税理士法人プライムパートナーズ

老人ホーム入居後の自宅と小規模宅地の特例|適用要件と注意点

2026-08-02
目次

「父は亡くなる3年前から老人ホームに入っていて、実家はずっと空き家でした。この土地に小規模宅地等の特例は使えるのでしょうか」というご相談は、相続税申告の現場で非常に多く寄せられます。介護施設で最期を迎える方が増えた今、避けて通れない論点です。

結論から申し上げます。小規模宅地等の特例は「相続開始の直前に被相続人が住んでいた土地」が対象ですので、老人ホームに移って空き家になった自宅は、原則としてこの要件から外れてしまいます。ただし、要介護認定または要支援認定を受けたうえで一定の老人ホーム等に入居していた場合には、なお被相続人が居住していたものとして扱われ、特定居住用宅地等として330㎡まで80%の減額を受けられます。

この記事では、税理士法人プライムパートナーズが、被相続人側の居住要件に絞って、認定のタイミング・対象となる施設の範囲・入居後の自宅の使い方で特例が使えなくなるケースを、国税庁の公表資料に沿って整理してご説明します。

老人ホーム入居中の相続と小規模宅地等の特例の関係

まず、制度の出発点を確認します。小規模宅地等の特例は、相続や遺贈で取得した宅地等のうち、相続開始の直前において被相続人または被相続人と生計を一にしていた親族の居住の用に供されていたものについて、相続税の課税価格に算入すべき価額を大きく引き下げる制度です。居住用として使われていた宅地等は特定居住用宅地等に区分され、330㎡までの部分について80%が減額されます。国税庁 No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)

特定居住用宅地等の限度面積と減額割合

数字を先に押さえておくと、以降の判断がしやすくなります。減額の効果は非常に大きく、評価額が高い都市部の自宅ほど、適用の可否が納税額を左右します。

対象となる宅地等 相続開始の直前において被相続人等の居住の用に供されていた宅地等
限度面積 330㎡
減額される割合 80%

空き家となった自宅で居住要件が問題となる理由

老人ホームに入居すると、生活の本拠は施設へ移ります。そのため文言どおりに読めば「相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていた宅地等」には当たらず、自宅の敷地は特例の対象外になってしまいます。介護のためにやむを得ず住まいを移しただけなのに減額を受けられないのは実態に合わない、という問題があったわけです。

そこで、居住の用に供することができない一定の事由により空き家となった場合には、その事由により居住の用に供されなくなる直前の居住の用を含める、という取扱いが定められています。e-Gov法令検索 租税特別措置法第69条の4 この「一定の事由」の中身、つまりどのような認定を受け、どのような施設に入っていればよいのかは、政令に具体的に定められています。e-Gov法令検索 租税特別措置法施行令第40条の2

関連コラム小規模宅地の特例で自宅の要件は?330㎡80%減額を解説

被相続人の居住要件を満たすための2つの条件

老人ホームに入居していた被相続人の自宅敷地が特定居住用宅地等に該当するためには、次の2つを同時に満たす必要があります。どちらか一方でも欠けると、原則どおり対象外となります。国税庁も、要介護認定等を受けていたことと、一定の老人ホーム等に入居または入所していたことの両方を要件として示しています。国税庁 老人ホームへの入所により空家となっていた建物の敷地についての小規模宅地等の特例(平成26年1月1日以後に相続又は遺贈により取得する場合の取扱い)

  1. 被相続人が、相続開始の直前において要介護認定または要支援認定を受けていたこと
  2. 被相続人が、法令で定められた一定の老人ホーム等に入居または入所していたこと

要介護認定・要支援認定の要件

ここでいう認定は、介護保険法に規定する要介護認定と要支援認定です。要介護1から5までのいずれかであれば当然に該当しますが、要支援1・2でも要件を満たします。介護の必要度が軽いから使えないのではないか、と心配される方が多いのですが、認定の区分によって適用の可否が変わることはありません。

逆に言えば、認定をまったく受けないまま元気なうちに有料老人ホームへ住み替えた、というケースでは要件を満たしません。介護保険の認定を受けているかどうかが、実務上の最初の分岐点になります。

対象となる老人ホーム等の範囲

入居先の施設は、どこでもよいわけではありません。対象となる住居・施設は次のとおり法令で限定されています。特別養護老人ホームのような公的な施設だけでなく、民間の有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅も含まれる点は、ぜひ知っておいていただきたいところです。

根拠となる法律 対象となる住居・施設
老人福祉法 認知症対応型老人共同生活援助事業が行われる住居、養護老人ホーム、特別養護老人ホーム、軽費老人ホーム、有料老人ホーム
介護保険法 介護老人保健施設、介護医療院
高齢者の居住の安定確保に関する法律 サービス付き高齢者向け住宅(老人福祉法の有料老人ホームに該当するものを除く)

実務では、入居先がグループホームや住宅型有料老人ホームと呼ばれていて、法令上どの区分に当たるのか判然としないことがあります。その場合は入居契約書や重要事項説明書で施設の種別を確認し、必要に応じて施設側に照会します。届出のない無認可の施設に入居していた場合は要件を満たさないおそれがありますので、早めの確認をおすすめします。

障害支援区分の認定を受けていた場合

高齢者施設以外にも救済の道があります。障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に規定する障害支援区分の認定を受けていた被相続人が、障害者支援施設(施設入所支援が行われるものに限ります)または共同生活援助を行う住居に入所・入居していた場合も、同様に居住の用に供されていたものとして扱われます。障害のある方が施設に移られたケースでも、あきらめずに確認する価値があります。

要介護認定等の判定時期

次に、多くの方が判断に迷うのが「認定はいつ受けていればよいのか」という点です。入居した日を基準に考えてしまうと、判断を誤ります。

相続開始の直前を基準とする判定

要介護認定等を受けていたかどうかは、被相続人の相続開始の直前において受けていたかによって判定します。したがって、老人ホーム等に入居した時点では認定を受けていなかったとしても、その後に認定を受け、相続開始の直前に認定を受けている状態であれば、入居する直前まで居住していた自宅の敷地は特定居住用宅地等に該当します。

「元気なうちに入居したから駄目だと思っていた」という方が、実は要件を満たしていたという例は珍しくありません。入居時の状況だけで判断せず、亡くなる直前の介護保険被保険者証を必ず確認してください。

要介護認定の申請中に相続が開始した場合

では、申請はしたものの認定の通知が届く前に亡くなってしまった場合はどうなるのでしょうか。この点について国税庁は、相続開始後に要介護認定等があったときは、要介護認定を受けていた被相続人に該当するものとして差し支えない、という考え方を示しています。国税庁 老人ホームに入所していた被相続人が要介護認定の申請中に死亡した場合の小規模宅地等の特例

理由は、市町村が要介護認定等を行った場合、その効力は申請のあった日にさかのぼって生じるとされているためです。あわせて、認定の過程で市町村が生前に心身の状況等の調査を行っていることから、相続開始の直前に介護を必要とする状態にあったことが明らかであると認められる、と説明されています。申請中に相続が発生したときは、認定結果の通知書を大切に保管しておいてください。

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入居後の自宅の使い方で特例が使えなくなるケース

要介護認定と施設の要件を満たしていても、安心はできません。老人ホーム等に入居した後、その自宅を事業の用または新たに被相続人等以外の人の居住の用に供した場合は、この救済の対象から外れます。ここでいう被相続人等とは、被相続人または被相続人と生計を一にしていた親族を指します。空き家を放置しておくのがもったいないと考えて動いた結果、かえって減額を失うことがあるのです。

事業の用に転用した場合

入居後に自宅を第三者へ賃貸したり、駐車場として貸し付けたりすると、その宅地等は事業の用に供されたことになり、特定居住用宅地等としての330㎡・80%減額は受けられません。空室のまま維持費を払い続けるのが惜しく、賃貸に回す判断はよく理解できますが、税額への影響は小さくありません。

もっとも、この場合でも貸付事業用宅地等として200㎡までの部分について50%の減額を検討する余地があります。ただし貸付事業用宅地等には、相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等は原則として対象外となる制限がありますので、貸し始めた時期の確認が欠かせません。減額割合も面積上限も特定居住用宅地等より小さい点は、あらかじめ理解しておく必要があります。

新たに被相続人等以外の人が居住した場合

空き家を守ってもらおうと、別居していてこれまで生計も別だったお子さんが実家に引っ越して住み始めるケースがあります。この場合、新たに被相続人等以外の人の居住の用に供されたことになり、被相続人の居住の用とみなす取扱いを受けられなくなります。親族が住むのだから問題ないだろう、という感覚は通用しませんので注意が必要です。

生計を一にする親族が住み続ける場合

一方で、被相続人が老人ホーム等に入居する直前において生計を一にしており、かつ、その宅地等の上にある建物に引き続き居住している親族は、被相続人等に含まれるものとして扱われます。したがって、同居していた生計一のご家族がそのまま実家に住み続けている場合は、居住要件を失いません。

入居後の自宅の状況ごとの取扱いを整理すると、次のようになります。

入居後の自宅の状況 特定居住用宅地等
としての取扱い
空き家のまま維持している 対象となる
入居直前から生計を一にしていた親族が引き続き居住している 対象となる
第三者へ賃貸した、駐車場などの事業の用に供した 対象外
生計を別にしていた親族など、被相続人等以外の人が新たに居住した 対象外

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減額される金額の計算例

数字で見ていただくと、この特例の重みが実感できます。ここでは、老人ホームに入居していた父が亡くなり、空き家だった自宅の敷地を相続したという前提で計算します。

敷地が330㎡以内の場合の計算

敷地面積300㎡、相続税評価額6,000万円の自宅の敷地を相続した場合です。330㎡以内ですので、敷地全体が減額の対象になります。

宅地の相続税評価額6,000万円 × 80% = 減額される金額4,800万円
宅地の相続税評価額6,000万円 − 減額される金額4,800万円 = 課税価格に算入する金額1,200万円

6,000万円で評価される土地が、課税価格の計算上は1,200万円まで下がります。基礎控除と組み合わせれば、申告は必要でも納税額がゼロになる、という結果も十分あり得ます。

敷地が330㎡を超える場合の計算

敷地面積400㎡、相続税評価額8,000万円の場合です。限度面積の330㎡を超えていますので、超える部分は減額の対象になりません。1㎡当たりの評価額を出してから、330㎡分を切り出して計算します。

宅地の相続税評価額8,000万円 ÷ 地積400㎡ = 1㎡当たりの評価額20万円
1㎡当たりの評価額20万円 × 限度面積330㎡ = 減額対象部分の評価額6,600万円
減額対象部分の評価額6,600万円 × 80% = 減額される金額5,280万円
宅地の相続税評価額8,000万円 − 減額される金額5,280万円 = 課税価格に算入する金額2,720万円

限度面積を超えた70㎡分(評価額1,400万円)はそのまま課税価格に残ります。それでも5,280万円の減額ですので、適用の可否を確認する価値は極めて大きいと言えます。

入院により空き家となっていた場合との違い

老人ホームと混同されやすいのが、入院したまま亡くなったケースです。こちらは要介護認定や施設の種類といった要件を検討するまでもありません。病院の機能等を踏まえれば、それまで居住していた建物で起居しないのは一時的なものと認められるため、入院後に他の用途に供されたような特段の事情のない限り、生活の拠点はなおその建物に置かれていると解されます。国税庁 入院により空家となっていた建物の敷地についての小規模宅地等の特例

この取扱いでは、空き家となっていた期間の長短を問わず、相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていた宅地等に該当するとされています。入院期間が長かったから駄目なのではないか、と心配される必要はありません。ただし、入院中に自宅を他の用途に使ってしまった場合は事情が異なりますので、その点だけはご注意ください。

申告手続きと実務上の注意点

要件を満たしていても、自動的に減額されるわけではありません。この特例の適用を受けるには、相続税の申告書に適用を受けようとする旨を記載し、小規模宅地等に係る計算の明細書や遺産分割協議書の写しなど一定の書類を添付する必要があります。特例を適用した結果として納税額がゼロになる場合でも、申告そのものは必要です。

その申告と納税の期限は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内です。国税庁 No.4205 相続税の申告と納税 この期限までに対象となる宅地等が分割されていることが原則として必要であり、特例の対象となり得る宅地等を取得した相続人等が2人以上いる場合には、どの宅地等に特例を適用するかについて全員の同意も求められます。

また、ここまでご説明したのは被相続人側の居住要件です。実際に減額を受けるには、その宅地等を誰が取得したかに応じた取得者ごとの要件も別途満たす必要があります。配偶者が取得する場合、同居していた親族が取得する場合、別居の親族が取得する場合で要件が異なりますので、あわせて確認してください。

実務でとくに多いのが、要介護認定の証拠書類が見当たらないというご相談です。介護保険被保険者証、要介護認定の通知書、施設の入居契約書は、申告の裏付けとして重要になります。手元にない場合でも、市区町村や施設に照会して取り寄せられることがありますので、早めに動くことをおすすめします。

まとめ

被相続人が老人ホームに入居していて自宅が空き家だった場合でも、相続開始の直前に要介護認定または要支援認定を受け、法令で定められた一定の老人ホーム等に入居していたのであれば、その自宅の敷地は特定居住用宅地等として330㎡まで80%の減額を受けられます。認定を受けた時期は入居時ではなく相続開始の直前で判定され、申請中に相続が開始した場合も救済されます。

一方で、入居後にその自宅を賃貸などの事業の用に供したり、生計を別にする人が新たに住み始めたりすると、この取扱いは受けられなくなります。空き家の管理をどうするかという判断が、そのまま相続税額に跳ね返ってくるということです。判断に迷う場面があれば、動く前に確認していただくのが安全です。

老人ホームの種別や認定の時期、入居後の自宅の使われ方は一件ごとに事情が異なり、具体的なケースは税理士へのご相談をおすすめします。

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参考文献

老人ホーム入居中の相続と小規模宅地等の特例のよくある質問まとめ

Q. 老人ホームに入居していた親の自宅に小規模宅地等の特例は使えますか。

A. 相続開始の直前に要介護認定または要支援認定を受け、法令で定められた一定の老人ホーム等に入居していた場合は、入居直前まで居住していた自宅の敷地が特定居住用宅地等に該当し、330㎡まで80%の減額を受けられます。

Q. 要介護認定はいつ受けていれば要件を満たしますか。

A. 入居した時点ではなく、相続開始の直前に受けていたかどうかで判定します。入居時に認定がなくても、亡くなる直前に認定を受けていれば要件を満たします。

Q. 有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅も対象になりますか。

A. 対象になります。老人福祉法の養護老人ホーム、特別養護老人ホーム、軽費老人ホーム、有料老人ホームのほか、介護老人保健施設、介護医療院、サービス付き高齢者向け住宅などが対象とされています。

Q. 入居後に自宅を賃貸に出した場合はどうなりますか。

A. 事業の用に供されたことになり、特定居住用宅地等としての330㎡・80%減額は受けられません。貸付事業用宅地等として200㎡まで50%の減額を検討する余地はありますが、貸し始めた時期による制限があります。

Q. 入居後に別居していた子が実家に住み始めた場合はどうなりますか。

A. 生計を別にしていた親族が新たに居住した場合は、被相続人等以外の人の居住の用に供されたことになり、この取扱いを受けられません。入居直前から生計を一にし、引き続き居住している親族であれば影響しません。

Q. 要介護認定の申請中に亡くなった場合も対象になりますか。

A. 相続開始後に認定があった場合、その効力は申請のあった日にさかのぼるため、相続開始の直前に要介護認定等を受けていた者に該当するものとして差し支えないとされています。

事務所概要
社名
税理士法人プライムパートナーズ
住所
〒107-0052
東京都港区赤坂5丁目2−33
IsaI AkasakA 17階
対応責任者
税理士 島本 雅史

本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や人的ミス、個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊法人の税理士までお問い合わせください。

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