賃貸アパートやマンションを所有していると、令和8年度税制改正で相続税評価がどう変わるのかが気になるところだと思います。結論として、令和8年度税制改正の大綱では、貸付用不動産(賃貸不動産)の相続税評価を「通常の取引価額に相当する金額」で行う見直しが示されました財務省 令和8年度税制改正の大綱。ただし現時点は大綱の段階であり、細かな線引きは今後の法案と通達で定まります。
この記事では、大綱に書かれている内容だけを根拠に、何がどう変わるのか、いつから誰が対象になるのか、現行の貸家建付地評価などとどう違うのかを順に整理します。そのうえで、すでに賃貸不動産をお持ちの方や購入を検討中の方が、いま何を確認しておくべきかをまとめます。大綱に書かれていない部分は「まだ決まっていない」とはっきりお伝えします。
令和8年度税制改正における賃貸不動産評価の要点
令和8年度税制改正の大綱は、令和7年12月26日に閣議決定されました財務省 令和8年度税制改正の大綱の概要。このうち資産課税の項目に「相続税等の財産評価の適正化」が置かれ、賃貸不動産の評価に関する見直しが示されています。
大綱は、見直しの理由を「相続税法の時価主義の下、貸付用不動産の市場価格と相続税評価額との乖離の実態を踏まえ、その取引実態等を考慮し」と説明しています。つまり、市場で売買される価格と、路線価や固定資産税評価額をもとに計算した相続税評価額との開きが大きい点が問題視されたということです。
| 見直しの対象 | 貸付用不動産(賃貸の用に供されている不動産) |
|---|---|
| 見直し後の評価 | 課税時期における通常の取引価額に相当する金額 |
| 2つの類型 | 取得・新築から5年以内のもの/不動産特定共同事業契約等に基づく権利の目的となっているもの |
| 適用時期 | 令和9年1月1日以後に相続等により取得をする財産の評価 |
なお大綱は改正の方向性を示す文書であり、条文そのものではありません。「一定の貸付用不動産」といった範囲の細部は、今後の法律案と国税庁の通達で確定します。この記事でも、大綱で確認できない事項は断定を避けています。
現行の賃貸不動産の相続税評価
見直しの意味を理解するには、まず現行の評価方法を押さえておくと分かりやすくなります。賃貸不動産は土地と建物を分けて評価し、いずれも賃貸に出していることによる利用の制約を反映して、自分で使っている場合より低い評価額になります。
土地の評価
アパートやビルを建てて他に貸し付けている場合、その敷地は貸家建付地として評価します国税庁 No.4614 貸家建付地の評価。自用地としての価額から、借地権割合・借家権割合・賃貸割合を掛けた金額を控除します。
自用地としての価額は、市街地なら路線価方式で計算するのが基本です。路線価に奥行価格補正率などを乗じて1平方メートル当たりの価額を求め、地積を掛けて評価額を出します国税庁 No.4604 路線価方式による宅地の評価。借地権割合と借家権割合は、国税庁の財産評価基準書で確認できます。
関連コラム相続税の土地評価|路線価方式と倍率方式の計算方法と減額要素▸
建物の評価
賃貸に出している家屋は貸家として評価します。家屋の固定資産税評価額から、借家権割合と賃貸割合を乗じた金額を控除した価額が評価額です国税庁 No.4602 土地家屋の評価。
国税庁の説明では、家屋の固定資産税評価額が1,000千円、借家権割合が30パーセントの地域、賃貸割合が100パーセントの場合、財産評価額は700千円になります。建物の建築費と固定資産税評価額には差があることが多く、ここでも市場価格との開きが生まれやすくなります。
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大綱で示された見直しの内容
大綱は、貸付用不動産の評価について2つの類型を挙げています。どちらも共通して、課税時期における通常の取引価額に相当する金額によって評価するという整理です。
取得・新築から5年以内の貸付用不動産
1つ目は、被相続人等が課税時期前5年以内に対価を伴う取引により取得または新築をした一定の貸付用不動産です。これらは、課税時期における通常の取引価額に相当する金額によって評価するとされています。相続開始の直前に賃貸不動産を購入するといった取得のタイミングに着目した内容です。
大綱には注書きが付いており、この通常の取引価額に相当する金額は、課税上の弊害がない限り、被相続人等が取得等をした貸付用不動産に係る取得価額を基に地価の変動等を考慮して計算した価額の100分の80に相当する金額によって評価することができるとされています。取得価額を出発点に地価の変動等を織り込み、その8割を用いる考え方です。
不動産小口化商品等に係る貸付用不動産
2つ目は、不動産特定共同事業契約または信託受益権に係る金融商品取引契約のうち一定のものに基づく権利の目的となっている貸付用不動産です。こちらはその取得の時期にかかわらず、課税時期における通常の取引価額に相当する金額によって評価するとされています。いわゆる不動産の小口化商品などが念頭に置かれた類型と読めます。
この類型にも注書きがあり、課税上の弊害がない限り、出資者等の求めに応じて事業者等が示した適正な処分価格・買取価格等、事業者等が把握している適正な売買実例価額、または定期報告書等に記載された不動産の価格等を参酌して求めた金額によって評価することができるとされています。これらに該当するものがないと認められる場合には、取得時期や評価の安全性を考慮して1つ目の類型に準じて評価します。
適用時期と経過的な取扱い
大綱の注書きでは、この改正は令和9年1月1日以後に相続等により取得をする財産の評価に適用するとされています。相続が開始した日ではなく、相続等により財産を取得する時点が基準になる書きぶりです。
あわせて、5年以内の取得・新築に関する1つ目の類型については例外が置かれています。当該改正を通達に定める日までに、被相続人等がその所有する土地(同日の5年前から所有しているものに限ります)に新築をした家屋(同日において建築中のものを含みます)には適用しない、という内容です。長く所有してきた土地の上に建てた賃貸建物を一定の範囲で除く趣旨と読めますが、基準となる「通達に定める日」がいつになるかは大綱では示されていません。
したがって現時点では、適用開始が令和9年1月1日以後であること、例外の枠組みが置かれることまでは確定的に言えますが、具体的な日付や「一定の」という限定の中身は今後の公表を待つ必要があります。
対象範囲の判定にあたり確認すべき事項
自分の保有する物件が対象になるかを見極めるには、大綱の文言に沿って事実関係を整理しておくことが出発点になります。判定そのものは法案と通達を待つ必要がありますが、確認しておくべき材料は今から揃えられます。
- 物件ごとの取得日または新築日と、対価を伴う取引であったかどうか
- 取得価額が分かる売買契約書、工事請負契約書、決済書類の保管状況
- 土地をいつから所有しているか(先代からの相続で取得したのか、購入したのか)
- 建物を自ら新築したのか、建物付きで購入したのか
- 賃貸の用に供している部分と、自ら使用している部分の区分
- 不動産特定共同事業契約や信託受益権の形で保有している持分の有無
とくに、土地の所有開始時期と建物の新築時期は、大綱の例外規定に直接かかわる部分です。古くからの地主の方が自分の土地にアパートを建てたケースと、収益物件を一棟まるごと購入したケースとでは、示されている取扱いが異なる可能性があります。
また、不動産の小口化商品は取得時期にかかわらず通常の取引価額で評価するとされているため、購入した時期が古くても影響を受け得ます。契約書や定期報告書を手元で確認できる状態にしておくと、実際の評価の場面で慌てずに済みます。
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現行評価との差が生じる場面
見直しの影響の大きさは、現行の評価額と取得価額との開きがどれくらいあるかで決まります。仮の設例で、差がどのように生じるかを確認してみます。以下は考え方を示すための数値であり、実際の評価額を保証するものではありません。
設例として、自用地としての価額が1億円、借地権割合70パーセント、借家権割合30パーセント、賃貸割合100パーセントの土地に、固定資産税評価額5,000万円の賃貸建物が建っている場合を考えます。
この物件を2億円で購入していたとします。大綱の注書きに沿って、取得価額を基に地価の変動等を考慮して計算した価額が2億円のままだったと仮定すると、その100分の80は次のようになります。
この設例では、現行の1億1,400万円に対して1億6,000万円となり、評価額の水準が変わります。取得価額と現行の相続税評価額の開きが大きい物件ほど、見直しの影響も大きくなるという関係です。逆に、開きが小さい物件では影響は限定的と考えられます。
区分所有マンションで先行した評価の適正化
市場価格と相続税評価額の乖離への対応は、今回が初めてではありません。令和6年1月1日以後に相続、遺贈または贈与により取得した居住用の区分所有財産、いわゆる分譲マンションについては、区分所有補正率を用いる評価方法がすでに導入されています国税庁 No.4667 居住用の区分所有財産の評価。
この通達では、区分所有権と敷地利用権の価額に区分所有補正率を乗じて評価します。区分所有財産が貸家および貸家建付地である場合の評価も、この算式で計算した価額を基に行うこととされています。分譲マンションで先に手当てされた考え方が、貸付用不動産全体に広がる流れと捉えると、今回の見直しの位置づけが理解しやすくなります。
関連コラムマンション相続税評価2024改正の計算方法を解説▸
賃貸不動産の保有者と購入検討者が考えるべきこと
大綱の段階で確定していない部分がある以上、いま急いで物件を手放したり、逆に駆け込みで購入したりといった極端な判断は避けたほうが無難です。そのうえで、立場ごとに整理しておくとよい点があります。
すでに賃貸不動産をお持ちの方は、まず物件ごとの取得日・取得価額・土地の所有開始時期を一覧にすることをおすすめします。相続が発生してから契約書を探すのは大変ですし、取得価額が分からないと大綱の注書きにある計算方法も使いにくくなります。書類の所在を家族と共有しておくことも有効です。
これから購入を検討している方は、購入価格と相続税評価額の差だけを頼りにした資金計画を見直しておくと安心です。賃貸不動産は評価以外に、賃料収入、空室リスク、修繕負担、遺産分割のしやすさといった要素も伴います。評価の前提が変わっても揺らがない目的があるかどうかを、いま一度確認しておきたいところです。
なお、貸付事業用宅地等について200平方メートルまで50パーセントを減額する小規模宅地等の特例は、評価額を算出した後に適用する制度です国税庁 No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)。令和8年度税制改正の大綱には、この特例の減額割合や限度面積を見直す内容は示されていません。
関連コラム令和8年度税制改正 貸付用不動産の相続税評価見直しと5年ルール▸
まとめ
令和8年度税制改正の大綱では、貸付用不動産の市場価格と相続税評価額との乖離を踏まえ、課税時期における通常の取引価額に相当する金額で評価する見直しが示されました。対象は、課税時期前5年以内に対価を伴う取引により取得または新築をした一定の貸付用不動産と、不動産特定共同事業契約等に基づく権利の目的となっている貸付用不動産の2類型です。
適用は令和9年1月1日以後に相続等により取得をする財産の評価からで、通達に定める日までに自己所有の土地に新築した家屋を除く例外も置かれています。一方で「一定の」という限定の中身や通達に定める日そのものは大綱では示されておらず、今後の法案と通達で確定します。
影響の大きさは物件ごとの取得価額と現行評価額の開きによって変わります。判断に迷う場面も多いため、具体的なケースは税理士へのご相談をおすすめします。
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参考文献
- 財務省 令和8年度税制改正の大綱
- 財務省 令和8年度税制改正の大綱の概要
- 国税庁 No.4614 貸家建付地の評価
- 国税庁 No.4604 路線価方式による宅地の評価
- 国税庁 No.4602 土地家屋の評価
- 国税庁 No.4667 居住用の区分所有財産の評価
- 国税庁 No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)
賃貸不動産の相続税評価改正のよくある質問まとめ
Q.賃貸不動産の相続税評価はいつから変わりますか。
A.令和8年度税制改正の大綱では、令和9年1月1日以後に相続等により取得をする財産の評価に適用するとされています。大綱の段階のため、詳細は今後の法案と通達で定まります。
Q.見直しの対象になる不動産は何ですか。
A.課税時期前5年以内に対価を伴う取引により取得または新築をした一定の貸付用不動産と、不動産特定共同事業契約または信託受益権に係る金融商品取引契約のうち一定のものに基づく権利の目的となっている貸付用不動産の2類型です。
Q.見直し後はどのように評価しますか。
A.課税時期における通常の取引価額に相当する金額によって評価します。課税上の弊害がない限り、取得価額を基に地価の変動等を考慮して計算した価額の100分の80に相当する金額によることができるとされています。
Q.昔から持っている土地に建てたアパートも対象ですか。
A.大綱では、改正を通達に定める日までに、その日の5年前から所有している土地に新築をした家屋には5年以内取得の取扱いを適用しないとされています。通達に定める日は大綱では示されていません。
Q.不動産の小口化商品も影響を受けますか。
A.不動産特定共同事業契約等に基づく権利の目的となっている貸付用不動産は、取得の時期にかかわらず通常の取引価額に相当する金額で評価するとされています。購入時期が古くても影響を受け得ます。
Q.現行の貸家建付地の評価はどうなりますか。
A.現行は自用地としての価額から借地権割合・借家権割合・賃貸割合を乗じた金額を控除して評価します。大綱の見直しは対象となる貸付用不動産の評価方法を改めるもので、対象外の不動産の取扱いまでは示されていません。


