この記事は、合同会社を設立した方・これから設立を検討している事業者、経営者、経理担当の方に向けて書いています。「定款に業務執行社員と書くべきか分からない」「代表社員とは何が違うのか」「税金の面で何が変わるのか」と迷われる方は少なくありません。
結論からお伝えします。業務執行社員とは、合同会社の業務を実際に執行する社員のことで、定款で定めなければ社員全員が業務執行社員になります。そして税務上は、業務執行社員は法人税法上の役員に当たるため、報酬は役員給与として定期同額給与などの要件を満たした場合に限って損金に算入されます。一方、出資だけをしている社員への利益の配当は、役員給与とはまったく別の扱いです。以下、会社法と税法の一次情報に沿って順に整理します。
合同会社の業務執行社員とは
合同会社では、出資者のことを「社員」と呼びます。従業員という意味の社員ではなく、株式会社でいう株主に近い立場です。合同会社の特徴は、この出資者である社員が、原則としてそのまま会社の経営(業務の執行)も担う点にあります。
社員全員が業務を執行するのが原則
会社法では、社員は定款に別段の定めがある場合を除き、持分会社の業務を執行するとされていますe-Gov法令検索 会社法第590条。社員が2人以上いる場合、業務は定款に別段の定めがない限り社員の過半数で決定し、日常的な業務(常務)は各社員が単独で行うことができます。
つまり、定款に何も書かなければ、出資した社員は全員が業務執行社員になります。「出資だけしてもらうつもりだった家族も、法律上は経営を担う立場になっていた」ということが起こり得るのはこのためです。
定款で業務執行社員を定める場合
定款で業務執行社員を特定の社員に限定すると、業務はその業務執行社員が決定します。業務執行社員が2人以上いる場合は、定款に別段の定めがない限り業務執行社員の過半数で決定します。また、定款で定めた業務執行社員は、正当な事由がなければ辞任することができず、正当な事由がある場合に限り他の社員の一致によって解任できるとされています(いずれも定款で別段の定めが可能です)e-Gov法令検索 会社法第591条。
業務執行社員を定めた場合でも、業務を執行しない社員には会社の業務や財産の状況を調査する権利が残ります。定款でこの権利を制限することはできますが、事業年度の終了時や重要な事由があるときの調査まで制限することはできませんe-Gov法令検索 会社法第592条。
代表社員との違い
業務執行社員は、原則として各自が会社を代表します。ただし、定款または定款の定めに基づく社員の互選によって、業務執行社員の中から会社を代表する社員(代表社員)を定めることができますe-Gov法令検索 会社法第599条。株式会社に置き換えると、業務執行社員は取締役、代表社員は代表取締役に近いイメージです。
なお、法人も業務執行社員になることができます。この場合、その法人は業務執行社員の職務を行うべき者(職務執行者)を選任し、その氏名と住所を他の社員に通知しなければなりませんe-Gov法令検索 会社法第598条。
| 社員 | 合同会社に出資した人(法人を含む)。定款に定めがなければ全員が業務を執行する |
|---|---|
| 業務執行社員 | 会社の業務を執行する社員。定款で一部の社員に限定できる |
| 代表社員 | 業務執行社員の中から定める、会社を代表する社員 |
| 業務を執行しない社員 | 定款で業務執行社員を定めた場合の、それ以外の社員。出資者としての権利は持つ |
| 職務執行者 | 法人が業務執行社員・代表社員になる場合に、その職務を実際に行う個人 |
関連コラム合同会社とは?社員の意味と株式会社との違い、税務上の扱いを税理士が解説▸
業務執行社員が負う義務
業務執行社員は経営を担う立場であるため、会社法上の義務も負います。まず、善良な管理者の注意をもって職務を行う義務(善管注意義務)、法令と定款を守り会社のため忠実に職務を行う義務、そして会社や他の社員から求められたときに職務の執行状況を報告する義務がありますe-Gov法令検索 会社法第593条。
また、業務執行社員は、他の社員全員の承認を受けなければ、会社の事業と同じ種類の取引をしたり、同種の事業を目的とする会社の取締役や業務執行社員になったりすることができません(定款に別段の定めがある場合を除きます)e-Gov法令検索 会社法第594条。個人事業を続けながら合同会社を設立する場合などは、この競業の制限に触れないかを確認しておくと安心です。
| 善管注意義務・忠実義務 | 善良な管理者の注意をもって、法令・定款を守り会社のために職務を行う |
|---|---|
| 報告義務 | 会社や他の社員の請求があれば職務の執行状況を報告する |
| 競業の禁止 | 同種の取引などには、他の社員全員の承認が必要 |
定款の定め方と登記
定款での定め方
業務執行社員を一部の社員に限定したい場合は、定款に「社員〇〇は業務執行社員とし、当会社の業務を執行するものとする」といった定めを置きます。代表社員を定める場合も、定款に直接書くか、定款に互選で定める旨を書いたうえで社員の互選により選びます。定款に何も書かずに複数の社員で設立すると全員が業務執行社員かつ各自が代表権を持つことになるため、設立前に「誰が経営を担うのか」を決めておくことが大切です。
登記される事項
合同会社の設立登記では、業務を執行する社員の氏名または名称、会社を代表する社員の氏名または名称と住所、代表社員が法人であるときはその職務を行うべき者の氏名と住所などを登記しますe-Gov法令検索 会社法第914条。業務執行社員は氏名(名称)だけ、代表社員は住所まで登記される点が違いです。
設立後に業務執行社員の加入や代表社員の変更があれば、変更の登記が必要になります。申請書の様式や記載例は法務局のページにまとめられています法務局 持分会社(合同会社・合名会社・合資会社)。
法人税法上の業務執行社員の扱い
ここからは税務の話です。「合同会社には取締役がいないから、役員給与のルールは関係ない」と考える方もいらっしゃいますが、そうではありません。
業務執行社員は法人税法上の役員に該当
法人税法上の役員には、取締役や監査役などのほか、法人の使用人以外の者でその法人の経営に従事しているものが含まれます。国税庁は、この「経営に従事しているもの」の例として、合名会社、合資会社および合同会社の業務執行社員を挙げています国税庁 No.5200 役員の範囲。したがって、業務執行社員や代表社員に支払う報酬は、役員給与のルールで判定することになります。
使用人兼務役員にはなれない
株式会社では、取締役が「営業部長」などを兼ね、常時使用人として働いている場合に、使用人兼務役員として使用人分の給与を役員給与の規制とは分けて扱える場合があります。しかし、合同会社の業務執行社員は使用人兼務役員になれないとされています国税庁 No.5205 役員のうち使用人兼務役員になれない人。社内で「部長」の肩書を付けても、業務執行社員である限り、支払う給与はすべて役員給与として判定されます。
関連コラム知らないと損!使用人兼務役員の報酬設定と税務上の注意点▸
業務を執行しない社員の扱い
定款で業務執行社員から外した社員は、業務執行社員であることを理由に役員とされることはありません。ただし、肩書や定款上の地位にかかわらず、実質的に法人の経営に従事していると認められる人は役員に含まれます。さらに同族会社では、使用人であっても、その人が属する出資者グループの所有割合などが一定の要件をすべて満たし、かつ会社の経営に従事している場合は、税務上の役員(いわゆるみなし役員)とされます。所有割合の要件は、第一順位から第三順位までの株主グループで初めて50パーセントを超えるグループに属していること、その人の属するグループの所有割合が10パーセントを超えていること、その人(配偶者などを含む)の所有割合が5パーセントを超えていることの3つです。
家族だけで出資している合同会社では、出資のみの社員でもこの所有割合の要件は満たしやすくなります。そのため、実際に経営の意思決定に関わっているかどうかが判断の分かれ目になります。
業務執行社員への役員給与と損金算入
損金算入できる役員給与の区分
役員に支払う給与のうち、損金の額に算入されるのは、定期同額給与、事前確定届出給与、一定の業績連動給与のいずれかに当たるものに限られます。これらに当たる給与でも、不相当に高額な部分は損金に算入されません国税庁 No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)。中小規模の合同会社で実際に使われるのは、主に定期同額給与と事前確定届出給与の2つです。
| 定期同額給与 | 1か月以下の一定の期間ごとに支給し、その事業年度の各支給時期の支給額が同額である給与 |
|---|---|
| 事前確定届出給与 | 所定の時期に確定した額を支給する旨の定めに基づく給与。同族会社では所轄税務署長への届出が必要 |
| 業績連動給与 | 利益の状況などの指標を基礎に算定する給与。同族会社は一定の完全子法人を除き損金算入の対象外 |
定期同額給与の改定時期
定期同額給与の額を変えられるのは、原則として事業年度開始の日の属する会計期間開始の日から3か月を経過する日まで(申告期限の延長の特例を受けている場合は、指定された月数に2を加えた月数)に行う改定です。このほか、職制上の地位の変更などの臨時改定事由による改定や、経営状況が著しく悪化したことなどによる減額改定も認められています。法人の一時的な資金繰りの都合や、単に業績目標に届かなかったことは、業績悪化改定事由に当たりません。
期の途中で「利益が出そうだから報酬を上げる」と増額すると、増額分が損金に算入されない可能性があります。報酬額の決め方や税務署への届出の考え方は、次のコラムで詳しく説明しています。
関連コラム合同会社の役員報酬と税務署への届出|金額の考え方を税理士が解説▸
事前確定届出給与と職務執行開始日
業務執行社員に賞与を支払う場合は、事前確定届出給与の届出が必要です。ここで合同会社に特有の論点となるのが「職務の執行の開始の日」です。合同会社には、株式会社の取締役のような任期や株主総会での選任の定めがないためです。
この点について東京国税局は、定時社員総会で業務執行社員の役員給与と賞与の支給日・支給額を総社員の同意で決定し、その総会の開催日を職務執行開始日とする事実関係のもとで、届出期限を総会の開催日から1か月を経過する日と解して差し支えないとする文書回答(令和7年2月7日)を公表しています国税庁 合同会社の社員に対して事前確定届出給与を支給する場合の税務上の取扱いについて。この回答は照会した会社の事実関係を前提にしたものなので、自社で同じ扱いにできるかは、定款や社員総会の運営とあわせて確認が必要です。
関連コラム合同会社の社員に対する事前確定届出給与の注意点と要件▸
定時社員総会の開き方や議事録の残し方は、役員給与の決定手続の証拠にもなります。
関連コラム合同会社の定時社員総会は必要?決算承認と法人税申告の期限を税理士が解説▸
利益の配当と役員給与の違い
合同会社の社員は、出資者として会社に利益の配当を請求することができ、配当の請求方法などは定款で定めることができますe-Gov法令検索 会社法第621条。役員給与が「経営という職務の対価」であるのに対し、利益の配当は「出資に対する利益の分配」であり、性質がまったく異なります。
法人税法では、法人が行う利益の分配は資本等取引に当たり、損金の額には算入されませんe-Gov法令検索 法人税法第22条。受け取った社員の側では、出資者が法人から受ける利益の配当として配当所得になります国税庁 No.1330 配当金を受け取ったとき(配当所得)。
| 支払の区分 | 税務上の扱い |
|---|---|
| 業務執行社員への役員給与 (定期同額給与などの要件を満たすもの) |
不相当に高額な部分を除き、法人の損金に算入 |
| 業務執行社員への役員給与 (要件を満たさないもの) |
法人の損金に算入されない |
| 社員への利益の配当 | 法人の損金に算入されない。受け取る社員は配当所得 |
「業務を執行しない社員にも報酬を払いたい」というご相談の中には、実は利益の配当として分配すべきもの、あるいは実際の労務の対価として給与で支払うべきものが混在していることがあります。名目ではなく、何の対価として支払うのかを整理することが出発点です。
実務での取り扱い例
よくあるケースを、数字を置いて整理してみます(金額は説明のための例です)。
| 会社 | 夫Aさんと妻Bさんの2人が出資して設立した合同会社(同族会社) |
|---|---|
| 出資 | Aさん200万円、Bさん100万円 |
| 定款の定め | Aさんを業務執行社員かつ代表社員とし、Bさんは業務を執行しない社員とする |
| Aさんの報酬 | 設立時に月額40万円と決め、毎月同額を支給 |
| Bさんの関わり | Aさんの指示で請求書の発行や経費の入力を担当 |
Aさんは業務執行社員なので、税務上は役員です。毎月同額の40万円を支給していれば定期同額給与に当たり、事業年度を通じた支給額は次のとおりです。
この480万円は、不相当に高額でない限り損金に算入されます。一方、期の途中で業績が良いからと月額を50万円に引き上げると、改定時期の要件を満たさない限り、増額した部分は損金に算入されない可能性があります。
Bさんは業務執行社員ではないため、その地位だけで役員になることはありません。ただし、夫婦で出資の100パーセントを持っているため、みなし役員の所有割合の要件は満たします。Bさんが事務作業にとどまり経営の意思決定に関わっていなければ使用人として給与を支払う余地がありますが、取引先との契約や資金の使い道を一緒に決めているような実態があれば、役員として扱われる可能性があります。また、Bさんに出資比率に応じて利益の配当をする場合、その配当は会社の損金にならず、Bさんの配当所得になります。
実務では、設立時の定款で「誰を業務執行社員にするか」を決めずに夫婦とも業務執行社員になっていた、というケースも見受けられます。その場合、Bさんも役員として扱われるため、Bさんに支払う給与にも役員給与のルールがかかります。
判断に迷いやすいポイント
業務執行社員をめぐって、事業者の方が迷いやすい点をまとめます。
- 定款に業務執行社員の定めがなく、出資者全員が業務執行社員になっていないか
- 出資のみの社員に支払っている報酬が、労務の対価なのか、利益の分配なのか
- 業務執行社員の報酬を期の途中で増額・減額していないか
- 業務執行社員に賞与を支払う場合に、事前確定届出給与の届出期限を確認しているか
- 業務執行社員に「部長」などの肩書を付け、使用人分の給与として処理していないか
どれも、定款の書き方と報酬の決め方を最初に整理しておけば避けやすい論点です。設立前後のタイミングで判断に迷う場合は、まずは税理士にご相談ください。
まとめ
合同会社の業務執行社員は、会社の業務を執行する社員であり、定款で定めなければ社員全員が該当します。代表社員は業務執行社員の中から定める会社の代表で、登記事項も異なります。
税務上、業務執行社員は法人税法上の役員に当たり、使用人兼務役員にもなれません。そのため報酬は定期同額給与や事前確定届出給与の要件を満たす形で支払う必要があります。業務を執行しない社員は直ちに役員にはなりませんが、経営への関わり方によってはみなし役員とされることがあります。利益の配当は損金にならず、受け取る社員の配当所得になる点も押さえておきましょう。
定款の定め方や報酬の決め方は会社ごとの事情で最適な形が変わります。具体的なケースは税理士へのご相談をおすすめします。
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参考文献
- e-Gov法令検索 会社法第590条
- e-Gov法令検索 会社法第591条
- e-Gov法令検索 会社法第592条
- e-Gov法令検索 会社法第599条
- e-Gov法令検索 会社法第598条
- e-Gov法令検索 会社法第593条
- e-Gov法令検索 会社法第594条
- e-Gov法令検索 会社法第914条
- 法務局 持分会社(合同会社・合名会社・合資会社)
- 国税庁 No.5200 役員の範囲
- 国税庁 No.5205 役員のうち使用人兼務役員になれない人
- 国税庁 No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)
- 国税庁 合同会社の社員に対して事前確定届出給与を支給する場合の税務上の取扱いについて
- e-Gov法令検索 会社法第621条
- e-Gov法令検索 法人税法第22条
- 国税庁 No.1330 配当金を受け取ったとき(配当所得)
合同会社の業務執行社員のよくある質問まとめ
Q.合同会社の業務執行社員と代表社員の違いは何ですか?
A.業務執行社員は会社の業務を執行する社員で、原則として各自が会社を代表します。代表社員は、定款または定款に基づく社員の互選により業務執行社員の中から定める、会社を代表する社員です。登記では業務執行社員は氏名、代表社員は氏名と住所が記録されます。
Q.定款に業務執行社員の定めがないとどうなりますか?
A.定款に別段の定めがなければ、社員全員が業務を執行し、各自が会社を代表します。出資だけをしてもらう予定の社員がいる場合は、設立前に定款で業務執行社員を定めておくことをおすすめします。
Q.業務執行社員は税務上の役員になりますか?
A.なります。国税庁は、法人税法上の役員の例として合同会社の業務執行社員を挙げています。また、業務執行社員は使用人兼務役員になれないため、支払う報酬はすべて役員給与として判定されます。
Q.業務執行社員に賞与を支払うことはできますか?
A.支払うことはできますが、損金に算入するには事前確定届出給与として、支給時期と金額をあらかじめ決めて所轄税務署長へ届け出る必要があります。合同会社では職務執行開始日の考え方が論点になるため、届出期限は個別に確認してください。
Q.業務を執行しない社員に給与を払うことはできますか?
A.実際の労務の対価であれば給与として支払う余地があります。ただし同族会社では、所有割合の要件を満たし、かつ経営に従事している社員はみなし役員とされ、役員給与のルールで判定されます。
Q.合同会社の利益の配当は会社の経費になりますか?
A.なりません。利益の配当は出資に対する利益の分配であり、法人税法上は資本等取引として損金に算入されません。受け取った社員の側では配当所得になります。


