相続が発生し、「自分で遺産分割協議書を作りたいけれど、何をどう書けばよいのか分からない」と悩まれる方は少なくありません。書き方を誤ると、金融機関や法務局で受け付けてもらえず、手続きが振り出しに戻ってしまうこともあります。
結論からお伝えすると、有効な遺産分割協議書に欠かせないのは、相続人全員の合意と、その内容を書面にしたうえでの全員の署名押印(実印)、そして印鑑証明書の添付です。遺産は、遺言がない場合、相続開始とともに相続人全員の共有となり、その分け方を全員で話し合って決めるからです。政府広報オンライン 知っておきたい相続の基本。大切な財産をスムーズに引き継ぐには?【基礎編】
この記事では、遺産分割協議書の意味や必要になる場面から、必ず記載すべき事項、不動産・預貯金の具体的な記載例、作成時の注意点、提出先までを順を追って解説します。ご自身で作成する際の手引きとしてご活用ください。
遺産分割協議書とは
遺産分割協議書は、相続手続きの土台となる重要な書類です。まずは、その意味と法的な位置づけ、そして実際に必要となる場面を確認しておきましょう。
遺産分割協議書の意味と法的な位置づけ
遺産分割協議とは、相続人全員で遺産の分け方を話し合う手続きのことです。遺言がない場合、被相続人の財産は相続開始と同時に相続人全員の共有となります。e-Gov法令検索 民法が定める民法第898条でも、相続財産は共同相続人の共有に属するとされています。
この共有状態を解消し、「どの財産を誰が取得するか」を確定させるための話し合いが遺産分割協議です。民法第907条では、共同相続人はいつでも協議で遺産の分割ができると定められています。そして、その協議で全員が合意した内容を書面にまとめたものが遺産分割協議書です。誰が何を相続したかを対外的に証明する役割を果たします。
遺産分割協議書が必要になる場面
遺産分割協議書は、次のような相続手続きで提出を求められます。
- 不動産の相続登記(法務局)
- 預貯金の解約・名義変更(金融機関)
- 相続税の申告(税務署)
不動産の名義を相続人へ変更する相続登記では、遺産分割協議による場合、遺産分割協議書と相続人全員の印鑑証明書などが添付書類となります。法務局 相続登記・遺贈の登記の申請をされる相続人の方へ(登記手続ハンドブック)また、令和6年4月1日からは相続登記の申請が義務化されており、遺産分割協議書等の添付が求められます。法務局 登記申請手続のご案内(相続登記①/遺産分割協議編)
相続税の申告が必要な場合にも、申告書に遺産分割協議書の写しと相続人全員の印鑑証明書などを添付します。国税庁 No.4205 相続税の申告と納税
遺産分割協議書の記載事項
遺産分割協議書には決まった書式はありませんが、後の手続きで確実に使えるものにするために、盛り込むべき基本事項があります。
必ず記載する基本事項
遺産分割協議書に記載すべき主な項目は次のとおりです。
| 被相続人の情報 | 氏名・死亡年月日・本籍・最後の住所 |
|---|---|
| 相続人の情報 | 相続人全員の氏名・住所 |
| 財産の特定 | 取得する財産を誰が特定できる形で記載 |
| 署名押印 | 相続人全員の署名と実印による押印 |
| 添付書類 | 相続人全員の印鑑証明書 |
誰がどの財産を取得したかを明確にし、相続人全員が関与していることが書面上で分かるようにすることが重要です。
作成の全体の流れ
遺産分割協議書は、次の流れで作成を進めます。
- 相続人の確定:被相続人の出生から死亡までの戸籍を集め、相続人を確定します。
- 財産の調査:不動産・預貯金・有価証券・負債などを洗い出します。
- 遺産分割協議:相続人全員で分け方を話し合います。
- 書面化:合意内容を遺産分割協議書にまとめます。
- 署名押印:相続人全員が署名し、実印を押印します。
遺産分割協議書の記載例
ここでは、財産の種類ごとに記載例を示します。財産は「誰が見ても特定できる」書き方をすることが肝心です。
不動産の記載例
不動産は、住居表示ではなく登記事項証明書(登記簿)の記載どおりに、所在・地番・地目・地積、建物であれば家屋番号・種類・構造・床面積を書き写します。ここが曖昧だと相続登記が受け付けられないおそれがあります。
相続人〇〇〇〇は、次の不動産を取得する。
【土地】
所在 〇〇市〇〇町一丁目
地番 12番3
地目 宅地
地積 120.45平方メートル【建物】
所在 〇〇市〇〇町一丁目12番地3
家屋番号 12番3
種類 居宅
構造 木造かわらぶき2階建
床面積 1階60.00平方メートル 2階50.00平方メートル
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預貯金の記載例
預貯金は、金融機関名・支店名・預金の種別・口座番号を記載して口座を特定します。口座番号まで正確に書くことで、金融機関での解約手続きがスムーズになります。
相続人〇〇〇〇は、次の預貯金を取得する。
〇〇銀行 〇〇支店
普通預金 口座番号1234567
名義人 被相続人〇〇〇〇
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遺産分割協議書の作成の注意点
形式面での不備は、手続きのやり直しにつながります。特に押印・印鑑証明書と、相続関係が複雑なケースには注意が必要です。
相続人全員の署名押印と印鑑証明書
遺産分割協議書には、相続人全員が実印で押印し、その印鑑証明書を添付する必要があります。相続登記や相続税申告では、この印鑑証明書付きの協議書が添付書類となります。認印では効力が認められないため、必ず実印を用いてください。
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数次相続や代襲相続での注意点
相続人の一部が被相続人より先に亡くなっている場合や、遺産分割協議の途中で相続人が亡くなった場合には、相続関係が複雑になります。代襲相続では亡くなった相続人の子などが、数次相続では次に発生した相続の相続人が協議に加わります。関係者が一人でも欠けた協議書は無効となるため、戸籍で相続人を正確に確定することが欠かせません。
法定相続情報一覧図の活用
相続手続きでは、法務局の法定相続情報証明制度を活用すると便利です。一覧図の写しを取得しておけば、戸除籍謄本の束の代わりに各種相続手続きで利用でき、複数の窓口へ同時に手続きを進めやすくなります。法務局 「法定相続情報証明制度」について
遺産分割協議書の提出先
完成した遺産分割協議書は、手続きの種類に応じた窓口へ提出します。主な提出先は次のとおりです。
| 手続き | 提出先 |
|---|---|
| 不動産の相続登記 | 法務局 |
| 相続税の申告 | 税務署 |
| 預貯金の解約・名義変更 | 各金融機関 |
不動産の相続登記では、遺産分割協議書と相続人全員の印鑑証明書などを添えて法務局へ申請します。
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相続税の申告では、税務署へ提出する申告書に遺産分割協議書の写しを添付します。ここで特に重要なのが、遺産分割が確定していることが節税特例の適用要件になっている点です。配偶者の税額軽減は、原則として遺産分割が確定していることが適用の条件です。国税庁 No.4158 配偶者の税額の軽減小規模宅地等の特例も、原則として遺産分割の確定が要件とされています。国税庁 No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)
申告期限までに遺産が分割されていない未分割の状態では、これらの特例を適用できません。国税庁 No.4208 相続財産が分割されていないときの申告特例を確実に受けるためにも、申告期限を意識して協議を進めることが大切です。
まとめ
遺産分割協議書は、相続人全員で合意した遺産の分け方を書面化し、相続登記・預貯金の解約・相続税申告などの手続きに用いる重要な書類です。作成にあたっては、相続人全員の署名押印(実印)と印鑑証明書を欠かさず、不動産は登記事項証明書どおりに、預貯金は口座を特定できる形で正確に記載することがポイントです。
特に相続税申告では、遺産分割の確定が配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例の適用要件となるため、期限を意識した早めの協議が大切です。数次相続や代襲相続など相続関係が複雑なケースや、税額への影響が大きいケースでは、具体的なケースは税理士へのご相談をおすすめします。
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- 政府広報オンライン 知っておきたい相続の基本。大切な財産をスムーズに引き継ぐには?【基礎編】
- e-Gov法令検索 民法
- 法務局 相続登記・遺贈の登記の申請をされる相続人の方へ(登記手続ハンドブック)
- 法務局 登記申請手続のご案内(相続登記①/遺産分割協議編)
- 法務局 「法定相続情報証明制度」について
- 国税庁 No.4205 相続税の申告と納税
- 国税庁 No.4158 配偶者の税額の軽減
- 国税庁 No.4208 相続財産が分割されていないときの申告
- 国税庁 No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)
遺産分割協議書の書き方のよくある質問まとめ
Q. 遺産分割協議書は自分で作成できますか。
A. 決まった書式はなく、ご自身で作成できます。被相続人と相続人の情報、取得する財産の特定、相続人全員の署名押印と印鑑証明書をそろえれば有効です。相続関係が複雑な場合や相続税がかかる場合は専門家への相談をおすすめします。
Q. 遺産分割協議書には相続人全員の署名押印が必要ですか。
A. 必要です。相続人全員が実印で押印し、印鑑証明書を添付します。一人でも欠けた協議書は無効となり、相続登記や相続税申告でも受け付けられません。
Q. 不動産はどのように記載すればよいですか。
A. 登記事項証明書のとおりに、所在・地番・地目・地積、建物は家屋番号・種類・構造・床面積を書き写します。住居表示ではなく登記簿の表示で特定することが重要です。
Q. 遺産分割協議書はどこに提出しますか。
A. 不動産の相続登記は法務局、相続税の申告は税務署、預貯金の解約・名義変更は各金融機関に提出します。手続きごとに写しや原本の扱いが異なるため事前に確認してください。
Q. 遺産分割が決まらないと相続税の特例は使えませんか。
A. 配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例は、原則として遺産分割の確定が適用要件です。申告期限までに未分割の場合はこれらの特例を適用できないため、期限を意識した協議が大切です。
Q. 戸籍謄本の束を毎回提出する必要がありますか。
A. 法定相続情報証明制度を利用し一覧図の写しを取得しておけば、戸除籍謄本の束の代わりに各種相続手続きで利用でき、手続きを効率化できます。