この記事は、代表取締役や代表社員の自宅住所が変わった法人の経営者・経理担当の方に向けたものです。結論から申し上げると、代表者個人の住所が変わっただけであれば、税務署に異動届出書を提出する法令上の義務はありません。法人税法が届出を求めているのは納税地の異動であり、代表者の住所はその対象に含まれていないためです。
一方で、法務局への変更登記は必要です。また、本店所在地が代表者の自宅になっている法人では、住所変更がそのまま納税地の異動につながるため、異動届出書の提出が必要になります。この記事では、国税庁と法務局の一次情報にもとづき、届出が要る場合と要らない場合の線引き、登記の期限と費用、個人事業主との違いまでを整理します。
代表者の住所変更と税務署への届出の結論
まず全体像を押さえます。代表者の住所変更で必ず発生するのは法務局での変更登記であり、税務署への届出は「納税地が動いたかどうか」で要否が分かれます。この構造を理解しておくと、ケースごとの判断がぶれません。
| 法務局への変更登記 | 必要。住所移転の日から本店所在地で2週間以内 |
|---|---|
| 税務署への異動届出書 (代表者の住所のみ変更) |
法令上の提出義務なし |
| 税務署への異動届出書 (本店が自宅で本店移転を伴う) |
必要。納税地の異動に該当 |
| 税務署への異動届出書 (代表者が交代) |
必要。代表者の変更に該当 |
異動届出書の提出義務の範囲
法人税法は、法人税の納税地に異動があった場合に、異動前の納税地の所轄税務署長へ届け出なければならないと定めています。そして内国法人の法人税の納税地は、その本店または主たる事務所の所在地とされていますe-Gov法令検索 法人税法。
つまり、法律が届出義務を課しているのは本店または主たる事務所が動いた場合です。代表者個人がどこに住んでいるかは、法人税の納税地を決める要素ではありません。代表者が自宅を引っ越しても本店の所在地が変わらないのであれば、納税地に異動はなく、届出義務も生じないという整理になります。
国税庁が示す異動事項の一覧
国税庁は、異動届出書を使う場面として、事業年度等の変更、納税地の異動、資本金の額等の異動、商号または名称の変更、代表者の変更、事業目的の変更、法人の合併、法人の分割による事業の譲渡もしくは譲受け、法人区分の変更、法人の解散・清算結了、支店・工場等の異動等を挙げています国税庁 C1-8 異動事項に関する届出。
ここに列挙されているのは「代表者の変更」であって、「代表者の住所の変更」ではありません。代表者が交代した場合は届出の対象になりますが、同じ代表者が引っ越しただけのケースは列挙対象に含まれていない、という点が実務上の判断の出発点になります。
提出義務がない場合の実務対応
提出義務がないことと、提出してはいけないことは別です。実務では、税務署からの各種文書の送付先や連絡先の管理のために、所轄税務署から情報の更新を案内される場合があります。その際は案内に従って異動届出書を提出しても差し支えありません。
注意したいのは、「提出が必須である」という前提で登記事項証明書のコピーを添付して送る運用です。法人の届出書等への登記事項証明書の添付は、平成29年4月1日以後、不要とされています国税庁 法人設立届出書等について、手続が簡素化されました。古い解説記事の手順をそのままなぞると、不要な書類を集める手間が発生します。
異動届出書の提出が必要となるケース
代表者の住所変更に関連して、異動届出書が実際に必要になる場面は限られています。以下の2つに該当するかどうかを確認してください。
本店所在地が代表者の自宅である場合
顧問先で最も多いのが、社長の自宅をそのまま本店としている一人法人のパターンです。この場合、社長の引っ越しは本店移転と同義になります。本店移転の登記を行い、納税地が動くため、異動前の納税地の所轄税務署長へ異動届出書を提出する必要があります。
実務では、引っ越しの時点で「登記上の本店をどうするか」を先に決めておくことが重要です。自宅を離れてもバーチャルオフィスや事務所を本店として維持する選択もあり、その場合は本店移転が発生しないため納税地も動きません。住所変更の連絡を受けた時点で、登記簿上の本店と新しい自宅住所の関係を必ず確認します。
代表者の交代を伴う場合
前任者の退任と後任者の就任によって代表者が入れ替わる場合は、「代表者の変更」として異動届出書の対象になります。新代表者の住所が旧代表者と異なるのは当然ですが、このケースで届出が必要になる理由は住所ではなく代表者そのものの変更である点を押さえてください。
提出先・提出時期・添付書類
異動届出書の提出先は、異動前の納税地の所轄税務署長です。平成29年4月1日以後の納税地の異動等については、異動後の所轄税務署への提出は不要とされ、提出先が一本化されています。提出時期は異動等の後速やかにとされ、添付書類は原則としてありません。ただし異動事項の内容確認のため、定款等の写しの確認を求められる場合があります。
作成・提出はe-Taxソフトが基本です。書面で作成する場合は1部を提出先へ持参または送付します。
関連コラム異動事項に関する届出はいつ?書き方をケース別に徹底解説!▸
関連コラム定款変更後の届出は必要?法務局・税務署の手続きをケース別に解説▸
関連コラム増資 税務署 届出|異動届出書の書き方と期限・提出先を税理士が解説▸
関連コラム代表取締役変更の税務署への届出|異動届出書の書き方と期限を税理士が解説▸
法務局への代表者住所変更登記
税務署への届出が不要でも、登記は別途必要です。ここを取り違えて放置すると、過料という実害につながります。
登記期限と過料のリスク
会社・法人の登記には、登記すべき期間が法令で定められています。株式会社の役員変更登記の場合、登記の事由が発生した時から本店の所在地において2週間以内にしなければならないとされています。期間内に登記を怠り、その後に登記申請をする場合であっても、そのことだけをもって申請が却下されることはありませんが、会社・法人の代表者に対して裁判所から100万円以下の過料に処される可能性があります法務局 商業・法人登記の申請書様式。
実務では、引っ越しから数か月経ってから顧問税理士が気づく事例が少なくありません。決算期の登記簿確認をルーティン化し、住民票上の住所と登記簿上の代表者住所の突合を習慣にしておくと、取りこぼしを防げます。
登録免許税と添付書類
代表取締役の住所変更登記の登録免許税は、資本金の額によって区分されます。収入印紙または領収証書で納付します。
| 資本金の額が1億円を超える場合 | 3万円 |
|---|---|
| 資本金の額が1億円以下の場合 | 1万円 |
添付書類は、代理人に登記申請を委任した場合の委任状のみです。申請書に住民票を添付する必要はありません法務局 株式会社(役員変更、住所移転)。登記すべき事項には、住所移転の年月日と住民票記載の住所を正確に記入します。
株式会社以外でも同様の手続があり、特例有限会社の取締役、合同会社の代表社員、一般社団法人・一般財団法人の代表理事について、それぞれ住所変更登記の申請書様式と記載例が公開されています神戸地方法務局 代表者の住所変更の記載例について。
行政区画の変更に伴う住所変更の取扱い
引っ越しではなく、市町村合併や住居表示の実施によって住所の表記が変わる場合は扱いが異なります。登記簿に記載された行政区画等に変更があった場合には、その旨の登記がないときであっても、その変更による登記があったものとみなされます。
もっとも、登記官はどの会社に市町村の合併や名称の変更があったかを把握できないため、申請人からの申出によって行うのが実務上の取扱いとされ、この場合には登録免許税は課されません法務局 よくあるご質問等<商業・法人登記関係>。自分の意思で引っ越したのか、行政側の都合で表記が変わったのかで費用負担が変わる点は、見落とされやすいポイントです。
代表取締役等住所非表示措置
代表者の自宅住所が登記簿を通じて誰にでも閲覧できることを懸念する経営者は少なくありません。現在は、一定の要件の下で、株式会社の代表取締役、代表執行役または代表清算人の住所の一部を登記事項証明書や登記事項要約書、登記情報提供サービスに表示しないこととする措置が設けられています。
この措置の申出にあたっては、上場会社以外の株式会社の場合、実質的支配者の本人特定事項を証する書面が添付書面として必要ですが、一定期間内に実質的支配者リストの保管の申出をしている場合は、同書面の添付が不要となります札幌法務局 代表取締役等住所非表示措置について。住所変更登記のタイミングは、この措置の利用を検討する好機でもあります。
消費税とインボイス登録への影響
代表者の住所変更それ自体は、消費税やインボイス登録の内容に影響しません。適格請求書発行事業者登録簿に登載されるのは法人の名称や本店または主たる事務所の所在地であり、代表者の住所ではないためです。
ただし、本店が代表者の自宅で本店移転が発生する場合は別です。法人の名称または本店もしくは主たる事務所の所在地につき異動があり、その旨を記載した異動届出書を提出した場合には、重ねて登載事項変更届出書を提出する必要はないとされています国税庁 D1-66 適格請求書発行事業者登録簿の登載事項変更届出手続。異動届出書の「消費税」欄にレ印を付して提出すれば、二重提出を避けられます。
個人事業主の住所変更との相違
法人と個人事業主では、住所変更の扱いが根本的に異なります。個人事業主の場合、住所地そのものが納税地になっているため、転居は納税地の異動に直結します。
現在の取扱いでは、納税地の異動がある場合、異動後の納税地を記載した所得税または消費税の申告書を提出することで変更されます。ただし、年の途中で納税地の異動があり、国税当局からの各種文書の送付先を異動後の納税地としたいときは、申出書を提出することができます国税庁 A1-6 所得税・消費税の納税地の異動又は変更に関する手続。かつての「納税地の異動に関する届出書」を必ず出す運用とは変わっています。
あわせて、給与等の支払を行う事務所等を移転または廃止した場合は「給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書」を移転または廃止の日から1か月以内に提出します。また、都道府県税事務所、年金事務所、労働基準監督署等にも届出書等の提出が必要となる場合があるため、各行政機関への確認が必要です国税庁 No.2091 個人事業者の納税地等に異動があった場合の届出関係。
e-Taxの利用者情報の変更
忘れられがちなのが、電子申告側の情報更新です。e-Taxを利用して申告、申請・届出および納税等を行う場合、届出の内容を変更するときは、e-Taxの開始届出書作成・提出コーナーから法人用の変更等届出を作成して提出します国税庁 H3-1 電子申告・納税等開始(変更等)の届出。
代表者の住所をe-Taxの利用者情報として登録している法人では、ここを更新しないまま運用が続くことがあります。税務署からの通知書等の送付先に影響するため、登記が完了した段階で登録情報も見直しておくと安全です。
実務での判断基準と留意点
ここまでを踏まえた実務の判断基準は、「本店が動いたか」の一点です。本店が動いていなければ税務署への届出義務はなく、法務局での登記だけで完結します。本店が動いていれば、登記に加えて異動届出書の提出が必要になります。
実務で見落とされやすい点は3つあります。第一に、2週間の登記期限を過ぎて過料の対象になること。第二に、登記事項証明書の添付が不要になった後も古い手順で書類を集めてしまうこと。第三に、本店が代表者の自宅である法人で、住所変更を個人の問題と捉えて本店移転登記と納税地の異動を見落とすことです。
特に3つ目は、金融機関からの通知や税務署からの文書が旧住所に送られ続ける原因になります。設立から数年が経ち、本店をどこに置いているか社内で共有されていない法人ほど、確認を丁寧に行う必要があります。
手続の要否は、登記簿上の本店と定款の記載、納税地の実態によって結論が変わります。自社がどの類型に当たるか判断に迷う場合や、登記期限を過ぎてしまった場合の対応は、まずは税理士にご相談ください。
まとめ
代表者個人の住所が変わっただけであれば、税務署への異動届出書の提出義務はありません。法人税法が届出を求めているのは納税地、すなわち本店または主たる事務所の所在地の異動であり、代表者の住所は対象外だからです。
一方で、法務局への変更登記は住所移転から2週間以内に必要で、怠ると100万円以下の過料の対象になり得ます。登録免許税は資本金1億円超で3万円、1億円以下で1万円です。本店が代表者の自宅である法人では本店移転が生じ、異動届出書とインボイス登録の取扱いまで連動します。まずは登記簿上の本店を確認するところから始めてください。
この記事を読んだ方へ
Corporate Tax
法人の税務顧問・法人税申告のご相談
判断に迷ったら、まずは税理士にご相談ください。オンラインでも対応しています。
法人のお客様へ
Contact
税理士に無料で相談する
フォームは24時間受付。1営業日以内にご返信します。
無料相談フォームへ
参考文献
- e-Gov法令検索 法人税法
- 国税庁 C1-8 異動事項に関する届出
- 国税庁 法人設立届出書等について、手続が簡素化されました
- 法務局 商業・法人登記の申請書様式
- 法務局 株式会社(役員変更、住所移転)
- 神戸地方法務局 代表者の住所変更の記載例について
- 法務局 よくあるご質問等<商業・法人登記関係>
- 札幌法務局 代表取締役等住所非表示措置について
- 国税庁 D1-66 適格請求書発行事業者登録簿の登載事項変更届出手続
- 国税庁 A1-6 所得税・消費税の納税地の異動又は変更に関する手続
- 国税庁 No.2091 個人事業者の納税地等に異動があった場合の届出関係
- 国税庁 H3-1 電子申告・納税等開始(変更等)の届出
税務署への代表者住所変更のよくある質問まとめ
Q.代表者の住所が変わったら税務署に異動届出書を提出する必要がありますか。
A.代表者個人の住所が変わっただけであれば、法令上の提出義務はありません。法人税法が届出を求めているのは法人税の納税地、すなわち本店または主たる事務所の所在地の異動であり、代表者の住所は対象に含まれていないためです。国税庁が示す異動届出書の対象事項にも、挙げられているのは代表者の変更であって代表者の住所の変更ではありません。
Q.本店が代表者の自宅の場合はどうなりますか。
A.代表者の引っ越しがそのまま本店移転になるため、納税地の異動が生じます。この場合は本店移転の登記を行ったうえで、異動前の納税地の所轄税務署長に異動届出書を提出する必要があります。適格請求書発行事業者の場合は、異動届出書の消費税欄にレ印を付して提出すれば、登載事項変更届出書を重ねて提出する必要はありません。
Q.代表者の住所変更登記はいつまでに行う必要がありますか。
A.株式会社の役員変更登記は、登記の事由が発生した時から本店の所在地において2週間以内に行う必要があります。期間内に登記を怠っても、そのことだけをもって後の申請が却下されることはありませんが、会社・法人の代表者に対して裁判所から100万円以下の過料に処される可能性があります。
Q.代表者の住所変更登記の費用はいくらですか。
A.登録免許税は、資本金の額が1億円を超える場合は3万円、1億円以下の場合は1万円です。収入印紙または領収証書で納付します。添付書類は、代理人に登記申請を委任した場合の委任状のみで、申請書に住民票を添付する必要はありません。
Q.市町村合併で住所の表記が変わった場合も登録免許税はかかりますか。
A.登記簿に記載された行政区画等に変更があった場合には、その旨の登記がないときであっても変更による登記があったものとみなされます。実務上は申請人からの申出によって行われますが、この場合には登録免許税は課されません。ただし市町村名の変更により定款記載の本店所在地と一致しなくなるときは、定款の字句変更に株主総会の決議が必要となる点に注意が必要です。
Q.個人事業主が引っ越した場合の手続は法人と同じですか。
A.異なります。個人事業主は住所地が納税地となるため転居が納税地の異動に直結しますが、現在は異動後の納税地を記載した所得税または消費税の申告書を提出することで変更されます。年の途中で文書の送付先を異動後の納税地としたいときは申出書を提出できます。給与支払事務所等の移転がある場合は、移転の日から1か月以内に届出書の提出が必要です。


