この記事は、税務調査でクレジットカード明細の提示を求められた法人・個人事業主の方、およびカード決済中心の経理体制で調査に不安を感じている経理担当者の方に向けた内容です。
結論から申し上げます。クレジットカード明細は、税務調査で提示を求められる対象に含まれます。調査官の質問検査権は、法令上の保存義務がある帳簿書類だけでなく、調査の目的を達成するために必要と認められる物件にも及ぶためです。一方で、カード会社が発行する利用明細書だけでは、消費税の仕入税額控除の要件を満たしません。加盟店から受け取った領収書や適格請求書をあわせて保存しておく必要があります。
以下では、提示を求められる法的根拠、個人カードと法人カードが混在する場合の扱い、明細が帳簿・証憑の代わりになるかどうか、反面調査の可能性、保存期間、調査前の準備までを、国税庁の一次情報にもとづいて整理します。
税務調査におけるクレジットカード明細の位置づけ
質問検査権の対象となる物件の範囲
税務調査で調査官が帳簿書類等の提示・提出を求める根拠は、国税通則法の質問検査権です。国税庁の法令解釈通達では、質問検査等の対象となる「帳簿書類その他の物件」について、法令により備付け・記帳・保存が義務づけられている帳簿書類のほか、調査の目的を達成するために必要と認められる帳簿書類その他の物件も含まれると示されています国税庁 第1章 法第74条の2~法第74条の6関係(質問検査権)。
クレジットカード明細は、それ自体に法令上の保存義務が定められた書類ではありません。しかし、経費の支払事実や取引の相手方を確認するために必要と判断されれば、提示を求められる対象に入ります。実務では、総勘定元帳の交際費や消耗品費の内訳を確認する流れで、カード明細の提示を求められる場面がほとんどです。
提示と提出の違い
同じ通達では、「提示」は調査官の求めに応じて遅滞なくその内容を確認し得る状態にして示すこと、「提出」は遅滞なく調査官に占有を移転することと定義されています。つまり、手元で見せるだけで足りる場合と、書類を渡す(預ける)場合とでは意味が異なります。
明細をカード会社のWebサイトで閲覧している場合、電磁的記録の提示はディスプレイの画面上で調査官が確認し得る状態にして示す方法によることとされています。提出を求められた場合は、プリントアウトの交付、調査官が持参した記録媒体へのコピー、e-Taxやオンラインストレージ等による提出といった方法が案内されます国税庁 税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)。調査当日にログインできず時間を浪費する例が多いため、ID・パスワードは事前に確認しておくことをおすすめします。
なお、正当な理由がないのに提示・提出を拒んだり、虚偽の記載をした帳簿書類等を提示・提出した場合には、1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金という罰則が定められています。国税庁は、罰則をもって強権的に権限を行使することは考えておらず、必要とされる趣旨を説明したうえで納税者の理解と協力を得て行うとしています。
個人名義カードと法人カードが混在する場合の取り扱い
私物の明細を求められる場面
「個人名義のカードだから見せる必要はない」と考える方は少なくありません。しかし国税庁は、法人税の調査において、その法人の代表者名義の個人預金について事業関連性が疑われる場合に、その通帳の提示・提出を求めることは法令上認められた質問検査等の範囲に含まれるとの見解を示しています。個人名義のクレジットカードであっても、そのカードで法人の経費を支払っている以上、事業関連性が疑われる対象となります。
調査の現場で多いのは、代表者個人のカードで支払った飲食代や旅費が法人の経費として計上されており、立替精算の記録が残っていないケースです。このとき調査官は、経費として計上された取引が実在するかを確かめるため、当該カードの明細全体の提示を求めます。結果として、事業と無関係な私的支出まで目に触れることになります。法人カードと個人カードを明確に分けておくことが、調査範囲を広げないための最も確実な対策です。
家事関連費の区分基準
個人事業主の場合、1枚のカードで事業用と家事用の支払いが混ざることは珍しくありません。国税庁は、一つの支出が家事上と業務上の両方にかかわる費用を「家事関連費」と呼び、必要経費になるのは、取引の記録などに基づいて業務遂行上直接必要であったことが明らかに区分できる場合の、その区分できる金額に限られるとしています国税庁 No.2210 必要経費の知識。
カード明細には「区分できる」根拠が記録されていません。明細に記載されるのは、利用日・加盟店名・金額といった情報にとどまるためです。区分の根拠を示すには、領収書に加えて、利用目的・相手方・按分の考え方を記録しておく必要があります。
関連コラム法人カード 税務調査|私的利用・ポイントの取扱いを税理士が解説▸
関連コラム家族カードの経費は税務調査でどうなる?否認リスクと対処を税理士が解説▸
領収書に代わる証憑としての適否
消費税の仕入税額控除における請求書等の範囲
ここが実務上いちばん誤解の多い論点です。国税庁の質疑応答事例は、クレジットカード会社がカード利用者に交付する請求明細書等は、課税資産の譲渡等を行った加盟店が作成・交付する書類ではなく、加盟店の氏名または名称および登録番号が記載された書類にも該当しないため、消費税法第30条第9項に規定する請求書等には該当しないと明示しています。したがって、カード会社の請求明細書を保存することにより仕入税額控除の適用を受けることはできません国税庁 クレジットカード会社からの請求明細書。仕入税額控除を受けるには、加盟店から受領した適格請求書等の保存が必要です。
課税仕入れに係る消費税額を控除するには、事実を記載し区分経理に対応した帳簿と、事実を証する請求書等の両方を保存する必要があります国税庁 No.6496 仕入税額控除をするための帳簿及び請求書等の保存。帳簿には、課税仕入れの相手方の氏名または名称、課税仕入れを行った年月日、資産または役務の内容、支払対価の額を記載します国税庁 No.6497 仕入税額控除のために保存する帳簿および請求書等の記載事項。明細に印字された加盟店名が決済代行会社の名義になっている場合、この「相手方」の記載を明細から特定できない点にも注意が必要です。
帳簿のみの保存が認められる例外
例外として、請求書等の交付を受けることが困難な一定の取引については、一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められます。3万円未満の公共交通機関による旅客の運送、3万円未満の自動販売機・自動サービス機からの商品の購入等、従業員等に支給する通常必要と認められる出張旅費等がこれにあたります。
また、基準期間における課税売上高が1億円以下または特定期間における課税売上高が5,000万円以下の事業者が、令和5年10月1日から令和11年9月30日までの間に行った課税仕入れのうち税込1万円未満のものについては、一定の事項が記載された帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められます。この経過措置は期限付きであり、恒久的な取扱いではありません。カード決済を前提とした経理フローを組む際は、期限後を見据えて領収書の回収体制を整えておくべきです。
カード会社や取引先への反面調査
提示した資料だけでは事実関係を確認できない場合、調査官が取引先等に照会を行うことがあります。国税庁の事務運営指針は、取引先等に対する反面調査の実施に当たっては、その必要性と反面調査先への事前連絡の適否を十分検討するとし、実施に当たっては反面調査である旨を取引先等に明示したうえで実施することに留意する、としています国税庁 調査手続の実施に当たっての基本的な考え方等について(事務運営指針)。
反面調査は無条件に行われるものではなく、必要性を検討したうえで実施されます。逆にいえば、明細と領収書と帳簿が整合しており、こちらの説明で事実関係が確認できる状態であれば、取引先に照会が及ぶ可能性は下がります。取引先との関係に影響を与えないという観点からも、資料の整備は意味を持ちます。
関連コラム税務署は銀行口座をどこまで調べられる?調査の範囲と実務を税理士が解説▸
関連コラム銀行 税務署 報告義務|報告される取引と調査範囲を税理士が解説▸
明細と領収書の保存期間
法人と個人事業主の保存期間
法人は、帳簿を備え付けて取引を記録するとともに、その帳簿と取引等に関して作成または受領した書類を、その事業年度の確定申告書の提出期限の翌日から7年間保存しなければなりません。青色申告書を提出した事業年度で欠損金額が生じた事業年度等については10年間となります国税庁 No.5930 帳簿書類等の保存期間。
個人で事業を行っている方の保存期間は、書類の区分によって異なります国税庁 個人で事業を行っている方の記帳・帳簿等の保存について。
| 収入金額や必要経費を 記載した帳簿(法定帳簿) |
7年 |
|---|---|
| 業務に関して作成した 上記以外の帳簿(任意帳簿) |
5年 |
| 決算に関して作成した 棚卸表その他の書類 |
5年 |
| 業務に関して作成し、または受領した 請求書、納品書、送り状、領収書などの書類 |
5年 |
クレジットカードで支払った経費の領収書は、この表の「業務に関して作成し、または受領した請求書、納品書、送り状、領収書などの書類」に含まれます。なお、消費税の仕入税額控除のために保存する帳簿および請求書等については、帳簿はその閉鎖の日、請求書等は受領した日の属する課税期間の末日の翌日から2か月を経過した日から7年間保存することとされています。所得税・法人税と消費税で必要な保存年数が異なる点は、実務で見落とされやすいポイントです。
Web明細の電子取引データとしての保存
カード会社の紙の請求書を廃止し、Web明細やメール添付で受け取っている事業者は多いはずです。この場合、電子帳簿保存法上の電子取引に該当し、その取引情報に係る電磁的記録を保存しなければなりません。電子取引とは、注文書・契約書・送り状・領収書・見積書その他これらに準ずる書類に通常記載される事項の授受を電磁的方式により行う取引をいい、インターネット上にサイトを設けてそのサイトを通じて取引情報を授受する取引等が含まれます国税庁 電子帳簿保存法の概要。
実務で起きやすいのは、カード会社のWeb明細の閲覧可能期間が過ぎ、過年度分をさかのぼれなくなる事故です。閲覧可能期間はカード会社ごとに異なります。毎月ダウンロードして自社側に保存する運用へ切り替えておくのが安全です。
経費否認と加算税のリスク
カード明細だけで経費性を主張し、事業関連性を説明できない場合、その支出は否認の対象になり得ます。所得税の例では、税務署の調査を受けた後に修正申告をした場合や更正を受けた場合、新たに納める税金のほかに、その税額に10パーセントの割合を乗じた過少申告加算税がかかります。新たに納める税金が当初の申告納税額と50万円とのいずれか多い金額を超えているときは、その超えている部分については15パーセントの割合になります国税庁 No.2026 確定申告を間違えたとき。
さらに、令和6年1月1日以後に法定申告期限が到来するものについて、調査で帳簿の提示または提出を求められた際に帳簿の提示等をしなかった場合や、帳簿への売上金額の記載等が本来記載等をすべき金額の2分の1未満だった場合は、新たに納める税金に10パーセントの割合を乗じた金額が過少申告加算税に加算されます。3分の2未満だった場合は5パーセントの加算です。提示に応じないという選択は、経済的にも不利に働きます。
仮装・隠蔽があったと認定された場合の重加算税は、過少申告加算税に代えて課されるものが35パーセント、無申告加算税に代えて課されるものが40パーセントです国税庁 加算税制度(国税通則法)の改正のあらまし。私的な支出を意図的に経費へ紛れ込ませた事実が明らかになれば、この水準の負担が生じます。
税務調査前に整えておく実務項目
調査の連絡を受けてから慌てないために、平時から次の状態を保っておくことをおすすめします。
- 法人カードと個人カードを分け、個人カードでの立替が生じた場合は精算書と領収書を必ず残す
- カード決済分についても、加盟店から受領した領収書・適格請求書を月別に保管する
- Web明細を毎月ダウンロードし、閲覧可能期間の経過に備えて自社側に保存する
- 交際費については、明細に加えて相手方・人数・目的を記録しておく
- Web明細のログイン情報を経理担当者間で共有し、調査当日に画面提示できる状態にしておく
- 家事関連費がある場合は、按分の根拠と計算過程を書面で残す
明細と領収書と帳簿の三者が整合していれば、説明に要する時間は大きく短縮されます。逆に、明細しか残っていない状態から遡って証憑を集め直す作業は、調査期間中の限られた時間では現実的ではありません。
カード明細をめぐる取扱いは、法人か個人事業主か、消費税の課税事業者かどうか、支出の内容が何かによって結論が変わります。個別のケースについては、自社の帳簿と証憑の実情を踏まえて税理士にご相談いただくことをおすすめします。調査の連絡を受けた段階でも、事前通知から調査開始までの間にできる準備は残されています。まずは税理士にご相談ください。
関連コラム税務調査は何年前まで遡る?3年・5年・7年の区分を税理士が解説▸
関連コラム税務調査 確率|法人と個人の実調率を国税庁の最新統計で税理士が解説▸
まとめ
税務調査において、クレジットカード明細は質問検査権の対象に含まれ、事業関連性が疑われる場合には個人名義カードの明細であっても提示を求められます。一方で、カード会社の請求明細書は消費税法上の請求書等に該当せず、その保存だけで仕入税額控除を受けることはできません。
したがって実務上の要点は、明細は「取引の入口を示す資料」であり、経費性と仕入税額控除を支えるのは加盟店発行の領収書・適格請求書と帳簿であるという整理に尽きます。あわせて、法人7年・個人事業主の書類5年という保存期間、Web明細の電子データ保存、帳簿を提示しなかった場合の加算税の加重措置を押さえておけば、調査での指摘は大きく減らせます。判断に迷う支出がある場合は、税理士にご相談ください。
この記事を読んだ方へ
Corporate Tax
法人の税務顧問・法人税申告のご相談
判断に迷ったら、まずは税理士にご相談ください。オンラインでも対応しています。
法人のお客様へ
Contact
税理士に無料で相談する
フォームは24時間受付。1営業日以内にご返信します。
無料相談フォームへ
参考文献
- 国税庁 第1章 法第74条の2~法第74条の6関係(質問検査権)
- 国税庁 税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)
- 国税庁 No.2210 必要経費の知識
- 国税庁 クレジットカード会社からの請求明細書
- 国税庁 No.6496 仕入税額控除をするための帳簿及び請求書等の保存
- 国税庁 No.6497 仕入税額控除のために保存する帳簿および請求書等の記載事項
- 国税庁 調査手続の実施に当たっての基本的な考え方等について(事務運営指針)
- 国税庁 No.5930 帳簿書類等の保存期間
- 国税庁 個人で事業を行っている方の記帳・帳簿等の保存について
- 国税庁 電子帳簿保存法の概要
- 国税庁 No.2026 確定申告を間違えたとき
- 国税庁 加算税制度(国税通則法)の改正のあらまし
税務調査とクレジットカード明細のよくある質問まとめ
Q. 税務調査でクレジットカード明細の提示を拒むことはできますか。
A. 調査に必要と認められる物件は質問検査権の対象に含まれるため、原則として提示を求められます。正当な理由なく提示・提出を拒んだ場合や虚偽の記載をした帳簿書類等を提示・提出した場合には、1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金が科されることがあります。
Q. 個人名義のクレジットカード明細も見られますか。
A. 法人の経費をそのカードで支払っている場合など、事業関連性が疑われるときは提示を求められます。国税庁は、法人の代表者名義の個人預金について事業関連性が疑われる場合に通帳の提示・提出を求めることは法令上認められた質問検査等の範囲に含まれるとしています。
Q. クレジットカード明細だけで経費として認められますか。
A. 消費税については、カード会社が交付する請求明細書は消費税法第30条第9項の請求書等に該当せず、その保存のみで仕入税額控除を受けることはできません。加盟店から受領した適格請求書等の保存が必要です。所得税・法人税でも、明細だけでは支出の内容や事業関連性を説明しきれないため、領収書とあわせた保存が必要です。
Q. クレジットカード会社に反面調査が行われることはありますか。
A. 取引先等への反面調査は、その必要性と反面調査先への事前連絡の適否を十分検討したうえで実施することとされています。提示した資料で事実関係が確認できる状態であれば、照会に至る可能性は下がります。
Q. クレジットカードの利用明細はいつまで保存する必要がありますか。
A. 法人は帳簿および取引等に関して作成・受領した書類を、その事業年度の確定申告書の提出期限の翌日から7年間保存します。個人事業主は法定帳簿が7年、請求書・領収書などの書類が5年です。消費税の仕入税額控除のために保存する帳簿および請求書等は、一定の起算日から7年間とされています。
Q. Web明細で受け取っている場合の保存方法を教えてください。
A. インターネット上のサイトを通じて取引情報を授受する取引は電子帳簿保存法上の電子取引に該当し、その取引情報に係る電磁的記録を保存する必要があります。カード会社の閲覧可能期間が過ぎると遡れなくなるため、毎月ダウンロードして自社側に保存する運用が安全です。


