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複数の証券会社の特定口座の損益通算|確定申告の方法を税理士が解説

目次
  1. 複数の特定口座で損益が自動通算されない理由
  2. 特定口座は金融商品取引業者ごとに1口座
  3. 特定口座の種類と申告の要否
  4. 口座の中で完結する計算と口座をまたぐ通算
  5. 確定申告で口座間の損益を通算する方法
  6. 源泉徴収あり口座は口座ごとに申告するか選べる
  7. 損失のある口座を申告するときは受け入れた配当も申告
  8. 上場株式等の配当(申告分離課税)との損益通算
  9. 通算できない損失
  10. 外国株を特定口座で保有している場合
  11. 通算しきれない損失の3年繰越
  12. 申告前に確認したい住民税と合計所得金額への影響
  13. 住民税の課税方式は所得税と一致
  14. 合計所得金額に含まれることの影響
  15. 選択した方式は後から変えられない
  16. 年間取引報告書を使った申告の進め方
  17. 実務での取り扱い例
  18. まとめ
  19. 参考文献
  20. 特定口座が複数ある場合の損益通算と確定申告のよくある質問まとめ

この記事は、複数の証券会社に特定口座を持っている個人投資家・経営者・資産家の方に向けたものです。「A証券では利益が出たのに、B証券では損失が出た。それぞれで税金が引かれたまま終わっているのでは」と気になっている方も多いはずです。

結論からお伝えすると、証券会社が別々の特定口座どうしの損益は自動では通算されません。口座をまたいで損益を相殺するには、確定申告(申告分離課税)で通算する必要があります。源泉徴収ありの口座を申告に含めるかどうかは口座ごとに選べるため、どの口座を申告に入れるかで結果が変わります。一方で、申告すると合計所得金額が増え、扶養控除などの判定に影響することもあります。本記事では、国税庁の資料をもとに、手順と判断のポイントを税理士の実務の視点で整理します。

複数の特定口座で損益が自動通算されない理由

特定口座は金融商品取引業者ごとに1口座

特定口座は、1つの金融商品取引業者等につき1口座に限って開設できる口座です。特定口座内の上場株式等の譲渡による所得は、特定口座外の取引と区分して計算され、その計算は金融商品取引業者等が行います国税庁 No.1476 特定口座制度。

つまり、証券会社が計算してくれるのはその会社の特定口座の中だけです。A証券はB証券の取引内容を把握していないため、A証券で出た利益とB証券で出た損失を、どちらかの証券会社が自動で相殺することはありません。

特定口座の種類と申告の要否

特定口座には「源泉徴収あり(源泉徴収口座)」と「源泉徴収なし(簡易申告口座)」があり、特定口座以外の「一般口座」とは手間が大きく異なります国税庁 株式・配当・利子と税。

特定口座
(源泉徴収あり)
売却のたびに税金が源泉徴収され、譲渡益は申告不要を選べる
特定口座
(源泉徴収なし)
金融商品取引業者等が損益を計算し、特定口座年間取引報告書で簡易に申告する
一般口座 年間の譲渡損益を自分で計算して申告する

源泉徴収ありの口座では、譲渡益に15.315%(ほかに住民税5%)の税率で所得税及び復興特別所得税が源泉徴収されます。令和9年1月1日以後に生ずる所得は、復興特別所得税の税率が1.1%に下がり、防衛特別所得税(所得税額の1%相当額)が併せて源泉徴収されますが、合計の税率は変わりません。

口座の中で完結する計算と口座をまたぐ通算

国税庁は、源泉徴収口座内の譲渡所得を他の口座の上場株式等の譲渡損益と相殺する場合や、譲渡損失の繰越控除を受ける場合には、確定申告が必要であると明記しています。同じ証券会社の口座の中で生じた利益と損失は口座内で差し引きされますが、証券会社をまたぐ相殺は申告でしかできないと理解しておくとよいでしょう。

上場株式等に係る譲渡所得等の赤字は、他の上場株式等に係る譲渡所得等の黒字から控除するのが基本の考え方です国税庁 No.1465 株式等の譲渡損失(赤字)の取扱い。申告によって、A証券の譲渡益とB証券の譲渡損失をこの枠組みの中で合算することになります。

確定申告で口座間の損益を通算する方法

源泉徴収あり口座は口座ごとに申告するか選べる

源泉徴収口座内の上場株式等の譲渡による所得は、口座ごとに「申告する」か「申告不要とする」かを選択できます。複数の源泉徴収口座を持っている場合、損失が出た口座と、その損失で相殺したい利益が出た口座だけを申告に含める、という組み立てが可能です。

反対に、損失をすべて吸収できるだけの利益がすでにある場合、さらに別の利益口座を申告に加えても税額は減りません。申告に加えた口座の所得は合計所得金額に入るため、「通算に必要な口座だけを申告する」という視点が大切です。

損失のある口座を申告するときは受け入れた配当も申告

源泉徴収口座に上場株式等の配当等を受け入れている場合、その口座の中で譲渡損失と配当等が自動的に相殺されます。注意したいのは、源泉徴収口座内の譲渡損失を申告する場合、その口座に受け入れた配当等を申告不要とすることはできない点です。損失だけを取り出して申告することはできず、同じ口座の配当等も併せて申告することになります。

上場株式等の配当(申告分離課税)との損益通算

上場株式等に係る譲渡損失は、確定申告により、その年分の上場株式等に係る配当所得等と損益通算できます。ただし対象になる配当所得は、申告分離課税を選択したものに限られます国税庁 No.1474 上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除。

また、上場株式等の配当等を申告するときは、申告する配当等の全額について総合課税か申告分離課税のどちらかに揃えて選ぶことになります。申告分離課税を選ぶと税率は20.315%で、内訳は所得税及び復興特別所得税が15.315%、地方税が5%です。この場合、配当控除は受けられません国税庁 No.1331 上場株式等の配当等に係る申告分離課税制度。

総合課税を選択 配当控除はあるが、上場株式等の譲渡損失とは損益通算できない
申告分離課税を選択 配当控除はないが、上場株式等の譲渡損失と損益通算できる
申告不要を選択 申告しないため、口座をまたいだ損益通算には使えない

配当を総合課税と申告分離課税のどちらで申告するかは、譲渡損失の有無や他の所得の水準によって有利不利が分かれます。課税方式の選び方そのものは、次のコラムで詳しく扱っています。

関連コラム配当金の確定申告、銘柄ごとに分離課税か総合課税か選べる?▸

通算できない損失

口座をまたいで申告しても、すべての損失が通算できるわけではありません。上場株式等に係る譲渡損失は一般株式等(非上場株式など)に係る譲渡所得等から控除できず、一般株式等の譲渡損失も原則として上場株式等の譲渡所得等から控除できません国税庁 No.1463 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)。

また、NISA口座(非課税口座)やジュニアNISA口座で生じた譲渡損失は、損益通算も繰越控除もできません。相対取引などにより生じた譲渡損失も対象外です。給与所得や不動産所得など、他の所得との通算もできない点に注意が必要です。

外国株を特定口座で保有している場合

外国金融商品市場において売買されている株式等も「上場株式等」に含まれます。そのため、特定口座で売買した外国株の譲渡損益は、国内株の譲渡損益と同じ枠組みで、他の証券会社の特定口座の損益と申告により通算できます。

外国株の配当は、現地で外国の税金が差し引かれていることがあります。外国で納付した所得税に相当する税金は、一定の控除限度額の範囲で所得税額から差し引く外国税額控除の対象になり得ます国税庁 No.1240 居住者に係る外国税額控除。外国株の配当がある口座を申告に含めるかどうかは、譲渡損益の通算とあわせて検討するとよいでしょう。

通算しきれない損失の3年繰越

口座をまたいで通算してもなお控除しきれない譲渡損失は、翌年以後3年間、確定申告により上場株式等に係る譲渡所得等と上場株式等に係る配当所得等から繰越控除できます。

見落としやすいのは手続面です。損失が生じた年に付表と計算明細書を添付した確定申告書を提出し、その後の年も連続して確定申告書を提出する必要があります。国税庁は、上場株式等の譲渡がなかった年も、損失を翌年へ繰り越すための申告が必要であると注記しています。1年でも申告が途切れると、その後は繰越控除を受けられなくなるおそれがあります。

関連コラム特定口座の譲渡損失は配当所得と損益通算・繰越できる?条件を解説▸

申告前に確認したい住民税と合計所得金額への影響

住民税の課税方式は所得税と一致

以前は、上場株式等の配当所得等や譲渡所得等について、所得税と個人住民税で異なる課税方式を選ぶ余地がありました。現在は、令和6年度の個人住民税から、所得税等の確定申告で選択した課税方式が個人住民税にもそのまま適用されます国税庁 お知らせ。

配当所得等については総合課税・申告分離課税・確定申告不要制度、譲渡所得等については申告分離課税・確定申告不要制度のうち、所得税で選んだものが住民税でも使われます。「所得税だけ申告して住民税は申告不要にする」という使い分けはできない前提で判断してください。

合計所得金額に含まれることの影響

確定申告をしない(確定申告不要制度を適用した)上場株式等の配当等は合計所得金額に含まれませんが、総合課税・申告分離課税で申告すると、扶養控除等の判定に使う合計所得金額に含まれます。譲渡損失の繰越控除を受けている場合、合計所得金額は繰越控除の適用前の金額で判定される点にも注意が必要です。

たとえば、ご家族の扶養に入っている方や、配偶者控除の対象になっている方が利益の出た口座を申告に含めると、扶養する側の控除に影響することがあります。税額が数万円下がっても、家族全体では負担が増える場面もあるため、申告に含める口座は世帯単位で確認するのが安全です。

選択した方式は後から変えられない

上場株式等の配当等について、申告不要・申告分離課税・総合課税のいずれによるかは確定申告で選択します。確定申告で選択した、または選択しなかった方法は、その後の修正申告や更正の請求で変更できません。「申告してから扶養の判定に影響すると気づいた」「申告不要にした配当を後から申告分離課税に変えたい」という事態を避けるため、提出前に口座ごと・配当ごとの扱いを確定させておくことが重要です。

年間取引報告書を使った申告の進め方

特定口座の損益は、金融商品取引業者等から送られる特定口座年間取引報告書に集計されています。複数の証券会社で申告する場合は、口座ごとの報告書を手元にそろえることが出発点です。

  1. 各証券会社の特定口座年間取引報告書を集め、口座ごとの譲渡損益・配当等・源泉徴収税額を一覧にする
  2. 損失が出た口座と、その損失で相殺したい利益が出た口座を決める(申告に含める口座の選択)
  3. 損失口座に配当等を受け入れていれば、その配当等も併せて申告する前提で集計する
  4. 口座外の配当を申告分離課税で申告するかどうかを決める(申告する配当は全額同じ方式)
  5. 確定申告書に付表(上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除用)と株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書を添付して提出する
  6. 控除しきれない損失がある場合は、翌年以後も連続して申告する予定を立てる

確定申告は、1月1日から12月31日までの1年間の所得と税額を確定させ、源泉徴収された税金との過不足を精算する手続です国税庁 No.2020 確定申告。源泉徴収口座で引かれた税金のうち、通算によって払いすぎとなった部分は、この精算の中で還付されます。

実務での取り扱い例

実務でよくご相談いただくのが、3社の証券会社に源泉徴収ありの特定口座を持ち、利益と損失が混在しているケースです。次の設例(令和8年分を想定。配当等の受入れはなし)で、申告に含める口座の選び方を確認します。

A証券
(源泉徴収あり)
譲渡益120万円・源泉徴収された所得税等18万3,780円
B証券
(源泉徴収あり)
譲渡損失80万円・源泉徴収税額なし
C証券
(源泉徴収あり)
譲渡益30万円・源泉徴収された所得税等4万5,945円

B証券の損失80万円は、A証券の利益120万円だけで吸収できます。そこで、A証券とB証券の2口座だけを申告し、C証券は申告不要のままとします。

A証券の譲渡益120万円 − B証券の譲渡損失80万円 = 通算後の譲渡所得等40万円
通算後の譲渡所得等40万円 × 15.315% = 所得税等6万1,260円
A証券で源泉徴収された18万3,780円 − 申告後の所得税等6万1,260円 = 還付される所得税等12万2,520円

C証券まで申告に含めても、B証券の損失はすでにA証券の利益で使い切っているため、所得税等は減りません。それどころか、C証券の利益30万円が合計所得金額に加わり、扶養控除等の判定に影響するおそれがあります。実務では、損失を吸収できる最小限の口座の組み合わせを先に決めてから申告書を作るようにしています。

なお、損失口座に配当等を受け入れていた場合は、その配当等も申告に含める必要があり、計算の組み立てが変わります。前年以前から繰り越している損失がある方も、連続申告の要件を満たしているかを含めて確認が必要です。

まとめ

複数の証券会社に特定口座がある場合、口座どうしの損益は自動では通算されず、確定申告(申告分離課税)で通算します。源泉徴収ありの口座は口座ごとに申告するかを選べるため、損失口座と、その損失を吸収できる利益口座を組み合わせて申告するのが基本です。

  • 特定口座は1つの金融商品取引業者等につき1口座で、計算は口座内で完結する
  • 口座をまたぐ損益通算・繰越控除には確定申告が必要
  • 損失口座を申告するときは、その口座で受け入れた配当等も申告する
  • 配当と通算できるのは申告分離課税を選択した上場株式等の配当等だけ
  • 通算しきれない損失は3年間繰り越せるが、毎年連続して申告が必要
  • 所得税で選んだ課税方式は住民税にも適用され、申告した所得は合計所得金額に入る
  • 確定申告で選んだ方式は、修正申告や更正の請求で変更できない

どの口座を申告に含めるかは、税額だけでなくご家族の扶養や翌年以後の繰越まで含めて判断する必要があります。具体的なケースは税理士へのご相談をおすすめします。所得税の実務でお困りの際は、まずは税理士にご相談ください。

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参考文献

特定口座が複数ある場合の損益通算と確定申告のよくある質問まとめ

Q.複数の証券会社の特定口座の損益は自動で通算されますか?

A.自動では通算されません。証券会社が計算するのは自社の特定口座の中だけなので、口座をまたいで損益を相殺するには確定申告が必要です。

Q.源泉徴収ありの口座は全部申告しなければいけませんか?

A.いいえ。源泉徴収ありの口座は、口座ごとに申告するか申告不要とするかを選べます。損失口座と、その損失を吸収できる利益口座だけを申告することも可能です。

Q.特定口座のマイナスを確定申告すると何が戻りますか?

A.他の口座の利益と通算した結果、源泉徴収された所得税等が払いすぎになっていれば、その部分が確定申告で還付されます。

Q.配当所得と損益通算するにはどの課税方式を選びますか?

A.上場株式等の配当等について申告分離課税を選択した場合に限り、上場株式等の譲渡損失と損益通算できます。総合課税を選んだ配当とは通算できません。

Q.外国株の特定口座の損益も通算できますか?

A.外国金融商品市場で売買されている株式等も上場株式等に含まれるため、特定口座で売買した外国株の譲渡損益も、他の口座の上場株式等の損益と申告により通算できます。

Q.確定申告をすると扶養に影響しますか?

A.総合課税や申告分離課税で申告した所得は、扶養控除等の判定に使う合計所得金額に含まれます。申告に含める口座は、世帯全体への影響も確認して決めることをおすすめします。

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