごく小さいときは、実額より概算取得費のほうが有利になることがあります。
概算取得費の根拠となる規定
概算取得費の根拠は租税特別措置法第31条の4(長期譲渡所得の概算取得費控除)ですe-Gov法令検索 租税特別措置法。条文そのものは、昭和27年12月31日以前から引き続き所有していた土地建物等を売ったときの規定ですが、国税庁の通達(措置法通達31の4-1)により、昭和28年1月1日以後に取得した土地建物等についても、この規定に準じて計算して差し支えないとされています国税庁 一筆の土地の共有持分を別個の時期に相続と売買により取得し当該土地の単独所有者となった者が当該土地を譲渡した場合における譲渡所得の取得費の計算について(共有持分に応じて概算取得費と実額による取得費を適用することの可否)。このため、取得時期を問わず、取得費が分からない土地建物では5パーセントを使えるという運用になっています。
短期譲渡所得での取扱い
条文の見出しが「長期譲渡所得」となっているため、所有期間5年以下の短期譲渡所得では使えないのではと心配される方もいます。この点について国税庁の質疑応答事例は、概算取得費の特例は短期譲渡所得の金額の計算についても適用して差し支えないと回答しています国税庁 短期譲渡所得の計算上控除する取得費と概算取得費控除。買換えの特例などで取得時期が引き継がれず短期譲渡所得になる場面でも、検討の余地があります。
概算取得費の計算方法と税額の計算例
ここからは、概算取得費を使ったときの譲渡所得と税額を、具体的な数字で確認します。
概算取得費の計算式
概算取得費は、売却代金(譲渡価額)に5パーセントを掛けるだけで求められます。
譲渡所得の金額は、この概算取得費と譲渡費用を売却代金から差し引いて計算します。譲渡費用は仲介手数料や測量費など、売るために直接かかった費用です。
長期・短期の税率と復興特別所得税
土地や建物の譲渡所得は、売った年の1月1日現在の所有期間が5年を超えるかどうかで税率が分かれます。長期譲渡所得は所得税15%(住民税5%)で、平成25年から令和29年までの各年分は、基準所得税額に2.1パーセントを掛けた復興特別所得税もあわせて申告・納付します国税庁 No.3208 長期譲渡所得の税額の計算。短期譲渡所得は所得税30%(住民税9%)です国税庁 No.3211 短期譲渡所得の税額の計算。
| 区分 | 税率 |
|---|---|
| 長期譲渡所得 (所有期間5年超) |
所得税15%・住民税5% |
| 短期譲渡所得 (所有期間5年以下) |
所得税30%・住民税9% |
令和8年中に売った場合、取得が令和2年12月31日以前なら長期譲渡所得になります。なお、所有期間が10年を超えるマイホームを売ったときは、課税長期譲渡所得金額のうち6,000万円までの部分に軽減税率(所得税10%・住民税4%)が使える特例があります。また、2.1%を掛けて計算する税は、令和9年分以後は防衛特別所得税及び復興特別所得税として申告・納付すると案内されています国税庁 土地や建物を売ったとき。
関連コラム譲渡所得の住民税は何%?長期5%・短期9%と計算方法を税理士が解説▸
概算取得費を使った税額の計算例
祖父の代から所有している土地を8,000万円で売却し、仲介手数料などの譲渡費用が280万円かかったケースで考えます。購入時の資料は残っておらず、所有期間は5年を超えているものとします(特別控除はなし、端数処理は省略)。
概算取得費は売却代金の5パーセントにとどまるため、取得費が実際より小さく見積もられ、税負担が重くなりやすい点は意識しておく必要があります。
実額の取得費と比べた場合
同じ土地について、仮に購入時の契約書が見つかり、取得費が1,500万円と証明できた場合は、次のように計算が変わります。
| 取得費の根拠 | 税額の合計 |
|---|---|
| 概算取得費(400万円) | 1,487万580円 |
| 実額の取得費(1,500万円) | 1,263万5,930円 |
この例では、実額を証明できるかどうかで税額に約224万円の差が出ます。反対に、実額が400万円を下回るなら概算取得費を使うほうが有利です。売却が決まったら、まず資料を探し、実額と5パーセントのどちらが大きいかを比べることが出発点になります。
土地・建物と株式等での使い方
概算取得費の考え方は土地・建物と株式等の両方にありますが、計算の単位や注意点が少しずつ異なります。
土地・建物の場合と建物の減価償却費相当額
土地と建物をまとめて売った場合、国税庁の例示では売った金額の5パーセントを取得費としています。一方、建物の実額を使う場合は、購入代金などから所有期間中の減価償却費相当額を差し引かなければなりません。事業に使っていなかった建物は、耐用年数の1.5倍の年数に対応する旧定額法の償却率で計算し、減価償却費相当額は建物の取得価額の95パーセントが限度です国税庁 No.3261 建物の取得費の計算。
たとえば、自宅として使っていた木造建物(取得価額2,000万円、非業務用の償却率0.031)を20年後に売る場合は、次のとおりです。
建物の書類が見つかっても、償却後の金額は思ったより小さくなることがあります。実額と概算取得費を比べるときは、建物を償却した後の金額で比べる点に注意してください。
株式等の場合
株式等の取得費は、払込代金や購入代金に購入手数料などを加えた金額が原則です。相続したものや購入時期が古いものなどで取得費が分からない場合は、同一銘柄の株式等ごとに、売却代金の5パーセント相当額を取得費とすることも認められています国税庁 No.1464 譲渡した株式等の取得費。たとえば、ある銘柄を600万円で売り取得費が不明なら、30万円を取得費にできます。
株式等の譲渡益は、上場株式等・一般株式等のいずれも所得税15%・住民税5%の申告分離課税で、復興特別所得税もあわせて申告・納付します国税庁 No.1463 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)。土地建物と違い、所有期間による税率の差はありません。
概算取得費と実費を重ねて計上できない点
概算取得費を選んだときは、その5パーセントがいわば「取得費の全部」になります。名古屋国税局の譲渡所得のチェックシート(令和7年分)でも、概算取得費のほかに土地の造成費などを重複して取得費に含めていないかを確認項目にしています国税庁 譲渡所得のチェックシート(令和7年分)。
同様に、相続や贈与で取得した土地建物について概算取得費を使う場合、相続人などが支払った登記費用などを取得費に含めることはできません国税庁 No.3270 相続や贈与によって取得した土地・建物の取得費と取得の時期。一部の費用だけ領収書が残っているという場面では、「5パーセント」と「判明している実額の合計」のどちらが大きいかで判断します。
相続・贈与で取得した資産の取得費
相続や贈与で受け継いだ資産を売るときは、取得費の考え方に独特のルールがあります。相続税の評価額を取得費にできると誤解されやすいため、丁寧に確認しておきましょう。
被相続人・贈与者の取得費と取得時期の引継ぎ
相続や贈与で取得した土地建物の取得費は、被相続人や贈与者がその土地建物を買い入れたときの購入代金や購入手数料などを基に計算します。取得の時期も被相続人や贈与者のものがそのまま引き継がれ、長期か短期かはその時期から判定します。業務に使われていない土地建物では、相続人や受贈者が支払った登記費用や不動産取得税も取得費に含められます。
株式等も同じで、相続・遺贈・贈与で取得したものは被相続人などの取得費を引き継ぎます。つまり、亡くなった方が何十年も前に買った資産なら、その当時の金額を探すことになり、見つからなければ概算取得費で計算するのが通常の流れです。
取得費加算の特例との関係
相続または遺贈で取得した財産を、相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに売った場合は、納めた相続税のうち一定額を取得費に加算できる特例があります国税庁 No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例。相続した資産を売るときは、概算取得費とあわせて、この特例の期限内かどうかも確認しておくと安心です。
関連コラム相続した不動産の売却にかかる税金|譲渡所得税の計算と2つの特例▸
相続と売買で持分を取得した土地の実務での取り扱い
実務でよくご相談いただくのが、親から相続した土地の共有持分に加え、残りの持分を兄弟から買い取って単独所有にした後、その土地を売るケースです。相続した持分は取得費が分からない一方、買い取った持分は売買の代金がはっきりしています。
このような場合について名古屋国税局の文書回答事例では、相続した持分には概算取得費を、買い取った持分には実際に支払った代金を、それぞれ取得費として合計する考え方が示されています。持分ごとに取得の経緯が違えば、取得費も持分ごとに考えるということです。たとえば、相続した持分2分の1と買い取った持分2分の1(代金1,800万円)を合わせた土地を5,000万円で売った場合は、次のようになります。
全体に5パーセントを当てはめると取得費は250万円にとどまるため、持分ごとに分けて考えるかどうかで結果は大きく変わります。なお、買い取った持分は取得時期も買い取った日で判断するため、売るまでの期間によっては長期と短期が混在する点にも注意が必要です。文書回答事例は個別の事実関係を前提にしたものですので、実際の適用は税理士と事実関係を確認しながら判断してください。
関連コラム住んでいない家の売却でかかる税金|3000万円控除と2つの特例▸
取得費が分かる資料の探し方
概算取得費は便利ですが、先ほどの計算例のとおり、実額を示せれば税額が大きく下がることがあります。売却前に、次の資料がないか確認してみてください。
土地・建物の資料
名古屋国税局のチェックシートでは、購入(建築)代金と取得の時期を確認する書類として、次のものを挙げています。
| 売買契約書 | 購入代金と取得の時期を確認する基本の書類 |
|---|---|
| 工事請負契約書 | 建物を新築した場合の建築代金を確認する書類 |
| 預金通帳 | 代金を支払った時期と金額の記録 |
| 領収証 | 代金や手数料を支払ったことを示す書類 |
相続した不動産では、亡くなった方の書類の綴りや金庫、通帳の保管場所から見つかることもあります。実務では、売買契約書が見つからなくても、通帳の出金記録などと組み合わせて確認できないかを検討します。
株式等の資料
上場株式等の取得価額は、国税庁の資料によると次の順で確認できます国税庁 上場株式等の取得価額の確認方法。
- 証券会社などから送られてくる取引報告書(取引残高報告書・月次報告書・受渡計算書などで確認できる場合もあります)
- 取引した証券会社などの顧客勘定元帳(過去10年以内に購入したものであれば確認できます)
- 日記帳や預金通帳などのご自身の手控え(取得時期だけ分かる場合は、その時期を基に取得価額を算定しても差し支えありません)
- 1から3で確認できない場合は、株主名簿や株式異動証明書などで名義書換日を調べて取得時期を把握し、その時期の相場を基に算定
これらで取得価額を確かめられれば実額を使い、どうしても分からない場合に5パーセントの概算取得費を検討する、という順番で考えるのが基本です。
資料が見つからない場合の判断
手を尽くしても資料が見つからない場合は、概算取得費で申告することになります。その際は、実額を一部だけ混ぜない、相続人の登記費用を足さない、といった重複計上の誤りに注意してください。また、土地と建物、相続分と購入分のように取得の経緯が異なる部分があるときは、まとめて5パーセントで計算するより有利な方法がないかを確認する価値があります。
まとめ
譲渡所得の取得費が分からないときや、実際の取得費が売却代金の5パーセントに満たないときは、売却代金の5パーセントを概算取得費として計算できます。土地・建物だけでなく株式等にも同じ考え方があり、相続や贈与で取得した資産は被相続人などの取得費と取得時期を引き継ぎます。
一方で、概算取得費は実額より小さくなりやすく、資料が見つかれば税額が大きく下がることもあります。造成費や登記費用を重ねて計上できない点、持分ごとに取得費を分けて考えられる場面がある点など、判断を誤りやすい論点も少なくありません。古くから持つ資産や相続した資産の売却を検討されている方は、売却の前に資料を確認したうえで、まずは税理士にご相談ください。具体的なケースは税理士へのご相談をおすすめします。
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参考文献
- 国税庁 No.3252 取得費となるもの
- 国税庁 No.3258 取得費が分からないとき
- e-Gov法令検索 租税特別措置法
- 国税庁 一筆の土地の共有持分を別個の時期に相続と売買により取得し当該土地の単独所有者となった者が当該土地を譲渡した場合における譲渡所得の取得費の計算について(共有持分に応じて概算取得費と実額による取得費を適用することの可否)
- 国税庁 短期譲渡所得の計算上控除する取得費と概算取得費控除
- 国税庁 No.3208 長期譲渡所得の税額の計算
- 国税庁 No.3211 短期譲渡所得の税額の計算
- 国税庁 土地や建物を売ったとき
- 国税庁 No.3261 建物の取得費の計算
- 国税庁 No.1464 譲渡した株式等の取得費
- 国税庁 No.1463 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)
- 国税庁 譲渡所得のチェックシート(令和7年分)
- 国税庁 No.3270 相続や贈与によって取得した土地・建物の取得費と取得の時期
- 国税庁 No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例
- 国税庁 上場株式等の取得価額の確認方法
譲渡所得の取得費5パーセントのよくある質問まとめ
Q.譲渡所得の取得費5パーセントはどんなときに使えますか?
A.取得費が分からない場合と、実際の取得費が売却代金の5パーセントに満たない場合に、売却代金の5パーセントを取得費(概算取得費)として計算できます。
Q.概算取得費は短期譲渡所得でも使えますか?
A.使えます。国税庁の質疑応答事例で、概算取得費の特例は短期譲渡所得の計算にも適用して差し支えないとされています。
Q.相続した土地の取得費は相続税の評価額になりますか?
A.なりません。被相続人が買い入れたときの購入代金などを基に計算し、取得時期も引き継ぎます。分からない場合は概算取得費を検討します。
Q.株式でも取得費5パーセントは使えますか?
A.使えます。取得費が分からない場合は、同一銘柄の株式等ごとに売却代金の5パーセント相当額を取得費とすることが認められています。
Q.概算取得費に登記費用や造成費を上乗せできますか?
A.できません。概算取得費を使う場合、造成費などを重複して取得費に含めることはできず、相続人が支払った登記費用なども加えられません。
Q.取得費の資料はどこを探せばよいですか?
A.不動産は売買契約書・工事請負契約書・預金通帳・領収証、上場株式等は取引報告書や証券会社の顧客勘定元帳などで確認できます。


