「医療保険から入院給付金を受け取ったが、所得税はかかるのか」「確定申告で収入として書く必要があるのか」と迷われる方は少なくありません。この記事は、医療保険やがん保険から入院給付金・手術給付金などを受け取った会社員・個人事業主・経営者の方に向けて、所得税の取扱いを国税庁の一次情報に沿って整理したものです。
結論から申し上げると、病気やけがで受け取る入院給付金は、「身体の傷害に基因して支払を受けるもの」として所得税が非課税となり、そのための確定申告も原則として必要ありません。ただし、医療費控除を受ける場合は、入院給付金を「保険金などで補てんされる金額」として医療費から差し引く必要があります。差し引くのはその給付の目的となった医療費が限度で、他の医療費からは差し引きません。
入院給付金が所得税で非課税になる国税庁の根拠
まずは、入院給付金がなぜ非課税になるのか、法令と国税庁の取扱いを確認します。根拠を押さえておくと、受取人が本人以外の場合や、死亡保険金との違いも整理しやすくなります。
所得税法第9条と施行令第30条の「身体の傷害に基因して支払を受けるもの」
所得税法第9条第1項第18号は、保険契約に基づき支払を受ける保険金などで、心身に加えられた損害に基因して取得するものその他の政令で定めるものを、非課税所得として定めていますe-Gov法令検索 所得税法第9条。その政令である所得税法施行令第30条第1号では、生命保険契約などに基づく給付金で「身体の傷害に基因して支払を受けるもの」が非課税とされていますe-Gov法令検索 所得税法施行令第30条。
国税庁は、疾病により重度障害の状態になったことなどにより、生命保険契約または損害保険契約に基づき支払を受ける高度障害保険金、高度障害給付金、入院費給付金等は、この「身体の傷害に基因して支払を受けるもの」に該当するものとして取り扱っています(所得税基本通達9-21)国税庁 疾病により重度障害となった者以外の親族が保険金の支払を受けた場合。けがだけでなく、病気による入院の給付金も対象になる点がポイントです。
通達の文言は「入院費給付金等」となっています。実務では、手術給付金や通院給付金のように、病気やけがによる治療を原因として支払われる給付金も、同じ考え方で「身体の傷害に基因して支払を受けるもの」に当たるかを判断します。
非課税になる給付金と対象外の保険金
保険から受け取るお金のうち、所得税の取扱いが分かれる主なものを整理すると、次のとおりです。
| 入院費給付金(入院給付金)等 | 身体の傷害に基因して支払を受けるものとして非課税 |
|---|---|
| 高度障害保険金・ 高度障害給付金 |
身体の傷害に基因して支払を受けるものとして非課税 |
| 所得補償保険の保険金 | 身体の傷害に基因して支払を受ける保険金として非課税 |
| 死亡保険金 | 非課税の対象外(契約関係により所得税・相続税・贈与税のいずれか) |
いわゆる死亡保険金は、「身体の傷害に基因して支払を受けるもの」には該当しません。死亡保険金は、被保険者、保険料の負担者および保険金受取人が誰であるかにより、所得税、相続税、贈与税のいずれかの課税の対象になります国税庁 No.1750 死亡保険金を受け取ったとき。同じ保険会社から受け取るお金でも、支払の理由によって税金の扱いがまったく変わる点に注意が必要です。
個人事業主・経営者の所得補償保険の扱い
個人事業主の方が加入していることの多い所得補償保険は、病気やけがで勤務または業務に従事できなかった期間の給与または収益を補てんする保険です。この保険金も、身体の傷害に基因して支払を受ける保険金に該当するので非課税とされています国税庁 No.1760 所得補償保険の保険金を受け取ったとき。
一方で、事業主が自己を被保険者とした所得補償保険の保険料は家事費とされ、事業所得などの計算上、必要経費に算入することはできません。受け取る保険金が非課税である裏返しとして、支払う保険料も経費にならないと押さえておくと、帳簿づけで迷いにくくなります。
入院給付金は確定申告が不要
非課税所得は所得金額の計算から除かれるため、非課税の適用を受けるための手続は原則として必要ありません国税庁 No.2011 課税される所得と非課税所得。入院給付金を受け取ったことだけを理由に確定申告をする必要はありません。
個人事業主の方も、入院給付金を事業の収入(売上げ)や雑収入として計上する必要はありません。事業用の口座に入金された場合は、事業の収入と混ざらないよう、事業主借などで処理しておくと後から確認しやすくなります。保険金と税務署への情報の流れについては、次の記事でも整理しています。
関連コラム保険金は税務署に通知される?支払調書と所得税・申告漏れの注意点▸
受取人が本人以外でも非課税になる範囲
「身体の傷害に基因して支払を受けるもの」は、本来、自己の身体の傷害に基因して支払を受けるものをいいます。ただし、支払を受ける人とけがや病気をした人が異なる場合でも、支払を受ける人が次のいずれかに当たるときは、同じく非課税として取り扱われます(所得税基本通達9-20)。
- 身体に傷害を受けた人の配偶者
- 身体に傷害を受けた人の直系血族(父母・子など)
- 身体に傷害を受けた人と生計を一にするその他の親族
国税庁の質疑応答事例では、父親を契約者・被保険者とし、子を受取人とする生命保険契約で、父親が疾病により重度障害の状態になって子が受け取った高度障害保険金について、子と父親が直系血族の関係にあることから非課税所得になると回答されています。
実務では、家族の医療保険の給付金を、契約上の受取人である配偶者や親が受け取るケースがよく見られます。この範囲の親族であれば非課税の取扱いは変わりませんが、生計を別にする兄弟姉妹などが受け取る場合は、この範囲に当たるかを個別に確認することをおすすめします。
医療費控除では入院給付金を差し引く
入院給付金は非課税ですが、同じ年に医療費控除を受ける場合は扱いが変わります。ここが申告の誤りが起きやすいところです。
保険金などで補てんされる金額の差し引き方
医療費控除の金額は、実際に支払った医療費の合計額から「保険金などで補てんされる金額」を差し引き、さらに10万円(その年の総所得金額等が200万円未満の人は総所得金額等の5パーセントの金額)を差し引いて計算します。控除額の上限は200万円です。保険金などで補てんされる金額の例として、生命保険契約などで支給される入院費給付金や、健康保険などで支給される高額療養費・家族療養費・出産育児一時金などが挙げられています国税庁 No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)。
差し引く補てん額は、その給付の目的となった医療費の金額が限度です。入院費を上回る入院給付金を受け取って引ききれない金額が生じても、歯の治療費など他の医療費からは差し引きません。国税庁の質疑応答事例でも、補てんの差引計算は補てんの対象とされる医療費ごとに行い、入院費を超える部分の入院給付金を歯の治療費から差し引く必要はないと回答されています国税庁 支払った医療費を超える補填金。
高額療養費も同じように差し引く
入院で医療費が高額になった場合は、健康保険の高額療養費の支給を受けることがあります。高額療養費も医療費控除では補てんされる金額として差し引くため、民間の入院給付金とあわせて、どの医療費に対する支給なのかを整理しておくことが大切です。高額療養費の仕組みや自己負担限度額は、次の記事で解説しています。
関連コラム高額療養費とは?対象となる費用や自己負担限度額の計算方法を解説▸
入院費と入院給付金の設例
考え方を確認するため、自前の数字で設例を作りました。会社員のAさん(その年の総所得金額等500万円)が、同じ年に次の医療費を支払い、医療保険から入院給付金を受け取ったケースです。
| 入院・手術の医療費 | 20万円(自己負担額) |
|---|---|
| 歯の治療費 | 18万円 |
| 通院・薬代 | 4万円 |
| 入院給付金 | 25万円(日額1万円の入院25日分。入院の医療費に対する給付) |
まず、支払った医療費の合計額と、差し引く補てん額を確認します。入院給付金25万円は入院の医療費20万円が限度となるため、差し引くのは20万円です。
入院の医療費を超える5万円は、歯の治療費や通院・薬代からは差し引きません。仮に入院給付金25万円の全額を医療費の合計額から差し引くと、次のように控除額を5万円少なく計算してしまいます。
同じ医療費で、個人事業主のBさん(その年の総所得金額等180万円)の場合は、総所得金額等が200万円未満のため、10万円ではなく総所得金額等の5パーセントを差し引きます。
申告の現場で多いのは、入院給付金を差し引き忘れるケースと、反対に給付金の全額を他の医療費からまで差し引いてしまうケースです。保険会社の支払明細で「どの入院・手術に対する給付か」を確認し、医療費の領収書とひも付けて整理しておくと、医療費控除の明細書を作りやすくなります。
入院給付金で迷いやすいケース
法人契約で法人が受取人の場合
ここまでご説明した非課税は、個人が受け取る給付金に対する所得税の取扱いです。会社が契約者となり、役員や従業員を被保険者、会社を受取人とする医療保険から会社が給付金を受け取る場合は、法人税の計算の中で扱うことになり、この記事の非課税の考え方はそのまま当てはまりません。法人契約の給付金を役員や従業員に渡す場合の扱いも含め、契約内容と経理処理をあわせて確認することをおすすめします。
本人が亡くなった後の入院給付金
国税庁の質疑応答事例では、余命6か月以内と診断された場合に支払われるリビング・ニーズ特約の生前給付金について、非課税所得として扱ったうえで、受取人である被保険者がその後に死亡した場合は、入院費用等の支払に充てられた後の相続開始時点における残額が、本来の相続財産として相続税の課税対象になるとしています(この場合、相続税法第12条第1項第5号の非課税規定の適用はありません)国税庁 リビング・ニーズ特約に基づく生前給付金。
所得税で非課税だった給付金でも、本人が亡くなったときに使われずに残っていれば、相続税の申告では財産として計上を検討する必要があるということです。本人の入院中に請求し、亡くなった後に入金された入院給付金の扱いや、申告漏れを防ぐポイントは次の記事で解説しています。
関連コラム未入金の死亡保険金や入院給付金は相続財産?申告漏れを防ぐポイント▸
入院給付金そのものは非課税でも、医療費控除の計算、受取人が家族の場合の範囲、法人契約や相続が絡む場合の扱いなど、確認すべき点は少なくありません。ご自身のケースで判断に迷う場合は、まずは税理士にご相談ください。
まとめ
入院給付金は、所得税法第9条と施行令第30条により所得税が非課税となります。要点は次のとおりです。
- 入院費給付金等は「身体の傷害に基因して支払を受けるもの」として非課税で、病気による入院も対象
- 非課税所得のため、受け取ったことを理由とする確定申告は原則不要
- 受取人が本人の配偶者・直系血族・生計を一にする親族でも非課税
- 死亡保険金は非課税の対象外で、契約関係により所得税・相続税・贈与税のいずれかの対象
- 所得補償保険の保険金も非課税だが、事業主が自分のために払う保険料は必要経費にならない
- 医療費控除では入院給付金を補てん額として差し引き、限度はその給付の目的となった医療費
- 引ききれない給付金は他の医療費から差し引かない
- 総所得金額等が200万円未満の人は、10万円ではなく総所得金額等の5パーセントを差し引く
入院給付金を受け取った年に医療費控除を受けるときは、給付と医療費の対応関係を整理しておくことが大切です。具体的なケースについては、税理士へのご相談をおすすめします。
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参考文献
- e-Gov法令検索 所得税法第9条
- e-Gov法令検索 所得税法施行令第30条
- 国税庁 疾病により重度障害となった者以外の親族が保険金の支払を受けた場合
- 国税庁 No.1750 死亡保険金を受け取ったとき
- 国税庁 No.1760 所得補償保険の保険金を受け取ったとき
- 国税庁 No.2011 課税される所得と非課税所得
- 国税庁 No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)
- 国税庁 支払った医療費を超える補填金
- 国税庁 リビング・ニーズ特約に基づく生前給付金
入院給付金と所得税のよくある質問まとめ
Q.医療保険の入院給付金に所得税はかかりますか?
A.かかりません。入院費給付金等は、所得税法施行令第30条第1号の「身体の傷害に基因して支払を受けるもの」に該当するものとして取り扱われ、非課税所得となります。けがだけでなく病気による入院の給付金も対象です。
Q.入院給付金を受け取ったら確定申告が必要ですか?
A.原則として必要ありません。非課税所得は所得金額の計算から除かれるため、非課税の適用を受けるための手続は原則として不要です。ただし、医療費控除を受けるために確定申告をする場合は、入院給付金を医療費から差し引きます。
Q.家族が受取人の入院給付金も非課税ですか?
A.受取人が、病気やけがをした人の配偶者、直系血族、または生計を一にするその他の親族であれば、非課税として取り扱われます。なお、いわゆる死亡保険金は非課税の対象外です。
Q.医療費控除で入院給付金はどの医療費から差し引きますか?
A.その給付の目的となった医療費(入院給付金なら入院の医療費)から差し引きます。入院費を上回る給付金を受け取って引ききれない金額が生じても、歯の治療費など他の医療費からは差し引きません。
Q.個人事業主の所得補償保険の保険金は課税されますか?
A.所得補償保険の保険金は、身体の傷害に基因して支払を受ける保険金に該当するので非課税とされています。一方、事業主が自己を被保険者として支払う保険料は家事費とされ、必要経費に算入できません。
Q.入院給付金を受け取った後に本人が亡くなった場合はどうなりますか?
A.国税庁の質疑応答事例では、リビング・ニーズ特約の生前給付金について、受取人である被保険者が死亡した場合、入院費用等に充てた後の相続開始時点の残額は本来の相続財産として相続税の課税対象になるとしています。給付金の残りや未入金分の扱いは、相続税の申告であわせて確認が必要です。


