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相続税申告が必要ないケース|基礎控除以下でも要注意の落とし穴

2026-08-24
目次

身内が亡くなり、相続税の申告が必要ないのか気になって調べ始めた方は少なくありません。テレビや広告で「相続税は10か月以内に申告」と聞くと、自分の家も対象なのかと不安になるものです。

結論から申し上げると、相続税は亡くなった方の遺産総額が基礎控除額以下であれば、申告も納税も必要ありません国税庁 No.4205 相続税の申告と納税。多くのご家庭は、この原則だけで判断が終わります。

ただし、注意すべき落とし穴が二つあります。一つは、遺産総額の数え方を誤って「基礎控除以下」と思い込んでしまうケース。もう一つは、特例を使って税額がゼロになる場合で、こちらは申告書の提出が特例適用の条件になっています。この記事では、判断の分かれ目を順を追って整理します。

相続税申告が必要ない場合の原則

相続税の申告が必要かどうかは、遺産総額と基礎控除額の大小だけで決まります。まずはこの物差しを正確に押さえてください。

基礎控除額の計算式

基礎控除額は、定額部分の3,000万円に、法定相続人1人あたり600万円を加えて求めます国税庁 No.4152 相続税の計算

3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数 = 基礎控除額

たとえば配偶者と子2人が相続人であれば、法定相続人は3人です。

3,000万円 + 600万円 × 3人 = 4,800万円

この4,800万円という金額が、申告が必要かどうかの分岐点になります。人数別の基礎控除額は次のとおりです。

法定相続人1人 3,600万円
法定相続人2人 4,200万円
法定相続人3人 4,800万円
法定相続人4人 5,400万円
法定相続人5人 6,000万円

関連コラム相続税の早見表|遺産総額と相続人の数で税額の目安が一目でわかる

法定相続人の数え方

基礎控除額を左右するのは法定相続人の数です。配偶者は常に相続人となり、それ以外は子、直系尊属、兄弟姉妹の順に相続人が決まります国税庁 No.4132 相続人の範囲と法定相続分

数え方には二つの独自ルールがあります。第一に、相続を放棄した人がいても、その放棄がなかったものとした場合の相続人の数で計算します。第二に、養子は実子がいる場合は1人まで、実子がいない場合は2人までしか法定相続人の数に含められません。

相続放棄をした人を人数から外して基礎控除額を小さく見積もると、本来は申告不要なのに慌てて準備を始めることになります。逆に養子を無制限に数えると、基礎控除額を過大に見積もり、申告漏れにつながります。

申告期限と提出先

申告が必要な場合の期限は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内です。提出先は相続人の住所地ではなく、被相続人の住所地を所轄する税務署になります。

10か月は長いようで、戸籍の収集や不動産の評価、遺産分割の話し合いを終えるには決して余裕のある期間ではありません。判断に迷う段階であれば、早めに財産の全体像を洗い出しておくと安心です。

基礎控除以下の判断で見落としやすい財産

「預金と自宅だけだから基礎控除以下」と考えていたのに、実際に集計すると超えていた、という相談は多く寄せられます。相続税の課税対象は、金銭に見積もることができる経済的価値のあるものすべてであり、通帳に載らない財産も含まれます国税庁 No.4105 相続税がかかる財産

判定に使う遺産総額は、次のように組み立てます。

プラスの財産 + みなし相続財産 + 生前贈与の加算額 − 非課税となる金額 − 債務・葬式費用 = 課税価格の合計額

みなし相続財産と非課税枠

被相続人が保険料を負担していた生命保険金や死亡退職金は、遺産分割の対象ではありませんが、相続税では課税対象に含めます。いずれも相続人が受け取った場合には非課税限度額があります国税庁 No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金

500万円 × 法定相続人の数 = 非課税限度額

死亡退職金についても同じ算式の非課税限度額が設けられており、限度額を超える部分が課税対象になります国税庁 No.4117 相続税の課税対象になる死亡退職金。保険金が2,000万円で法定相続人が3人なら、非課税枠1,500万円を差し引いた500万円が遺産総額に加わる計算です。

一方で、借入金や未払いの医療費などの債務は遺産総額から差し引けます国税庁 No.4126 相続財産から控除できる債務。プラスの財産だけを見て諦める前に、マイナス分の集計も忘れずに行ってください。

関連コラム生命保険金の相続税非課税枠|500万円×法定相続人の計算

生前贈与加算の対象期間

亡くなる前に受けた暦年課税の贈与は、一定期間分を遺産総額に足し戻します。加算対象期間は改正により段階的に延びており、相続開始日によって異なります国税庁 No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)

相続開始の日 加算対象期間
令和8年12月31日以前 相続開始前3年以内
令和9年1月1日から令和12年12月31日まで 令和6年1月1日から相続開始の日まで
令和13年1月1日以後 相続開始前7年以内

令和9年1月2日以後に相続が開始した場合、加算対象期間のうち相続開始前3年以内を除く部分については、贈与時の価額の合計額から総額100万円までは課税価格に加算されません。毎年110万円ずつ贈与していたご家庭では、加算される金額が数百万円規模になることもあり、基礎控除の判定を左右します。

家族名義の預貯金

配偶者や子の名義になっていても、実質的に被相続人の財産と認められる預貯金は、相続財産として申告する必要があります。国税庁も、被相続人以外の名義の預貯金を誤りやすい事例として挙げています国税庁 相続税の申告書作成時の誤りやすい事例集

専業主婦だった配偶者の口座に多額の残高がある、子が存在を知らない口座に毎年入金されていた、といったケースは典型例です。名義人が通帳や印鑑を管理しておらず、贈与の合意もなかったと判断されると、被相続人の財産として扱われます。

家族名義の口座まで含めて集計すると基礎控除を超えることは珍しくありません。判定の段階で、家族全員の口座を一度棚卸ししておくことをおすすめします。

申告不要と税額ゼロの相違

ここが最も誤解の多いところです。遺産総額が基礎控除額以下なら申告そのものが不要ですが、基礎控除額を超えたうえで特例を使って税額がゼロになる場合は、申告書の提出が必要です。特例の適用は申告を条件としているためです。

「税金がかからないなら申告もいらない」と自己判断して提出しなかった結果、特例が使えず本税と加算税を負担することになった事例もあります。両者の違いを整理しておきましょう。

配偶者の税額軽減

配偶者が取得した遺産のうち、1億6千万円と配偶者の法定相続分相当額のいずれか多い金額までは、相続税がかかりません。多くの一次相続で税額がゼロになる、影響の大きい制度です。

ただしこの軽減を受けるには、税額軽減の明細を記載した相続税の申告書に、戸籍謄本や遺産分割協議書の写しなどを添えて提出する必要があります国税庁 No.4158 配偶者の税額の軽減。提出しなければ軽減は適用されません。

小規模宅地等の特例

被相続人の居住用宅地等は、330平方メートルまでの部分について評価額を80パーセント減額できます。自宅の評価額が高い都市部では、この特例の有無で遺産総額が大きく変わります。

この特例も、適用を受ける旨を記載した相続税の申告書に、計算明細書や遺産分割協議書の写しなど一定の書類を添付して提出することが要件です国税庁 No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)。減額前の評価額で基礎控除を超えているなら、税額がゼロでも申告は避けられません。

関連コラム小規模宅地の特例とは|4区分の限度面積と80%減額を徹底解説

申告が必要なのに提出しなかった場合の取扱い

申告期限までに申告をしなかった場合や、実際に取得した財産の額より少ない額で申告をした場合には、本来の税金のほかに加算税や延滞税がかかることがあります。放置しても時間の経過とともに負担が増えるだけです。

無申告加算税と延滞税

期限後に申告書を提出した場合や税務署から決定を受けた場合には、納付すべき税額に応じた無申告加算税が課されます。割合は税額の区分ごとに定められていますe-Gov法令検索 国税通則法第66条

50万円以下の部分 15パーセント
50万円超300万円以下の部分 20パーセント
300万円超の部分 30パーセント

税務調査により決定があることを予知してされたものでない期限後申告であれば、割合は軽減されます。さらに、期限内に申告する意思があったと認められる一定の場合で、法定申告期限から1か月を経過する日までに提出したときは、無申告加算税は課されません。気づいた時点ですぐ動くほど負担は小さくなる仕組みです。

これとは別に、納付が遅れた期間に応じて延滞税もかかります。令和8年1月1日から令和8年12月31日までの割合は、納期限の翌日から2か月を経過する日までが年2.8パーセント、それ以後が年9.1パーセントです国税庁 No.9205 延滞税について

関連コラム相続税の加算税・延滞税の種類と税率|令和6年改正も解説

税務署が資料を把握する仕組み

「黙っていればわからない」という発想は現実的ではありません。保険会社や退職手当金を支給した会社は、支払った保険金や退職手当金について受取人別の調書を作成し、所轄税務署長に提出することが法律で義務づけられていますe-Gov法令検索 相続税法第59条

税務署はこうした資料に加え、不動産の登記情報や過去の所得の状況などを組み合わせて、申告が必要と見込まれる方を把握しています。申告が必要かどうか判断がつかない段階で自己流に結論を出すより、資料を揃えて要否を検討するほうが結果的に安全です。

判断に迷うボーダーラインのケース

実務では、明らかに申告不要とも必要とも言い切れない事例が一定数あります。代表的な三つの場面を挙げます。

遺産総額が基礎控除に近い場合

集計額が基礎控除額の8割から9割に達しているときは、慎重な確認が必要です。土地の評価額は路線価や補正率の適用で変動しますし、家族名義の預貯金や未受領の給与、貸付金などが後から見つかることもあります。

この段階で「たぶん大丈夫」と流してしまうと、数年後の税務署からの連絡で慌てることになります。財産目録を作り、根拠資料とともに残しておけば、後日の説明にも使えます。

遺産分割が終わらない場合

遺産が未分割のまま申告期限を迎えても、申告義務がなくなるわけではありません。この場合は法定相続分で取得したものとして計算した申告を行いますが、小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減を適用できない申告になります国税庁 No.4208 相続財産が分割されていないときの申告

その後に分割が成立すれば修正申告や更正の請求で特例を適用できますが、適用できるのは原則として申告期限から3年以内に分割があった場合に限られます。分割協議が長引きそうなときほど、期限内の手続きが重要になります。

相続放棄をした人がいる場合

相続放棄をした人は民法上は初めから相続人でなかったものとされますが、基礎控除額や生命保険金の非課税限度額を計算するときの法定相続人の数には含めます。一方で、生命保険金の非課税の適用自体は相続人が受け取った場合に限られ、放棄した人が受け取った保険金には適用されません。

このように、同じ「法定相続人」という言葉でも、どの計算に使うかで扱いが変わります。放棄者がいるご家庭では、自己判断せず個別に確認することをおすすめします。

まとめ

相続税の申告が必要ないのは、遺産総額が基礎控除額の範囲内に収まる場合です。基礎控除額は3,000万円に600万円と法定相続人の数を掛けた金額を加えて求め、放棄者を含める、養子には人数制限があるといったルールを正確に当てはめる必要があります。

判定を誤りやすいのは、生命保険金や死亡退職金といったみなし相続財産、加算対象期間内の生前贈与、そして家族名義の預貯金です。これらを加えると基礎控除を超えるご家庭は少なくありません。

そして、基礎控除を超えたうえで配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例により税額がゼロになる場合は、申告書の提出が特例適用の条件です。「税額ゼロ」と「申告不要」は別物だと覚えておいてください。判断に迷う場合や、遺産総額が基礎控除額に近い場合など、具体的なケースは税理士へのご相談をおすすめします。

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参考文献

相続税申告の要否に関するよくある質問まとめ

Q.遺産が基礎控除以下なら相続税の申告は本当に必要ないのですか。

A.取得した財産の価額の合計額が遺産に係る基礎控除額の範囲内であれば、相続税の申告も納税も必要ありません。ただし遺産総額には生命保険金などのみなし相続財産や加算対象期間内の生前贈与も含めて判定します。

Q.相続税の基礎控除額はいくらですか。

A.3,000万円に600万円と法定相続人の数を掛けた金額を加えた額です。法定相続人が3人なら4,800万円になります。相続を放棄した人も人数に含め、養子は実子がいる場合1人まで、いない場合2人までを含めます。

Q.税額がゼロなら相続税の申告はいらないのでしょうか。

A.いいえ。配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を使って税額がゼロになる場合は、これらの特例の適用が申告書の提出を条件としているため、申告が必要です。提出しなければ特例は適用されません。

Q.相続税の申告が必要なのにしないとどうなりますか。

A.本来の税金のほかに無申告加算税や延滞税がかかることがあります。無申告加算税は納付すべき税額のうち50万円以下の部分が15パーセント、50万円超300万円以下が20パーセント、300万円超が30パーセントの割合です。

Q.家族名義の預金も相続財産に含めて判定するのですか。

A.名義が家族であっても、実質的に被相続人の財産と認められる預貯金は相続財産として申告する必要があります。国税庁も被相続人以外の名義の預貯金を誤りやすい事例として挙げています。

Q.遺産分割が終わらないまま申告期限を迎えたらどうなりますか。

A.未分割でも申告義務は残り、法定相続分で取得したものとして計算した申告を行います。この申告では小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減を適用できず、原則として申告期限から3年以内に分割があれば修正申告や更正の請求で適用できます。

事務所概要
社名
税理士法人プライムパートナーズ
住所
〒107-0052
東京都港区赤坂5丁目2−33
IsaI AkasakA 17階
対応責任者
税理士 島本 雅史

本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や人的ミス、個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊法人の税理士までお問い合わせください。

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