支店を閉じることが決まった経理担当者・経営者の方に向けて、税務署へ何を出すのかを先に結論からお伝えします。
結論として、税務署には「支店廃止届」という名前の届出書はありません。支店を廃止したときに税務署へ提出するのは、次の2つです。
- 異動届出書(支店・工場等の異動があった場合の届出。法人税の届出)
- 給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書(その支店で給与の支払事務を取り扱っていた場合のみ)
支店で給与計算をしていなければ、2つ目は不要です。逆に、支店で給与を払っていた会社が2つ目を出し忘れると、源泉所得税の納付先が食い違ったまま放置され、あとから税務署に指摘される原因になります。この記事では、それぞれの提出期限・提出先・書き方の勘どころと、支店を新しく設置するときの取り扱いまでを整理します。
結論:支店を廃止したときに税務署へ出す届出は2つ
まずは全体像です。どちらも税務署あての届出ですが、根拠となる税目も提出先も違うため、別々に考える必要があります。
| 届出書 | 提出が必要な ケース |
提出期限 | 提出先 |
|---|---|---|---|
| 異動届出書 | 支店・工場等を廃止した、または設置したとき | 異動等後速やかに | 異動前の納税地の所轄税務署長 |
| 給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書 | その支店で給与等の支払事務を取り扱っていたとき | 事実があった日から1か月以内 | 給与支払事務所等の所在地の所轄税務署 |
異動届出書は、事業年度の変更や納税地の異動、商号・代表者の変更などと並んで、支店・工場等の異動をしたときに使う届出書です国税庁 C1-8 異動事項に関する届出。「支店を閉じた」「支店を出した」はどちらもこの届出書1枚で税務署に知らせる、と覚えておくと迷いません。
異動届出書|支店の廃止・設置はこの1枚で届け出る
支店の廃止を税務署に伝える中心の書類が異動届出書です。専用の用紙が別にあるわけではなく、法人の各種異動をまとめて受け付ける様式のなかで「支店・工場等の異動」として扱われます。
提出先は「異動前の納税地」の所轄税務署
異動届出書の提出先は、異動前の納税地の所轄税務署長です。支店を廃止しても法人の納税地そのものが動くわけではないので、実務では「これまで法人税の確定申告書を出してきた税務署」がそのまま提出先になります。支店の所在地を管轄する税務署に出すものではない、という点が最初のつまずきどころです。
記載要領でも、この届出書は異動のあった法人の納税地の所轄税務署長に提出するものとされています国税庁 異動届出書の記載要領等。
提出期限は「異動等後速やかに」
異動届出書の提出時期は「異動等後速やかに」とされており、○日以内という形の期限は定められていません。ただし期限がないからといって後回しにすると、決算期をまたいだ段階で支店の状況が税務署の記録と合わなくなります。支店の閉鎖日が決まった時点で登記手続と並行して準備し、閉鎖後すぐに提出するのが安全です。
添付書類は原則なし(平成29年4月1日以後)
以前は登記事項証明書の添付を求められる届出がありましたが、平成29年度税制改正により、平成29年4月1日以後は対象の届出書等への登記事項証明書の添付が不要になりました。あわせて、それまで異動前と異動後の両方の税務署に出す必要があった異動届出書等について、異動後の所轄税務署への提出が不要になっています国税庁 法人設立届出書等について、手続が簡素化されました。
現在の異動届出書も添付書類は「なし」とされています。ただし異動事項の内容確認のため、定款等の写しを確認される場合がある点は押さえておきましょう。古い解説を見て登記事項証明書を取りに行く必要はありません。
消費税の異動届出は同じ用紙で済ませられる
見落とされがちですが、法人の消費税異動届出書に係る異動事項や、適格請求書発行事業者登録簿の登載事項変更届出書に係る変更事項については、異動届出書の「消費税」の欄にレ印を付けて提出すれば、重ねて別の届出書を出す必要はありません。1枚で済むところを2枚3枚と出してしまう手間を省けるので、提出前に該当欄を確認してください。
関連コラム異動事項に関する届出はいつ?書き方をケース別に徹底解説!▸
給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書|支店で給与計算していたら必要
その支店が給与等の支払事務を取り扱っていた場合は、法人税の異動届出書とは別に、源泉所得税のほうの届出が必要になります。
給与等の支払事務を取り扱う事務所等を開設・移転・廃止した場合は、その事実があった日から1か月以内に、給与支払事務所等の所在地の所轄税務署(移転の場合は移転前の事務所等の所在地の所轄税務署)へ提出します国税庁 A2-7 給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出。異動届出書と違い、こちらは1か月という明確な期限がある点に注意してください。
なぜ支店単位で届出が要るのか
源泉徴収した所得税の納税地は、原則として給与等の支払事務を取り扱う事務所等の、その支払の日における所在地とされています。したがって支店で給与の支払事務を行っている場合は、その支店の所在地が納税地となり、支店の所在地の所轄税務署に源泉所得税を納付することになります国税庁 No.2532 給与等に係る源泉所得税の納税地。
つまり、支店は「法人税では本店とひとまとめ、源泉所得税では独立した納付先」という二重構造になっています。支店を閉じるときに片方の届出しか出さないと、この二重構造のどちらかが更新されないまま残ってしまいます。
実務の落とし穴:支店の閉鎖は「廃止」ではなく「引継ぎ」
ここが最も間違えやすいところです。記載要領では、支店等の給与支払事務所等は、事務所開設者が廃業または清算結了しない限り廃止したことにはならないとされています。支店等を閉鎖した場合の納税地は、本店または他の支店等という他の給与支払事務所等に引き継がれるという整理です国税庁 給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書の記載要領等。
記載要領には引継理由ごとの記載事項も示されており、「支店等の閉鎖」の場合は、引継ぎをする前が閉鎖される支店等、引継先が閉鎖される支店等の給与支払事務を引き継ぐ本店または他の支店等になります。
実務では、会社が存続しているにもかかわらず「廃止」の区分で提出してしまい、引き継いだ本店側の源泉所得税の納付先がどこなのかが書面から読み取れない状態になっている例を見かけます。支店を閉じても会社は続くのですから、引継先を書くという発想に切り替えるだけで、この取り違えは防げます。
異動届出書の「給与支払事務所等の移転の有無」欄も確認する
異動届出書には「給与支払事務所等の移転の有無」を記載する欄があり、記載要領では、移転が「有」の場合および移転はないが名称等の変更が「有」の場合は、給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書の提出も必要だと注記されています。異動届出書を書いている途中で、もう1枚必要かどうかを判定できる作りになっているので、この欄を空欄のまま飛ばさないでください。
関連コラム給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書|提出期限1ヶ月と書き方を解説▸
支店を設置するときの届出(設置届出書は税務署にあるか)
設置側も考え方は同じです。「支店設置届出書」という専用の様式はなく、異動届出書の「支店・工場等の異動」として届け出ます。提出先も廃止のときと同じく、異動前の納税地の所轄税務署長です。
そのうえで、新しい支店で給与等の支払事務を取り扱うことになった場合は、その事実が生じた日から1か月以内に給与支払事務所等の開設届出書を、その支店等の所在地の所轄税務署長へ提出することになっています。
整理すると、支店の設置・廃止で税務署への届出が必要になるかどうかは、次の2軸で決まります。
| 支店を設置・廃止した | 異動届出書を提出する(給与事務の有無を問わない) |
|---|---|
| その支店で給与の支払事務を取り扱う/取り扱っていた | 給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書も提出する |
| 支店は出すが給与計算は本店に集約している | 異動届出書のみ。源泉所得税の納付先は本店のまま |
登記上は支店を置いていても、給与計算を本店に集約しているケースは珍しくありません。その場合、源泉所得税の納付先は増えないので、支店ごとに納付書を作る必要もありません。
関連コラム税務署 代表者住所変更|異動届出書の要否と登記手続を税理士が解説▸
届出を出さないと何が起きるか
届出の漏れは、実務上まず源泉所得税の納付先のズレとして表面化します。具体的には次のような形で問題になります。
- 納付先の税務署が合わない:支店で給与事務を続けている扱いのまま本店にまとめて納付すると、税務署の記録上は支店分が未納、本店分が過大納付のように見えます。
- 納付書や通知が届かない:閉鎖した支店あてに納付書や各種のお知らせが送られ、社内で受け取れないまま期限を過ぎてしまいます。
- 調査の際に説明を求められる:源泉所得税の調査では、支店ごとの支払事務の実態と届出内容が突き合わせられます。届出が実態と食い違っていると、納付の経緯を一から説明する負担が生じます。
実務では、支店を閉じてから数年後に「閉鎖したはずの支店の税務署から連絡が来た」というご相談をいただくことがあります。原因をたどると、異動届出書は出していたが給与支払事務所等の届出を出していなかった、という組み合わせが多い印象です。2つの届出はセットで確認するのが確実です。
関連コラム法人解散の届出|税務署への異動届出書の書き方と申告期限▸
支店廃止の届出手続きの流れ
- 支店の閉鎖日と給与事務の扱いを決める:閉鎖日、最後の給与支払日、給与の支払事務をどこへ引き継ぐか(本店か他の支店か)を社内で確定させます。
- 登記が必要かを確認する:登記簿に支店を登記している場合は、法務局での手続も並行します。異動届出書には異動年月日を記載するため、登記の日付と社内で決めた閉鎖日を揃えておくと後の説明が楽になります。
- 異動届出書を作成・提出する:「支店・工場等の異動」として、異動前・異動後の内容と異動年月日を記載します。あわせて「給与支払事務所等の移転の有無」欄と「消費税」欄を確認します。添付書類は原則不要です。
- 給与支払事務所等の届出書を提出する:支店で給与事務を行っていた場合、事実があった日から1か月以内に提出します。会社が存続するなら「廃止」ではなく、本店等への引継ぎとして記載します。
- 納付書と源泉徴収事務の宛先を切り替える:引継先の税務署で納付できる状態になっているかを、次回の納付期限より前に確認します。
なお、この記事で扱っているのは税務署(国税)への届出だけです。法人住民税・法人事業税といった地方税の手続や、社会保険・労働保険の手続は窓口が異なりますので、それぞれの提出先にご確認ください。
まとめ
支店の廃止・設置について、税務署への届出を改めて整理します。
- 「支店廃止届」という様式はなく、異動届出書の「支店・工場等の異動」で届け出る。
- 異動届出書の提出先は異動前の納税地の所轄税務署長、提出時期は異動等後速やかに、添付書類は原則なし。
- その支店で給与の支払事務を取り扱っていたなら、給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書を1か月以内に提出する。
- 会社が存続する限り、支店の閉鎖は給与支払事務所等の「廃止」ではなく本店等への引継ぎとして扱う。
- 届出漏れは源泉所得税の納付先のズレとして表面化し、調査の場で説明を求められる原因になる。
支店の再編は、組織変更・人員の異動・登記・給与計算の切り替えが同時に動くため、どの届出がどの日付で必要かを一人で棚卸しするのは負担が大きい場面です。判断に迷う点があれば、まずは税理士にご相談ください。個別の事情を踏まえて、提出すべき書類と期限を整理できます。
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参考文献
- 国税庁 C1-8 異動事項に関する届出
- 国税庁 A2-7 給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出
- 国税庁 No.2532 給与等に係る源泉所得税の納税地
- 国税庁 法人設立届出書等について、手続が簡素化されました
- 国税庁 異動届出書の記載要領等
- 国税庁 給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書の記載要領等
よくある質問
支店を廃止したとき「支店廃止届」という書類を税務署に出すのですか
その名称の様式はありません。支店・工場等の異動をした場合の手続として、異動届出書を提出します。支店の設置も同じ様式で届け出ます。
異動届出書の提出期限はいつまでですか
提出時期は「異動等後速やかに」とされており、日数で区切られた期限は定められていません。ただし決算や納付のタイミングと重なると確認事項が増えるため、閉鎖後すみやかに提出することをおすすめします。
支店で給与計算をしていなければ届出は1枚で済みますか
その支店が給与等の支払事務を取り扱っていなければ、給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書は不要で、異動届出書のみの提出になります。判断に迷う場合は、源泉所得税をどの税務署へ納付してきたかを確認すると整理しやすくなります。
支店を閉じたので給与支払事務所等の届出書を「廃止」で出してよいですか
会社が廃業や清算結了をしていない限り、支店等の給与支払事務所等は廃止したことにはならない取り扱いです。閉鎖した支店の給与支払事務を引き継ぐ本店または他の支店等を引継先として記載します。
届出を出し忘れていたことに後から気づきました
気づいた時点で速やかに提出するのが基本です。あわせて、その間の源泉所得税をどの税務署へ納付していたかを確認し、実態と納付先が食い違っていないかを点検してください。納付先のズレが長期間続いている場合は、対応の順序を含めて税理士にご相談いただくと安全です。


