この記事は、確定申告で青色申告決算書を作る個人事業主の方と、アパートや貸家を持つ不動産オーナーの方に向けたものです。結論から申し上げます。事業所得には「一般用」、不動産所得には「不動産所得用」の青色申告決算書を使い、両方の所得がある方は2種類とも作成して確定申告書に添付します。貸借対照表は一般用にまとめて記入できます。また、白色申告の方は青色申告決算書ではなく「収支内訳書」を添付します。本記事では、令和7年分の様式と国税庁の書き方の説明に沿って、2つの決算書の違い、どちらを使うかの判断、両方必要な場合の作り方、青色申告特別控除との関係、提出方法までを整理します。
青色申告決算書の一般用と不動産所得用の違い
「決算書の用紙が何種類もあり、自分がどれを使えばよいか分からない」と迷われる方は少なくありません。青色申告決算書は、所得の種類ごとに様式が分かれているのが特徴です。まずは全体像を確認してください。
| 申告する所得 | 使う書類 |
|---|---|
| 事業所得(営業等)のみ | 青色申告決算書(一般用) |
| 不動産所得のみ | 青色申告決算書(不動産所得用) |
| 事業所得と不動産所得の両方 | 一般用と不動産所得用の両方 |
| 白色申告で事業所得・不動産所得がある | 収支内訳書(所得の種類に応じた様式) |
対象となる所得の違い
青色申告ができるのは、不動産所得、事業所得、山林所得のある方です国税庁 No.2070 青色申告制度。このうち、小売業やサービス業、自由職業などの事業から生ずる所得が事業所得で、一般用の決算書で計算します。ただし、不動産の貸付けによる所得は事業所得ではなく、原則として不動産所得になります国税庁 No.1350 事業所得の課税のしくみ(事業所得)。
不動産所得は、土地や建物などの不動産の貸付け、借地権など不動産の上に存する権利の設定・貸付け、船舶や航空機の貸付けによる所得です国税庁 No.1370 不動産収入を受け取ったとき(不動産所得)。こちらは不動産所得用の決算書で計算します。どちらの所得も、計算の基本は同じです。
記載項目の違い
2つの決算書は、どちらも損益計算書と貸借対照表を中心に構成されていますが、内訳として記入する欄が所得の性質に合わせて異なります。一般用は商品の売上と仕入を前提にしており、月別の売上(収入)金額と仕入金額、売上先・仕入先の明細、製造原価の計算、貸倒引当金の計算などの欄があります国税庁 令和7年分 青色申告決算書(一般用)の書き方。
一方、不動産所得用には不動産所得の収入の内訳の欄があり、貸家・貸地などの別や用途、賃借人ごとの賃貸料のほか、礼金・権利金・更新料、名義書換料や返還を要しないこととなった保証金・敷金などを記入します。借入金利子の内訳を書く欄があるのも、不動産所得用の特徴です国税庁 令和7年分 青色申告決算書(不動産所得用)の書き方。
| 一般用に特有の主な欄 | 不動産所得用に特有の主な欄 |
|---|---|
| 月別売上(収入)金額及び仕入金額 | 不動産所得の収入の内訳 |
| 売上(収入)金額の明細・仕入金額の明細 | 借入金利子の内訳 |
| 製造原価の計算・貸倒引当金繰入額の計算 | 本年中における特殊事情・保証金等の運用状況 |
どちらの決算書を使うかの判断基準
「自宅の一室を事務所として貸している」「駐車場を貸している」など、収入の性質によって迷う場面もあります。判断の出発点は、その収入がどの所得区分に当たるかです。決算書の選択は所得区分の結果にすぎないため、区分を先に確定させることが大切です。
事業所得に当たる場合
物品の販売、飲食、製造、建設、サービス業のほか、デザイナーやコンサルタントなどの自由職業による所得は事業所得に当たり、一般用を使います。事業所得の総収入金額には、売上金額のほか、商品を自家用に消費した場合のその商品の価額や、仕入割引・リベート収入なども含まれます。
不動産所得に当たる場合
アパート・マンション・貸家・貸地の賃貸料は不動産所得に当たり、不動産所得用を使います。不動産所得の総収入金額には、賃貸料のほか、名義書換料・承諾料・更新料・頭金などの名目で受け取るもの、返還を要しない敷金や保証金、共益費などの名目で受け取る電気代・水道代・掃除代なども含まれます。
注意したいのは、貸付けの規模がどれだけ大きくても、不動産の貸付けによる所得は事業所得にはならないという点です。賃貸物件を何棟も持つ大家さんであっても、使うのは一般用ではなく不動産所得用です。所得区分の考え方は、次の記事で詳しく整理しています。
関連コラム不動産所得は事業所得にならない?二つの違いと判断基準を徹底解説!▸
事業所得と不動産所得の両方がある場合
個人事業を営みながら賃貸物件も所有している方は、「決算書は1枚にまとめてよいのか」と疑問に思われるかもしれません。結論として、損益計算書は所得ごとに別々に作り、一般用と不動産所得用の2種類を提出します。
損益計算書と貸借対照表の作り方
損益計算書は、事業所得については一般用、不動産所得については不動産所得用で、それぞれの収入と必要経費を集計します。経費のうち、どちらの業務にも関係するもの(共通の通信費や税理士報酬など)は、合理的な基準で按分して二重計上にならないようにします。
貸借対照表については、事業所得のほかに不動産所得がある方は、それらの所得に係るものを一般用の貸借対照表に合算して記入します。ただし、それぞれの貸借対照表を各別に記入しても差し支えないとされています。不動産所得用の貸借対照表は、事業所得がなく不動産所得のある方が記入する欄です。
| 事業所得の損益計算書 | 一般用に記入 |
|---|---|
| 不動産所得の損益計算書 | 不動産所得用に記入 |
| 貸借対照表 | 一般用に合算して記入(各別に記入しても差し支えない) |
| 確定申告書への転記 | 各決算書の所得金額を、それぞれ事業所得・不動産所得の欄へ |
青色申告特別控除を差し引く順番
青色申告特別控除は、不動産所得と事業所得を通じて1つの控除額を使います。控除は不動産所得の金額、事業所得の金額の順に差し引くことになっており、不動産所得から先に控除します国税庁 No.2072 青色申告特別控除。2枚の決算書で同じ控除を二重に差し引かないよう、控除額の配分を確認してから転記してください。
実務での取り扱いの例
実務では、事業所得と不動産所得の両方がある方の場合、不動産所得の控除の扱いが申告の結果を大きく左右します。たとえば、Webデザイン業を営む個人事業主の方が、相続で取得したアパート6室を賃貸しているケースを考えます。両方の所得を複式簿記で記帳し、e-Taxで期限内に申告した場合、青色申告特別控除前の所得金額が事業所得480万円、不動産所得90万円であれば、控除65万円は不動産所得から先に差し引きます。
不動産所得が控除額より小さい場合は、控除しきれない部分を事業所得から差し引きます。同じ方の不動産所得が40万円であれば、次のようになります。
ここで押さえておきたいのは、アパート6室という規模は、次の章で説明する「事業的規模」の目安には届いていないという点です。それでも65万円の控除を受けられるのは、事業所得を生ずべき事業を営んでいるからです。仮にこの方がデザイン業をやめて不動産所得だけになると、控除の上限は10万円に下がります。
青色申告特別控除と不動産所得の事業的規模
不動産所得用の決算書を作る方が特に気をつけたいのが、貸付けが事業として行われているかどうかです。この判定によって、受けられる青色申告特別控除の額が変わります。
事業的規模の判定基準
不動産の貸付けが事業として行われているかどうかは、原則として社会通念上事業と称するに至る程度の規模かどうかで実質的に判断します。ただし建物の貸付けについては、次のいずれかに当てはまれば、原則として事業として行われているものとして取り扱われます国税庁 No.1373 事業としての不動産貸付けとそれ以外の不動産貸付けとの区分。
| 貸間・アパート等 | 貸与できる独立した室数がおおむね10室以上 |
|---|---|
| 独立家屋 | おおむね5棟以上 |
事業的規模かどうかで、青色事業専従者給与の適用の有無や、賃貸用固定資産の取壊し・除却による損失、賃貸料の貸倒損失の扱いも変わります。決算書の書き方そのものだけでなく、経費として計上できる範囲にも影響する点に注意してください。
控除額ごとの要件
令和7年分の青色申告特別控除は、要件に応じて次のように区分されています。55万円の控除は、不動産所得または事業所得を生ずべき事業を営み、正規の簿記の原則(一般的には複式簿記)で記帳し、貸借対照表と損益計算書を添付して期限内に申告することが要件です。
| 65万円の控除 | 55万円の要件に加えて、e-Taxによる申告または優良な電子帳簿の保存 |
|---|---|
| 55万円の控除 | 事業を営み、複式簿記で記帳し、貸借対照表と損益計算書を添付して期限内に申告 |
| 10万円の控除 | 上記の要件に該当しない青色申告者 |
不動産所得用の書き方の説明でも、事業的規模でない不動産の貸付けによる不動産所得については、他に事業所得がある場合を除き、55万円(65万円)の控除は適用されないと明記されています。前章の実例で、デザイン業の有無によって控除額が変わったのはこのためです。
令和9年分以後の改正
国税庁のパンフレットでは、令和9年分の確定申告から、65万円の控除の要件に加えて優良な電子帳簿の保存またはデジタルシームレス保存の要件を満たす方は、最高75万円の控除を受けられるとされています。あわせて、令和8年分までは書面申告でも55万円の控除が適用できましたが、令和9年分以降は書面申告の場合の控除の上限が10万円になると案内されています国税庁 優良な電子帳簿の保存又はデジタルシームレス保存により75万円の青色申告特別控除を適用しましょう!。紙の決算書で申告している方は、e-Taxへの切り替えを早めに検討しておくと安心です。
白色申告の収支内訳書との関係
「青色申告決算書と収支内訳書は何が違うのか」という疑問もよく寄せられます。両者は、青色申告か白色申告かによって使い分ける書類です。
白色申告では収支内訳書を添付
白色申告の方も、確定申告書を提出する場合には、総収入金額や必要経費の内容を記載した書類(収支内訳書など)を添付する必要があります。また、不動産所得、事業所得または山林所得のある方には記帳と帳簿等の保存が求められており、収入金額や必要経費を記載した帳簿は7年間の保存が必要です国税庁 No.2080 白色申告者の記帳・帳簿等保存制度。
収支内訳書にも、青色申告決算書と同じく所得の種類に応じた様式があり、不動産所得のある白色申告の方は「収支内訳書(不動産所得用)」を使います国税庁 令和7年分 収支内訳書(不動産所得用)の書き方。なお、青色申告特別控除は青色申告者が対象の制度のため、白色申告では受けられません。
| 青色申告決算書 | 収支内訳書 |
|---|---|
| 青色申告の承認を受けた方が添付 | 白色申告の方が添付 |
| 損益計算書と貸借対照表(55万円・65万円の控除を受ける場合) | 総収入金額や必要経費の内容を記載 |
| 青色申告特別控除を差し引ける | 青色申告特別控除はない |
青色申告への切り替え
白色申告から青色申告に切り替える場合は、青色申告をしようとする年の3月15日までに「青色申告承認申請書」を所轄税務署長に提出します。その年の1月16日以後に新たに業務を開始した場合は、業務を開始した日から2か月以内が期限です。相続で賃貸物件を引き継いだ方も、承継した時期や被相続人が青色申告者だったかどうかで期限が変わるため、早めの確認が必要です。
決算書の提出方法と期限
作成した決算書は、確定申告書と一緒に提出します。提出の時期と方法を確認しておきましょう。
申告の期間と期限
所得税の確定申告の期間は、原則としてその年の翌年2月16日から3月15日までで、申告と納付の期限は原則として翌年3月15日です国税庁 No.2020 確定申告。55万円・65万円の青色申告特別控除は期限内の申告が要件になっているため、還付申告であっても期限を過ぎると控除額が10万円になる点に注意してください。
e-Tax・郵送・持参の方法
国税庁の「確定申告書等作成コーナー」では、確定申告書、収支内訳書、青色申告決算書などを画面の案内に沿って作成し、e-Taxで送信できます。書面で提出する場合は、郵便または信書便で所轄税務署(または業務センター)へ送付するか、所轄税務署の受付に提出します。郵送の場合は、通信日付印により表示された日が提出日とみなされます国税庁 申告書の提出方法。
| e-Tax | 作成コーナーなどから決算書のデータを送信(65万円の控除の要件の一つ) |
|---|---|
| 郵送 | 所轄税務署または業務センターへ第一種郵便物または信書便物で送付 |
| 持参 | 所轄税務署の受付に提出(時間外収受箱への投函も可) |
決算書を作成するときの注意点
最後に、2種類の決算書を作る方が見落としやすい点を確認します。
不動産所得の借入金利子
賃貸物件をローンで取得している方は、不動産所得用の借入金利子の内訳欄の書き方にも注意が必要です。内訳欄の記入の考え方は、次の記事で解説しています。
関連コラム不動産所得の申告で借入金利子の内訳から金融機関を除く理由とは▸
共通経費と様式の取り違え
申告で多いのは、事業と賃貸の両方に使う経費を両方の決算書に計上してしまう誤りや、賃貸料を一般用の売上に含めてしまう誤りです。所得区分を取り違えると、青色申告特別控除の控除順や、事業的規模の判定に関係する経費の扱いまで連鎖して誤ることがあります。
申告後に誤りに気づいた場合
提出後に計上漏れや区分の誤りに気づいた場合、税額が少なすぎたときは修正申告、多すぎたときは更正の請求で正すことになります。手続の違いは次の記事で整理しています。
関連コラム更正請求書とは|書き方・期限5年・修正申告との違いを税理士が解説▸
事業所得と不動産所得の両方がある場合、どちらの決算書に何を書くか、控除をどう配分するかは、記帳の状況や物件の規模によって判断が分かれます。具体的なケースは税理士へのご相談をおすすめします。決算書の作成に不安がある方は、まずは税理士にご相談ください。
まとめ
確定申告の青色申告決算書は、所得の種類によって様式が分かれています。事業所得には一般用、不動産所得には不動産所得用を使い、両方の所得がある方は2種類とも作成します。
- 事業所得は一般用、不動産所得は不動産所得用で損益計算書を作る
- 両方の所得がある方の貸借対照表は、一般用に合算して記入できる
- 青色申告特別控除は不動産所得、事業所得の順に差し引く
- 事業的規模(おおむね10室以上または5棟以上)でない貸付けは、他に事業所得がなければ控除は最高10万円
- 令和9年分以後は、書面申告の場合の控除の上限が10万円になると案内されている
- 白色申告の方は、青色申告決算書ではなく収支内訳書を添付する
決算書の選び方や控除の配分に迷う場合は、申告期限が近づく前に確認しておくことが大切です。まずは税理士にご相談ください。
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参考文献
- 国税庁 No.2070 青色申告制度
- 国税庁 No.1350 事業所得の課税のしくみ(事業所得)
- 国税庁 No.1370 不動産収入を受け取ったとき(不動産所得)
- 国税庁 令和7年分 青色申告決算書(一般用)の書き方
- 国税庁 令和7年分 青色申告決算書(不動産所得用)の書き方
- 国税庁 No.2072 青色申告特別控除
- 国税庁 No.1373 事業としての不動産貸付けとそれ以外の不動産貸付けとの区分
- 国税庁 優良な電子帳簿の保存又はデジタルシームレス保存により75万円の青色申告特別控除を適用しましょう!
- 国税庁 No.2080 白色申告者の記帳・帳簿等保存制度
- 国税庁 令和7年分 収支内訳書(不動産所得用)の書き方
- 国税庁 No.2020 確定申告
- 国税庁 申告書の提出方法
青色申告決算書の一般用と不動産所得用のよくある質問まとめ
Q.青色申告決算書の一般用と不動産所得用はどう使い分けますか?
A.事業所得は一般用、不動産所得は不動産所得用で計算します。不動産の貸付けによる所得は、規模が大きくても事業所得ではなく不動産所得になるため、不動産所得用を使います。
Q.事業所得と不動産所得の両方がある場合、決算書は1枚にまとめられますか?
A.損益計算書は所得ごとに別々に作り、一般用と不動産所得用の両方を提出します。貸借対照表は一般用に合算して記入でき、各別に記入しても差し支えありません。
Q.両方の所得がある場合、青色申告特別控除はどちらから差し引きますか?
A.不動産所得の金額から先に差し引き、控除しきれない部分を事業所得の金額から差し引きます。控除額は両方の所得を通じて1つです。
Q.アパート6室の賃貸だけでも65万円の青色申告特別控除は受けられますか?
A.事業的規模(おおむね10室以上または5棟以上)に満たない貸付けによる不動産所得は、他に事業所得がある場合を除き、55万円・65万円の控除は受けられず、最高10万円になります。
Q.白色申告の場合も青色申告決算書を提出しますか?
A.いいえ。白色申告の方は、総収入金額や必要経費の内容を記載した収支内訳書などを確定申告書に添付します。収支内訳書にも不動産所得用などの様式があります。
Q.青色申告決算書はe-Taxで提出したほうがよいですか?
A.e-Taxでの申告は65万円の控除の要件の一つです。また、令和9年分以後は書面申告の場合の控除の上限が10万円になると案内されているため、早めの切り替えが安心です。


