この記事は、取引先の葬儀に参列するための喪服・礼服を経費にできるか迷っている個人事業主の方と、小規模法人の経営者・経理担当の方に向けて、喪服の購入費・レンタル代・クリーニング代の税務上の扱いを国税庁の公表資料に沿って整理したものです。
結論から申し上げると、喪服の購入費は、個人事業主・法人のいずれでも原則として経費にしにくい支出です。個人事業主の場合は私生活でも着られる衣服として家事関連費に当たり、業務に必要な部分を明らかに区分できない限り必要経費になりません。法人が役員や従業員の喪服代を負担した場合は、会社の経費というより本人への給与(経済的利益)として課税されるおそれがあります。一方で、取引先の葬儀に出す香典や供花は、法人であれば原則として交際費等として扱われます。
「取引先の葬儀に行くためだけに買ったのだから、経費になるのでは」と考える方も多いはずです。以下で、個人事業主と法人に分けて判断の基準を確認し、レンタル代・クリーニング代、香典・供花の扱い、実務での取り扱い例を順にご説明します。
喪服の経費性の早見表
まず全体像です。同じ「喪服代」でも、誰が支出し、誰が着るのかによって税務上の扱いが変わります。
| 個人事業主が 自分の喪服を購入 |
家事関連費に当たり、原則として必要経費にならない |
|---|---|
| 法人が従業員に 喪服を支給 |
私服としても着られる衣服のため、非課税の制服等に当たらず給与として課税されるおそれがある |
| 法人が役員の 喪服代を負担 |
役員に対する経済的利益(給与)とされ、定期同額給与に当たらなければ損金不算入 |
| レンタル代・ クリーニング代 |
業務のための支出であることを明らかに区分できるかで判断する(個別判断) |
| 取引先への 香典・供花 |
法人は原則として交際費等、個人事業主は業務上の費用として必要経費になり得る |
このあと、それぞれの根拠と判断のポイントを確認していきます。
個人事業主が喪服を購入した場合の扱い
個人事業主の場合、必要経費になるのは、売上原価のほか、その年に生じた販売費、一般管理費その他業務上の費用です。そのうえで、家事上の費用は必要経費にならず、家事上と業務上の両方に関わる支出は家事関連費として、別のルールで判断します。国税庁 No.2210 必要経費の知識
家事関連費の考え方
家事関連費のうち必要経費になるのは、取引の記録などに基づいて、業務遂行上直接必要であったことが明らかに区分できる場合の、その区分できる金額に限られます。国税庁は例として、店舗併用住宅の家賃や水道光熱費などを挙げています。
所得税基本通達では、業務の遂行上必要な部分が50%を超えるかどうかで判定するとしたうえで、50%以下であっても、必要である部分を明らかに区分できる場合はその部分を必要経費に算入して差し支えないとしています。また、その判定は業務の内容、経費の内容、家族や使用人の構成、資産の利用状況などを総合勘案して行うとされています。国税庁 〔家事関連費(第1号関係)〕
喪服が原則として必要経費にならない理由
喪服や礼服は、取引先の葬儀だけでなく、親族の葬儀や法事、知人の通夜など私生活の場面でも着る衣服です。1着の喪服を業務と私用の両方で使う以上、どこまでが業務のための使用かを取引の記録で明らかに区分することは、一般的に困難です。
そのため、「取引先の葬儀に参列するために購入した」という事情があっても、購入費を全額必要経費にするのは難しいと考えておくのが安全です。税務調査では、衣服や身の回り品は私的な支出が混ざりやすい項目として確認されやすく、購入の経緯を説明できなければ否認されるおそれがあります。
関連コラム家族カードの経費は税務調査でどうなる?否認リスクと対処を税理士が解説▸
業務専用と言える場合の考え方
例外として検討の余地があるのは、葬儀関連の業務に従事していて、その衣服を業務の場面でしか着用しないことが客観的に説明できる場合です。たとえば、事業所に常備して業務の時だけ着用し、私用では使わないといった運用です。
ただし、喪服は形状として私用でも着られる衣服であることに変わりはありません。業務専用として扱えるかどうかは、事業の内容や保管・使用の実態によって判断が分かれるため、個別判断になります。自己判断で全額を経費にする前に、記録の残し方を含めて確認しておくことをおすすめします。
法人が役員・従業員の喪服を負担した場合の扱い
法人の場合は、喪服代を会社が支出すること自体はできても、その支出が着用する本人への給与と扱われるかどうかが論点になります。従業員と役員で、影響の出方が異なります。
従業員への支給は給与課税の対象になりうる
国税庁の質疑応答事例では、背広など私服としても着用できるものを制服として支給する場合、所得税法上非課税とされる制服等には当たらず、給与等として源泉徴収をする必要があるとされています。国税庁 背広の支給による経済的利益
同じ事例では、事務服や作業服などが非課税とされるためには、専ら勤務する場所で通常の職務を行う上で着用し私用には着用しない、または着用できないものであること、そしてその職場の全員や一定の仕事に従事する者の全員を対象として支給・貸与されることが必要と考えられるとしています。喪服は私用でも着用できるため、従業員に支給すると、この要件を満たしにくいと考えられます。
非課税とされる制服等との違い
非課税とされる制服等と、喪服・背広のように私服としても着られる衣服の違いを整理すると、次のとおりです。
| 区分 | 所得税の取扱い |
|---|---|
| 職務上着用が義務付けられた制服、 職場専用の事務服・作業服等 |
一定の要件を満たせば非課税 |
| 背広・喪服など 私服としても着用できる衣服 |
非課税の制服等に当たらず、給与として源泉徴収の対象 |
なお、衣裳代の負担について、その事業所のみでしか使用できないデザインのものや、事業所以外でも使用できるものであっても事業所に常備しその事業所のみで使用するものは、制服に準ずる事務服等の取扱いに準じて課税しなくて差し支えないとした国税庁の事例があります。国税庁 ホステスの衣裳代負担による経済的利益 会社の備品として喪服を保管し、業務で参列する時だけ貸し出す運用を検討する場合の参考になりますが、喪服にそのまま当てはまるとまでは言い切れないため、個別判断になります。
役員の喪服代は損金不算入のリスク
役員の場合は、さらに法人税の影響があります。国税庁は、法人が役員等に支給する給与には経済的な利益も含まれるとし、その例として役員等の個人的費用の負担額を挙げています。国税庁 No.5202 役員等に対する経済的利益
そして、役員に継続的に供与される経済的利益のうち、毎月おおむね一定であるものは定期同額給与に該当して損金の額に算入されますが、それ以外のものは定期同額給与に該当せず、損金の額に算入されません。喪服代のように臨時に負担した費用は、毎月おおむね一定とは言えないため、損金不算入となるおそれがあります。所得税の面でも、役員本人への給与として源泉徴収の対象になり得ます。
同じページでは、所得税法上経済的な利益として課税されないもので、かつ法人が給与として経理しなかったものは給与として扱われないともされています。喪服は私服としても着用できる衣服であるため、この扱いに当たるかどうかは慎重な検討が必要です。
関連コラム法人カード 税務調査|私的利用・ポイントの取扱いを税理士が解説▸
レンタル代・クリーニング代の考え方
喪服のレンタル代やクリーニング代も、考え方は購入費と同じです。業務のための支出であることを明らかに区分できるかという家事関連費の基準に沿って判断します。
たとえば、取引先の葬儀に参列するためだけに喪服を1回借り、日付・参列先・取引関係が記録で確認できるレンタル代は、業務上の費用として説明しやすい支出です。一方、自分の喪服のクリーニング代は、その喪服を私用でも着ている以上、業務分だけを区分することが難しく、必要経費にしにくいと考えられます。法人が役員・従業員のために負担する場合は、前の章と同じく本人への給与に当たらないかという視点も加わります。いずれも事実関係によって結論が変わるため、個別判断としてお考えください。
取引先の葬儀で支出する香典・供花の扱い
喪服代とは別に、取引先の葬儀では香典や供花を出すことが多いはずです。こちらは喪服代と違い、相手先との取引関係のための支出として扱いが明確になっています。
法人は原則として交際費等
交際費等とは、法人が得意先、仕入先その他事業に関係のある者などに対する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為のために支出するものをいいます。国税庁 No.5265 交際費等の範囲と損金不算入額の計算 租税特別措置法関係通達では、交際費等に含まれる費用の例示として、得意先、仕入先等社外の者の慶弔、禍福に際し支出する金品等の費用が挙げられています。国税庁 第1款 交際費等の範囲
交際費等は原則として全額が損金不算入ですが、期末の資本金の額または出資金の額が1億円以下である等の法人は、800万円にその事業年度の月数を乗じて12で除した金額(定額控除限度額)を超える部分が損金不算入となる、といった措置が設けられています。香典や供花を出したときは、支出先・日付・金額を記録し、交際費等として集計しておくことが大切です。
個人事業主の場合
個人事業主が取引先の葬儀に出す香典や供花は、業務上の費用として必要経費になり得ます。ただし、相手が取引先であっても私的な付き合いの性格が強い場合は、業務との関連を説明できるかどうかが問われます。会葬礼状や案内状など、支出の事実と相手先との関係が分かる資料を残しておくと安心です。
従業員の親族の葬儀は福利厚生費となる場合
従業員等やその親族等のご不幸などに際して、一定の基準に従って支給される香典などの費用は、交際費等から除かれ福利厚生費などとされます。国税庁 No.5261 交際費等と福利厚生費との区分 社内の慶弔見舞金規程などで支給基準を定めておくと、取引先向けの香典との区分がはっきりします。香典を受け取った側の税金や香典返しの扱いは、次のコラムで詳しく解説しています。
関連コラム香典受領と香典返しの税務上の取り扱い!税金や経費の疑問を解決▸
実務での取り扱い例
実務でよくご相談いただく場面を、ここまでの基準に当てはめて整理します。いずれも典型的な事実関係を前提にした考え方で、実際の結論は個別の事情によって変わります。
| 個人事業主が 取引先の葬儀前に喪服を新調 |
私用でも着用するため家事関連費に当たり、原則として必要経費に算入しない。香典は業務上の費用として必要経費になり得る |
|---|---|
| 法人が社長の 喪服代を会社カードで支払い |
役員の個人的費用の負担として経済的利益に当たるおそれ。臨時の負担のため損金不算入となり得るので、役員への立替金として精算する処理が考えられる |
| 法人が営業担当者に 喪服を支給 |
私服としても着用できるため、非課税の制服等に当たらず給与として源泉徴収の対象になり得る |
| 法人が取引先の 社長の葬儀に供花 |
社外の者の慶弔に際し支出する費用として、原則として交際費等 |
申告の現場で多いのは、喪服代を「接待交際費」や「消耗品費」として会社の経費に入れてしまい、後から役員への経済的利益として指摘されるケースです。少額でも、誰が着る衣服なのか、私用でも使えるのかという視点で、支出の時点で処理を決めておくことが大切です。
喪服や礼服の扱いは、事業の内容、着用する人、保管や使用の実態によって判断が分かれます。経費にできるかどうか迷う支出がある場合や、すでに経費に計上してしまった場合は、まずは税理士にご相談ください。
まとめ
喪服・礼服の費用は、取引先の葬儀のためであっても、そのまま経費にできる支出ではありません。最後に要点を整理します。
- 個人事業主の喪服代は家事関連費に当たり、業務に必要な部分を明らかに区分できない限り必要経費にならない
- 法人が従業員に喪服を支給すると、私服としても着用できるため給与として源泉徴収の対象になり得る
- 法人が役員の喪服代を負担すると経済的利益(給与)とされ、定期同額給与に当たらなければ損金不算入
- レンタル代・クリーニング代は、業務のための支出であることを区分できるかで判断する個別判断
- 取引先への香典・供花は、法人では原則として交際費等、個人事業主は業務上の費用として必要経費になり得る
具体的なケースは税理士へのご相談をおすすめします。
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参考文献
- 国税庁 No.2210 必要経費の知識
- 国税庁 〔家事関連費(第1号関係)〕
- 国税庁 背広の支給による経済的利益
- 国税庁 ホステスの衣裳代負担による経済的利益
- 国税庁 No.5202 役員等に対する経済的利益
- 国税庁 No.5265 交際費等の範囲と損金不算入額の計算
- 国税庁 第1款 交際費等の範囲
- 国税庁 No.5261 交際費等と福利厚生費との区分
喪服の経費に関するよくある質問まとめ
Q.個人事業主が取引先の葬儀のために買った喪服は経費になりますか。
A.原則として必要経費にはなりません。喪服は私生活の葬儀や法事でも着られる衣服で、業務に必要な部分を明らかに区分することが難しいためです。
Q.喪服のレンタル代なら経費にできますか。
A.取引先の葬儀に参列するためだけに借りたことが記録で明らかであれば、業務に必要な支出として説明しやすくなります。ただし私用の参列と兼ねている場合などは個別判断になります。
Q.会社が社長の喪服代を払った場合はどうなりますか。
A.役員の個人的費用を会社が負担したものとして、役員に対する経済的利益(給与)に当たるおそれがあります。毎月おおむね一定の額でなければ定期同額給与に該当せず、法人税の計算上は損金の額に算入されません。
Q.従業員に喪服を支給すると課税されますか。
A.私服としても着用できる衣服を支給した場合、非課税とされる制服等には当たらず、給与として源泉徴収が必要とされています。
Q.取引先の葬儀に出した香典や供花は経費になりますか。
A.法人では、得意先や仕入先など社外の者の慶弔に際して支出する金品の費用は原則として交際費等に含まれます。個人事業主は業務上の費用として必要経費になり得ます。
Q.従業員の家族の葬儀に会社が出した香典はどうなりますか。
A.従業員やその親族のご不幸に際し、一定の基準に従って支給される香典は、交際費等から除かれ福利厚生費などとされます。慶弔見舞金規程などで基準を定めておくことが大切です。


