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特定の事業用資産の買換え特例|要件・課税割合と届出期限を税理士が解説

目次
  1. 事業用資産の買換え特例とは|譲渡益の課税を繰り延べる制度
  2. 買換資産は売った資産の取得価額を引き継ぐ
  3. 特例を受けるための要件
  4. 個人事業主の方が使うことの多い「所有期間10年超」の組合せ
  5. 「事業用」に当たる資産・当たらない資産
  6. 譲渡所得の計算方法|課税割合20%の場合
  7. 売った金額以上の金額で買い換えたとき
  8. 売った金額より少ない金額で買い換えたとき
  9. 税額で比べると|長期譲渡所得の税率で試算
  10. 令和6年4月から必要になった届出書と提出期限
  11. 前年に先に買った場合・翌年に買う予定の場合
  12. 確定申告の添付書類と、見積額が変わったときの手続き
  13. まとめ
  14. 参考文献
  15. 事業用資産の買換え特例に関するよくある質問まとめ
  16. 事業用資産の買換え特例を使うと譲渡益は非課税になりますか?
  17. 課税割合の20%とは何ですか?
  18. 届出書はいつまでに出せばよいですか?
  19. 青空駐車場として貸していた土地は特例の対象になりますか?
  20. 翌年に買い換える予定でも特例は使えますか?

「事業で使っている土地や建物を売って、別の場所に買い換えたい。売却益にそのまま税金がかかるのは避けられないか」というご相談は、個人事業主の方や不動産を事業で使っている方から少なくありません。この記事は、事業用の土地建物の売却と買換えを検討している個人事業主・不動産オーナーの方、その経理を担当している方に向けて、「特定の事業用資産の買換えの場合の譲渡所得の課税の特例」(以下、事業用資産の買換え特例)の要件と計算、手続きを国税庁の資料に沿って整理したものです。

結論から申し上げると、この特例を使えば売却益の一部(原則80%)に対する課税を将来に繰り延べることができます。ただし、譲渡益が非課税になるわけではなく、買換資産は売った資産の取得価額を引き継ぐため、将来の減価償却費や売却時の取得費が小さくなります。また、令和6年4月1日以後の譲渡では、同じ年に売却と買換えをする場合に事前の届出書の提出が必要になっています。期限を過ぎると使えなくなるおそれがあるため、売却の段階から準備しておくことが大切です。

事業用資産の買換え特例とは|譲渡益の課税を繰り延べる制度

事業用資産の買換え特例は、個人が事業に使っている特定の地域内の土地建物等(譲渡資産)を売り、一定期間内に特定の地域内の土地建物等(買換資産)を取得して、取得の日から1年以内に事業に使ったときに、譲渡益の一部に対する課税を将来に繰り延べられる制度です国税庁 No.3405 事業用の資産を買い換えたときの特例。国税庁も明記しているとおり、譲渡益が非課税になるわけではありません。

特例を受けると、売った金額(譲渡価額)のうち原則として20%だけを収入金額として譲渡所得を計算します。この「20%」を課税割合といい、買換えの組合せによっては10%・25%・30%・40%になる場合もあります。

買換資産は売った資産の取得価額を引き継ぐ

この特例を受けた場合、買換資産の取得費は実際に購入した金額ではなく、売った資産(譲渡資産)の取得価額を引き継ぎます。そのため、将来その買換資産を売ったときの取得費や、事業に使っている間の減価償却費は、引き継いだ取得費をもとに計算することになります。

実務では、この「引き継ぎ」の影響を見落としたまま特例を選ぶケースがあります。今年の譲渡所得税は大きく減りますが、建物を買い換えた場合は毎年の減価償却費が小さくなり、その分だけ事業所得の税金が増えていきます。繰り延べた税金は、減価償却や将来の売却を通じて少しずつ戻ってくる、と考えておくとよいでしょう。

特例を受けるための要件

国税庁の資料では、次の要件すべてに当てはまることが必要とされています。主な要件を整理すると次のとおりです。

事業用であること 譲渡資産と買換資産が、ともに事業に使うものであること
組合せ 譲渡資産と買換資産が、法令で定める組合せ(航空機騒音障害区域からの移転、既成市街地等内での再開発、所有期間10年超の土地建物等からの買換え、船舶の買換え)のいずれかに当てはまること
土地の面積 買換資産が土地等のときは、譲渡した土地等の面積の5倍以内(超える部分は対象外)
取得の時期 譲渡した年の前年中・同じ年中・翌年中に買換資産を取得すること
事業に使う時期 買換資産を取得した日から1年以内に事業に使うこと
他の特例との重複 同じ資産について、ほかの特例(特別償却など)を重ねて受けないこと
譲渡・取得の方法 収用等・贈与・交換・出資・代物弁済による譲渡ではないこと。買換資産の取得も、贈与・交換・所有権移転外リース取引・代物弁済などによるものではないこと

土地等の譲渡では、原則として譲渡した年の1月1日現在で所有期間が5年を超えていることも要件ですが、令和11年3月31日までの土地等の譲渡についてはこの要件が停止されています。ただし、所有期間10年超の土地建物等からの買換えの組合せでは、譲渡した年の1月1日において所有期間が10年を超えていることが個別の要件になっています。

個人事業主の方が使うことの多い「所有期間10年超」の組合せ

4つの組合せのうち、地域を問わず検討されることが多いのが、譲渡した年の1月1日において所有期間が10年を超える国内の土地等・建物・構築物を売り、国内の一定の土地等・建物・構築物を取得する組合せです。買換資産が土地等の場合は、事務所・工場・店舗・倉庫・住宅などの「特定施設」の敷地などで、面積が300平方メートル以上であることが求められます。この組合せは令和11年3月31日までの譲渡に適用されます。

この組合せの課税割合は、売った資産と買い換えた資産の所在地(東京都特別区・集中地域・集中地域以外の地域)や、主たる事務所資産かどうかによって10%〜40%の間で変わります。たとえば、東京都特別区にある主たる事務所資産から、集中地域以外の地域にある主たる事務所資産への買換えであれば、課税割合は10%です。

「事業用」に当たる資産・当たらない資産

特例の対象となる事業には、農業・製造業・小売業などのほか、事業といえるほどの規模ではない不動産の貸付けなどでも、相当の対価を得て継続的に行われるもの(事業に準ずるもの)が含まれます国税庁 No.3402 事業用の資産の範囲。相当の対価かどうかは、減価償却費や固定資産税などの必要経費を回収したうえで、なお相当の利益が出ているかで判断します。

一方で、次のような資産は事業用資産に当たりません。

  • 棚卸資産や、雑所得の基因となる土地等
  • 特例を受けるためだけに、一時的に事業に使ったと認められる資産
  • 空閑地である土地や空き家である建物(特別の施設を設けていない運動場・物品置場・駐車場なども空閑地に含まれます)

実務でご相談が多いのは、「青空駐車場として貸していた土地を売る」ケースです。舗装やフェンスなどの施設を設けず、地面をそのまま貸していただけの土地は空閑地として扱われ、特例の対象にならない可能性があります。売却の前に、どのような状態で使っていたかを確認しておきましょう。

譲渡所得の計算方法|課税割合20%の場合

特例を受けた場合の譲渡所得は、売った金額と買い換えた金額のどちらが大きいかで計算方法が変わります。ここでは課税割合が20%の場合で、それぞれ計算例を示します。

売った金額以上の金額で買い換えたとき

買い換えた金額(取得価額)が売った金額(譲渡価額)以上のときは、譲渡価額の20%を収入金額とし、取得費と譲渡費用の合計の20%を必要経費として計算します国税庁 No.3417 売った金額以上の金額で事業用の資産を買い換えたとき。

たとえば、譲渡価額2億円、譲渡資産の取得費3,600万円、譲渡費用400万円で、2億5,000万円の買換資産を取得した場合は次のとおりです。

譲渡価額2億円 × 20% = 収入金額4,000万円
(取得費3,600万円 + 譲渡費用400万円) × 20% = 必要経費800万円
収入金額4,000万円 − 必要経費800万円 = 譲渡所得3,200万円

特例を受けなければ、譲渡所得は2億円から4,000万円を差し引いた1億6,000万円になります。特例によって、そのうち1億2,800万円分の課税が将来に繰り延べられる計算です。

売った金額より少ない金額で買い換えたとき

買い換えた金額が売った金額より少ないときは、「売った金額と買い換えた金額の差額」と「買い換えた金額の20%」の合計が収入金額になります。必要経費は、取得費と譲渡費用の合計に「収入金額÷譲渡価額」の割合を掛けて計算します国税庁 No.3414 売った金額より少ない金額で事業用の資産を買い換えたとき。

先ほどと同じ譲渡で、買換資産の取得価額が1億4,000万円だった場合は次のとおりです。

(譲渡価額2億円 − 買換資産1億4,000万円) + 買換資産1億4,000万円 × 20% = 収入金額8,800万円
(取得費3,600万円 + 譲渡費用400万円) × (8,800万円 ÷ 2億円) = 必要経費1,760万円
収入金額8,800万円 − 必要経費1,760万円 = 譲渡所得7,040万円

買い換えに使わなかった6,000万円の部分は、通常どおり課税の対象になります。売却代金の一部を借入金の返済などに充てる予定がある場合は、この差額部分の税金も見込んでおく必要があります。

税額で比べると|長期譲渡所得の税率で試算

所有期間が5年を超える土地建物の譲渡所得(長期譲渡所得)には、所得税15%と住民税5%がかかり、あわせて復興特別所得税(基準所得税額の2.1%)を申告・納付します国税庁 No.3208 長期譲渡所得の税額の計算。所得税と復興特別所得税をあわせると15.315%、住民税とあわせて20.315%です。1つ目の計算例(売った金額以上で買い換えたとき)で比べると、次のようになります。

比較項目 特例を受けない場合 特例を受けた場合
譲渡所得 1億6,000万円 3,200万円
税額(20.315%) 3,250万4,000円 650万800円

売却した年の税負担は大きく下がりますが、先に説明したとおり、買換資産の取得価額は譲渡資産から引き継いだ金額になります。差額は消えたのではなく、将来の減価償却費の減少や、買換資産を売るときの譲渡益として後から課税される点に注意が必要です。譲渡所得にかかる住民税の計算は、次のコラムで詳しく解説しています。

関連コラム譲渡所得の住民税は何%?長期5%・短期9%と計算方法を税理士が解説▸

令和6年4月から必要になった届出書と提出期限

譲渡と買換えを同じ年に行う場合は、「特定の事業用資産の買換えの特例の適用に関する届出書」を税務署長に提出する必要があります国税庁 A4-8 特定の事業用資産の買換えの特例の適用に関する届出。この届出は、令和6年4月1日以後に譲渡資産を譲渡し、かつ令和6年4月1日以後に買換資産を取得する方が対象です。

提出期限は、譲渡の日または買換資産の取得の日のいずれか早い日を含む「三月期間」の末日の翌日から2か月以内です。

譲渡の日
(先に取得した場合は取得の日)
提出期限
1月1日から3月31日まで 5月末日
4月1日から6月30日まで 8月末日
7月1日から9月30日まで 11月末日
10月1日から12月31日まで 翌年2月末日

確定申告のときに特例を使うかどうか決めればよい、という感覚でいると、この届出の期限を過ぎてしまいます。実務では、売買契約を結んだ段階で引渡し日(譲渡の日)を確認し、届出期限を逆算して準備するようにしています。届出書はe-Taxソフトで提出するほか、書面で作成して持参・送付することもできます。

前年に先に買った場合・翌年に買う予定の場合

買換資産を譲渡した年の前年中に先に取得した場合は、取得した年の翌年3月15日までに「先行取得資産に係る買換えの特例の適用に関する届出書」を提出します。

譲渡した年の翌年中に買換資産を取得する予定の場合は、確定申告書に、取得予定年月日・取得価額の見積額・どの組合せに当たるかなどを記載した「買換(代替)資産の明細書」を添付します。この場合の譲渡所得は、取得価額の見積額をもとに計算します国税庁 No.3420 譲渡した年に買換えができなかったとき。

確定申告の添付書類と、見積額が変わったときの手続き

特例を受けるには、確定申告書に次の書類を添えて提出します。

  • 譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)【土地・建物用】
  • 買換資産の登記事項証明書など、その資産の取得を証する書類
  • 譲渡資産と買換資産が特例の対象となる地域内にあることを証する市区町村長等の証明書など

見込みで特例を適用して申告したあと、実際の取得価額が見積額より多く税額が減る場合は、買換資産を取得した日から4か月以内に更正の請求ができます。反対に、実際の取得価額が見積額より少なく税額が増える場合や、期間内に買換資産を取得しなかった場合、取得から1年以内に事業に使わなかった場合は、その事情に当てはまることとなった日から4か月以内に修正申告をして差額を納付しなければなりません。

事業用資産の買換え特例は、組合せの判定、課税割合、届出の期限、取得価額の引き継ぎによる将来の税負担など、確認すべき点が多い制度です。売却と買換えのスケジュール次第で使えるかどうかが変わりますので、ご自身のケースで判断に迷う場合は、まずは税理士にご相談ください。

まとめ

事業用資産の買換え特例のポイントを整理します。

  • 事業用の土地建物等を売って一定の資産に買い換え、1年以内に事業に使うと、譲渡益の一部の課税を将来に繰り延べられます。非課税になるわけではありません。
  • 収入金額は原則として譲渡価額の20%(組合せにより10%〜40%)で計算します。買い換えた金額が少ないときは、差額部分が通常どおり課税されます。
  • 買換資産は譲渡資産の取得価額を引き継ぐため、将来の減価償却費や売却時の取得費が小さくなります。
  • 所有期間10年超の土地建物等からの買換えは令和11年3月31日までの譲渡が対象で、買換資産の土地は300平方メートル以上などの要件があります。
  • 令和6年4月1日以後、同じ年に譲渡と買換えをする場合は、三月期間の末日の翌日から2か月以内に届出書の提出が必要です。

税金が大きく動く制度だけに、使えるかどうか、使った方が得かどうかは個別の事情で結論が変わります。具体的なケースは税理士へのご相談をおすすめします。

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参考文献

事業用資産の買換え特例に関するよくある質問まとめ

事業用資産の買換え特例を使うと譲渡益は非課税になりますか?

非課税にはなりません。譲渡益の一部に対する課税を将来に繰り延べる制度です。買換資産は売った資産の取得価額を引き継ぐため、将来の減価償却費や買換資産を売るときの取得費が小さくなり、その分が後から課税されます。

課税割合の20%とは何ですか?

特例を受けた場合に、譲渡価額のうち収入金額として扱う割合です。原則は20%で、売った金額以上で買い換えたときは譲渡価額の20%が収入金額になります。買換えの組合せや地域によっては10%・25%・30%・40%になります。

届出書はいつまでに出せばよいですか?

同じ年に譲渡と買換えをする場合、譲渡の日または買換資産の取得の日のいずれか早い日を含む三月期間の末日の翌日から2か月以内です。たとえば4月1日から6月30日までに譲渡した場合は8月末日が期限です。令和6年4月1日以後に譲渡と取得をする方が対象です。

青空駐車場として貸していた土地は特例の対象になりますか?

特別の施設を設けていない駐車場などとして利用している土地は空閑地に含まれ、事業用資産に当たらないとされています。舗装や設備の有無など利用状況によって判断が変わるため、売却前に確認しておくことをおすすめします。

翌年に買い換える予定でも特例は使えますか?

使えます。譲渡した年の翌年中に買換資産を取得する予定であれば、確定申告書に買換(代替)資産の明細書を添付し、取得価額の見積額で計算します。実際の取得価額が見積額と異なり税額が変わる場合は、更正の請求または修正申告が必要です。

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