相続した実家などの不動産を売却し、その代金を相続人で分ける換価分割。いざ手続きを進めようとすると、「相続税申告書には誰の財産としてどう書けばよいのか」「売却したら譲渡所得税はいくらかかるのか」「代表者の名義にしたら贈与税がかかってしまわないか」といった不安が次々と出てくるものです。この記事では、換価分割を選んだ場合の相続税申告書への記載方法から、売却時の譲渡所得税や取得費加算の特例、贈与税を避けるための注意点まで、国税庁の資料をもとにやさしく整理してお伝えします。
換価分割の基本と他の分割方法との違い
換価分割とは、相続した不動産などの遺産を売却して金銭に換え、その代金を相続人で分ける遺産分割の方法です。不動産をそのまま分けることが難しく、かつ手元に残す必要もない場合に、公平に分けやすい方法として選ばれます。
遺産の分け方には、換価分割のほかに、財産を現物のまま各相続人へ配分する現物分割と、特定の相続人が不動産を取得して他の相続人へ金銭を支払う代償分割があります。それぞれ向いているケースや税金の扱いが異なるため、まずは全体像を押さえておくことが大切です。
換価分割と代償分割の比較
換価分割と代償分割は、どちらも不動産を公平に分けたいときの選択肢ですが、分け方の考え方が大きく異なります。次の表で対比してみます。
| 換価分割 | 代償分割 |
|---|---|
| 不動産を売却し、その代金を相続人で分ける | 1人が不動産を取得し、他の相続人へ代償金を支払う |
| 現金で公平に分けやすい | 不動産を手元に残せる |
| 売却により譲渡所得税がかかる場合がある | 代償金を支払う資金の準備が必要になる |
代償分割を選んだ場合の相続税の課税価格は、現物を取得した人の価額から代償金を差し引き、代償金を受け取った人はその分を加算して計算します国税庁 No.4173 代償分割が行われた場合の相続税の課税価格の計算。代償分割の進め方については、代償分割とは?相続トラブルを防ぐ代償金の決め方と相続税を解説した記事もあわせてご覧ください。
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換価分割の遺産分割協議書の書き方
換価分割を行うときは、遺産分割協議書に「対象の不動産を売却して代金を相続人で分ける」という趣旨と、各相続人の取得割合を明確に記載します。不動産を売却するには登記名義を相続人へ移す必要があり、実務上は代表者1人の名義にまとめて売却手続きを進めることがよくあります。その場合は、あくまで換価分割のための便宜であることも協議書に書き添えておくと安心です。
第1条 相続人全員は、被相続人の遺産である下記不動産を換価し、その売却代金から売却に要する諸費用を控除した残額を、相続人甲および乙が各2分の1の割合で取得する。
第2条 前条の換価手続きを行うため、下記不動産は便宜上、相続人甲が相続し、その名義で売却する。
このように換価分割の趣旨と取得割合を協議書へ明記しておけば、便宜上1人の相続人名義で相続登記をした場合でも、それは単なる相続手続きのためのものと扱われ、その後に代金を割合どおり分けるかぎり贈与税が課されることはありません国税庁 遺産の換価分割のための相続登記と贈与税。
相続税申告書への記載方法
相続税は、各相続人が取得する財産の価額に応じて課税されます。換価分割の場合も、まず売却対象の不動産を相続財産として評価し、その評価額を取得割合に応じて各相続人の課税価格に算入して申告します。
ここで押さえておきたいのは、相続税の申告期限までに売却が完了していなくても差し支えない点です。相続税の評価額は相続開始時点の路線価などをもとに算定するため、実際の売却代金がまだ確定していなくても、相続開始時の評価額で申告できます。売却代金そのものではなく、あくまで相続開始時点の不動産の評価額が相続税の課税対象になる、と考えるとわかりやすいです。
なお、話し合いがまとまらず、相続税の申告期限までに遺産が未分割のままとなってしまう場合は、いったん法定相続分で取得したものとして申告し、後日分割が確定してから更正の請求または修正申告で精算します国税庁 No.4208 相続財産が分割されていないときの申告。換価分割を行うと決めているのであれば、申告期限前に協議書を整えておくことが円滑な申告につながります。
売却時の譲渡所得税と取得費加算の特例
換価分割では不動産を売却するため、売却によって利益が出ると、その利益に対して譲渡所得税(所得税および住民税)がかかります。相続税とは別に、売却した年の翌年に所得税の確定申告が必要になる点に注意が必要です。
譲渡所得税の計算と申告する人
譲渡所得の金額は、売却代金から取得費と譲渡費用、特別控除額を差し引いて計算します国税庁 No.3202 譲渡所得の計算のしかた(分離課税)。
相続で取得した不動産の取得費と取得の時期は、被相続人が取得したときのものをそのまま引き継ぎます国税庁 No.3202 譲渡所得の計算のしかた(分離課税)。税率は、売却した年の1月1日時点で所有期間が5年を超える長期譲渡所得は所得税15%・住民税5%、5年以下の短期譲渡所得は所得税30%・住民税9%となり、いずれも所得税額に対して2.1%の復興特別所得税が上乗せされます国税庁 No.3208 長期譲渡所得の税額の計算国税庁 No.3211 短期譲渡所得の税額の計算。被相続人の所有期間を引き継ぐため、多くのケースで長期譲渡所得に該当します。
換価分割では、売却代金を取得割合に応じて分けるのと同じように、譲渡所得も各相続人が自分の取得割合に応じて申告します。売却代金の取得割合をあらかじめ定めていればその割合で、定めていない場合は法定相続分で申告するのが原則です。所得税の確定申告期限までに売却代金が分割され、相続人全員がその取得割合に基づいて申告した場合には、その申告が認められます国税庁 未分割遺産を換価したことによる譲渡所得の申告とその後分割が確定したことによる更正の請求、修正申告等。
たとえば売却代金6,000万円を、相続人甲と乙が各2分の1ずつ取得すると定めた場合、それぞれの取得額は次のとおりです。
この3,000万円が1人あたりの譲渡価額となります。仮に取得費を按分した後の金額が1,500万円、譲渡費用が100万円だとすると、1人あたりの譲渡所得金額と長期譲渡所得の所得税は次のように計算します。
これに住民税5%と復興特別所得税がさらに加わります。実際の取得費や特例の適用は個々の事情で変わるため、具体的なケースは税理士へのご相談をおすすめします。
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取得費加算の特例
相続した財産を、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに売却した場合には、支払った相続税のうち一定額を売却時の取得費に加算できる取得費加算の特例を使えることがあります。取得費が増えると譲渡所得が圧縮され、譲渡所得税の負担を軽くできます。適用の要件は、相続や遺贈により財産を取得していること、その人に相続税が課税されていること、そして相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡していることです国税庁 No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例。
加算できる金額は、その人が納めた相続税額に、売却した財産の相続税評価額がその人の相続税の課税価格に占める割合を掛けて計算します国税庁 No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例。
ただし、計算した金額がその財産の譲渡益を超える場合は、譲渡益に相当する額が上限となります。取得費加算の特例の要件や計算の詳細は、取得費加算の特例|相続した不動産売却の要件と計算でくわしく解説しています。売却後の税額の全体像は、実家を相続して売却したときの税金もあわせて確認すると理解が深まります。
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換価分割の注意点
贈与税とみなされないための注意
換価分割で気をつけたいのが、便宜上1人の相続人名義で登記した後の代金の分け方です。売却代金を協議書で定めた取得割合と異なる形で分けてしまうと、名義人から他の相続人への贈与とみなされ、贈与税が課されるおそれがあります。遺産分割協議書に換価分割の趣旨と各相続人の取得割合を明記し、その割合どおりに代金を分配することが、贈与税を避けるうえで重要です国税庁 遺産の換価分割のための相続登記と贈与税。名義を移す際の進め方は、相続不動産の名義変更で兄弟と揉めないための進め方も参考になります。
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譲渡所得税と申告時期への注意
換価分割では相続税とは別に譲渡所得税の申告が必要になり、売却した年の翌年に確定申告を行います。相続税の申告と譲渡所得税の申告は時期も税目も異なるため、どちらの手続きも漏れなく行うことが大切です。また、売却のタイミングによって長期譲渡所得か短期譲渡所得かが変わり、税率が大きく異なる点にも注意が必要です。取得費加算の特例には売却の期限があるため、特例を使いたい場合は期限内の売却を意識しておきます。
まとめ
換価分割は、相続した不動産を売却して代金を公平に分けられる便利な方法ですが、相続税と譲渡所得税という2つの税金が関わるため、手続きの流れを正しく理解しておくことが欠かせません。相続税申告書には相続開始時の評価額を取得割合に応じて記載し、売却時には各相続人が取得割合に応じて譲渡所得を申告します。取得費加算の特例を活用できれば譲渡所得税を軽減でき、遺産分割協議書に趣旨と割合を明記すれば贈与税のリスクも避けられます。
ご家庭ごとに財産の内容や相続人の状況は異なり、最適な進め方も変わってきます。具体的なケースは税理士へのご相談をおすすめします。
お問い合わせはこちら ▸参考文献
- 国税庁 遺産の換価分割のための相続登記と贈与税
- 国税庁 未分割遺産を換価したことによる譲渡所得の申告とその後分割が確定したことによる更正の請求、修正申告等
- 国税庁 No.4208 相続財産が分割されていないときの申告
- 国税庁 No.4173 代償分割が行われた場合の相続税の課税価格の計算
- 国税庁 No.3202 譲渡所得の計算のしかた(分離課税)
- 国税庁 No.3208 長期譲渡所得の税額の計算
- 国税庁 No.3211 短期譲渡所得の税額の計算
- 国税庁 No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例
換価分割の相続税申告のよくある質問まとめ
Q.換価分割をすると相続税申告書にはどう記載しますか
A.売却対象の不動産を相続開始時の評価額で相続財産として評価し、その評価額を各相続人の取得割合に応じて課税価格に算入して申告します。相続税の申告期限までに売却が完了していなくても、相続開始時の評価額で申告できます。
Q.換価分割で不動産を売却すると譲渡所得税はかかりますか
A.売却によって利益が出た場合は、相続税とは別に譲渡所得税(所得税および住民税)がかかります。各相続人が自分の取得割合に応じて、売却した年の翌年に所得税の確定申告を行います。
Q.換価分割の譲渡所得は誰がどの割合で申告しますか
A.売却代金の取得割合をあらかじめ定めていればその割合で、定めていない場合は法定相続分で申告するのが原則です。所得税の確定申告期限までに代金が分割され、相続人全員が取得割合に基づいて申告した場合は、その申告が認められます。
Q.換価分割で代表者名義に登記すると贈与税がかかりますか
A.換価分割のための便宜上1人の相続人名義で登記した場合でも、遺産分割協議書に趣旨と取得割合を明記し、その割合どおりに代金を分けるかぎり贈与税は課されません。割合と異なる分け方をすると贈与とみなされるおそれがあります。
Q.換価分割で取得費加算の特例は使えますか
A.相続税が課税された財産を、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに売却するなどの要件を満たせば、支払った相続税の一部を取得費に加算でき、譲渡所得税を軽減できます。
Q.換価分割と代償分割はどちらを選ぶべきですか
A.不動産を残す必要がなく現金で公平に分けたい場合は換価分割、特定の相続人が不動産を残したい場合は代償分割が向いています。課税や資金準備の面で違いがあるため、状況に応じた判断が必要です。