この記事は、会社を休眠させたい、あるいはすでに事業を止めている事業者・経営者・経理担当の方に向けたものです。結論から申し上げます。税務署に提出する「休眠届」という名称の様式は存在しません。実務では異動届出書に休業する旨を記載して提出するのが標準的な取扱いです。本記事では、その具体的な記載と提出の手順、地方税側で別途必要になる届出、そして休眠中も消えない法人税の申告義務までを順に整理します。
休眠時に税務署へ提出する書類の結論
会社の事業を止めたとき、多くの経営者がまず探すのが「休眠届」という書類です。しかし国税庁が案内する法人税の手続一覧に、その名称の様式はありません。休業は、法人税の世界では独立した手続ではなく、法人の状況が変わったことを知らせる異動事項に関する届出の枠組みで処理されます。まずこの前提を押さえると、その後の手続が一本の線でつながります。
「休眠届」という専用様式の不在
国税庁の手続案内では、事業年度等の変更、納税地の異動、資本金の額等の異動、商号又は名称の変更、代表者の変更、法人の解散・清算結了などが異動事項として列挙されています国税庁 C1-8 異動事項に関する届出。この一覧に「休眠」「休業」という項目は独立して置かれていません。つまり休眠は、法令上の特別な届出制度として用意されているわけではないということです。
そのため、休眠を税務署に伝える手段は、既存の異動届出書を使う以外にありません。申告実務で多いのは、異動事項等の欄に「休業」と明記し、休業を開始した年月日を異動年月日として記載する方法です。専用様式がないぶん、記載が曖昧だと税務署側が休業の事実を把握できず、その後も申告書用紙が送付され続けることになります。
異動届出書による休業の届出
異動届出書は、異動等を行った法人が提出する書類で、提出時期は「異動等後速やかに」とされています。添付書類は原則として不要ですが、異動事項の内容確認のため定款等の写しを求められる場合があります。休業の場合は登記の変更を伴わないため、添付資料を用意する負担はほとんどありません。
注意したいのは、この届出を出しても法人としての申告義務そのものが消えるわけではないという点です。届出はあくまで税務署に現況を伝えるものであり、免税や申告免除の申請ではありません。この誤解が、後述する無申告のリスクを生む最大の原因になっています。
異動届出書の記載と提出の手順
ここからは、実際に書いて出すまでの手順を具体的に見ていきます。記載自体は難しくありませんが、提出先と部数の考え方を誤ると、税務署にだけ届いて地方税側が動かないという中途半端な状態になります。書き始める前に、提出する役所の数を先に決めておくことをおすすめします。
記載内容と異動事項の書き方
異動届出書には、納税地、法人名、法人番号、代表者の氏名住所といった基本情報のほか、異動事項等・異動前・異動後・異動年月日を記載する欄があります。休業の届出では、異動事項等の欄に「休業」と書き、異動年月日に事業を停止した日を入れるのが一般的な運用です。異動前・異動後の欄には、営業中から休業へ移行した旨が読み取れるよう簡潔に記載します。
実務では、いつから休業したのかを客観的に説明できる日付を選ぶことが重要になります。売上が完全に途絶えた月、従業員の雇用を終えた日、事務所を解約した日など、根拠となる事実と紐づく日付にしておくと、後日問い合わせを受けた際の説明が容易です。曖昧な日付のまま提出すると、休業中と主張したい期間の入口が不明確になります。
提出先と提出方法
提出先は、異動前の納税地の所轄税務署長です。提出方法はe-Taxソフトで作成・提出するほか、書面で作成した場合は届出書を1部、提出先に持参又は送付します。税務署の開庁時間は8時30分から17時までで、閉庁日でも送付又は時間外収受箱への投函により提出できます。手数料はかかりません。
なお、納税地そのものを移転する場合については、平成29年4月1日以後の納税地の異動等により異動届出書等を提出する場合、異動後の所轄税務署への提出が不要とされています国税庁 法人設立届出書等について、手続が簡素化されました。休業と同時に本店を代表者の自宅へ移すケースでは、この取扱いを知っているだけで提出先が一つ減ります。
| 提出先 | 異動前の納税地の所轄税務署長 |
|---|---|
| 提出時期 | 異動等後速やかに |
| 提出方法 | e-Taxソフトで作成・提出、又は書面1部を持参若しくは送付 |
| 添付書類 | 原則なし。内容確認のため定款等の写しを求められる場合がある |
| 手数料 | なし |
都道府県税事務所と市区町村への届出
税務署への提出が終わっても、手続はまだ半分です。法人が納める税金には、国税である法人税のほかに、都道府県と市区町村に納める地方税があります。地方税の届出は税務署とは完全に別系統で、税務署に出した異動届出書が自動的に都道府県税事務所や市区町村へ回ることはありません。
地方税側で別途必要となる届出
実務では、税務署あてに1部、都道府県税事務所あてに1部、市区町村あてに1部と、同じ趣旨の届出を提出先ごとに用意するのが通例です。様式の名称や記載方法は自治体ごとに異なり、各自治体の指定する異動届出書等を使います。東京23区内のように、市町村民税相当分を都が併せて課税する地域では提出先の数が変わる点にも注意が必要です。
この工程を飛ばすと、休業しているにもかかわらず地方税の申告書が届き続け、放置した結果として督促を受けることがあります。税務署への届出と同じタイミングで、地方税側の提出先と様式を確認しておくのが安全です。
均等割の取扱いと減免の可否
法人住民税の均等割は、所得がゼロであっても課税されるのが原則です。休眠会社にとって、これが休業中に残る最も現実的な負担になります。一方で、一定の要件を満たす休眠法人について均等割を減免する取扱いを設けている自治体もあり、減免の可否・要件・手続は自治体ごとに異なります。金額や免除要件を一般論で断定することはできないため、必ず所在地の自治体の案内で確認してください。
減免を受けられるかどうかの分かれ目として実務で問題になりやすいのが、預金口座に利息が入金されている、わずかでも賃料収入が続いている、といった事情です。完全に活動が止まっていると言えるかどうかで判断が変わるため、休業前に口座や契約の整理まで済ませておく判断が効いてきます。
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休眠中も残る法人税の申告義務
異動届出書を出したあとに最も多い誤解が、申告をしなくてよくなったという思い込みです。法人税の確定申告書は、原則として事業年度終了の日の翌日から2か月以内に提出することとされており、この期限は休業の有無で変わりません国税庁 C1-1 法人税、地方法人税及び防衛特別法人税の申告(法人税申告書別表等)。売上も経費もゼロであれば、所得ゼロの申告書を期限内に提出することになります。
無申告が招く加算税と信用の低下
期限内に申告書を提出しなかった場合、法人税については過少申告加算税及び無申告加算税の取扱いが定められており、期限後申告等の状況に応じて加算税が課されます国税庁 法人税の過少申告加算税及び無申告加算税の取扱いについて(事務運営指針)。所得がゼロであれば本税は生じませんが、休業中も少額の収入があったようなケースでは、本税に加えて加算税と延滞税の負担が発生します。
加えて見落とされがちなのが、金融機関や取引先からの評価です。事業再開時や不動産の名義変更時に、直近数期分の申告書の控えを求められる場面は珍しくありません。申告が途切れていると、再開の初動でつまずく要因になります。
青色申告の承認の取消し
無申告が続いた場合の実害として最も重いのが、青色申告の承認の取消しです。国税庁の事務運営指針では、2事業年度連続してその提出期限内に申告書の提出がない場合に取消しを行うものとされ、その2事業年度目の事業年度以後の事業年度について承認が取り消されます国税庁 法人の青色申告の承認の取消しについて(事務運営指針)。休業していれば申告は不要だと考えて2期放置した結果、この基準に触れる例が実務では目立ちます。
繰越欠損金への影響
青色申告の承認と直結するのが繰越欠損金です。欠損金の繰越控除は、欠損金額が生じた事業年度において青色申告書である確定申告書を提出し、かつ、その後の各事業年度について連続して確定申告書を提出している法人が対象とされています。繰越期間は各事業年度開始の日前10年以内に開始した事業年度に生じた欠損金額で、平成30年4月1日前に開始した事業年度に生じたものは9年です国税庁 No.5762 青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除(令和7年4月1日現在の法令等に基づく取扱いです)。
休業前の事業で大きな赤字を抱えたまま休眠に入り、再開後の黒字と相殺するつもりだったのに、休業中の無申告で連続提出の要件を満たせなくなる。これが、休眠にまつわる損失として最も金額が大きくなりやすいパターンです。所得ゼロの申告書を毎期出しておくだけで防げる話であり、手間と効果の差が極端に大きい部分だといえます。
関連コラム休眠会社に税務署からお尋ねが!法人税・消費税の申告、どうする?▸
関連コラム2年無申告!青色申告の繰越欠損金は消える?休眠会社の場合も解説▸
ここまでが、休眠に踏み切る前に押さえておきたい判断材料です。休業の届出自体は簡単でも、繰越欠損金や青色申告の承認、地方税の減免まで含めると、会社ごとに最適解は変わります。自社の数字と事情に当てはめた判断が必要な場面では、具体的なケースについて、まずは税理士にご相談ください。
休眠と解散の違いと再開時の手続
休眠は、法人格を残したまま活動を止める状態です。対して解散は、法人格を清算に向けて畳む手続であり、登記と清算手続を伴います。将来もう一度事業をする可能性があるなら休眠、その見込みがないなら解散、というのが判断の出発点になります。
みなし解散の対象となる休眠会社
休眠を選んだ場合でも、登記を放置したままにはできません。全国の法務局では、平成26年度以降、毎年、法令等で定められた登記を行っていない会社等の整理作業が行われています。最後の登記から12年を経過している株式会社などが対象となり、法務大臣による官報公告及び登記所からの通知の後、公告から2か月以内に事業を廃止していない旨の届出又は役員変更等の登記をしない場合、登記官が職権で解散の登記をします法務局 休眠会社・休眠一般法人の整理作業の実施について:東京法務局。
役員の任期は最長でも10年であるため、休眠中であっても役員変更の登記を怠れば、12年の基準に達するのは時間の問題です。休眠を長期間続ける方針であれば、登記の期日管理を誰が担うのかを決めておく必要があります。
事業再開時に必要となる手続
休眠中の会社が事業を再開する場合、税務署には改めて異動届出書を提出し、営業を再開した旨と再開日を届け出ます。地方税側も同様に、都道府県税事務所と市区町村へそれぞれ再開の届出が必要です。給与の支払を再開するのであれば、源泉所得税に関する手続も併せて確認します。
実務では、休眠中に代表者や本店所在地が変わっているケースが多く、再開時に複数の異動事項をまとめて届け出ることになります。どの時点で何が変わったのかを整理してから提出しないと、記載内容が実態と合わず、税務署からの照会につながります。
関連コラム法人解散の届出|税務署への異動届出書の書き方と申告期限▸
まとめ
税務署に提出する「休眠届」という様式はなく、休業は異動届出書に休業する旨を記載して、異動前の納税地の所轄税務署長へ速やかに提出します。都道府県税事務所と市区町村への届出は別系統であり、同じ趣旨の書類を提出先ごとに用意する必要があります。均等割の減免は自治体ごとに取扱いが異なるため、所在地の案内で必ず確認してください。
そして最も重要なのが、休眠中も法人税の申告義務は残るという点です。2事業年度連続して期限内に申告書を提出しないと青色申告の承認が取り消され、繰越欠損金を使えなくなる可能性があります。所得がゼロでも毎期の申告を続けることが、再開時の選択肢を守る最も確実な方法です。
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参考文献
- 国税庁 C1-8 異動事項に関する届出
- 国税庁 法人設立届出書等について、手続が簡素化されました
- 国税庁 C1-1 法人税、地方法人税及び防衛特別法人税の申告(法人税申告書別表等)
- 国税庁 法人税の過少申告加算税及び無申告加算税の取扱いについて(事務運営指針)
- 国税庁 法人の青色申告の承認の取消しについて(事務運営指針)
- 国税庁 No.5762 青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除
- 法務局 休眠会社・休眠一般法人の整理作業の実施について:東京法務局
休眠届と税務署への手続のよくある質問まとめ
Q.税務署に「休眠届」という書類はありますか。
A.「休眠届」という名称の様式はありません。国税庁が案内する法人税の手続では、事業年度等の変更や納税地の異動などと同じ「異動事項に関する届出」の枠組みで処理し、実務では異動届出書の異動事項等の欄に「休業」と記載して提出します。
Q.異動届出書はいつまでに、どこへ提出しますか。
A.提出時期は異動等後速やかにとされ、提出先は異動前の納税地の所轄税務署長です。e-Taxソフトで作成・提出するほか、書面で作成した場合は1部を持参又は送付します。手数料はかかりません。
Q.税務署に届け出れば都道府県や市区町村への手続は不要ですか。
A.不要にはなりません。地方税の届出は税務署とは別系統で、都道府県税事務所と市区町村へそれぞれ提出が必要です。様式の名称や記載方法は自治体ごとに異なるため、所在地の自治体の案内を確認してください。
Q.休眠中も法人税の申告は必要ですか。
A.必要です。法人税の確定申告書は原則として事業年度終了の日の翌日から2か月以内に提出することとされており、休業していてもこの義務は残ります。所得がゼロであれば、所得ゼロの申告書を期限内に提出します。
Q.休眠中に申告をしないと青色申告はどうなりますか。
A.国税庁の事務運営指針では、2事業年度連続して提出期限内に申告書の提出がない場合に青色申告の承認を取り消すものとされ、その2事業年度目の事業年度以後について承認が取り消されます。結果として繰越欠損金の繰越控除にも影響します。
Q.休眠を続けていると会社が解散させられることはありますか。
A.あります。最後の登記から12年を経過している株式会社などは法務局の整理作業の対象となり、官報公告から2か月以内に事業を廃止していない旨の届出又は役員変更等の登記をしない場合、登記官が職権で解散の登記をします。


