住んでいない家の売却でかかる税金の全体像
相続した実家や、引っ越して誰も住んでいない家を売ったとき、かかる税金の中心になるのは譲渡所得に対する所得税・復興特別所得税・住民税です。売った金額そのものに課税されるわけではなく、売った金額から買ったときの費用と売るための費用を差し引いた「もうけ」に対して課税されます。国税庁 No.3202 譲渡所得の計算のしかた(分離課税)
そして住んでいない家の売却では、3,000万円の特別控除が使えるかどうかで税額が大きく変わります。特別控除には、自分が住んでいた家を売る場合のものと、相続した空き家を売る場合のものの2種類があり、どちらに当てはまるかで要件も期限もまったく違います。
ここからは、譲渡所得の計算方法、空き家の特別控除の要件、取得費加算の特例との選び方、そして見落としやすい点まで順にご説明しますね。
譲渡所得の計算方法と税率
譲渡所得の計算式と取得費・譲渡費用
譲渡所得は、売った金額(収入金額)から取得費と譲渡費用を差し引いて計算します。さらに特別控除が使える場合は、そこから控除額を引いた金額が課税の対象になります。国税庁 No.3208 長期譲渡所得の税額の計算
取得費は、その家や土地を買い入れたときの購入代金や購入手数料に、その後の改良費や設備費を加えた合計額です。ただし建物については、所有していた期間の減価償却費相当額を差し引いて計算します。土地は減価しませんが、建物は年を追って取得費が小さくなる点に注意が必要です。
譲渡費用は、売るために直接かかった費用です。仲介手数料、測量費、売買契約書の印紙代、土地を売るために建物を取り壊したときの取壊し費用などが含まれます。一方で、固定資産税や修繕費のように資産の維持・管理のためにかかった費用は譲渡費用になりません。国税庁 No.3255 譲渡費用となるもの
相続で取得した家の場合、取得費は相続税評価額ではありません。被相続人が買ったときの購入代金などを引き継いで計算します。相続時に相続人が支払った登記費用や不動産取得税も、業務に使っていない土地建物であれば取得費に含められます。国税庁 No.3270 相続や贈与によって取得した土地・建物の取得費と取得の時期
長期譲渡所得と短期譲渡所得の税率
税率は、売った年の1月1日時点の所有期間で二段階に分かれます。5年を超えていれば長期譲渡所得、5年以下なら短期譲渡所得です。
| 区分 | 所得税と住民税の税率 |
|---|---|
| 長期譲渡所得 (1月1日時点で所有期間5年超) |
所得税15%・住民税5% |
| 短期譲渡所得 (1月1日時点で所有期間5年以下) |
所得税30%・住民税9% |
短期は長期の約2倍の負担になります。国税庁 No.3211 短期譲渡所得の税額の計算さらに平成25年から令和29年までの各年分については、基準所得税額に2.1%を掛けた復興特別所得税を所得税と併せて申告・納付します。
ここで大切なのが所有期間の数え方です。相続や贈与で取得した家は、被相続人や贈与者が取得した日がそのまま引き継がれます。相続してから1年で売っても、親が30年前に買った家なら長期譲渡所得として判定されます。相続直後の売却だから短期の高い税率になる、という心配は基本的に不要です。
関連コラム相続した不動産の売却にかかる税金|譲渡所得税の計算と2つの特例▸
取得費が分からないときの概算取得費
古い実家では、購入時の契約書が見つからないことがよくあります。その場合は売った金額の5%相当額を取得費とすることができます。実際の取得費が売った金額の5%を下回るときも、5%相当額を使えます。国税庁 No.3258 取得費が分からないとき
ただし5%で計算すると、売った金額の95%が利益として課税対象になってしまいます。売買契約書、売主からの領収書、登記時の資料、住宅ローンの返済予定表など、取得価額の手がかりになる書類は探す価値が大きいところです。なお概算取得費を使う場合は、相続人が支払った登記費用などを取得費に上乗せすることはできません。
相続した空き家の3,000万円特別控除
相続または遺贈で取得した被相続人の居住用家屋とその敷地を、平成28年4月1日から令和9年12月31日までの間に売って一定の要件に当てはまるときは、譲渡所得の金額から最高3,000万円を控除できます。これが「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」です。国税庁 No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例
家屋と敷地の主な要件
要件は多いのですが、押さえるべき柱は次のとおりです。
| 家屋の建築時期 | 昭和56年5月31日以前に建築されたこと |
|---|---|
| 建物の種類 | 区分所有建物登記がされている建物でないこと |
| 相続直前の居住状況 | 相続の開始の直前において、被相続人以外に居住していた人がいなかったこと |
| 相続後の使用状況 | 相続の時から譲渡の時まで、事業・貸付け・居住の用に供されていたことがないこと |
| 売り方 | 耐震基準を満たす家屋として売るか、家屋の全部を取り壊して敷地を売ること |
| 買主 | 親子や夫婦など特別の関係がある人への売却でないこと |
つまりこの特例は、被相続人が一人で住んでいた古い一戸建てが、相続後もそのまま空き家だったというケースを想定しています。被相続人が老人ホーム等に入所していて相続開始の直前には住んでいなかった場合も、要介護認定等を受けているなど一定の要件を満たせば対象になります。国税庁 No.3307 被相続人が老人ホーム等に入所していた場合の被相続人居住用家屋
手続き面では、確定申告書に譲渡所得の内訳書、登記事項証明書等、耐震基準適合証明書などのほか、家屋の所在地の市区町村長から交付を受けた「被相続人居住用家屋等確認書」を添える必要があります。この確認書は自治体への申請が必要なので、売却の段取りと並行して早めに準備しておくと安心です。
売却の期限と1億円の上限
期限は相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までです。さらに、売却代金が1億円以下であることも要件になります。
この1億円の判定は、その1回の売買代金だけでは決まりません。一体として利用していた部分を分割して売っている場合や、他の相続人が売っている場合は、それらの代金も合算して判定します。特例を受けた後に残りの部分を売って合計が1億円を超えたときは、その売却の日から4か月以内に修正申告書の提出と納税が必要になります。兄弟姉妹で分けて売る予定があるときは、事前に全体の売却計画を共有しておくことが欠かせません。
令和6年以降の取扱い
令和6年1月1日以後に行う譲渡については、次の2点が変わっています。
- 家屋と敷地を相続または遺贈により取得した相続人の数が3人以上である場合、控除額の上限は1人あたり2,000万円になります。
- 耐震改修や家屋の全部の取壊しを、譲渡の時からその譲渡の日の属する年の翌年2月15日までに行えば要件を満たすものとして扱われます。
後者は買主側で耐震改修や解体を行う取引にも道が開かれた緩和で、実務では使いやすくなりました。一方で相続人が3人以上いる場合は控除枠が縮むため、誰が相続して売るかという遺産分割の設計そのものが税額に影響します。
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自分が住んでいた家を売る場合の3,000万円特別控除
相続ではなく、自分が住んでいた家から引っ越して空き家になっている、というケースもあります。この場合に使えるのは「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」で、所有期間の長短に関係なく譲渡所得から最高3,000万円を控除できます。国税庁 No.3302 マイホームを売ったときの特例
いちばん大事な期限は、以前に住んでいた家屋は、住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ることです。この期間内であれば、住まなくなった日以後どのような用途に使っていても差し支えありません。ただし家屋を取り壊して敷地だけを売る場合は、取り壊した日から1年以内に譲渡契約を締結し、かつ取壊しから契約までの間に貸駐車場などその他の用に供していないことが必要です。
また、売った年の前年および前々年にこの特例やマイホームの譲渡損失の特例の適用を受けていないこと、売った年とその前年・前々年に買換えや交換の特例を受けていないことも要件です。別荘のように主として趣味・娯楽・保養のために所有している家屋は対象外です。
売った年の1月1日時点で家屋と敷地の所有期間がともに10年を超えている場合は、軽減税率の特例を3,000万円の特別控除と重ねて受けることができます。課税長期譲渡所得金額6,000万円以下の部分は所得税10%で計算されます。国税庁 No.3305 マイホームを売ったときの軽減税率の特例
取得費加算の特例との選択
相続した財産を売るときのもう一つの選択肢が、取得費加算の特例です。相続または遺贈で取得した土地・建物・株式などを一定期間内に売った場合に、納めた相続税額のうち一定金額を取得費に加算できる仕組みです。国税庁 No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例
適用の要件は、相続や遺贈で財産を取得した人であること、その人に相続税が課税されていること、そして相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡していることの3つです。相続税の申告期限は相続開始を知った日の翌日から10か月なので、売却期限は実質的に相続開始から約3年10か月となり、空き家特例の「3年を経過する日の属する年の12月31日」より長く取れる場合があります。
ここで重要なのが、空き家の3,000万円特別控除と取得費加算の特例は併用できないという点です。空き家特例の要件には、売った家屋や敷地について相続財産を譲渡した場合の取得費の特例など他の特例の適用を受けていないことが含まれています。どちらを選ぶかは、相続税額と譲渡益の大きさを見比べて判断します。
目安としては、譲渡益が3,000万円前後まであり要件を満たすなら空き家特例が有利になりやすく、相続税を多額に納めていて譲渡益がそれを上回るほど大きい場合は取得費加算が効いてくることもあります。どちらも試算してから決めるのが確実です。
関連コラム取得費加算の特例|相続した不動産売却の要件と計算▸
税額の計算例
数字で見たほうが分かりやすいので、ひとつ例をご紹介しますね。被相続人が一人で住んでいた昭和50年建築の実家を相続し、家屋を全部取り壊したうえで敷地を3,000万円で売ったとします。購入時の契約書は見つからず概算取得費を使い、仲介手数料や取壊し費用などの譲渡費用が150万円かかったケースです。
まず、特別控除を使わない場合の税額です。被相続人が取得した日を引き継ぐため長期譲渡所得となり、所得税15%・住民税5%で計算します。
合計で548万5,050円の負担です。ここで空き家の3,000万円特別控除が使えると、次のようになります。
譲渡所得の金額2,700万円が控除額3,000万円の範囲内に収まるため、課税される譲渡所得はゼロになり、所得税・復興特別所得税・住民税もかかりません。特別控除を使えるかどうかで、同じ売却でも500万円以上の差が出るということです。
なお相続人が3人以上で取得した家屋・敷地の令和6年以後の譲渡であれば控除額の上限は2,000万円となるため、この例では譲渡所得700万円が残り、相応の税額が生じます。
見落としやすい落とし穴
ご相談の中で実際につまずきやすいのは、次のような点です。
- 空き家を賃貸に出していたケース。相続の時から譲渡の時まで貸付けの用に供されていたことがないことが要件なので、少しでも人に貸すと空き家特例は使えません。駐車場として貸した場合も同様に注意が必要です。
- 被相続人に同居者がいたケース。相続開始の直前に被相続人以外に居住していた人がいると、空き家特例の対象になりません。
- 区分所有建物登記のマンション。区分所有建物登記がされている建物は対象外です。
- 取壊し後に駐車場などに使ってしまったケース。家屋を取り壊して敷地を売る場合、取壊し等の時から譲渡の時まで建物または構築物の敷地の用に供されていたことがないことが要件です。
- 建物の減価償却を忘れるケース。建物の取得費は所有期間中の減価償却費相当額を差し引くため、購入代金をそのまま取得費にすると計算を誤ります。
- 3年の期限を過ぎてしまうケース。空き家特例も取得費加算も期限があり、売却活動に時間がかかると間に合わないことがあります。相続が発生した時点から逆算して動くのが安全です。
いずれも、事前に分かっていれば避けられるものばかりです。売る前に要件を一つずつ確認しておくことが、いちばん確実な節税になります。
確定申告の進め方
住んでいない家を売って譲渡所得が生じたときは、売った年の翌年に確定申告をします。確定申告の期間は、原則としてその年の翌年2月16日から3月15日までで、申告および納付の期限は原則として翌年3月15日です。国税庁 No.2020 確定申告
ここで見落としやすいのが、特別控除によって税額がゼロになる場合でも確定申告が必要だということです。空き家の3,000万円特別控除もマイホームの3,000万円特別控除も、一定の書類を添えて確定申告をすることが適用の条件になっています。申告しなければ特例は適用されず、税額がそのまま発生してしまいます。
準備しておきたい主な書類は、譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)、売買契約書の写し、登記事項証明書等、取得費や譲渡費用の領収書です。空き家特例を使うなら被相続人居住用家屋等確認書と耐震基準適合証明書等、取得費加算を使うなら相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書も必要になります。
まとめ
住んでいない家の売却でかかる税金は、譲渡所得の計算と特別控除の当てはめ方でほぼ決まります。要点を整理すると次のとおりです。
- 課税されるのは売った金額ではなく、売った金額から取得費と譲渡費用を引いた譲渡所得です。
- 相続した家は被相続人の取得費と取得日を引き継ぐため、多くの場合は長期譲渡所得(所得税15%・住民税5%)になります。
- 取得費が分からないときは売った金額の5%を使えますが、利益が大きく出るため資料探しの価値は高いです。
- 被相続人が一人で住んでいた昭和56年5月31日以前建築の家なら、相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日までの売却で最高3,000万円の特別控除が使えます。
- 自分が住んでいた家なら、住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までの売却が期限です。
- 空き家の3,000万円特別控除と取得費加算の特例は併用できないため、どちらが有利か試算して選びます。
- 税額がゼロになる場合でも、特例の適用には確定申告が必要です。
特例の要件は細かく、同居者の有無や相続後の使い方といった事実関係ひとつで結論が変わります。売買契約を結んでからでは間に合わない準備もありますので、売却を検討し始めた段階で判断を固めておくことをおすすめします。具体的なケースは税理士へのご相談をおすすめします。
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参考文献
- 国税庁 No.3202 譲渡所得の計算のしかた(分離課税)
- 国税庁 No.3208 長期譲渡所得の税額の計算
- 国税庁 No.3211 短期譲渡所得の税額の計算
- 国税庁 No.3255 譲渡費用となるもの
- 国税庁 No.3258 取得費が分からないとき
- 国税庁 No.3270 相続や贈与によって取得した土地・建物の取得費と取得の時期
- 国税庁 No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例
- 国税庁 No.3307 被相続人が老人ホーム等に入所していた場合の被相続人居住用家屋
- 国税庁 No.3302 マイホームを売ったときの特例
- 国税庁 No.3305 マイホームを売ったときの軽減税率の特例
- 国税庁 No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例
- 国税庁 No.2020 確定申告
住んでいない家の売却と税金に関するよくある質問
Q. 住んでいない家を売ると必ず税金がかかりますか。
A. 課税されるのは売った金額そのものではなく、売った金額から取得費と譲渡費用を差し引いた譲渡所得です。譲渡所得が生じない場合や、特別控除で課税譲渡所得がゼロになる場合は所得税・住民税はかかりません。ただし特例を使うには確定申告が必要です。
Q. 相続してすぐ売ると短期譲渡所得の高い税率になりますか。
A. 相続や贈与で取得した土地建物は、被相続人や贈与者の取得の時期がそのまま引き継がれます。被相続人が長く所有していた家であれば、相続後すぐに売っても売った年の1月1日時点で所有期間5年超となり、長期譲渡所得として判定されます。
Q. 空き家の3,000万円特別控除はいつまでに売れば使えますか。
A. 相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売る必要があります。あわせて、平成28年4月1日から令和9年12月31日までの間の譲渡であることと、売却代金が1億円以下であることも要件です。
Q. マンションを相続した場合も空き家の特別控除は使えますか。
A. 区分所有建物登記がされている建物は対象外とされているため、一般的な分譲マンションでは使えません。対象になるのは昭和56年5月31日以前に建築され、区分所有建物登記がされていない家屋です。
Q. 空き家の3,000万円特別控除と取得費加算の特例は両方使えますか。
A. 併用はできません。空き家の特別控除の要件として、売った家屋や敷地について相続財産を譲渡した場合の取得費の特例など他の特例の適用を受けていないことが求められています。相続税額と譲渡益を試算して有利な方を選びます。
Q. 購入時の契約書が見つからないときはどうなりますか。
A. 売った金額の5パーセント相当額を取得費とすることができます。ただし売った金額の95パーセントが利益として課税対象になるため、登記時の資料や住宅ローンの返済予定表など、取得価額の手がかりになる書類を探すことをおすすめします。


