この記事は、法人で生命保険への加入を検討している経営者・経理担当者の方に向けて、法人が支払う保険料の損金算入ルールを整理したものです。「保険料は全額経費になると聞いたけれど本当なのか」「解約返戻率で扱いが変わると言われたが、どこで線が引かれるのか分からない」と迷われる方も多いのではないでしょうか。
先に結論をお伝えします。定期保険・第三分野保険の保険料は、2019年(令和元年)7月8日以後の契約から「最高解約返戻率」で扱いが決まります。最高解約返戻率が50%以下なら原則として期間の経過に応じて損金算入、50%を超えると「50%超70%以下」「70%超85%以下」「85%超」の区分ごとに一定割合を資産に計上します。また、保険料を損金にできても、それは税金の支払いを先に送る「繰延べ」にとどまることが多く、現金は確実に出ていきます。加入の判断は、保険の内容と会社の資金計画を並べて検討することが大切です。
法人が支払う保険料の損金算入の基本
法人が契約者となり、役員や従業員を被保険者とする生命保険の保険料は、保険の種類と保険金の受取人の組み合わせで、損金・資産計上・給与のいずれになるかが決まります。まずは全体像を押さえておきましょう。
保険の種類による取扱いの違い
税務上は大きく「定期保険」「第三分野保険」「養老保険」に分けて考えます。定期保険は一定期間内に被保険者が亡くなった場合にだけ保険金が支払われる保険で、養老保険のような満期の生存保険金はありません。第三分野保険は、病気やけがなど一定の事由に該当した場合に保険金や給付金が支払われる保険(医療保険・がん保険など)を指します。国税庁 No.5364 定期保険及び第三分野保険の保険料の取扱い(令和元年7月8日以後契約分)
| 定期保険 | 一定期間内の死亡にだけ保険金が支払われる。満期保険金はない |
|---|---|
| 第三分野保険 | 病気・けがなど一定の事由で保険金・給付金が支払われる |
| 養老保険 | 満期または死亡で保険金が支払われる(貯蓄性がある) |
なお、保険期間が終身である第三分野保険は、保険期間の開始の日から被保険者が116歳に達する日までを計算上の保険期間とします。特約部分の保険料は、特約の内容に応じて養老保険・定期保険・第三分野保険のいずれかの取扱いによります。
受取人による違いと給与課税
定期保険・第三分野保険(相当多額の前払部分を含まないもの)の保険料は、保険金の受取人が法人であっても、被保険者またはその遺族であっても、原則として期間の経過に応じて損金に算入します。
ただし、受取人が被保険者やその遺族で、役員または部課長その他特定の使用人(その親族を含む)だけを被保険者としている場合は、保険料はその人に対する給与として扱われます。給与とされた保険料は、その役員や従業員の生命保険料控除の対象になります。役員に対する給与とされる保険料を法人が経常的に負担している場合は、経済的利益が毎月おおむね一定であるため、定期同額給与に該当します。
| 契約の形 | 保険料の取扱い(原則) |
|---|---|
| 受取人が法人 | 期間の経過に応じて損金算入 |
| 受取人が被保険者・遺族(全員加入など普遍的) | 期間の経過に応じて損金算入 |
| 受取人が被保険者・遺族で、役員・特定の使用人だけが対象 | その役員・使用人への給与 |
実務で見落としやすいのは、「社長だけを被保険者にして、受取人を社長の家族にしている」契約です。法人が保険料を払っていても法人の損金にはならず、社長個人への給与として源泉徴収などの対応が必要になります。
定期保険・第三分野保険の最高解約返戻率ルール
定期保険や第三分野保険の中には、解約したときに支払った保険料の多くが戻ってくる、貯蓄性の高い商品があります。こうした保険の保険料には「前払い」の性格を持つ部分が含まれているため、全額を期間の経過に応じて損金とするのではなく、最高解約返戻率に応じて一部を資産に計上するルールが設けられています。
適用対象と適用時期
このルールは、2019年(令和元年)6月28日付の法人税基本通達の改正によるもので、令和元年7月8日以後の契約に係る定期保険・第三分野保険の保険料に適用されます。ただし、解約返戻金相当額のない短期払の定期保険・第三分野保険については、令和元年10月8日以後の契約から改正後の取扱いが適用されます。国税庁 定期保険及び第三分野保険に係る保険料の取扱いに関するFAQ
それより前に契約した保険は、改正前の取扱いが続くのが原則です。決算書に古い契約と新しい契約が混在していることも多いため、契約日を保険証券で確認することが最初の作業になります。
最高解約返戻率の意味と50%以下の取扱い
最高解約返戻率とは、保険期間を通じて解約返戻率が最も高くなる期間におけるその割合をいいます。解約返戻率は、契約時に契約者へ示された解約返戻金相当額を、それを受け取るまでに支払う保険料の合計額で割った割合です。国税庁 第3節 保険料等
資産計上のルールの対象となるのは、保険期間が3年以上で、かつ最高解約返戻率が50%を超える定期保険・第三分野保険です。保険期間が3年未満のもの、または最高解約返戻率が50%以下のものは、先ほどの基本どおり、原則として期間の経過に応じて損金に算入します。
ここで注意したいのは、「50%以下=払った年に全額損金」ではない点です。損金算入は期間の経過に応じて行うのが原則で、一定期間分の保険料をまとめて前払いした場合は、いったん全額を資産に計上し、各事業年度に対応する部分だけを損金にします。
最高解約返戻率50%超の3区分
最高解約返戻率が50%を超える場合は、次の区分に応じて、当期分の支払保険料のうち一定額を資産に計上し、残りを損金に算入します。資産に計上した額は、取崩期間に入ってから均等に取り崩して損金にします。国税庁 No.5364-2 定期保険及び第三分野保険の保険料(保険料に相当多額の前払部分の保険料が含まれる場合)の取扱い(令和元年7月8日以後契約分)
| 最高解約返戻率 | 資産計上額 |
|---|---|
| 50%超70%以下 | 当期分支払保険料の40% |
| 70%超85%以下 | 当期分支払保険料の60% |
| 85%超 | 当期分支払保険料×最高解約返戻率の70% (保険期間の開始から10年を経過する日までは90%) |
| 最高解約返戻率 | 資産計上期間 |
|---|---|
| 50%超85%以下 | 保険期間の開始から、保険期間の40%相当期間を経過する日まで |
| 85%超 | 保険期間の開始から、最高解約返戻率となる期間の終了の日まで (5年未満となる場合は5年、保険期間が10年未満なら保険期間の50%相当期間を経過する日まで) |
| 最高解約返戻率 | 取崩期間 |
|---|---|
| 50%超85%以下 | 保険期間の75%相当期間の経過後から、保険期間の終了の日まで |
| 85%超 | 解約返戻金相当額が最も高い金額となる期間の経過後から、保険期間の終了の日まで |
85%超の区分では、資産計上期間の終わりがさらに後ろにずれることがあります。最高解約返戻率となる期間の経過後に、解約返戻金相当額の増加額を年換算保険料相当額で割った割合が70%を超える期間があれば、その期間の終了の日までが資産計上期間になります。85%超の区分は、最高解約返戻率そのものが資産計上割合の計算に入るため、たとえば最高解約返戻率が90%の場合は次のようになります。
このほか、契約内容を変更した場合は、変更以後の期間は変更後の契約内容に基づいて取扱いを判定し直します。
少額の特例と解約返戻金のない短期払
最高解約返戻率が50%を超えていても、最高解約返戻率が70%以下で、かつ年換算保険料相当額が被保険者1人につき合計30万円以下の保険は、資産計上のルールは適用されず、期間の経過に応じた損金算入の取扱いになります。年換算保険料相当額とは、その保険の保険料の総額を保険期間の年数で割った金額です。同じ被保険者について複数の定期保険等に加入している場合は、それぞれの年換算保険料相当額を合計して判定します。
また、保険期間を通じて解約返戻金相当額のない(ごく少額の払戻金のある契約を含む)定期保険・第三分野保険で、保険料の払込期間が保険期間より短いもの(短期払)については、被保険者1人につきその事業年度に支払った保険料が合計30万円以下であれば、支払った日の属する事業年度に損金算入する処理が認められます。この取扱いは、令和元年10月8日以後に加入したものが対象です。
| 少額の特例 | 最高解約返戻率70%以下かつ年換算保険料相当額が被保険者1人につき合計30万円以下なら、期間の経過に応じて損金算入 |
|---|---|
| 解約返戻金のない 短期払の保険 |
被保険者1人につき事業年度の支払保険料が合計30万円以下なら、支払った事業年度の損金算入が認められる |
養老保険の保険料の取扱い(概要)
満期保険金がある養老保険は、貯蓄性が高いため、定期保険とは考え方が異なります。受取人の組み合わせによる取扱いは次のとおりです。国税庁 No.5363 養老保険の保険料の取扱い(令和元年7月8日以後契約分)
| 受取人の組み合わせ | 保険料の取扱い |
|---|---|
| 死亡保険金・生存保険金とも法人 | 契約が終了する時まで資産に計上 |
| 死亡保険金・生存保険金とも被保険者またはその遺族 | その役員・使用人への給与 |
| 死亡保険金は被保険者の遺族、生存保険金は法人 | 2分の1を資産計上、残りは期間の経過に応じて損金算入 (役員・特定の使用人だけが対象なら残りは給与) |
3つ目の形は、いわゆる福利厚生プランとして知られるものです。2分の1を損金にするには、加入対象の決め方など確認すべき点が多いため、詳しくは専用のコラムをご覧ください。
関連コラム法人保険で半分損金にする要件とは?養老保険の福利厚生プランを徹底解説▸
なお、従業員の死亡保障を目的とした団体保険には、別の仕組みもあります。
関連コラム総合福祉団体定期保険とは?仕組みと加入メリットを徹底解説▸
設例で見る資産計上と取崩し
実務での処理の流れを、数字を置いて確認してみます。次の契約を、事業年度の期首に結んだと仮定します(数値は説明用に作ったものです)。
| 保険の種類 | 定期保険(被保険者:代表取締役、受取人:法人) |
|---|---|
| 保険期間 | 30年 |
| 年払保険料 | 200万円(保険期間を通じて同額) |
| 最高解約返戻率 | 80%(70%超85%以下の区分) |
年換算保険料相当額は200万円で30万円を超えるため、少額の特例は使えません。70%超85%以下の区分なので、資産計上期間は保険期間の40%、資産計上額は支払保険料の60%です。
13年目以降は、資産計上期間も取崩期間もない期間に入るため、支払保険料200万円がそのまま損金になります。取崩期間は、保険期間の75%相当期間(22年6か月)が経過した後から、保険期間の終了までです。
取崩期間が始まる23年目は、取崩しが6か月分(96万円)になるため、損金算入額は296万円です。30年間を通して見ると、支払った保険料6,000万円はすべて最終的に損金になりますが、前半に損金にできる額は抑えられ、後半に寄せられることが分かります。
| 1年目〜12年目 | 毎年80万円を損金算入(120万円は資産計上) |
|---|---|
| 13年目〜22年目 | 毎年200万円を損金算入 |
| 23年目 | 296万円を損金算入(取崩し6か月分を含む) |
| 24年目〜30年目 | 毎年392万円を損金算入 |
実務では、保険会社が示す解約返戻率の推移表から最高解約返戻率を読み取り、区分・資産計上期間・取崩期間を契約ごとに管理表へ落とし込んでおきます。決算期をまたいで契約した場合や月払の場合は月数按分が必要になるため、加入時点で数十年分の処理予定を作っておくと、担当者が替わっても処理がぶれにくくなります。
「全額損金なら節税」という誤解と判断のポイント
「保険料が損金になるから節税になる」という説明を受けて加入を検討される方は少なくありません。ただ、損金算入の可否だけで判断すると、資金繰りや出口の場面で想定外の税負担が生じることがあります。
損金算入は課税の繰延べ
保険料を損金にすると、その年の法人税は軽くなります。しかし、保険料として支払った現金は会社から出ていきます。解約返戻金のある保険を将来解約すれば、受け取った返戻金は益金となり、その時点で課税されます。つまり、税金がなくなるのではなく、課税のタイミングが後ろにずれるだけというケースが多いのです。
一方、解約返戻金がほとんどない掛け捨ての保険は、損金になる代わりに、支払った現金は保障の対価として戻ってきません。税金が減った額以上に現金が減ることになるため、「税金を減らす手段」としてではなく、「必要な保障を買う手段」として考えるのが筋です。
解約返戻金の益金算入と出口の考え方
解約返戻金を受け取ったときは、受取額を益金に計上し、その契約で資産に計上している残高があれば取り崩して損金にします。差額が利益となって課税されるため、解約する事業年度の利益水準が税負担を左右します。実務では、役員の退職時期など大きな費用が出る年に解約時期を合わせる設計が検討されることがありますが、退職金の額そのものが過大だと別の問題が生じます。
関連コラム役員退職金が高すぎる?適正額の算出方法と税務上の落とし穴▸
また、既に加入している保険を払済保険に変更した場合は、原則として変更時の解約返戻金相当額と資産計上額との差額を、その事業年度の益金または損金に算入します。名義変更や契約転換などの手続も、それぞれ税務上の処理が伴う点に注意が必要です。
加入前に確認したいポイント
保険の加入や見直しを検討するときは、次の点を事前に確認しておくと判断がしやすくなります。
| 契約日 | 令和元年7月8日以後の契約か(短期払で解約返戻金がないものは令和元年10月8日以後か) |
|---|---|
| 最高解約返戻率 | 50%以下か、50%超ならどの区分か(推移表で確認) |
| 年換算保険料相当額 | 同じ被保険者の定期保険等を合計して30万円以下か |
| 受取人と被保険者 | 役員・特定の使用人だけを対象にした契約で、給与課税にならないか |
| 資金繰り | 保険料を払い続けても運転資金・納税資金に余裕があるか |
| 出口 | 解約・満期の時期に益金を吸収できる見込みがあるか |
保険の目的は、本来は経営者の万一や従業員の福利厚生に備えることです。税務上の扱いは、その目的に合った保険を選んだうえで、資金計画と一緒に確認するのが望ましい順番です。具体的なケースは税理士へのご相談をおすすめします。
まとめ
法人が支払う保険料の損金算入は、保険の種類・受取人・最高解約返戻率の3つで決まります。定期保険・第三分野保険は、令和元年7月8日以後の契約から、保険期間3年以上で最高解約返戻率が50%を超えると、区分に応じて保険料の一部を資産に計上します。最高解約返戻率70%以下で年換算保険料相当額が被保険者1人につき30万円以下なら、期間の経過に応じた損金算入になります。
一方で、役員や特定の使用人だけを対象にした契約は給与課税になり、解約返戻金は受け取った年の益金になります。保険料の損金算入は多くの場合「課税の繰延べ」であり、現金は確実に出ていきます。加入や見直しの前に、契約日・最高解約返戻率・資金繰り・出口の時期を一度並べて確認しておくと安心です。判断に迷われたときは、まずは税理士にご相談ください。
この記事を読んだ方へ
Corporate Tax
法人の税務顧問・法人税申告のご相談
判断に迷ったら、まずは税理士にご相談ください。オンラインでも対応しています。
法人のお客様へ
Contact
税理士に無料で相談する
フォームは24時間受付。1営業日以内にご返信します。
無料相談フォームへ
参考文献
- 国税庁 No.5364 定期保険及び第三分野保険の保険料の取扱い(令和元年7月8日以後契約分)
- 国税庁 定期保険及び第三分野保険に係る保険料の取扱いに関するFAQ
- 国税庁 第3節 保険料等
- 国税庁 No.5364-2 定期保険及び第三分野保険の保険料(保険料に相当多額の前払部分の保険料が含まれる場合)の取扱い(令和元年7月8日以後契約分)
- 国税庁 No.5363 養老保険の保険料の取扱い(令和元年7月8日以後契約分)
法人の保険料の損金算入のよくある質問まとめ
Q.法人が支払う保険料は全額損金になりますか?
A.保険の種類・受取人・最高解約返戻率で決まります。定期保険・第三分野保険で最高解約返戻率が50%以下なら原則として期間の経過に応じて損金算入しますが、50%を超えると一部を資産に計上します。
Q.最高解約返戻率のルールはいつの契約から適用されますか?
A.令和元年7月8日以後の契約に係る定期保険・第三分野保険に適用されます。解約返戻金相当額のない短期払の保険は、令和元年10月8日以後の契約から適用されます。
Q.最高解約返戻率が50%を超えると資産計上の割合はどうなりますか?
A.50%超70%以下は支払保険料の40%、70%超85%以下は60%を、保険期間の40%相当期間まで資産に計上します。85%超は最高解約返戻率の70%(開始から10年間は90%)を乗じた額を資産計上します。
Q.保険料が少額なら資産計上しなくてよいのですか?
A.最高解約返戻率70%以下で、年換算保険料相当額が被保険者1人につき合計30万円以下なら、期間の経過に応じた損金算入になります。最高解約返戻率が70%を超える場合はこの特例の対象外です。
Q.社長だけを被保険者にした保険の保険料はどうなりますか?
A.受取人が法人なら区分に応じた損金算入・資産計上になります。受取人が社長やその遺族で、役員・特定の使用人だけを対象にしている場合は、保険料は社長への給与として扱われます。
Q.保険を解約したときの税務処理はどうなりますか?
A.受け取った解約返戻金は益金に計上し、資産に計上している残高があれば取り崩して損金にします。差額が利益として課税されるため、解約する年の利益水準を事前に確認しておくことが大切です。


