ご家族が亡くなった直後は、葬儀や役所の届出に追われて、死亡保険金の請求まで手が回らないという方が少なくありません。しかし死亡保険金は、受取人が自分で請求しなければ支払われず、請求できる期間にも区切りがあります。この記事では、死亡保険金の請求の流れと必要書類、3年という期限、そして相続税との関係までを、相続税を専門とする税理士の視点で整理します。
死亡保険金の請求手続きの全体像
死亡保険金の手続きは、保険会社への連絡から始まり、書類の提出を経て支払いに至ります。保険会社によって書式や名称は異なりますが、大きな流れは共通しています。まずは全体像をつかんでおくと、何を先に準備すべきかが見えてきます。
保険会社への連絡から支払いまでの流れ
一般に、次の3つの段階で進みます。最初の連絡は電話やインターネットの窓口で受け付けられることが多く、この時点で契約内容の確認と、必要書類の案内が行われます。
- 保険会社への連絡:保険証券を手元に用意し、被保険者(保険の対象となっていた方)の氏名、証券番号、亡くなった日などを伝えます。
- 請求書類の提出:保険会社から届く請求書に記入し、指定された添付書類とあわせて返送します。
- 支払い:保険会社が書類を確認したうえで、受取人の口座へ保険金が振り込まれます。
書類に不備があると確認のやり取りが発生し、その分だけ支払いまでの日数が延びます。記入漏れと添付書類の抜けは、最初の段階で丁寧につぶしておくことをおすすめします。
一般的な必要書類
提出書類は保険会社や契約内容によって変わりますが、一般に次のようなものが求められます。正確な一覧は必ず契約先の保険会社の案内で確認してください。
- 保険会社所定の保険金請求書
- 死亡診断書または死体検案書の写し
- 被保険者の死亡の事実が分かる戸籍謄本など
- 受取人の本人確認書類
- 受取人の印鑑証明書
- 保険証券
戸籍謄本や印鑑証明書は、発行からの期間に制限が設けられている場合があります。相続手続き全体で何通も使うため、役所へ出向く際にまとめて取得しておくと二度手間を防げます。
契約先が分からないときの生命保険契約照会制度
そもそもどの保険会社と契約していたのか分からない、というご相談は珍しくありません。生命保険の保険金は受取人が請求をしなければ受け取れないため、契約の存在に気づかないまま放置されてしまうおそれがあります。政府広報オンライン 家族の生命保険契約を一括照会!どこの会社に加入しているか調べられます
この場合、一般社団法人生命保険協会を通じて会員会社への契約の有無を一括で照会できる生命保険契約照会制度が令和3年から始まっています。平時に亡くなったケースでは、法定相続人や遺言執行人などが照会でき、オンラインまたは書面で申請します。開示されるのは契約の有無までで、詳しい内容は各保険会社へ個別に確認する流れです。
制度を使う前に、保険証券、保険会社からの通知物、預金通帳の保険料の口座振替履歴を確認しておくと、そのまま手がかりが見つかることもあります。
死亡保険金の請求権の時効は3年
死亡保険金の請求には期限があります。保険給付を請求する権利は、これを行使することができる時から3年間行使しないときは、時効によって消滅すると定められています。e-Gov法令検索 保険法
3年あると聞くと余裕があるように感じられますが、実務では請求が遅れるほど不利になります。時間が経つほど保険証券や契約の手がかりが失われ、戸籍の収集にも手間がかかるためです。時効が完成していない場合でも、保険会社の判断や事情の確認に時間を要することがあります。
さらに、死亡保険金は相続税の計算に組み込まれる財産です。相続税の申告期限は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内とされているため、保険金の金額が確定しないままでは申告の準備が進みません。国税庁 No.4205 相続税の申告と納税
葬儀が一段落したら、遅くとも四十九日の前後を目安に保険会社へ連絡しておくと安心です。
受取人が指定されている死亡保険金の扱い
「遺産分割が終わっていないので保険金の請求はまだできない」と考えている方がいますが、これは誤解であることがほとんどです。死亡保険金は受取人が指定されている契約であれば、その受取人が自分の権利として受け取るものと扱われるのが原則で、一般に、他の相続人の同意や遺産分割協議の成立を待たずに請求できます。
税金の面でも、死亡保険金は被相続人が生前に持っていた財産そのものではなく、相続等により取得したものとみなされる財産として相続税の対象になります。国税庁 No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金
このような財産は、実務では「みなし相続財産」と呼ばれます。遺産分割の対象になる預貯金や不動産とは性質が異なるため、扱いを混同しないことが大切です。
関連コラムみなし相続財産とは|課税される財産一覧と非課税枠の計算▸
死亡保険金の課税関係の判定
死亡保険金にかかる税金は、一律ではありません。保険料の負担者、被保険者、保険金受取人が誰であるかの組み合わせによって、所得税、相続税、贈与税のいずれかの対象になります。国税庁 No.1750 死亡保険金を受け取ったとき
ここで判断の軸になるのは、契約書上の契約者ではなく実際に保険料を負担していた人です。夫名義の契約でも妻の口座から保険料が出ていた場合など、名義と実態がずれている契約は珍しくありません。
| 保険料の負担者・被保険者・ 受取人の関係 |
課される税金 |
|---|---|
| 被保険者=夫 保険料の負担者=夫 受取人=妻 |
相続税 |
| 被保険者=夫 保険料の負担者=妻 受取人=妻 |
所得税 |
| 被保険者=夫 保険料の負担者=妻 受取人=子 |
贈与税 |
相続税の対象になるのは、被保険者と保険料の負担者が同一人の場合です。受取人が被相続人の相続人であるときは相続により取得したものとみなされ、相続人以外の方が受取人であるときは遺贈により取得したものとみなされます。
所得税の対象になるのは、保険料の負担者と保険金受取人が同一人の場合です。一時金で受け取れば一時所得、年金形式で受け取れば公的年金等以外の雑所得として課税されます。
贈与税の対象になるのは、被保険者、保険料の負担者、保険金の受取人がすべて異なる場合です。保険料を負担していない人が保険金を受け取ると、保険料を負担した人からその生命保険金の贈与があったものとされます。国税庁 No.4417 贈与税の対象になる生命保険金
3つのうち贈与税がもっとも負担の重くなりやすい類型です。契約形態を確認せずに受取人だけを変更した結果、想定外の贈与税が生じるケースがあるため注意してください。
関連コラム生命保険の受取人を子供にするデメリット|税金と手続きの注意点▸
相続税の非課税枠500万円と計算例
死亡保険金が相続税の対象になる場合でも、受け取った金額の全額に相続税がかかるわけではありません。相続によって取得したとみなされる生命保険金等のうち、一定額までは相続税がかからない財産とされています。国税庁 No.4108 相続税がかからない財産
この非課税限度額は、次の式で計算します。
すべての相続人が受け取った保険金の合計額がこの非課税限度額を超えるとき、その超える部分が相続税の課税対象になります。ここでいう法定相続人の数は、相続の放棄をした人がいても、その放棄がなかったものとした場合の相続人の数で数えます。
法定相続人が3人のケースの計算例
妻と子2人の合計3人が法定相続人で、妻が死亡保険金2,000万円を受け取った場合を考えます。まず非課税限度額を求めます。
受け取った保険金の合計額2,000万円から、この非課税限度額を差し引きます。
この500万円が、相続税の課税対象に加わる金額です。なお法定相続人の中に養子がいる場合、法定相続人の数に含める養子の数は、実子がいるときは1人、実子がいないときは2人までに制限されます。国税庁 No.4170 相続人の中に養子がいるとき
関連コラム生命保険の相続税非課税枠500万円の仕組みと注意点▸
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請求前に確認したい注意点
手続き自体は進められても、税務上の取扱いを知らないまま動くと、後から思わぬ負担が生じることがあります。ここでは特に相談の多い3点を挙げます。
相続放棄と非課税枠の関係
相続放棄をした方でも、受取人として指定されていれば死亡保険金そのものは受け取れます。相続放棄は、家庭裁判所へ申述して被相続人の権利や義務を一切受け継がない手続きであり、自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内に行う必要があります。裁判所 相続の放棄の申述
ただし税務上の扱いは別です。非課税限度額が適用されるのは受取人が相続人である場合に限られ、相続を放棄した人や相続権を失った人は、この非課税の適用を受けられません。相続人以外の人が取得した死亡保険金にも非課税の適用はありません。
相続放棄をすると、保険金の全額が相続税の課税価格に取り込まれることになります。債務の状況と保険金の金額を並べて比べたうえで、放棄するかどうかを判断してください。
契約の名義と保険料の実際の負担者
課税関係を決めるのは保険料を実際に負担していた人であり、契約書上の名義ではありません。過去に契約者名義を変更している契約、親が子名義で加入して保険料を払い続けてきた契約などは、判定を誤りやすい典型例です。
保険料の引落口座の履歴や、生命保険料控除を誰が申告していたかが判断材料になります。請求前に契約内容を保険会社へ照会し、資料を残しておくと申告時の説明がしやすくなります。
申告期限との兼ね合い
相続税の申告期限は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内です。保険金の入金が遅れると、財産の総額が確定せず、遺産分割や納税資金の計画にも影響します。
死亡保険金は受取人が単独で受け取れるため、納税資金として活用しやすい財産でもあります。早めに請求を済ませておくことが、結果として申告全体の余裕につながります。
まとめ
死亡保険金の請求は、保険会社への連絡、請求書類の提出、支払いという流れで進みます。請求権は3年で時効により消滅するため、葬儀が落ち着いた段階で早めに動き出すことが大切です。契約先が分からない場合は、生命保険契約照会制度という選択肢があります。
税金の面では、保険料の負担者、被保険者、受取人の組み合わせによって相続税、所得税、贈与税のいずれかに分かれます。相続税の対象となる場合は500万円に法定相続人の数を掛けた非課税限度額がありますが、相続を放棄した人はこの非課税の適用を受けられません。
本記事は一般的な取扱いを整理したものです。契約形態や家族構成によって結論が変わるため、具体的なケースは税理士へのご相談をおすすめします。
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参考文献
- 国税庁 No.1750 死亡保険金を受け取ったとき
- 国税庁 No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金
- 国税庁 No.4108 相続税がかからない財産
- 国税庁 No.4170 相続人の中に養子がいるとき
- 国税庁 No.4205 相続税の申告と納税
- 国税庁 No.4417 贈与税の対象になる生命保険金
- e-Gov法令検索 保険法
- 裁判所 相続の放棄の申述
- 政府広報オンライン 家族の生命保険契約を一括照会!どこの会社に加入しているか調べられます
死亡保険金の請求のよくある質問まとめ
Q.死亡保険金の請求はいつまでにすればよいですか。
A.保険給付を請求する権利は、これを行使することができる時から3年間行使しないときは時効によって消滅すると保険法で定められています。相続税の申告期限は死亡を知った日の翌日から10か月以内のため、実務上はそれよりも早く請求を済ませておくことをおすすめします。
Q.死亡保険金の請求に必要な書類は何ですか。
A.一般には、保険会社所定の請求書、死亡診断書または死体検案書の写し、死亡の事実が分かる戸籍謄本、受取人の本人確認書類、印鑑証明書、保険証券などです。必要書類は保険会社や契約内容によって異なるため、契約先の案内で必ず確認してください。
Q.遺産分割協議が終わる前に死亡保険金を請求できますか。
A.受取人が指定されている契約であれば、その受取人が自分の権利として受け取るものと扱われるのが原則で、一般に遺産分割協議の成立を待たずに請求できます。税務上も相続等により取得したものとみなされる財産として扱われます。
Q.死亡保険金にはどの税金がかかりますか。
A.保険料の負担者、被保険者、保険金受取人の組み合わせで決まります。被保険者と保険料の負担者が同一なら相続税、保険料の負担者と受取人が同一なら所得税、3者がすべて異なる場合は贈与税の対象になります。
Q.死亡保険金の非課税枠はいくらですか。
A.500万円に法定相続人の数を掛けた金額が非課税限度額です。すべての相続人が受け取った保険金の合計額がこの金額を超えるとき、超える部分が相続税の課税対象になります。法定相続人の数は、相続の放棄をした人がいても放棄がなかったものとして数えます。
Q.相続放棄をしても死亡保険金を受け取れますか。
A.受取人として指定されていれば受け取れます。ただし非課税限度額の適用を受けられるのは受取人が相続人である場合に限られ、相続を放棄した人や相続権を失った人は非課税の適用を受けられません。


