ご家族が亡くなり、相続税の申告が必要かもしれないと分かったとき、多くの方が最初に迷われるのが「税理士に頼むべきか」「頼むならどの税理士を選べばよいか」という点です。普段から税理士とお付き合いのある方は少なく、比べる基準も持ち合わせていないのが当然だと思います。
相続税の申告は、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内に済ませる必要があります。国税庁 No.4205 相続税の申告と納税限られた期間のなかで税理士を探し、比較し、決めなければなりません。焦って決めた結果、本来なら使えたはずの特例を使い損ねる、想定外の追加報酬を請求される、といったことも起こり得ます。
この記事では、相続税を専門に扱う税理士法人の実務の視点から、税理士に依頼する必要性の判断、相続に強い税理士を見極める具体的な基準、報酬体系の読み方、依頼のタイミング、そして実際によくある失敗例までを順に整理します。全国どこにお住まいの方でも使える普遍的な判断軸としてお読みいただけます。
相続税申告における税理士の必要性
まず前提として、相続税の申告は必ず税理士に頼まなければならないものではありません。ご自身で申告することも法律上は可能です。それでも多くの方が税理士に依頼されるのは、相続税が「財産の評価」という判断の余地が大きい領域を含んでいるからです。
令和6年分の統計では、亡くなった方1,605,378人のうち相続税の申告書の提出に係る被相続人は166,730人で、課税割合は10.4%でした。被相続人1人当たりの課税価格は14,025万円、税額は1,946万円となっています。国税庁 令和6年分 相続税の申告事績の概要1件あたり平均で2,000万円近い税額が動く手続きであり、評価や特例の判断が数百万円単位の差につながります。
関連コラム相続税申告は自分でできる?判断基準と手順・税理士との分岐点▸
税理士でなければ行えない業務の範囲
税理士業務とは、税務代理、税務書類の作成、税務相談の3つを指します。国税庁 2 税理士の業務相続税の申告書を作成し、税務署に提出し、税務調査に立ち会うといった行為は、税理士または税理士法人でなければ行えません。行政書士やコンサルタントを名乗る事業者が「相続手続きのすべてを代行する」と説明していても、税務申告そのものは別の税理士が担当することになります。
誰が実際に申告書を作り、誰が責任を負うのかは、契約前に必ず確認しておきたい点です。税理士であるかどうかは、税理士証票の提示を受けるか、日本税理士会連合会の税理士情報検索サイトで確認できます。国税庁 No.9204 にせ税理士にご注意
相続税に強い税理士の見極め基準
「税理士なら誰でも相続税を扱える」と思われがちですが、実務の現場では専門性の差が大きく出ます。相続税を得意とする税理士かどうかを判断するために、次の4つの観点で確認されることをおすすめします。
相続税申告の年間取扱件数
最も分かりやすい指標が、その税理士事務所が年間に何件の相続税申告を手がけているかです。令和6年度末時点の税理士登録者数は81,696人でした。国税庁 税理士制度一方で令和6年分の相続税の申告書の提出に係る被相続人数は166,730人ですから、単純に割ると次のようになります。
つまり、平均的な税理士が相続税申告に触れる機会は年に2件程度にとどまります。法人の決算や所得税の確定申告を主業務とする事務所であれば、数年に一度しか相続税を扱わないことも珍しくありません。年間の相続税申告の取扱件数を具体的な数字で答えられるかどうかが、専門性を測る第一の関門になります。
なお、ホームページに掲げられた「相談件数」と「申告実績件数」は別物です。相談だけで終わった案件も相談件数には含まれますので、申告まで完了した件数を尋ねるようにしてください。
書面添付制度への取り組み
書面添付制度とは、税理士が申告書の作成にあたって計算し、整理し、相談に応じた事項を記載した書面を申告書に添付する制度です。この書面が添付されている場合、税務署は納税者へ調査を通知する前に、税理士から意見を聴取しなければならないとされています。国税庁 4 書面添付・意見聴取制度
意見聴取の段階で疑問点が解消すれば、結果として実地調査に至らないこともあり得ます。ただし国税庁は、この制度が調査の省略を前提としたものではないとも明記しています。「書面添付をすれば税務調査は来ません」と断言する事務所は説明が正確ではありませんので、その点も含めて姿勢を見極めたいところです。
書面添付には手間がかかるため、対応していない事務所も多くあります。標準対応なのか、別料金なのか、そもそも行わないのかを確認すると、その事務所が相続税にどれだけ資源を割いているかが見えてきます。
土地評価と二次相続への対応力
相続財産のなかで最も評価が難しいのが土地です。同じ土地でも、不整形地の補正、私道の扱い、地積規模の大きな宅地の判定といった論点の拾い方によって評価額が変わります。現地を確認するのか、机上の資料だけで済ませるのかは、事務所によって方針が分かれます。
また、被相続人等の居住の用に供されていた宅地等については、330平方メートルまでの部分について評価額を80%減額できる小規模宅地等の特例があります。国税庁 No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)誰がどの土地を取得するかで適用の可否と減額幅が変わるため、遺産分割の内容と一体で検討する必要があります。
今回の相続税だけを最小化する分割案が、配偶者が亡くなったときの二次相続まで含めると不利になる場合があります。一次相続と二次相続の合計税額を試算して提案できるかどうかは、専門性がはっきり表れる部分です。
税務調査を想定した申告体制
令和6事務年度における相続税の実地調査は9,512件行われ、そのうち申告漏れ等の非違があったのは7,826件、非違割合は82.3%でした。1件当たりの追徴税額は867万円にのぼります。申告漏れ相続財産の内訳では現金・預貯金等が1,247億円と最も多く、全体の43.3%を占めています。国税庁 令和6事務年度における相続税の調査等の状況
現金・預貯金が申告漏れの中心である以上、生前の預金の動きをどこまで遡って確認するか、家族名義の口座をどう整理するかが実務の要になります。通帳の提出を求めず、残高証明書だけで申告書を作る事務所もありますが、それでは名義預金の論点を拾えません。過去5年から10年分の入出金をどう確認するかを尋ねてみてください。
あわせて、税務調査が入った場合に立ち会ってもらえるか、その際の報酬が別途かかるかどうかも、契約前に確認しておくと安心です。
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報酬体系の確認方法
相続税申告の報酬は、遺産総額に対する料率で基本報酬を定め、そこに加算報酬を積む形が一般的です。問題になりやすいのは、この加算報酬の部分が見積り段階で示されないケースです。
確認しておきたいのは、次の点です。基本報酬の対象となる「遺産総額」が債務控除前か控除後か、相続人が複数の場合の人数加算があるか、土地の評価が1利用区分ごとに加算されるか、非上場株式の評価が別料金か、書面添付や税務調査の立会いが含まれるか。これらを含めた総額の見積書を、契約前に書面で受け取れるかどうかが誠実さの目安になります。
報酬の相場観そのものについては、遺産総額別の目安と加算報酬の内訳をまとめた記事で詳しく解説しています。
関連コラム相続税の税理士報酬の相場|遺産総額別の目安と加算報酬の内訳を解説▸
また、税理士報酬以外にも、戸籍謄本や不動産の登記事項証明書の取得費用といった実費がかかります。総額の目安を把握したい方は、実費と報酬の内訳を整理した記事もあわせてご覧ください。
依頼のタイミングと準備
相続税の申告期限は10か月ですが、税理士に依頼するのは早いほど選択肢が広がります。目安として、相続発生から4か月以内には依頼先を決めておきたいところです。財産の洗い出しと評価に2か月から3か月、遺産分割協議に1か月から2か月、申告書の作成と押印に1か月程度を見込むと、それ以上遅れると余裕がなくなります。
期限までに遺産分割協議がまとまらない場合、各相続人が法定相続分で取得したものとして申告することになります。このとき、小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減の特例は適用できません。国税庁 No.4208 相続財産が分割されていないときの申告いったん多めに納税し、後日の分割成立を待って更正の請求を行う流れになりますが、その請求は分割のあったことを知った日の翌日から4か月以内という制限があります。
分割がまとまらない見込みがあるのなら、なおさら早い段階で税理士に入ってもらい、期限内申告と特例適用の道筋を立てておく意味があります。相続発生から申告までの全体像を確認したい方は、次の記事が参考になります。
関連コラム相続税申告の流れ|10ヶ月のスケジュールと手続きの順序▸
税理士選びでよくある失敗
実務のなかで、他の事務所での申告後にご相談をいただくことがあります。そこで見えてきた典型的な失敗の型を挙げます。
第一に、顧問税理士にそのまま依頼してしまうケースです。会社の決算を長く任せてきた信頼関係は貴重ですが、相続税は別の専門領域です。ご本人が相続税に不慣れであれば、相続を専門とする税理士を紹介してもらう形にするほうが、双方にとって無理がありません。
第二に、報酬の安さだけで決めてしまうケースです。安価な料金設定の背景には、土地の現地確認を省く、書面添付を行わない、二次相続の試算をしないといった省力化があることがあります。結果として本来使えた特例を取りこぼせば、報酬の差額をはるかに超える負担になります。
第三に、担当者を確認せずに契約してしまうケースです。初回相談に出てきたベテラン税理士ではなく、実際の作業は経験の浅い担当者が行い、税理士の確認は最終段階だけということもあります。誰が主担当で、どの段階で税理士が関与するのかを明確にしてもらってください。
第四に、税理士資格の有無を確かめないまま進めてしまうケースです。国税庁は税理士等に対する懲戒処分等を公表しており、氏名と登録番号、処分年月日を確認できます。国税庁 税理士等に対する懲戒処分等不安がある場合は、この公表情報も確認材料になります。
初回相談で確認したい項目
初回相談は、税理士がこちらを見極める場であると同時に、こちらが税理士を見極める場でもあります。次の項目を手元にメモして臨むと、複数の事務所を同じ物差しで比べられます。
| 年間の相続税 申告取扱件数 |
相談件数ではなく、申告まで完了した件数を数字で確認します。事務所全体の件数と、担当予定者個人の経験件数の両方を尋ねます。 |
|---|---|
| 主担当者と 税理士の関与 |
誰が資料収集と評価を行い、どの段階で税理士が内容を確認するのかを明確にしてもらいます。 |
| 土地評価の方法 | 現地を確認するか、役所調査を行うか、評価減の可能性をどう検討するかを聞きます。 |
| 書面添付制度 の取り扱い |
標準対応か、別料金か、行わないかを確認します。行う場合の記載方針もあわせて尋ねます。 |
| 二次相続の試算 | 一次相続と二次相続の合計税額を比較した分割案を提示してもらえるかを確認します。 |
| 報酬の総額と 加算の条件 |
基本報酬の算定基礎、人数加算、土地や非上場株式の加算、調査立会報酬を含めた見積書を書面で受け取ります。 |
あわせて、質問に対する回答が具体的かどうかにも注意を向けてください。金額や要件を数字で答えられる税理士は、日常的にその論点を扱っています。逆に「ケースによります」で終始する場合は、経験が十分でない可能性があります。
まとめ
相続税の税理士選びは、資格の有無ではなく、相続税の実務経験の量と質で判断する領域です。年間の申告取扱件数、書面添付制度への姿勢、土地評価と二次相続への対応力、税務調査を想定した資料の確認範囲。この4点を軸に複数の事務所を比較すれば、判断の精度は大きく上がります。
報酬については、基本報酬だけでなく加算報酬まで含めた総額の見積書を、契約前に書面で受け取ることを徹底してください。そして、相続発生から4か月以内に依頼先を決めておくと、遺産分割と特例適用を落ち着いて検討できます。
相続はご家族ごとに財産の内容も事情も異なり、一般的な基準だけでは判断しきれない部分が必ず残ります。ご自身のケースでどの特例が使えるのか、どのような分割が適切かといった具体的な点は、税理士へのご相談をおすすめします。当法人でも初回のご相談を無料で承っておりますので、状況の整理からお気軽にお申し付けください。
お問い合わせはこちら ▸参考文献
- 国税庁 No.4205 相続税の申告と納税
- 国税庁 令和6年分 相続税の申告事績の概要
- 国税庁 2 税理士の業務
- 国税庁 No.9204 にせ税理士にご注意
- 国税庁 税理士制度
- 国税庁 4 書面添付・意見聴取制度
- 国税庁 No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)
- 国税庁 令和6事務年度における相続税の調査等の状況
- 国税庁 No.4208 相続財産が分割されていないときの申告
- 国税庁 税理士等に対する懲戒処分等
相続税の税理士選びのよくある質問まとめ
Q. 相続税の申告は税理士に依頼しなければなりませんか。
A. 法律上の義務ではなく、ご自身で申告することもできます。ただし相続税は土地などの財産評価や特例適用の判断が結果を大きく左右します。令和6年分の被相続人1人当たりの税額は1,946万円で、判断の差が数百万円規模の違いになることもあるため、財産に不動産や非上場株式が含まれる場合は税理士への依頼をおすすめします。
Q. 相続に強い税理士かどうかは何で判断できますか。
A. 年間の相続税申告の取扱件数、書面添付制度への対応、土地評価で現地確認まで行うか、一次相続と二次相続の合計税額を試算できるか、の4点が判断材料になります。税理士登録者数81,696人に対し相続税の申告書の提出に係る被相続人数は年間166,730人で、平均すると税理士1人あたり年2件程度にとどまります。件数を具体的に答えられるかが目安です。
Q. 顧問税理士に相続税申告を頼んでも問題ありませんか。
A. 法人税や所得税を専門とする税理士でも相続税申告を行うことは可能ですが、相続税は財産評価という別の専門領域を含みます。顧問税理士ご本人が相続税の経験が少ない場合は、相続を専門に扱う税理士を紹介してもらう形にすると、申告の精度と関係の両方を保てます。
Q. 税理士に依頼するのはいつまでに決めればよいですか。
A. 申告期限は相続開始を知った日の翌日から10か月ですが、財産の評価に2か月から3か月、遺産分割協議に1か月から2か月、申告書の作成に1か月程度かかります。逆算すると相続発生から4か月以内に依頼先を決めておくと余裕をもって進められます。
Q. 書面添付制度を使えば税務調査は来なくなりますか。
A. 調査の省略を前提とした制度ではありません。書面が添付されていると、税務署は調査を通知する前に税理士から意見を聴取することとされ、その段階で疑問点が解消すれば結果として実地調査に至らないこともあり得る、という位置づけです。調査が来ないと断言する説明は正確ではありません。
Q. 税理士報酬の見積りで確認しておくべき点は何ですか。
A. 基本報酬の算定基礎となる遺産総額が債務控除前か控除後か、相続人の人数加算があるか、土地の利用区分ごとの加算や非上場株式の評価が別料金か、書面添付と税務調査の立会いが含まれるかを確認します。これらを含めた総額を契約前に書面の見積書で受け取ることが重要です。