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生前贈与とは?使える制度の全体像と進め方を解説

目次
  1. 生前贈与とは
  2. 贈与の成立要件
  3. 贈与税がかからない財産の範囲
  4. 生前贈与で使える制度の全体像
  5. 暦年課税と相続時精算課税の位置づけ
  6. 目的別の非課税特例の一覧
  7. 生前贈与が相続税対策になる仕組み
  8. 生前贈与加算による効果の制限
  9. 生前贈与を進める手順
  10. 贈与の内容の決定
  11. 合意と記録の残し方
  12. 贈与税の申告と納税
  13. 生前贈与で失敗しやすい典型パターン
  14. 専門家への相談を検討するタイミング
  15. まとめ
  16. 参考文献
  17. 生前贈与のよくある質問まとめ

生前贈与とは、財産を持っている方が生きているうちに、その財産を無償で他の方へ渡すことをいいます。民法では、贈与する側が財産を無償で与える意思を表示し、受け取る側が承諾することで効力が生じると定められていますe-Gov法令検索 民法第549条。相続を待たずに財産を移せるため、相続税の負担を抑える手段としても広く使われています。

もっとも、「制度がいくつもあってどれを使えばよいのか分からない」「よかれと思って渡したお金が、後から名義預金だと指摘されないか不安だ」と感じている方も多いはずです。この記事では、個々の制度の細かい計算に入る前に知っておきたい生前贈与の全体像を、成立要件・使える制度の一覧・進め方の手順・失敗しやすいパターンの順に整理してお伝えします。

生前贈与とは

生前贈与は、相続とは別の法律上の行為です。相続は亡くなったことをきっかけに自動的に始まりますが、生前贈与は渡す人と受け取る人の合意があって初めて成立します。ここを取り違えたまま進めてしまうと、後から「贈与はなかった」と扱われてしまうことがあります。

贈与の成立要件

贈与が成立するには、財産を無償で与える側の意思表示と、受け取る側の承諾の両方が必要です。つまり、渡す側が一方的に手続きをしただけでは贈与になりません。実務では、子や孫の名義で口座を作り、本人に知らせないまま入金を続けていたケースが典型で、この場合は受け取る側の承諾が欠けているため贈与が成立していないと判断されやすくなります。

受け取る側が未成年の場合は、親権者が代わりに承諾することになります。いずれにしても、合意があったことを後から説明できる形にしておくことが重要です。

贈与税がかからない財産の範囲

財産を渡せば必ず贈与税がかかるわけではありません。夫婦や親子、兄弟姉妹などの扶養義務者から生活費や教育費に充てるために受け取った財産で、通常必要と認められるものには贈与税がかかりません国税庁 No.4405 贈与税がかからない場合。ここでいう生活費には治療費や養育費が含まれ、教育費には学費や教材費、文具費が含まれます。

ただし、非課税となるのは生活費や教育費として必要な都度、直接それに充てるためのものに限られます。生活費の名目で受け取ったお金を預金したり、株式や不動産の購入資金に回したりした場合は贈与税の対象です。仕送りをそのまま貯蓄していた、という状況は実務でも珍しくありませんので注意が必要です。

生前贈与で使える制度の全体像

贈与税の課税方法には暦年課税と相続時精算課税の2つがあり、これに加えて目的別の非課税特例が用意されています。まずはこの階層を押さえると、制度選びの迷いが減ります。

暦年課税と相続時精算課税の位置づけ

暦年課税は、その年の1月1日から12月31日までに受け取った財産の合計額から基礎控除額110万円を差し引いた残りに課税する方法です国税庁 No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)。特別な届出をしなければ自動的にこちらが適用されます。

相続時精算課税は、原則として60歳以上の父母または祖父母などから、18歳以上の子または孫などへ贈与する場合に選べる制度です。贈与者ごとに年110万円の基礎控除があり、それを超える部分は累計2,500万円まで特別控除が使え、超えた金額に一律20パーセントの税率がかかります国税庁 No.4103 相続時精算課税の選択。一度選択すると、その贈与者からの贈与について暦年課税へ戻すことはできません。

どちらが有利かは、贈与する財産の種類や金額、想定される相続までの期間によって変わります。判断の目安は次のコラムにまとめています。

関連コラム暦年贈与と相続時精算課税はどっちが得?2026年の選び方▸

目的別の非課税特例の一覧

住宅資金や教育資金など、使いみちが決まっている贈与には別枠の非課税特例があります。それぞれ適用期限と要件が異なり、期限が過ぎて使えなくなった制度もありますので、現在の状況を一覧で確認しておきましょう。

制度 非課税となる
金額の上限
暦年課税の基礎控除 受け取る人1人につき年110万円
相続時精算課税 年110万円の基礎控除と
累計2,500万円の特別控除
住宅取得等資金の非課税 省エネ等住宅1,000万円/
それ以外の住宅500万円
教育資金の一括贈与 1,500万円(令和8年3月31日で終了)
結婚・子育て資金の一括贈与 1,000万円
贈与税の配偶者控除 2,000万円

住宅取得等資金の非課税は、令和6年1月1日から令和8年12月31日までの間に直系尊属から住宅の新築や取得などの資金を受け取った場合が対象で、省エネ等住宅なら1,000万円、それ以外の住宅なら500万円までが非課税になります国税庁 No.4508 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税。受け取る人は贈与を受けた年の1月1日に18歳以上で、その年の合計所得金額が2,000万円以下であることが必要です。

教育資金の一括贈与は1,500万円まで非課税となる制度でしたが、令和8年3月31日までとされていた適用期限が延長されずに終了したため、令和8年4月1日以後は新たに適用を受けることができません国税庁 No.4510 直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税。同日までに適用を受けた信託受益権や金銭については、引き続きこの特例が適用されます。

結婚・子育て資金の一括贈与は、令和9年3月31日までの間に、契約日に18歳以上50歳未満の方が直系尊属から資金を受け取った場合に1,000万円まで非課税となります国税庁 No.4511 直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の非課税。受け取る前年の合計所得金額が1,000万円を超える場合は使えません。

配偶者へ自宅を渡す場合は、婚姻期間が20年以上の夫婦の間で居住用不動産またはその取得資金を贈与したとき、基礎控除額110万円のほかに最高2,000万円まで控除できます国税庁 No.4452 夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除。同じ配偶者からの贈与については一生に一度しか使えない点に気をつけてください。

生前贈与が相続税対策になる仕組み

相続税は、亡くなった時点で持っていた財産の合計額をもとに計算します。課税価格の合計額から基礎控除額を差し引いた残りが課税遺産総額となり、基礎控除額は3,000万円に600万円へ法定相続人の数を掛けた金額を加えて求めます国税庁 No.4152 相続税の計算。つまり、生前に財産を移して手元の財産を減らせば、その分だけ課税対象が小さくなります。

財産1億円、法定相続人が子2人という家庭で、贈与をしなかった場合の課税遺産総額は次のとおりです。

1億円 − 基礎控除4,200万円(3,000万円 + 600万円 × 2人) = 課税遺産総額5,800万円

ここで、子2人へ毎年110万円ずつ5年間にわたって贈与した場合を考えます。1年間に受け取った財産の合計額が110万円以下であれば、基礎控除額を差し引いた残りがないため贈与税はかかりません。

110万円 × 2人 × 5年 = 移転した財産1,100万円
1億円 − 1,100万円 = 相続時の財産8,900万円
8,900万円 − 基礎控除4,200万円(3,000万円 + 600万円 × 2人) = 課税遺産総額4,700万円

課税遺産総額が5,800万円から4,700万円へ1,100万円減り、その分だけ相続税の負担が軽くなります。時間をかけて少しずつ移すほど効果が積み上がるのが、生前贈与が対策として使われる理由です。

生前贈与加算による効果の制限

ただし、相続や遺贈で財産を取得した方が、被相続人から加算対象期間内に暦年課税で贈与を受けていた場合、その贈与時の価額は相続税の課税価格に加算されます国税庁 No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)。加算対象期間は相続開始日によって変わり、令和8年12月31日までに相続が開始する場合は相続開始前3年以内、令和13年1月1日以後に相続が開始する場合は相続開始前7年以内となります。

基礎控除額110万円以下の贈与も、加算対象期間内であれば加算されます。この経過措置や100万円の控除の詳しい取り扱いは、次のコラムで整理しています。

関連コラム生前贈与加算はいつから7年?経過措置と100万円控除を解説▸

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生前贈与を進める手順

生前贈与は、思い立った日に振り込んで終わり、というものではありません。決める・合意する・記録する・申告するという順序をたどることで、後から否認されるリスクを大きく下げられます。

贈与の内容の決定

最初に決めるのは、誰に何をいつどれだけ渡すのかという4点です。実務では、ここを曖昧にしたまま金額だけ先に決めてしまい、後で贈与税の負担が想定より重くなる例が目立ちます。

贈与する相手 子・孫・配偶者など。相続時に財産を取得するかどうかで加算の有無が変わります
贈与する財産 現金・不動産・株式など。将来値上がりしそうな財産は早めに移す効果が大きくなります
贈与する時期 加算対象期間の影響を受けるため、健康なうちに始めるほど効果が安定します
1年あたりの金額 贈与税の負担と相続税の軽減額を見比べて決めます

孫は相続人でないことが多く、加算の扱いが子とは異なります。誰に渡すかを決める段階で、相続時に財産を取得する見込みがあるかどうかもあわせて確認しておきましょう。

合意と記録の残し方

内容が決まったら、渡す側と受け取る側で贈与契約書を交わし、その内容どおりに実行します。現金を手渡しするのではなく銀行振込を使い、受け取る側が自分で管理する口座へ入金するのが基本です。通帳や印鑑、キャッシュカードを渡す側が保管したままだと、受け取る側が自由に使える状態になっていないと見られてしまいます。

関連コラム生前贈与のやり方|銀行振込で証拠を残す実務手順▸

贈与税の申告と納税

贈与税の申告と納税は、原則として財産をもらった方が、もらった年の翌年2月1日から3月15日までに行います国税庁 No.4429 贈与税の申告と納税。申告期限までに申告しなかった場合や、実際にもらった額より少ない額で申告した場合には、本来の税金のほかに加算税がかかり、納税が遅れれば延滞税も生じます。

相続時精算課税を初めて選ぶ場合は、この申告期間内に贈与者ごとの相続時精算課税選択届出書を提出する必要があります。届出を忘れると暦年課税として扱われますので、初年度の手続きは特に慎重に進めてください。

生前贈与で失敗しやすい典型パターン

相続税の申告をお手伝いしていると、生前贈与のつもりで積み上げてきた財産が、税務上は贈与と認められないという場面に何度も出会います。よくある3つのパターンを押さえておきましょう。

名義預金 子や孫の名義でも、通帳と印鑑を渡す側が管理していれば実質は本人の財産と扱われ、相続財産に含まれます
定期贈与 あらかじめ総額と回数を約束していた場合、約束した年に総額を一括で贈与したものとして課税されます
相続直前の贈与 加算対象期間内の贈与は相続税の課税価格に加算されるため、直前に慌てて移しても効果が出ません

定期贈与について補足します。毎年100万円ずつ10年間にわたって贈与を受ける場合、各年の贈与財産の合計額が110万円以下であれば贈与税はかかりません。しかし、10年間にわたって100万円ずつ受け取ることをあらかじめ約束していた場合は、その約束をした年に、定期金に関する権利の贈与を受けたものとして贈与税がかかります国税庁 No.4402 贈与税がかかる場合。毎年その都度、贈与するかどうかを決めて契約書を作ることが大切です。

名義預金は、相続税の税務調査で最も指摘されやすい論点の一つです。心当たりのある方は、次のコラムで対策を確認しておくことをおすすめします。

関連コラム名義預金が相続税でバレる理由と申告漏れを防ぐ対策▸

専門家への相談を検討するタイミング

生前贈与は、始める前に全体設計をしておくかどうかで結果が大きく変わります。次のような状況にあてはまる場合は、早い段階で税理士に相談されることをおすすめします。

  • 財産の合計額が相続税の基礎控除額を明らかに超えている
  • 不動産や自社株など、評価額の判断が必要な財産を渡そうとしている
  • 相続時精算課税を選ぶかどうか迷っている
  • すでに子や孫の名義で預金を積み立ててきた
  • 贈与を受ける方が住宅の購入や結婚を控えている

特に相続時精算課税は一度選ぶと暦年課税へ戻せないため、選択の前に長期的な見通しを立てておく必要があります。また、贈与した財産の評価や特例の要件は毎年のように改正が入りますので、最新の取り扱いを確認しながら進めることが欠かせません。

まとめ

生前贈与とは、生きているうちに財産を無償で渡すことをいい、渡す側の意思表示と受け取る側の承諾があって初めて成立します。贈与税の課税方法には暦年課税と相続時精算課税の2つがあり、これに住宅取得等資金や結婚・子育て資金、贈与税の配偶者控除といった目的別の特例が組み合わさります。

相続税の負担を軽くする効果は、早く始めて長く続けるほど大きくなります。一方で、加算対象期間内の贈与は相続税の課税価格に加算され、名義預金や定期贈与と判断されれば効果そのものが失われます。決める・合意する・記録する・申告するという手順を丁寧にたどることが、結果的にいちばんの近道です。具体的なケースは税理士へのご相談をおすすめします。

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参考文献

生前贈与のよくある質問まとめ

Q.生前贈与とは何ですか。

A.生きているうちに自分の財産を無償で他の方へ渡すことをいいます。渡す側が財産を無償で与える意思を示し、受け取る側が承諾することで成立します。片方の意思だけでは贈与になりません。

Q.生前贈与はいくらまで贈与税がかかりませんか。

A.暦年課税では、その年の1月1日から12月31日までに受け取った財産の合計額が110万円以下であれば贈与税はかからず、申告も不要です。この110万円は財産を受け取る人ごとに判定します。

Q.生前贈与はいつから始めるとよいですか。

A.相続開始前の加算対象期間内に行った暦年課税の贈与は相続税の課税価格に加算されるため、健康なうちに早く始めて長く続けるほど効果が安定します。直前に慌てて贈与しても効果は限られます。

Q.贈与税の申告はいつ行いますか。

A.原則として財産をもらった方が、もらった年の翌年2月1日から3月15日までに申告と納税を行います。期限までに申告しなかった場合は加算税が、納税が遅れた場合は延滞税がかかります。

Q.教育資金の一括贈与の非課税制度はまだ使えますか。

A.令和8年3月31日までとされていた適用期限が延長されずに終了したため、令和8年4月1日以後は新たに適用を受けることはできません。同日までに適用を受けた分については引き続き非課税が適用されます。

Q.生前贈与は現金以外の財産でもできますか。

A.不動産や株式なども贈与できます。ただし評価額の算定が必要になり、不動産の場合は登記や不動産取得税、登録免許税の負担も生じます。金額が大きくなりやすいため事前の試算をおすすめします。

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