ご家族が亡くなられたあと、「相続税の申告は自分でもできるのだろうか」と考える方は少なくありません。税理士に依頼すれば費用がかかりますし、財産の内容によっては、ご自身で手続きを進められる場合もあります。
一方で、土地の評価や特例の適用が絡むケースでは、判断を誤ると納めすぎ・納め不足のどちらにもつながります。「どこまでが自分でできる範囲なのか分からない」と不安に感じる方も多いはずです。
この記事では、相続税の申告をご自身で行う場合の手順と必要書類、そして専門家に依頼すべきかどうかの判断基準を、順を追ってご説明します。
相続税申告を自分で行うことの可否
結論から申し上げると、相続税の申告をご自身で行うことは可能です。税理士に依頼しなければならないという法律上の決まりはなく、相続人ご本人が申告書を作成して提出できます。
ただし、実務では財産の内容によって難易度が大きく変わります。まずはご自身のケースがどちらに近いかを確認してみてください。
自分で申告しやすいケース
財産の種類が少なく、評価に判断の余地がない場合は、ご自身でも進めやすくなります。
| 自分で申告しやすいケース | 税理士への依頼を 検討すべきケース |
|---|---|
| 財産が預貯金や上場株式が中心で、金額が明確である | 土地や非上場株式など、評価に専門的な判断が必要な財産がある |
| 相続人が1人、または全員が分割内容に合意している | 相続人の間で遺産分割の話し合いがまとまっていない |
| 基礎控除を少し超える程度で、税額が大きくない | 小規模宅地等の特例など、適用要件の判断が必要である |
| 申告期限まで十分な時間が残っている | 期限が迫っており、資料収集に充てる時間が少ない |
税理士への依頼を検討すべきケース
とくに土地を相続した場合は注意が必要です。土地の評価方法は路線価方式と倍率方式に分かれ、路線価方式では土地の形状に応じた補正計算が必要になります国税庁 No.4602 土地家屋の評価。
また、特例を使って税額がゼロになる場合でも申告書の提出は必要です。この点を見落とすと、特例そのものが使えなくなる可能性があります。
申告が必要かどうかの判定
そもそも相続税の申告が必要なのは、遺産の総額が基礎控除額を超える場合です。まずはこの計算から始めます。
基礎控除額の計算方法
基礎控除額は、3,000万円に、600万円へ法定相続人の数を掛けた金額を加えて求めます国税庁 No.4152 相続税の計算。
法定相続人の数は、配偶者と、子・直系尊属・兄弟姉妹という順位に従って決まります国税庁 No.4132 相続人の範囲と法定相続分。
税額の計算例
遺産総額8,000万円、相続人が配偶者と子1人の合計2人というケースで計算してみます。
次に、課税遺産総額を法定相続分で按分し、それぞれに税率を適用します。
税率と控除額は取得金額の区分ごとに定められています国税庁 No.4155 相続税の税率。この総額を、実際に財産を取得した割合に応じて各相続人へ割り振ります。
自分で申告する場合の手順
国税庁は、申告の準備として次の手順を示しています国税庁 No.4202 相続税の申告のために必要な準備。
| 相続人の確認 | 被相続人と相続人の本籍地から戸籍謄本を取り寄せ、相続人を確定します |
|---|---|
| 遺言書の有無の確認 | 遺言書がある場合は、開封する前に家庭裁判所で検認を受けます |
| 遺産と債務の確認 | 遺産と債務を調べて目録を作成します。葬式費用も遺産額から差し引けるため、領収書を保管しておきます |
| 遺産の評価 | 相続税法と財産評価基本通達の定めに従って、財産ごとに評価額を計算します |
| 遺産の分割 | 遺言書がない場合は相続人全員で協議し、遺産分割協議書を作成します |
このうち、もっとも時間がかかるのが相続人の確認と遺産の把握です。戸籍は被相続人の出生から死亡までの連続したものが必要になるため、本籍地が複数回変わっている場合は取り寄せに数週間かかることもあります。
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遺産分割協議がまとまったら、その内容を書面に残します。相続人全員の署名と実印での押印が必要です。
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申告書の作成と必要書類
申告書の様式と入手方法
相続税の申告書は第1表から第15表までの複数の表で構成され、国税庁のサイトで年分ごとの様式が公開されています国税庁 相続税の申告書等の様式一覧(令和7年分用)。
書き方の解説は「相続税の申告のしかた」という手引きにまとめられています国税庁 相続税の申告のしかた(令和7年分用)。ご自身で申告される場合は、この手引きを手元に置いて進めることをおすすめします。
主な添付書類
申告書には、相続人の関係を証明する書類などを添付します国税庁 B1-2 相続税の申告手続。
| 戸籍の謄本 | 被相続人の全ての相続人を明らかにするもの。相続開始の日から10日を経過した日以後に作成されたものが必要です |
|---|---|
| 法定相続情報一覧図の写し | 図形式のもので、戸籍謄本の代わりとして使えます |
| 遺言書または 遺産分割協議書の写し |
財産の分け方を証明する書類として添付します |
| 相続人全員の印鑑証明書 | 遺産分割協議書を添付する場合に必要となります |
このほか、財産の内容に応じて、預貯金の残高証明書、土地の登記事項証明書、固定資産税評価証明書などを準備します。
申告書の提出と納税
提出先と提出期限
提出先を間違えやすいので注意が必要です。相続人ご自身の住所地ではなく、被相続人の住所地を所轄する税務署に提出します国税庁 No.4205 相続税の申告と納税。
| 提出期限 | 被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内 |
|---|---|
| 提出先 | 被相続人の死亡時の住所地を所轄する税務署 |
| 提出方法 | e-Taxソフトによる電子申告、または書面を持参もしくは送付 |
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納税の方法
納税も申告と同じ期限までに行います。納付方法には、電子納税、クレジットカード納付、金融機関または税務署の窓口での納付があります。一度に現金で納めることが難しい場合には、延納や物納という制度も設けられています。
自分で申告する際の注意点
土地評価の難しさ
ご自身で申告する場合に、もっともつまずきやすいのが土地の評価です。路線価が定められている地域では路線価方式を用い、路線価に奥行価格補正率などの補正率を掛けたうえで、土地の面積を乗じて計算します国税庁 No.4604 路線価方式による宅地の評価。
間口が狭い土地、奥行きが極端に長い土地、二つ以上の道路に面している土地などは補正の判断が複雑になります。評価額を高く見積もれば税金を納めすぎ、低く見積もれば申告漏れを指摘される可能性があります。
特例適用時の注意点
相続税には税額を大きく下げる特例がありますが、いずれも適用を受けるためには申告書の提出が要件となっています。
| 小規模宅地等の特例 | 被相続人が住んでいた宅地などについて、一定面積まで評価額を減額できる制度です |
|---|---|
| 配偶者の税額の軽減 | 配偶者が取得した財産のうち、法定相続分または1億6,000万円までは相続税がかからない制度です |
小規模宅地等の特例は対象となる宅地の区分ごとに要件が細かく定められています国税庁 No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)。また、配偶者の税額の軽減は、原則として申告期限までに遺産分割が終わっていることが前提です国税庁 No.4158 配偶者の税額の軽減。
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申告内容に誤りがあった場合
申告した内容に不足があった場合、追加の税金に加えてペナルティが課されることがあります。ご自身で申告される場合ほど、計上漏れや評価誤りが起きやすいため、提出前の見直しが欠かせません。
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相続税は個別の事情によって判断が分かれる場面が多い税金です。とくに土地や非上場株式が含まれる場合には、税理士へのご相談をおすすめします。
まとめ
相続税の申告はご自身でも行えます。財産が預貯金中心で、相続人の間の合意も取れている場合には、国税庁の手引きに沿って進めることが十分に可能です。
一方で、土地の評価や小規模宅地等の特例が絡む場合は、専門的な判断が必要になります。申告期限は被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内と限られていますので、早い段階でご自身のケースがどちらに当たるかを見極めることが大切です。
判断に迷われた場合は、財産の一覧だけでも整理したうえで、一度専門家にご確認いただくと安心です。
お問い合わせはこちら ▸参考文献
- 国税庁 No.4602 土地家屋の評価
- 国税庁 No.4152 相続税の計算
- 国税庁 No.4132 相続人の範囲と法定相続分
- 国税庁 No.4155 相続税の税率
- 国税庁 No.4202 相続税の申告のために必要な準備
- 国税庁 相続税の申告書等の様式一覧(令和7年分用)
- 国税庁 相続税の申告のしかた(令和7年分用)
- 国税庁 B1-2 相続税の申告手続
- 国税庁 No.4205 相続税の申告と納税
- 国税庁 No.4604 路線価方式による宅地の評価
- 国税庁 No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)
- 国税庁 No.4158 配偶者の税額の軽減
相続税申告を自分で行う場合のよくある質問まとめ
Q.相続税の申告を自分で行うことに資格は必要ですか。
A.必要ありません。相続人ご本人が申告書を作成して提出できます。ただし土地や非上場株式の評価が含まれる場合は、専門的な判断が必要になります。
Q.相続税の申告書はどこで手に入りますか。
A.国税庁のサイトで年分ごとの様式一覧が公開されており、そこからダウンロードできます。税務署の窓口でも入手できます。
Q.申告書はどこの税務署に提出しますか。
A.相続人の住所地ではなく、被相続人が亡くなった時点の住所地を所轄する税務署に提出します。
Q.税額がゼロになる場合でも申告は必要ですか。
A.小規模宅地等の特例や配偶者の税額の軽減を使って税額がゼロになる場合でも、申告書の提出が適用の要件となっています。
Q.相続税の申告期限はいつまでですか。
A.被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内です。納税も同じ期限までに行います。
Q.自分で申告する場合、何から始めればよいですか。
A.まず戸籍謄本を取り寄せて相続人を確定し、次に遺産と債務の一覧を作成します。そのうえで基礎控除額と比較し、申告が必要かを判定します。