生前贈与加算とは、亡くなった方(被相続人)から生前に受けた贈与のうち一定期間内のものを、相続税の課税価格に足し戻す仕組みです。令和5年度の税制改正でこの期間が3年から7年へ延長され、生前対策の前提が大きく変わりました。
ところが「7年加算はいつから始まるのか」という点は、非常に誤解の多いところです。「2024年から7年さかのぼられる」と理解している方が少なくありませんが、これは正確ではありません。実際には長い経過措置が置かれており、2026年(令和8年)中に相続が発生した場合の加算期間は、従来どおり3年のままです。丸7年の加算が完成するのは2031年(令和13年)1月1日以後に相続が開始したときからです。
この記事では、生前贈与加算という制度そのものと、7年への延長がいつから適用されるのかを、相続開始年別の早見表で整理します。あわせて、延長された4年分に設けられた100万円の控除、加算の対象になる人とならない人、相続時精算課税との関係まで、2026年9月時点の国税庁の公表資料に基づいて解説します。
生前贈与加算の基本
まず、制度の輪郭をつかんでおきましょう。生前贈与加算は、相続税を減らす目的で亡くなる直前に財産を移すことを防ぐために設けられた規定です。相続税法に定めがあります。e-Gov法令検索 相続税法第19条
制度の概要
相続、遺贈または相続時精算課税に係る贈与によって財産を取得した人が、被相続人から加算対象期間のあいだに暦年課税による贈与で取得した財産があるときは、その財産の贈与時の価額を相続税の課税価格に加算します。加算対象期間とは、相続税の課税価格に加算される暦年課税の贈与の対象期間のことです。国税庁 No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)
ここでいう暦年課税とは、1月1日から12月31日までの1年間に受けた贈与の合計額から基礎控除額110万円を差し引いて贈与税を計算する、贈与税の原則的な課税方法です。国税庁 No.4402 贈与税がかかる場合
なお、加算された贈与財産に対応する贈与税をすでに納めている場合、その贈与税額は相続税の計算上、控除されます。したがって、同じ財産に贈与税と相続税が二重にかかるわけではありません。「加算されると税金を二度払うことになる」という心配は不要です。
加算される財産と加算されない財産
加算の対象になるのは、被相続人から暦年課税による贈与で取得した財産のうち、加算対象期間内に贈与されたものです。重要なのは、贈与税がかかったかどうかを問わないという点です。基礎控除額110万円以下で贈与税がかからなかった贈与や、亡くなった年に行われた贈与の価額も、すべて加算の対象になります。
一方で、生前に贈与された財産であっても、次のものは加算する必要がありません。
- 贈与税の配偶者控除の適用を受けている、または受けようとする財産のうち、その配偶者控除額に相当する金額
- 直系尊属から贈与を受けた住宅取得等資金のうち、非課税の適用を受けた金額
- 直系尊属から一括贈与を受けた教育資金のうち、非課税の適用を受けた金額
- 直系尊属から一括贈与を受けた結婚・子育て資金のうち、非課税の適用を受けた金額
このうち贈与税の配偶者控除は、婚姻期間が20年を過ぎた夫婦の間で居住用不動産またはその取得資金の贈与があった場合に、基礎控除額110万円のほかに最高2,000万円まで控除できる特例です。この控除額に相当する部分は、亡くなる直前の贈与であっても加算されません。国税庁 No.4452 夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除
なお、教育資金や結婚・子育て資金の一括贈与については、贈与者が亡くなった時点の管理残額が、相続等により取得したものとみなして相続税の課税価格に加算される場合があります。非課税の適用を受けた金額そのものは加算されませんが、使い残しの扱いは別に検討が必要です。
7年への延長の適用開始時期
ここからが本題です。「いつから7年になるのか」を正しく押さえるには、贈与の時期と相続開始の時期という2つの軸を分けて考える必要があります。
対象は令和6年1月1日以後の贈与
延長の対象になるのは、令和6年(2024年)1月1日以後の暦年課税による贈与で取得した財産です。この日以後の贈与について、加算対象期間が相続開始前7年以内となります。
裏を返すと、令和5年(2023年)12月31日以前に行われた贈与は、何年経っても3年ルールのままということです。2023年以前に済ませた贈与が、後から7年さかのぼって加算されることはありません。ここが最初のつまずきどころですので、まず押さえてください。
そして、実際に何年分が加算されるかは、被相続人の相続開始日によって段階的に決まります。2024年に贈与を始めた方が2026年に亡くなったとしても、いきなり7年分が加算されるわけではありません。
相続開始日別の加算対象期間早見表
被相続人の相続開始日に応じた加算対象期間は、国税庁のタックスアンサーで次のとおり示されています。
| ~令和8年12月31日 (2026年12月31日まで) |
相続開始前3年以内(死亡の日から遡って3年前の日から死亡の日までの間) |
|---|---|
| 令和9年1月1日~ 令和12年12月31日 |
令和6年1月1日から死亡の日までの間 |
| 令和13年1月1日~ (2031年1月1日以後) |
相続開始前7年以内(死亡の日から遡って7年前の日から死亡の日までの間) |
この表が示しているのは、加算期間は2024年からいきなり7年になるのではなく、2027年から2030年にかけて1年ずつ伸びていくという仕組みです。令和9年から令和12年までの欄が「令和6年1月1日から死亡の日まで」という固定の起点になっているのは、令和5年以前の贈与を加算対象から除くためです。結果として、この期間の加算年数は3年超7年未満の範囲で少しずつ長くなります。
経過措置の具体的な読み方
早見表だけでは実感がつかみにくいため、年ごとに具体的な形で確認しておきましょう。
2026年中に相続が発生した場合
この記事の執筆時点である2026年(令和8年)に相続が開始した場合、加算対象期間は相続開始前3年以内です。改正前とまったく同じ扱いになります。たとえば2026年9月に亡くなった場合、加算されるのは2023年9月から2026年9月までに受けた贈与です。
「もう7年ルールが始まっているから、いま贈与しても無駄ではないか」というご相談をよくいただきますが、少なくとも2026年中に相続が発生する限り、加算されるのは直近3年分だけです。制度の移行期にあることを踏まえて、贈与の判断を止めてしまわないことが大切です。
2027年から2030年に相続が発生した場合
令和9年(2027年)1月1日から令和12年(2030年)12月31日までに相続が開始した場合、加算対象期間は令和6年1月1日から死亡の日までです。起点が令和6年1月1日に固定されているため、相続が後ろになるほど加算される年数が長くなります。
たとえば2027年6月に亡くなった場合、加算対象は2024年1月1日から2027年6月までの約3年6か月分です。2030年6月に亡くなった場合であれば、2024年1月1日から2030年6月までの約6年6か月分が加算されます。単純に「相続開始前○年」と数えるのではなく、2024年1月1日という壁から先だけを数えるという理解が正確です。
2031年以降の完全な7年加算
令和13年(2031年)1月1日以後に相続が開始した場合、はじめて相続開始前7年以内という本則どおりの加算になります。この時点では、7年前の日がすでに令和6年1月1日より後になるため、経過措置による起点の固定が意味を持たなくなるからです。
つまり、「生前贈与加算が完全に7年になるのはいつからか」という問いへの答えは、2031年1月1日以後に発生する相続からということになります。制度改正の公表から実際の完成まで、8年近い移行期間が置かれている計算です。
関連コラム暦年贈与とは?110万円の非課税枠と7年加算の注意点▸
延長4年分に適用される100万円控除
加算期間の延長は納税者にとって負担増となるため、緩和措置が設けられています。相続開始の日が令和9年1月2日以後の場合、加算対象期間内に取得した財産のうち相続開始前3年以内に取得した財産以外のもの、つまり延長された部分については、その贈与時の価額の合計額から総額100万円までが相続税の課税価格に加算されません。
ここで注意していただきたい点が3つあります。
- 控除の対象は延長部分だけであり、直近3年以内の贈与には適用されない
- 年間100万円ではなく、延長部分の全期間を通じて総額100万円である
- 適用されるのは相続開始の日が令和9年1月2日以後の場合であり、令和9年1月1日に相続が開始したケースは含まれない
実際の加算額は、次のように計算します。
たとえば2031年3月に相続が開始し、直近3年以内に300万円、それ以前の延長4年分に400万円の贈与があったとします。この場合、延長部分の加算額は400万円から100万円を差し引いた300万円となり、加算額の合計は600万円です。
控除額が総額で100万円にとどまるため、緩和の効果はそれほど大きくありません。延長された4年分の贈与についても、原則としてほぼ全額が相続財産に戻ってくると考えて対策を組み立てるのが現実的です。
加算の対象になる人とならない人
生前贈与加算をめぐる誤解のうち、期間の次に多いのが対象者の範囲です。贈与を受けた人であれば誰でも加算される、というわけではありません。
対象になる人
加算の対象になるのは、相続または遺贈により財産を取得した人で、その被相続人から加算対象期間内に暦年課税による贈与で財産を取得した人です。具体的には次のような方が該当します。
- 遺産分割によって財産を取得した相続人
- 遺言により財産を取得した受遺者(相続人でない孫や第三者を含む)
- 死亡保険金や死亡退職金など、みなし相続財産を取得した人
- 相続時精算課税に係る贈与によって財産を取得している人
3つめの死亡保険金は見落とされがちです。被相続人が保険料を負担していた生命保険金は、相続等により取得したとみなされて相続税の課税対象になります。国税庁 No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金したがって、遺産分割では何も受け取らない孫であっても、保険金の受取人になっていれば生前贈与加算の対象に含まれることになります。
対象にならない人
逆に、相続や遺贈によって財産をまったく取得しない人への贈与は、加算の対象になりません。典型的なのが、相続人ではない孫への贈与です。
相続人の範囲は民法で定められており、配偶者は常に相続人となり、それ以外は子、直系尊属、兄弟姉妹の順で相続人になります。国税庁 No.4132 相続人の範囲と法定相続分子が健在であれば孫は相続人になりませんので、遺言でも保険金でも財産を受け取らない限り、孫への贈与は加算されません。
同様に、子の配偶者(義理の息子や娘)への贈与も、遺贈や保険金がなければ加算の対象外です。加算期間が7年に延びていく局面では、相続人以外の世代へ贈与先を広げることの意味が相対的に大きくなるといえます。
ただし、相続を放棄した人が死亡保険金を受け取ったケースなど、判断が分かれる場面もあります。孫養子とした場合は相続人になりますので、加算対象に変わる点にもご注意ください。
相続時精算課税との関係
暦年課税と並ぶもう一つの選択肢が相続時精算課税です。原則として60歳以上の父母または祖父母などから、18歳以上の子または孫などへの贈与について選択できる制度で、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までに選択届出書を提出する必要があります。国税庁 No.4103 相続時精算課税の選択
この制度を選択した場合、贈与財産は年数にかかわらずすべて相続税の計算に取り込まれます。したがって、7年という加算期間の議論は相続時精算課税には当てはまりません。
一方で、令和6年1月1日以後の贈与については、相続時精算課税にも年110万円の基礎控除が設けられました。贈与を受けた年分ごとに、贈与時の価額の合計額からこの基礎控除額を差し引いた残額が相続税の課税価格に加算されます。基礎控除の範囲内で贈与した部分は、相続時に加算されません。
暦年課税では110万円以下の贈与も7年分すべてが加算されるのに対し、相続時精算課税では110万円以下の部分が恒久的に加算されないという、逆転した関係になっています。加算期間の延長によって、相続時精算課税を選ぶ実益が増したのはこのためです。
なお、相続時精算課税は贈与者ごとに選択でき、一度選ぶとその贈与者からの贈与について暦年課税へ戻すことはできません。慎重な判断が必要です。
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実務上の留意点
制度の理解に加えて、実際の手続きで気をつけたい点を整理します。
第一に、贈与の記録を長期にわたって残しておくことです。加算期間が最長7年になると、相続税の申告時に7年分の贈与を洗い出す必要があります。贈与契約書、預金通帳の入出金記録、贈与税の申告書控えを、贈与のたびに保管しておいてください。記録が残っていないと、加算漏れによる修正申告や、逆に納めた贈与税の控除を受けられない事態につながります。
第二に、加算されるのは贈与時の価額であるという点です。相続時の時価ではありません。株式や不動産のように価額が変動する財産を贈与した場合、その後値上がりしても加算額は贈与時の価額に据え置かれます。値上がりが見込まれる財産の生前贈与には、この点でなお意味があります。
第三に、申告期限です。相続税の申告は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内に行います。国税庁 No.4205 相続税の申告と納税7年分の贈与を確認する作業は想像以上に時間がかかりますので、早めの着手をおすすめします。
第四に、生前贈与加算によって課税価格が増えた結果、基礎控除額を超えて相続税の申告が必要になるケースがある点です。加算前は申告不要だったはずが、加算後に申告義務が生じることは珍しくありません。
まとめ
生前贈与加算の7年への延長について、要点を振り返ります。
- 延長の対象は令和6年(2024年)1月1日以後の暦年課税による贈与であり、令和5年以前の贈与は3年ルールのまま
- 2026年(令和8年)12月31日までに相続が開始した場合、加算対象期間は従来どおり相続開始前3年以内
- 令和9年から令和12年までに相続が開始した場合は、令和6年1月1日から死亡の日までが加算対象期間
- 完全な7年加算になるのは、令和13年(2031年)1月1日以後に開始した相続から
- 相続開始の日が令和9年1月2日以後であれば、延長部分から総額100万円が控除される
- 加算されるのは相続や遺贈で財産を取得した人に限られ、財産を受け取らない孫などは対象外
- 相続時精算課税を選択した贈与には加算期間の考え方が及ばず、年110万円の基礎控除内は加算されない
加算期間の延長は、生前対策を早く始めることの価値をこれまで以上に高めました。一方で、どの制度をどの相手に使うのが有利かは、財産の構成、推定相続人の顔ぶれ、ご本人の年齢によって大きく変わります。判断を誤ると、取り返しのつかない形で税負担が増えることもあります。具体的なケースは税理士へのご相談をおすすめします。
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参考文献
- 国税庁 No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)
- 国税庁 No.4402 贈与税がかかる場合
- 国税庁 No.4103 相続時精算課税の選択
- 国税庁 No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金
- 国税庁 No.4132 相続人の範囲と法定相続分
- 国税庁 No.4452 夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除
- 国税庁 No.4205 相続税の申告と納税
- e-Gov法令検索 相続税法第19条
生前贈与加算のよくある質問まとめ
Q. 生前贈与加算の7年ルールはいつから適用されますか。
A. 令和6年1月1日以後の暦年課税による贈与が延長の対象です。ただし実際の加算年数は相続開始日で決まり、令和8年12月31日までに相続が開始した場合は従来どおり3年以内、令和13年1月1日以後に開始した相続からが完全な7年以内となります。
Q. 2026年に相続が発生した場合は何年分が加算されますか。
A. 相続開始前3年以内の贈与です。2026年は令和8年にあたり、加算対象期間は死亡の日から遡って3年前の日から死亡の日までとされているため、改正前と同じ扱いになります。
Q. 2023年以前に行った贈与も7年分さかのぼって加算されますか。
A. 加算されません。延長の対象は令和6年1月1日以後の贈与に限られます。令和9年から令和12年までに相続が開始した場合の加算対象期間も、令和6年1月1日が起点となります。
Q. 延長された4年分の100万円控除はどのように使いますか。
A. 相続開始の日が令和9年1月2日以後の場合に、加算対象期間内の贈与のうち相続開始前3年以内に取得した財産以外の部分について、その合計額から総額100万円までが加算されません。年間100万円ではなく全期間を通じた総額です。
Q. 孫への贈与は生前贈与加算の対象になりますか。
A. 相続や遺贈によって財産を取得しない孫であれば対象外です。ただし遺言で財産を受け取る場合、死亡保険金の受取人になっている場合、孫養子や代襲相続人である場合は加算の対象になります。
Q. 相続時精算課税を選ぶと7年加算は関係なくなりますか。
A. 相続時精算課税を選択した贈与財産は年数にかかわらず相続税の計算に取り込まれるため、加算期間の考え方は適用されません。ただし令和6年1月1日以後の贈与については年110万円の基礎控除があり、その範囲内の部分は相続時に加算されません。


