「家を譲る代わりに、残っている住宅ローンを払ってほしい」。こうした条件付きの贈与を「負担付贈与」といいます。ご家族の希望を形にしやすい一方で、税金の計算は通常の贈与とかなり違ってくるんです。
先に結論をお伝えすると、負担付贈与でもらった人には「もらった財産の価額−引き受けた負担額」に贈与税がかかり、土地や建物は相続税評価額(路線価など)ではなく通常の取引価額(時価)で評価します。さらに、あげた人も負担額で財産を売ったものとして扱われ、利益が出れば所得税がかかります国税庁 No.4426 負担付贈与に対する課税。この記事では、負担付贈与の仕組みとメリット・デメリットを、具体例の計算を交えながらわかりやすくご説明しますね。
負担付贈与とは?通常の贈与との違い
負担付贈与とは、財産をもらう人(受贈者)に一定の債務を負担させることを条件にした贈与のことです。財産をただ渡すのではなく、「渡す代わりにこれをお願いね」という約束がセットになっているのが特徴です。
負担付贈与の具体例
- 父が住んでいたマンションを子に贈与し、残っている住宅ローンの返済を子が引き継ぐ
- 父が土地を子に贈与し、その代わりに父の銀行借入金を子が肩代わりする
- 母がまとまった現金を子に渡し、その代わりに今後の生活費の一部や介護の費用を子が負担する
- 父が長男に土地を贈与し、その代わりに長男が妹へ一定のお金を支払う(負担の利益を受けるのが第三者のケース)
通常の贈与との違い
通常の贈与との違いを表にまとめました。とくに税金の面で大きな差が出ます。
| 比較項目 | 通常の贈与 | 負担付贈与 |
|---|---|---|
| もらう人の負担 | なし | あり(借入金の引受けなど) |
| 贈与税がかかる金額 | もらった財産の価額 | もらった財産の価額−負担額 |
| 土地・建物の評価 | 相続税評価額 (路線価・固定資産税評価額など) |
通常の取引価額(時価) |
| あげた人の所得税 | 原則としてかからない | 負担額で譲渡したものとして 譲渡益が出ればかかる |
民法上は「双務契約」に近いルールが使われる
民法では、負担付贈与には性質に反しない限り、売買のような双務契約の規定を準用することになっていますe-Gov法令検索 民法第553条。そのため、もらった人が約束した負担を果たさない場合、あげた人は相当の期間を定めて履行を求め、それでも果たされなければ契約を解除できる、という考え方になります。
また、あげた人は負担の限度で、売主と同じように担保の責任を負いますe-Gov法令検索 民法第551条。なお、書面によらない贈与は、履行が終わった部分を除いて各当事者が解除できるためe-Gov法令検索 民法第550条、口約束のままだと約束の中身も解除できる範囲もあいまいになりがちです。
もらった人の贈与税は「財産の価額−負担額」で計算
個人から負担付贈与を受けた場合、贈与税がかかるのは、もらった財産の価額から負担額を差し引いた金額です。
ここで注意したいのが「贈与財産の価額」の測り方です。財産の種類によって、使う価額が次のように変わります。
| 土地・借地権・家屋・構築物など | 贈与の時における通常の取引価額に相当する金額 |
|---|---|
| 上場株式 | 課税時期の最終価格(過去3か月の月平均額との比較による引下げは使えない) |
| 上記以外の財産 | 相続税評価額 |
土地・建物は「通常の取引価額」で評価する理由
土地や建物の相続税評価額(路線価など)は、実際の取引価格より低くなるのが一般的です。もし負担付贈与でも相続税評価額を使えるとすると、「時価より低い評価額」から「額面どおりの借入金」を差し引けるため、贈与税をほとんどかけずに不動産を移すことができてしまいます。
こうした税負担の回避を防ぐため、国税庁の通達で、負担付贈与や個人間の対価を伴う取引で取得した土地等・家屋等は、取得時の通常の取引価額に相当する金額で評価すると定められています国税庁 負担付贈与又は対価を伴う取引により取得した土地等及び家屋等に係る評価並びに相続税法第7条及び第9条の規定の適用について。
ただし、贈与者がその土地や建物を取得したときの取得価額が、贈与の時の通常の取引価額に相当すると認められる場合は、取得価額で評価することもできます。建物の場合の取得価額は、取得から贈与までの償却費(減価)を差し引いた金額です。
預金や上場株式の場合
土地・建物以外の財産は、原則として相続税評価額から負担額を差し引いて計算します。預金であれば残高がそのまま基準になります。上場株式は、通常の贈与であれば課税時期の最終価格と過去3か月の月平均額のうち最も低い価額を使えますが、負担付贈与で取得した場合は課税時期の最終価格で評価することになっています国税庁 第1節 株式及び出資。
負担の利益が第三者に行く場合
「長男に土地を渡す代わりに、長男が妹にお金を払う」のように、負担の利益が贈与の当事者以外の人に帰する場合は、その第三者が負担額に相当する金額を贈与によって取得したことになります国税庁 第9条《その他の利益の享受》関係。この例では、妹さんにも贈与税の申告が必要になることがあります。負担が条件付きのもの(たとえば「親が介護施設に入ったら支払う」)であれば、その条件が満たされた時に取得したことになります。
関連コラム贈与税の税率はいくら?一般・特例の速算表と計算例を解説▸
あげた人にかかる所得税(譲渡所得)
負担付贈与の見落としやすい点が、あげた人(贈与者)にも税金がかかることがある点です。借入金などを引き受けてもらうことで、あげた人は負担額分の経済的な利益を得ます。そのため税務上は、負担額を対価として財産を譲渡したものとして扱われ、譲渡益が出れば所得税の対象になります。
土地や建物の場合は、譲渡した年の1月1日時点で所有期間が5年を超えていれば長期譲渡所得、5年以下なら短期譲渡所得として、ほかの所得と分けて税額を計算します。長期譲渡所得の所得税は15%で、これに復興特別所得税(所得税額の2.1%)が加わります国税庁 No.1440 譲渡所得(土地や建物を譲渡したとき)。住民税5%と合わせると、合計20.315%です。
負担額が取得費より少ない場合(譲渡損)の注意
反対に、負担額が取得費を下回って「損」が出るケースもあります。このとき、個人に対して時価の2分の1に満たない対価で譲渡した場合は、その譲渡損はなかったものとみなされますe-Gov法令検索 所得税法第59条。負担付贈与は時価よりかなり少ない負担額で行われることが多いため、「損が出たからほかの所得と相殺できる」とはならない点に気をつけてください。
具体例で計算|贈与税と譲渡所得はいくら?
実際の金額で計算してみましょう。前提は次のとおりです。
- 父(70歳)が、20年前に1,000万円で取得した土地を、子(40歳)に贈与する
- 土地の通常の取引価額(時価)は3,000万円、路線価による相続税評価額は2,400万円と仮定
- その代わりに、父の銀行借入金1,200万円を子が引き受ける
- 子はこの年、ほかに贈与を受けていない/譲渡費用はないものとする
子の贈与税(暦年課税・特例税率)
土地は時価3,000万円で評価し、引き受けた借入金1,200万円を差し引きます。親から18歳以上の子への贈与なので、特例税率を使います国税庁 No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)。
仮に相続税評価額2,400万円で計算できたとすると、課税価格は1,200万円、贈与税は246万円です。時価で評価するルールがあることで、税額はおよそ2倍になっています。
子が相続時精算課税を選んだ場合
贈与者が60歳以上の父母・祖父母で、受贈者が18歳以上の子・孫であれば、相続時精算課税を選ぶこともできます。令和6年1月1日以後の贈与は、毎年110万円の基礎控除を差し引いた後、累計2,500万円の特別控除を超えた部分に一律20%の贈与税がかかります国税庁 No.4103 相続時精算課税の選択。
この場合、贈与税はかからず、特別控除の残りは810万円です。ただし、特別控除は期限内に申告した場合に限り使えます。また、父が亡くなったときには、この贈与分(基礎控除を差し引いた1,690万円)を相続財産に加えて相続税を計算します。
関連コラム相続時精算課税110万円のデメリット|暦年課税との選び方を解説▸
父の譲渡所得税
父は、借入金1,200万円の返済義務がなくなるため、土地を1,200万円で譲渡したものとして扱われます。所有期間は5年超なので長期譲渡所得です。
内訳は、所得税・復興特別所得税が30万6,300円(200万円×15.315%)、住民税が10万円(200万円×5%)です。父は翌年の確定申告が必要になります。
取得費が負担額より高かった場合
もし父の取得費が1,600万円だった場合は、1,200万円−1,600万円で400万円の損になります。しかし、負担額1,200万円は時価3,000万円の2分の1(1,500万円)に満たないため、この400万円の損はなかったものとみなされ、ほかの所得と相殺することはできません。
賃貸アパートや住宅ローン付きの家を贈与するとき
賃貸アパートは敷金と同額の現金を一緒に贈与する
入居者がいる賃貸アパートを贈与すると、入居者から預かっている敷金の返還義務も新しい所有者に引き継がれます。そのため、法形式上は負担付贈与に当たります。
ただし、敷金返還義務に相当する現金を同時に贈与していれば、実質的な負担はないと認められ、負担付贈与の通達は適用されません。この場合は譲渡の対価もないため、あげた人に譲渡所得の課税も生じないとされています国税庁 賃貸アパートの贈与に係る負担付贈与通達の適用関係。賃貸物件の贈与では、敷金の金額を確認し、同額の現金をセットで渡すのが基本です。
住宅ローンの引受けには金融機関の承諾が必要
住宅ローンの返済を子が引き継ぐ場合、親子の約束だけでは足りません。親の債務を子が引き受けて親が債務を免れる「免責的債務引受」は、債権者である金融機関との契約か、金融機関の承諾が必要ですe-Gov法令検索 民法第472条。金融機関の審査で引受けが認められないこともあるため、贈与の前に必ず相談しておきましょう。
負担付贈与のメリット
財産を渡す代わりに、希望する負担をお願いできる
最大のメリットは、財産を渡す側の希望を条件として相手に引き受けてもらえることです。「家を譲るから残りのローンを払ってほしい」「まとまったお金を渡すので、介護の費用を負担してほしい」など、ご家族の間で切り出しにくいことも、契約という形にすると話を進めやすくなります。
約束が守られなければ契約を解除できる
先ほどご説明したとおり、負担付贈与には双務契約の規定が準用されます。もらった人が約束を果たさない場合、あげた人は履行を求めたうえで契約を解除し、財産の返還を求めることができます。万が一のときに白紙に戻す手段があることは、渡す側にとって安心材料になります。
負担額の分だけ贈与税の課税価格が小さくなる
引き受けた負担額は課税価格から差し引けるため、同じ財産をそのまま贈与する場合と比べて、もらう人の贈与税は抑えられます。ただし、土地・建物は時価で評価されるため、相続税評価額で贈与する通常の贈与より有利とは限りません。
負担付贈与のデメリットと注意点
不動産は時価で評価され、贈与税が重くなりやすい
具体例のとおり、不動産を負担付贈与すると相続税評価額ではなく時価で評価されます。相続税評価額で計算する通常の贈与と比べ、贈与税が大きく増えることがあります。実行前に、時価がいくらになるのかを含めて試算しておくことが欠かせません。
あげた人にも所得税がかかることがある
負担額が取得費を上回れば、あげた人に譲渡所得の所得税・住民税がかかり、確定申告も必要です。とくに昔に安く買った土地は取得費が低く、譲渡益が大きくなりがちです。反対に損が出ても、時価の2分の1未満の負担額であれば損はなかったものとされます。
相手が約束を果たさないと、取り戻すのに手間がかかる
契約を解除できるとはいえ、すでに不動産の名義を変えていたり、お金が使われていたりすると、財産を取り戻すために話し合いや裁判などの手続きが必要になることがあります。「誰が・いつまでに・何を・どのように負担するのか」「守られなかったときはどうするのか」を契約書に具体的に書いておきましょう。
関連コラム贈与契約書の書き方|記載事項と否認されない作成のポイント▸
遺留分の計算にも影響する
将来の相続で遺留分を計算するとき、負担付贈与で渡した財産は「目的の価額から負担の価額を差し引いた額」で算入されますe-Gov法令検索 民法第1045条。ほかの相続人とのバランスも考えて、負担の内容を決めておくと安心です。
なお、時価より低い価格で親族に不動産を売る「低額譲渡」も、同じ通達の対象で、時価との差額に贈与税がかかることがあります。
関連コラム親から子への不動産低額譲渡は危険?みなし贈与の注意点と対策▸
まとめ
負担付贈与は、財産を渡すと同時にご自身の希望も叶えられる方法ですが、税金の扱いは通常の贈与とは大きく異なります。最後にポイントを振り返っておきましょう。
- もらった人の贈与税は「財産の価額−負担額」にかかる
- 土地・建物は相続税評価額ではなく通常の取引価額(時価)で評価する
- あげた人は負担額で譲渡したものとされ、譲渡益が出れば所得税がかかる(損は認められないことがある)
- 賃貸アパートは敷金と同額の現金を一緒に贈与すれば、負担付贈与の通達は適用されない
- 住宅ローンの引受けには金融機関の承諾が必要。契約書で負担の内容をはっきりさせる
暦年課税と相続時精算課税のどちらを選ぶか、あげた人の譲渡所得がいくらになるかで、ご家族全体の税負担は大きく変わります。実行する前に、ぜひ一度ご相談ください。
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参考文献
- 国税庁 No.4426 負担付贈与に対する課税
- e-Gov法令検索 民法第553条
- e-Gov法令検索 民法第551条
- e-Gov法令検索 民法第550条
- 国税庁 負担付贈与又は対価を伴う取引により取得した土地等及び家屋等に係る評価並びに相続税法第7条及び第9条の規定の適用について
- 国税庁 第1節 株式及び出資
- 国税庁 第9条《その他の利益の享受》関係
- 国税庁 No.1440 譲渡所得(土地や建物を譲渡したとき)
- e-Gov法令検索 所得税法第59条
- 国税庁 No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)
- 国税庁 No.4103 相続時精算課税の選択
- 国税庁 賃貸アパートの贈与に係る負担付贈与通達の適用関係
- e-Gov法令検索 民法第472条
- e-Gov法令検索 民法第1045条
負担付贈与のよくある質問まとめ
Q. 負担付贈与とは何ですか?わかりやすく教えてください。
A. 財産をもらう人に、借入金の返済などの負担を引き受けてもらうことを条件にした贈与です。たとえば「家を譲る代わりに残りの住宅ローンを払ってもらう」といったケースが当てはまります。
Q. 負担付贈与の贈与税はどう計算しますか?
A. もらった財産の価額から引き受けた負担額を差し引いた金額に贈与税がかかります。土地や建物は相続税評価額ではなく、贈与の時の通常の取引価額(時価)で評価する点に注意が必要です。
Q. 負担付贈与で、あげた側にも税金はかかりますか?
A. かかることがあります。あげた人は負担額で財産を譲渡したものとして扱われるため、負担額が取得費などを上回れば譲渡所得として所得税・住民税の対象になり、確定申告が必要です。
Q. 負担額のほうが財産の価額より多い場合はどうなりますか?
A. 差し引いた金額がゼロ以下になるため、もらった人に贈与税はかかりません。ただし実質的には売買に近い取引になるため、あげた人の譲渡所得や当事者間の課税関係は個別に確認することをおすすめします。
Q. 賃貸アパートの贈与は負担付贈与になりますか?
A. 敷金の返還義務を引き継ぐため、法形式上は負担付贈与に当たります。ただし敷金と同額の現金を同時に贈与していれば、実質的な負担はないとして負担付贈与の通達は適用されず、あげた人の譲渡所得課税も生じないとされています。
Q. 住宅ローンが残っている家を子に負担付贈与できますか?
A. できますが、子がローンを引き継ぐには金融機関との契約か承諾が必要です。また、家は時価で評価され、親にも譲渡所得がかかる可能性があるため、事前に金融機関への相談と税金の試算を行いましょう。
Q. 負担付贈与は口約束でも成立しますか?
A. 口約束でも成立しますが、書面によらない贈与は履行が終わった部分を除いて解除できるため、トラブルのもとになりがちです。負担の内容や期限、守られなかったときの扱いを書いた契約書を作成しましょう。


