この記事は、免税事業者のまま設備投資の消費税を還付で取り戻したい方や、インボイス登録を検討している個人事業主・小規模法人の経営者・経理担当の方に向けたものです。「課税事業者選択届出書を出すと、何年は免税事業者に戻れないのか」「インボイス登録をした場合も同じ縛りがかかるのか」と気になっている方も多いはずです。
結論からお伝えすると、課税事業者選択届出書を出して課税事業者になると、原則として2年間は免税事業者に戻れません(2年縛り)。さらに、その2年の間に税抜100万円以上の固定資産(調整対象固定資産)を取得して一般課税で申告すると、縛りは3年に延びます(3年縛り)。インボイス登録の経過措置で課税事業者になった場合は選択届出書は不要ですが、別の2年縛りがあります。本記事では、国税庁の資料をもとに、届出の期限・提出先・やめるときの手続きまで、判断に必要な材料を税理士の実務の視点で整理します。
課税事業者選択届出書の基本
届出書を提出する目的
事業者は、基準期間(個人事業者は前々年、事業年度が1年の法人は前々事業年度)の課税売上高が1,000万円以下であれば、原則として消費税の納税義務が免除されます。ただし、消費税課税事業者選択届出書を提出して課税事業者となっている課税期間は、基準期間の課税売上高が1,000万円以下でも納税義務は免除されません国税庁 No.6501 納税義務の免除。
わざわざ課税事業者を選ぶ理由は、主に消費税の還付です。課税事業者は、課税売上げがなく納付税額がない課税期間でも、課税仕入れに対する消費税額があれば還付申告をすることができます国税庁 No.6601 申告と納税。免税事業者のままでは消費税の申告自体を行わないため、多額の設備投資をした年や、輸出売上げが中心で仕入れの消費税のほうが多い年でも、支払った消費税は戻りません。
効力発生時期と提出期限
選択届出書は、提出した日の属する課税期間の翌課税期間から効力が生じるのが原則です。提出期限は「適用を受けようとする課税期間の初日の前日まで」とされています国税庁 D1-4 消費税課税事業者選択届出手続。
| 原則 | 適用を受けようとする課税期間の初日の前日まで(個人事業者で令和9年分から適用する場合は令和8年12月31日まで) |
|---|---|
| 事業を開始した 課税期間から適用する場合 |
その課税期間中に提出すれば、その課税期間から課税事業者になれる |
| 期限が休日の場合 | 課税期間の末日が土日・祝日でも翌日等への延長はない |
国税庁は、課税期間の末日が土曜日・日曜日・祝日等にあたる場合でも、翌課税期間から課税事業者を選択したいときはその課税期間中に提出する必要があると明記しています。なお、令和9年4月1日から令和11年3月31日までの2年間は飲食料品の譲渡について消費税率が引き下げられ、飲食料品の譲渡を行う事業者には選択届出書の提出時期の特例が設けられます。該当する業種の方は、国税庁の特設サイトで個別に確認してください。
提出先と提出方法
提出先は納税地を所轄する税務署長です。e-Tax(個人事業者はe-Taxソフト(WEB版)の「マイページ」など)で提出できるほか、書面を作成して税務署へ持参または送付することもできます。税務署の受付時間は9時から15時までとされています。郵送や窓口提出の場合は、期限当日に慌てないよう、控えに受付印をもらう、送付の記録を残すといった管理をしておくと安心です。
選択不適用届出書の2年縛り
2年縛りの内容
課税事業者の選択をやめるときは、消費税課税事業者選択不適用届出書を提出します。この届出書は、提出があった日の属する課税期間の末日の翌日から効力が生じます。ただし、事業を廃止した場合を除き、課税事業者となった日から2年を経過する日の属する課税期間の初日以後でなければ提出できません。そのため、課税事業者となった日から2年間は免税事業者に戻れません。これが一般に「2年縛り」と呼ばれるルールです。
手続の案内でも、選択不適用届出書の提出時期は「免税事業者に戻ろうとする課税期間の初日の前日まで」とされ、あわせて調整対象固定資産を購入した場合にも提出できない場合があると注意書きがあります国税庁 D1-5 消費税課税事業者選択不適用届出手続。
免税事業者に戻れる時期の数え方
個人事業者(課税期間は暦年)が令和9年1月1日から課税事業者を選択した場合で、数え方を確認します。
| 課税事業者となった日 | 令和9年1月1日 |
|---|---|
| 2年を経過する日 | 令和10年12月31日 |
| その日の属する課税期間 | 令和10年分(初日は令和10年1月1日) |
| 選択不適用届出書を 提出できる時期 |
令和10年1月1日以後(令和10年12月31日までに提出) |
| 免税事業者に戻れる年 | 早くても令和11年分から |
令和9年分と令和10年分の2年間は、課税売上高がいくらであっても消費税の申告が必要です。還付を受けた翌年は、売上げに対する消費税を納める年になることが多い点を、届出前に見込んでおく必要があります。
届出書の効力は自動では切れない
見落としやすいのは、2年が過ぎても選択届出書の効力は自動では失われないという点です。選択不適用届出書を提出しない限り、基準期間の課税売上高が1,000万円以下の年も課税事業者のままです。また、選択不適用届出書を出していても、特定期間(個人事業者は前年1月1日から6月30日まで)の課税売上高が1,000万円を超える場合は課税事業者となります。実務では「還付を受けた後、届出を出し忘れて何年も申告を続けていた」というご相談も少なくありません。
調整対象固定資産を取得した場合の3年縛り
調整対象固定資産とは
調整対象固定資産とは、棚卸資産以外の資産(建物及びその附属設備、構築物、機械及び装置、車両及び運搬具、工具・器具及び備品など)で、一の取引単位の価額(税抜き)が100万円以上のものをいいます。還付を目的に課税事業者を選ぶ場面で取得する設備や車両の多くが、これに該当します。
3年縛りの内容
選択届出書を提出した事業者が、課税事業者となった日から2年を経過する日までの間に開始した各課税期間中に調整対象固定資産の課税仕入れ等を行い、その課税期間の確定申告を一般課税で行った場合には、その仕入れ等を行った課税期間の初日から原則として3年間は免税事業者になれません。この間は、消費税簡易課税制度選択届出書の提出も制限されます。
| 区分 | 免税事業者に戻れない期間 |
|---|---|
| 選択届出のみ(2年縛り) | 課税事業者となった日から2年間 |
| 2年以内に調整対象固定資産を取得し一般課税で申告(3年縛り) | 取得した課税期間の初日から原則3年間 |
たとえば課税事業者1年目に機械を買った場合、2年縛りが終わる年の翌年まで縛りが延びます。還付額だけを見て設備投資のタイミングを決めると、想定より1年長く申告と納税が続くことになります。
高額特定資産の特例との違い
似たルールに、高額特定資産(一の取引単位の税抜価額が1,000万円以上の棚卸資産または調整対象固定資産)の特例があります。こちらは選択届出書の有無に関係なく、課税事業者が簡易課税制度や2割特例の適用を受けない課税期間に高額特定資産を仕入れた場合、仕入れの日の属する課税期間の初日以後3年を経過する日の属する課税期間まで事業者免税点制度が適用されないというものです国税庁 No.6502 高額特定資産を取得した場合等の納税義務の免除等の特例。1,000万円以上の資産を買う場合は、両方の特例に当てはまらないかを確認します。
関連コラム消費税の3年縛りとは?調整対象固定資産と高額特定資産の違いを解説▸
インボイス登録の経過措置と2年縛り
経過措置で登録する場合は選択届出書が不要
免税事業者が適格請求書発行事業者の登録を受けると、基準期間の課税売上高が1,000万円以下でも納税義務は免除されません。免税事業者が登録するには、本来は選択届出書を出して課税事業者になる必要がありますが、令和5年10月1日から令和11年9月30日までの日を含む課税期間中に登録を受けた場合は、登録を受けた日から適格請求書発行事業者(課税事業者)となる経過措置が設けられています国税庁 No.6498 適格請求書等保存方式(インボイス制度)。
国税庁のインボイスQ&A(問7)では、この経過措置の適用を受ける場合、登録申請書に提出日から15日以降の登録希望日を記載することで、その日から課税事業者となり、課税選択届出書を提出する必要はないと説明されています国税庁 インボイス制度に関するQ&A目次一覧。この場合、登録日から課税期間の末日までの期間について消費税の申告が必要です。
経過措置で登録した場合の2年縛り
選択届出書を出していなくても縛りがないわけではありません。同じQ&Aでは、経過措置の適用を受ける登録日の属する課税期間が令和5年10月1日を含まない場合、登録日の属する課税期間の翌課税期間から、登録日以後2年を経過する日の属する課税期間までは免税事業者になれないとされています。
たとえば個人事業者が令和8年11月1日に登録を受けた場合、令和8年11月1日から12月31日までが申告の対象となり、登録日以後2年を経過する日(令和10年10月31日)の属する令和10年分までは免税事業者に戻れません。一方、この経過措置で登録した方は選択届出書を出していないため、選択届出による3年縛り(調整対象固定資産)の対象にはなりません。高額特定資産の特例は別に適用され得る点に注意してください。
免税事業者に戻るには登録の取消しも必要
適格請求書発行事業者である限り、基準期間の課税売上高が1,000万円以下になっても免税事業者にはなりません。免税事業者に戻るには、2年縛りの期間が明けた後に適格請求書発行事業者の登録の取消しを求める旨の届出書を提出します。翌課税期間の初日から登録の効力を失わせるには、翌課税期間の初日から起算して15日前の日までに提出する必要があり、これを過ぎると翌々課税期間の初日に効力を失います国税庁 D1-70 適格請求書発行事業者の登録の取消しを求める旨の届出手続。選択届出書も出している方は、選択不適用届出書の提出もあわせて必要です。
2割特例・3割特例との関係
インボイス登録を機に課税事業者となった小規模事業者は、納付税額を売上税額の2割とする2割特例を、令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する課税期間に使えます。令和8年度税制改正により、個人事業者は令和9年分と令和10年分について、売上税額の3割を納付税額とする3割特例を使えることになりました国税庁 2割特例 特設ページ。いずれも事前の届出は不要で、申告書に付記して適用します。
| 特例 | 使える期間と対象 |
|---|---|
| 2割特例 | 令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する課税期間(個人・法人) |
| 3割特例 | 令和9年分・令和10年分(個人事業者のみ) |
選択届出書で課税事業者になった方も、適格請求書発行事業者になればこれらの特例の対象に含まれます。ただし国税庁のQ&A(問115・問115-2)では、選択届出書を出して課税事業者となった後2年以内に一般課税で調整対象固定資産を仕入れ、3年縛りがかかっている課税期間は、2割特例も3割特例も使えないとされています。基準期間の課税売上高が1,000万円を超える課税期間や、高額特定資産の特例で免税点制度が制限される課税期間も同様です。
また、2割特例・3割特例は売上税額をもとに納付税額を計算する仕組みのため、仕入れの消費税が売上げの消費税を上回っても還付にはなりません。還付を受けたい年は一般課税、その後は特例や簡易課税と考えたくなりますが、3年縛りの期間は特例も簡易課税も選べないため、一般課税での申告が続く前提で計画を立てます。
関連コラム2割特例はどう変わる?令和8年度改正で3割特例へ▸
実務での取り扱い例
実務でよくご相談いただくのが、免税事業者の個人事業者が翌年に大きな設備投資を予定しているケースです。次の設例(令和8年10月時点の判断を想定。消費税と地方消費税を合わせた標準税率10%で概算国税庁 No.6303 消費税および地方消費税の税率。インボイス登録はしていない前提)で、還付額と縛りの期間を確認します。
| 事業者 | 製造業の個人事業者(基準期間の課税売上高は毎年1,000万円以下) |
|---|---|
| 令和9年の予定 | 機械装置を税抜900万円で購入(調整対象固定資産・高額特定資産には該当しない) |
| 毎年の課税売上高 | 税抜800万円 |
| 毎年の経費の課税仕入れ | 税抜200万円 |
令和9年分から課税事業者になるには、令和8年12月31日までに選択届出書を提出します。令和9年分を一般課税で申告すると、次のようになります。
一方で、機械の購入は課税事業者となって2年以内の調整対象固定資産の取得にあたるため、3年縛りがかかります。令和9年分から令和11年分までは課税事業者のままで、簡易課税も2割特例・3割特例も使えません。令和10年分と令和11年分も同じ売上げ・経費で推移すると、次の納付が見込まれます。
免税事業者のままであれば、3年間とも消費税の申告・納付はありません(そのかわり機械の消費税90万円は戻りません)。この設例では、その後2年間の納付額の合計120万円が、還付される30万円を大きく上回ります。選択届出書を出すかどうかは、還付額だけでなく、縛りの期間中の売上げと経費の見込み、取引先からインボイスを求められているかどうかまで含めて判断します。
なお、この設例で免税事業者に戻れるのは早くても令和12年分からです。そのためには選択不適用届出書を令和11年中に提出し、令和10年分(令和12年分の基準期間)の課税売上高が1,000万円以下であることなどが条件になります。実際の申告では、調整対象固定資産の仕入税額控除の調整が必要になる場合もあるため、取得前の段階で試算しておくことをおすすめします。
選択をやめたいときの手続きと期限
選択不適用届出書の提出時期
免税事業者に戻りたい課税期間がある場合は、その課税期間の初日の前日までに選択不適用届出書を納税地の所轄税務署長へ提出します。e-Taxのほか、書面の持参・送付でも提出できます。2年縛り(または3年縛り)が明ける前に提出しても受け付けられないため、提出できる時期に入ってから、期限内に出す必要があります。
- 課税事業者となった日と、調整対象固定資産・高額特定資産を取得した課税期間を確認する
- 免税事業者に戻れる最初の課税期間を数える
- その課税期間の基準期間・特定期間の課税売上高が1,000万円以下かを確認する
- インボイス登録をしている場合は、登録の取消しを求める旨の届出書の期限(翌課税期間の初日から起算して15日前の日)も確認する
- 選択不適用届出書を、戻りたい課税期間の初日の前日までに提出する
やむを得ない事情で間に合わなかった場合
災害などのやむを得ない事情で、課税期間の開始前に選択届出書や選択不適用届出書を提出できなかった場合は、所轄税務署長の承認を受けることで、期限内に提出したものとみなされます。承認を受けるには、やむを得ない事情がやんだ日から2か月以内に特例承認申請書を提出します。ただし、届出書の提出を忘れていた場合は「やむを得ない事情」に当たりません国税庁 No.6630 やむを得ない事情により課税事業者選択届出書の提出が間に合わなかった場合。年末や決算月の直前に慌てないよう、届出のスケジュールは前もって確認しておくことが大切です。
関連コラム消費税の簡易課税と免税事業者の変更|有利な選択と手続きを解説▸
まとめ
課税事業者選択届出書は、免税事業者が消費税の還付を受けるための手段ですが、一度出すと簡単には免税事業者に戻れません。届出の前に、縛りの期間全体での納付額を試算しておくことが重要です。
- 選択届出書は、原則として適用を受けたい課税期間の初日の前日までに提出する(休日でも延長なし)
- 提出先は納税地の所轄税務署長で、e-Taxでも提出できる
- 課税事業者となった日から2年間は免税事業者に戻れない(2年縛り)
- 2年以内に調整対象固定資産を取得し一般課税で申告すると、取得した課税期間から原則3年間に延びる(3年縛り)
- インボイス登録の経過措置では選択届出書は不要だが、登録日以後2年の縛りがある
- 3年縛りの課税期間は、簡易課税も2割特例・3割特例も使えない
- やめるときは選択不適用届出書(登録している場合は登録の取消届出書も)を期限内に提出する
届出のタイミングと設備投資の時期によって、還付額と縛りの期間は大きく変わります。具体的なケースは税理士へのご相談をおすすめします。所得税・消費税の実務でお困りの際は、まずは税理士にご相談ください。
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参考文献
- 国税庁 No.6501 納税義務の免除
- 国税庁 No.6601 申告と納税
- 国税庁 D1-4 消費税課税事業者選択届出手続
- 国税庁 D1-5 消費税課税事業者選択不適用届出手続
- 国税庁 No.6502 高額特定資産を取得した場合等の納税義務の免除等の特例
- 国税庁 No.6498 適格請求書等保存方式(インボイス制度)
- 国税庁 2割特例 特設ページ
- 国税庁 インボイス制度に関するQ&A目次一覧
- 国税庁 D1-70 適格請求書発行事業者の登録の取消しを求める旨の届出手続
- 国税庁 No.6303 消費税および地方消費税の税率
- 国税庁 No.6630 やむを得ない事情により課税事業者選択届出書の提出が間に合わなかった場合
課税事業者選択届出書の2年縛りのよくある質問まとめ
Q.課税事業者選択届出書の2年縛りとは何ですか?
A.選択届出書を出して課税事業者となった場合、事業を廃止したときを除き、課税事業者となった日から2年を経過する日の属する課税期間の初日以後でなければ選択不適用届出書を提出できず、2年間は免税事業者に戻れないというルールです。
Q.3年縛りになるのはどのような場合ですか?
A.選択届出書で課税事業者となった日から2年以内に開始した課税期間中に、税抜100万円以上の調整対象固定資産を仕入れ、その課税期間を一般課税で申告した場合です。仕入れた課税期間の初日から原則3年間は免税事業者になれません。
Q.選択届出書はいつまでに提出すればよいですか?
A.原則として、適用を受けたい課税期間の初日の前日までです。個人事業者が翌年分から課税事業者になる場合は12月31日までで、休日でも期限は延長されません。事業を開始した課税期間から適用する場合は、その課税期間中に提出すれば足ります。
Q.インボイス登録をすれば選択届出書は不要ですか?
A.令和5年10月1日から令和11年9月30日までの日を含む課税期間中に免税事業者が登録を受ける場合は、経過措置により登録日から課税事業者となるため選択届出書は不要です。ただし登録日以後2年を経過する日の属する課税期間までは免税事業者に戻れない場合があります。
Q.選択届出書を出していても2割特例は使えますか?
A.適格請求書発行事業者であれば対象に含まれます。ただし、調整対象固定資産の取得による3年縛りがかかる課税期間や、基準期間の課税売上高が1,000万円を超える課税期間などは2割特例も3割特例も使えません。
Q.選択届出書の提出を忘れた場合、後から認められますか?
A.災害などやむを得ない事情がある場合は、事情がやんだ日から2か月以内に承認申請をすれば期限内に提出したものとみなされます。ただし、単に提出を忘れていた場合はやむを得ない事情に当たりません。


