「配当所得控除」と検索された方の多くは、所得税の配当控除について調べています。所得税法で定められた正式名称は「配当控除」で、配当所得に対して所得税額から差し引ける税額控除のことです。
この記事は、自社や上場企業から配当を受け取っている経営者・個人投資家の方に向けて、配当控除の仕組みと控除率、計算方法、対象にならない配当、確定申告での適用手順を整理したものです。
結論からお伝えすると、配当控除を受けられるのは日本国内に本店のある法人から受ける配当を、確定申告で総合課税にした場合に限られます。控除率は剰余金の配当等で原則10%、課税総所得金額等が1,000万円を超える部分に含まれる配当は5%です。申告分離課税や確定申告不要を選んだ配当、外国法人からの配当、J-REIT(投資法人)の分配金などは対象外です。
配当控除とは
「配当を受け取ったのに、なぜ税金が戻ってくることがあるのか分からない」と感じる方もいらっしゃると思います。まずは配当控除がどのような制度なのか、基本から確認します。
配当控除の仕組み
配当控除は、居住者が剰余金の配当や証券投資信託の収益の分配に係る配当所得を有する場合に、その年分の所得税額から一定額を控除する制度ですe-Gov法令検索 所得税法第92条。所得から差し引く「所得控除」ではなく、計算した所得税額から直接差し引く「税額控除」である点が特徴です。
所得控除は税率をかける前の所得を減らすものなので、税額への効果は税率によって変わります。これに対して配当控除は、計算した控除額がそのまま所得税額から差し引かれます。控除額を求める計算そのものが、この記事で解説する控除率と計算パターンです。
配当控除を受けられる配当
配当控除の対象は、日本国内に本店のある法人から受ける剰余金の配当、利益の配当、剰余金の分配、金銭の分配、証券投資信託の収益の分配などで、確定申告において総合課税の適用を受けた配当所得に限られます国税庁 No.1250 配当所得があるとき(配当控除)。
| 対象となる法人 | 日本国内に本店のある法人(外国法人からの配当は対象外) |
|---|---|
| 対象となる配当 | 剰余金の配当、利益の配当、剰余金の分配、金銭の分配、証券投資信託の収益の分配など |
| 課税方式の条件 | 確定申告で総合課税を選んだ配当所得であること |
| 手続き | 確定申告が必要 |
配当控除の控除率
配当控除の控除率は、配当の種類と、その年分の課税総所得金額等が1,000万円を超えるかどうかで変わります。1,000万円を超えたからといって配当の全額が低い率になるわけではなく、1,000万円を超える部分に含まれる配当だけが低い率になる点がポイントです。
配当の種類ごとの控除率
| 剰余金の配当等 (特定株式投資信託の収益の分配を含む) |
10%(課税総所得金額等のうち1,000万円を超える部分に相当する配当は5%) |
|---|---|
| 証券投資信託の収益の分配 | 5%(1,000万円を超える部分に相当する分配金は2.5%) |
| 特定外貨建等証券投資信託以外の 外貨建等証券投資信託の収益の分配 |
2.5%(1,000万円を超える部分に相当する分配金は1.25%) |
証券投資信託の分配金は、株式の配当よりも控除率が低く設定されています。特定外貨建等証券投資信託の収益の分配は、そもそも配当控除の対象になりません。
課税総所得金額等の範囲
1,000万円の判定に使う「課税総所得金額等」は、給与や事業の所得をまとめた課税総所得金額だけではありません。課税長期(短期)譲渡所得の金額、上場株式等に係る課税配当所得等の金額、株式等に係る課税譲渡所得等の金額、先物取引に係る課税雑所得等の金額を合計した額をいいます。
実務で見落としやすいのは、同じ年に不動産や株式を売却して大きな譲渡益が出た場合です。譲渡所得は分離課税で計算されますが、1,000万円の判定には含まれるため、配当の控除率が10%から5%に下がる部分が生じることがあります。
配当控除は算出税額が限度
配当控除の金額は、算出された所得税額が限度です。計算上の配当控除額が所得税額を上回っても、上回った部分は控除されません。他の所得が少なく所得税額そのものが小さい方は、計算上の配当控除額をすべて使い切れない場合があります。
配当控除の計算方法と計算例
ここからは、実際に配当控除の金額を計算する手順を確認します。計算の基礎になるのは配当の受取額ではなく、配当所得の金額です。
配当所得の金額の求め方
配当所得の金額は、源泉徴収税額などを差し引く前の収入金額から、株式などを取得するための借入金の利子を差し引いて計算します国税庁 No.1330 配当金を受け取ったとき(配当所得)。
差し引ける借入金の利子は、その年における株式などの保有期間に対応する部分に限られます。譲渡した株式に係るものや、確定申告をしないことを選んだ配当に係るものは差し引けません。
課税総所得金額等による4つの計算パターン
国税庁は、課税総所得金額等と配当の内訳に応じて、計算を4つのパターンに分けています。株式の配当(剰余金の配当等)だけを受け取っている方は、パターン1・3・4のいずれかに当てはまります。
- パターン1:課税総所得金額等が1,000万円以下。剰余金の配当等は10%、証券投資信託の分配金は5%。
- パターン2:課税総所得金額等が1,000万円超で、そこから証券投資信託の分配金を差し引くと1,000万円以下。剰余金の配当等は10%、証券投資信託の分配金のうち1,000万円を超える部分に相当する金額は2.5%、残りは5%。
- パターン3:課税総所得金額等から証券投資信託の分配金を差し引いても1,000万円超(パターン4を除く)。剰余金の配当等のうち1,000万円を超える部分に相当する金額は5%、残りは10%。証券投資信託の分配金は2.5%。
- パターン4:課税総所得金額等から剰余金の配当等と証券投資信託の分配金の合計を差し引いても1,000万円超。剰余金の配当等は5%、証券投資信託の分配金は2.5%。
計算例1:課税総所得金額等が1,000万円以下の場合
課税総所得金額等が700万円で、その中に総合課税で申告した上場株式の配当所得100万円と、証券投資信託の分配金に係る配当所得20万円が含まれているケースです。パターン1に当てはまります。
計算例2:1,000万円をまたぐ場合(実務の設例)
実務でご相談が多いのは、役員報酬に加えて自社から配当を受け取る経営者のケースです。次の設例で確認します(数字は説明用に設定したものです)。
| 配当以外の課税所得 | 900万円(役員報酬の給与所得から所得控除を差し引いた後) |
|---|---|
| 自社(非上場)からの配当所得 | 300万円(借入金の利子なし) |
| 証券投資信託の分配金 | なし |
| 課税総所得金額 | 1,200万円 |
課税総所得金額1,200万円は、証券投資信託の分配金(0円)を差し引いても1,000万円を超えます。一方で配当300万円を差し引くと900万円となり1,000万円以下になるため、パターン3に当てはまります。まず、5%が適用される部分を求めます。
次に、所得税の速算表で算出税額を求め、配当控除を差し引きます。課税される所得金額900万円から1,799万9,000円までの税率は33%、控除額は153万6,000円です国税庁 No.2260 所得税の税率。
このあと復興特別所得税を加え、配当の支払時に源泉徴収された税額を差し引いて、納付する税額(または還付される税額)を求めます。上場株式等以外の配当は20.42%の税率で所得税および復興特別所得税が源泉徴収されるため、この設例では次の金額が差し引かれます。
もし配当が1,000万円以下の部分にすべて収まっていれば控除額は30万円でしたが、この設例では1,000万円を超えた200万円部分が5%になり、20万円にとどまっています。役員報酬と配当の配分を考える際には、この境目も判断材料の一つになります。
配当控除の対象にならない配当
「配当なら何でも配当控除が使える」と思われがちですが、対象外となる配当は少なくありません。申告前に、手元の配当がどれに当たるかを確認しておくことが大切です。
対象外となる配当の一覧
国税庁は、次の配当などを配当控除の対象外としています。
- 外国法人から受ける配当等
- 基金利息
- 私募公社債等運用投資信託等の収益の分配に係る配当等
- 国外私募公社債等運用投資信託等の配当等
- 外国株価指数連動型特定株式投資信託の収益の分配に係る配当等
- 特定外貨建等証券投資信託の収益の分配に係る配当等
- 適格機関投資家私募による投資信託から支払を受けるべき配当等
- 特定目的信託から支払を受けるべき配当等
- 特定目的会社から支払を受けるべき配当等
- 投資法人から支払を受けるべき配当等(J-REITの分配金など)
- 確定申告不要制度を選択したもの
- 申告分離課税制度を選択したもの
個人投資家の方で特に多いのが、米国株など外国株式の配当とJ-REITの分配金を総合課税で申告すれば配当控除が使えると考えてしまうケースです。どちらも配当控除の対象にはなりません。
申告不要・申告分離課税を選んだ配当
上場株式等の配当(大口株主等が受けるものを除く)は、総合課税・申告分離課税・確定申告不要の中から課税方式を選べます。配当控除を使えるのは、このうち総合課税を選んだ場合だけです国税庁 No.1331 上場株式等の配当等に係る申告分離課税制度。
| 課税方式 | 配当控除 |
|---|---|
| 総合課税 | あり(対象外の配当を除く) |
| 申告分離課税(所得税15.315%・地方税5%) | なし |
| 確定申告不要 | なし |
注意したいのは、どの課税方式によるかは確定申告で選択し、選択した(または選択しなかった)方法は、後から修正申告や更正の請求で変更できない点です。配当控除を使うかどうかは、申告書を提出する前に決めておく必要があります。課税方式そのものの選び方は、次のコラムで詳しく解説しています。
関連コラム上場株式等の配当の申告分離課税|20.315%と総合課税の選び方を税理士が解説▸
大口株主・非上場株式の配当
経営者の方が自社から受け取る配当は、上場株式等の配当とは扱いが異なります。上場株式等以外の配当と、発行済株式等の総数等の3%以上を保有する大口株主等(同族会社を通じた保有を合算して判定する場合を含みます)が受ける上場株式等の配当は総合課税の対象となり、申告分離課税や確定申告不要制度(少額配当である場合を除く)は選べません。源泉徴収の税率は20.42%で、地方税は源泉徴収されません。
総合課税が前提になるため、日本の法人からの配当であれば、原則として配当控除の適用を検討することになります。一方、1回に支払を受ける配当の金額が次の金額以下の少額配当は、確定申告不要を選べます。
少額配当で確定申告不要を選んだ場合は、配当控除を受けられず、その配当の源泉徴収税額も所得税額から差し引けません。
確定申告で配当控除を受ける手順
配当控除は、確定申告をしなければ受けられません。申告では配当控除の額のほか、配当について源泉徴収された所得税の額も納付すべき税額の計算で差し引かれます。
手続きの流れ
- その年に受け取った配当について、支払通知書などで配当の金額と源泉徴収税額を確認します。
- 配当ごとに、配当控除の対象になるか(外国法人・投資法人などに当たらないか)を確認します。
- 上場株式等の配当は、総合課税・申告分離課税・確定申告不要のどれにするかを決めます。
- 株式などを取得するための借入金の利子があれば差し引き、配当所得の金額を計算します。
- 課税総所得金額等を求め、控除率のパターンに当てはめて配当控除の額を計算します。
- 所轄の税務署に確定申告書を提出します。国税庁の確定申告書等作成コーナーでは、画面の案内に沿って入力すると必要な付表や明細書も作成されます。
住民税との関係
本記事で解説している控除率や計算方法は、所得税の配当控除のものです。住民税は地方税のルールで別に計算されるため、所得税の控除率をそのまま当てはめないようご注意ください。所得税の確定申告と住民税の申告の関係は、次のコラムで整理しています。
関連コラム譲渡所得の住民税申告不要は使える?課税方式一致の実務を税理士が解説▸
配当控除を判断する際の実務上のポイント
配当控除は税額が下がる制度ですが、総合課税を選ぶと他の項目にも影響が出ます。控除額だけを見て課税方式を決めると、かえって負担が増えることもあります。
株式の譲渡損失との損益通算
上場株式等の譲渡損失がある場合、申告分離課税を選んだ配当所得とは損益通算ができますが、総合課税を選んだ配当所得とは損益通算ができません。同じ年に株式の売却損が出ている方は、配当控除と損益通算のどちらが有利かを比べる必要があります。
関連コラム株式の譲渡所得は申告分離課税|上場・非上場の違いと計算を税理士が解説▸
扶養の判定への影響
確定申告で総合課税や申告分離課税を選んだ配当は、扶養控除などの判定に使う合計所得金額に含まれます。確定申告不要を選んだ配当は含まれません。ご家族の扶養に入っている方が配当控除を受けるために申告すると、扶養の判定が変わる場合があります。
このように、配当控除を使うかどうかは、税率区分・譲渡損失・扶養・役員報酬とのバランスを合わせて判断する必要があります。株式や不動産の譲渡が同じ年にある場合や、自社からの配当が多い場合は、判断の分かれ目が増えます。まずは税理士にご相談ください。
まとめ
「配当所得控除」として検索されることの多い配当控除は、正式には所得税の配当控除という税額控除です。要点を整理します。
- 対象は、日本国内に本店のある法人からの配当を確定申告で総合課税にした場合だけです。
- 控除率は剰余金の配当等で10%、課税総所得金額等が1,000万円を超える部分に相当する配当は5%です(証券投資信託は5%・2.5%)。
- 1,000万円の判定には、分離課税の譲渡所得なども含まれます。
- 外国法人の配当、J-REITなど投資法人の分配金、申告分離課税・確定申告不要を選んだ配当は対象外です。
- 課税方式は後から修正申告や更正の請求で変更できないため、申告前に判断が必要です。
配当控除の有利不利は、所得の水準や同じ年の譲渡、扶養の状況によって変わります。具体的なケースは税理士へのご相談をおすすめします。
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参考文献
- e-Gov法令検索 所得税法第92条
- 国税庁 No.1250 配当所得があるとき(配当控除)
- 国税庁 No.1330 配当金を受け取ったとき(配当所得)
- 国税庁 No.1331 上場株式等の配当等に係る申告分離課税制度
- 国税庁 No.2260 所得税の税率
配当控除のよくある質問まとめ
Q.「配当所得控除」と「配当控除」は同じものですか?
A.同じものを指して検索されることが多い言葉です。所得税法で定められた名称は「配当控除」で、配当所得について所得税額から差し引く税額控除です。
Q.申告不要を選んだ配当でも配当控除は受けられますか?
A.受けられません。配当控除は確定申告で総合課税を選んだ配当所得に限られ、確定申告不要制度や申告分離課税を選んだ配当は対象外です。
Q.課税総所得金額等が1,000万円を超えると、配当控除はすべて5%になりますか?
A.すべてではありません。1,000万円を超える部分に相当する配当だけが5%となり、残りの配当は10%で計算します。配当以外の所得が1,000万円を超えている場合は、配当の全額が5%になります。
Q.米国株など外国株式の配当は配当控除の対象ですか?
A.対象になりません。配当控除の対象は日本国内に本店のある法人から受ける配当等に限られ、外国法人から受ける配当等は除かれます。
Q.J-REITの分配金は配当控除の対象ですか?
A.対象になりません。投資法人から支払を受けるべき配当等は、配当控除の対象外とされています。
Q.申告後に課税方式を総合課税に変えて配当控除を受けられますか?
A.できません。上場株式等の配当の課税方式は確定申告で選択し、選択した方法や選択しなかった方法は、修正申告や更正の請求で変更できません。申告前に判断しておく必要があります。


