「税務署に出す書類だから、印鑑証明書も用意しておくべきだろうか」と迷われる経理担当の方は少なくありません。この記事は、法人の届出や申告を担当される事業者・経営者・経理担当の方、そして相続の手続きを進めている方に向けて、税務署への手続きで印鑑証明書が要るのか、どの場面で必要になるのかを整理したものです。
結論から申し上げます。法人の異動届出書をはじめとする日常的な税務署への届出には、原則として印鑑証明書を添付する必要はありません。税務関係書類への押印も、令和3年度税制改正により原則として不要になりました。一方で、実印の押印と印鑑証明書の添付が例外として残っている手続きがいくつかあります。この記事では、その「原則」と「例外」の切り分けを公的資料に沿って確認します。
税務署への届出における印鑑証明書の要否
まず、法人が日常的に提出する届出書を確認します。事業年度の変更、納税地の異動、資本金の額等の異動、商号の変更、代表者の変更などを行ったときに提出する異動届出書は、添付書類が「なし」とされています。異動事項の内容確認のため定款等の写しを確認する場合があると案内されているものの、印鑑証明書の添付は求められていません。国税庁 C1-8 異動事項に関する届出
法人を設立したときに提出する法人設立届出書も同様です。添付書類として案内されているのは「定款、寄付行為、規則又は規約の写し」であり、印鑑証明書は含まれていません。提出期限は法人設立の日、すなわち設立登記の日以後2か月以内です。国税庁 C1-4 内国普通法人等の設立の届出
つまり、会社の基本的な事項を税務署に知らせる届出については、印鑑証明書を取りに行く必要はありません。法務局での登記手続きに印鑑証明書が要るため、その延長で税務署にも必要だと思い込んでしまうケースが多いのですが、両者は別の手続きです。
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印鑑証明書の発行元
そもそも印鑑証明書は税務署が発行する書類ではありません。会社・法人の代表者の印鑑証明書は登記所、すなわち法務局で交付を受けるものです。印鑑提出者本人であればオンラインでの交付請求もでき、窓口で受け取る際には印鑑カードの提示が求められます。法務局 会社・法人代表者の印鑑証明書を取得したい方
個人の印鑑証明書は、住所地の市区町村が発行します。税務署の窓口で「印鑑証明書を出してほしい」と依頼しても取得できませんので、必要な場面では発行元を取り違えないようご注意ください。
| 会社・法人の代表者の印鑑証明書 | 登記所(法務局)で交付。 窓口受取の際は印鑑カードの提示が必要 |
|---|---|
| 個人の印鑑証明書 | 住所地の市区町村が発行 |
| 税務署の位置づけ | 印鑑証明書の発行窓口ではない。 提出先として添付を求める場合があるのみ |
添付書類の簡素化(平成29年4月1日以後)
法人設立届出書などの添付書類は、平成29年度税制改正によって整理されました。企業が活動しやすいビジネス環境整備を図る観点から、法人の設立・解散・廃止などの届出書等において添付が必要とされていた「登記事項証明書」について、平成29年4月1日以後、対象の届出書等への添付が不要となっています。対象には、法人設立届出書、外国普通法人となった旨の届出書、収益事業開始届出書、普通法人又は協同組合等となった旨の届出書、法人課税信託の受託者となった旨の届出書などが含まれます。国税庁 法人設立届出書等について、手続が簡素化されました
同じ改正では、異動届出書等の提出先のワンストップ化も行われました。それまで異動前と異動後の双方の所轄税務署に提出が必要とされていた異動届出書等について、平成29年4月1日以後の納税地の異動等により提出する場合は、異動後の所轄税務署への提出が不要とされています。提出先は異動前の納税地の所轄税務署長に一本化されました。
この流れを押さえておくと、古い書式の記載例や手引きを見て「登記事項証明書と印鑑証明書を揃えなければ」と身構える必要がないことが分かります。手元の資料が改正前のものでないか、年度を確認したうえで準備を進めてください。
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押印の見直しと残された例外(令和3年4月1日以後)
国税に関する法令に基づき税務署長等に提出される申告書等(税務関係書類)については、これまで提出者等の押印をしなければならないこととされていました。これが令和3年度税制改正により、令和3年4月1日以降、一定のものを除いて押印を要しないこととされています。除かれたのは、担保提供関係書類及び物納手続関係書類のうち実印の押印及び印鑑証明書の添付を求めている書類と、相続税及び贈与税の特例における添付書類のうち財産の分割の協議に関する書類です。国税庁 税務署窓口における押印の取扱いについて
代理の方が納税証明書の交付請求等をされる際に提出をお願いしている委任者からの委任状等についても、押印は必要ありません。ただし、実印の押印及び印鑑登録証明書等の添付などにより委任の事実を確認している特定個人情報の開示請求や閲覧申請手続については、引き続き委任状への押印等が必要とされています。
以上をまとめると、次のような対比になります。この表が、本記事でもっともお伝えしたい部分です。
| 書類・手続き | 令和3年4月1日以後の取扱い |
|---|---|
| 法人設立届出書・異動届出書 などの一般的な税務関係書類 |
押印は不要。印鑑証明書の添付も求められていない |
| 担保提供関係書類・物納手続関係書類のうち 実印の押印及び印鑑証明書の添付を求めている書類 |
実印の押印と印鑑証明書の添付が引き続き必要 |
| 相続税及び贈与税の特例における添付書類のうち 財産の分割の協議に関する書類 |
実印の押印と印鑑証明書の添付が引き続き必要 |
| 納税証明書の交付請求等に係る 委任者からの委任状等 |
押印は不要 |
| 特定個人情報の開示請求・閲覧申請手続に係る委任状 | 実印の押印及び印鑑登録証明書等の添付が引き続き必要 |
印鑑証明書が必要になる主な場面
ここからは、例外として残った場面を手続きごとに確認します。いずれも、印鑑証明書そのものを税務署が求めるというより、実印で押印された書類の真正性を確かめるために添付が求められる、という位置づけです。
相続税の特例と遺産分割協議書
相続税の申告で印鑑証明書が問題になるのは、配偶者の税額軽減などの特例の適用を受ける場合です。税額軽減の明細を記載した相続税の申告書または更正の請求書には、戸籍謄本等のほか遺言書の写しや遺産分割協議書の写しなど、配偶者の取得した財産が分かる書類を添えて提出します。このとき、遺産分割協議書の写しには相続人全員の印鑑証明書(遺産分割協議書に押印したもの)も添付する必要があるとされています。国税庁 No.4158 配偶者の税額の軽減
ここで添付するのは、協議書に押した印章についての印鑑証明書です。相続人それぞれが自分の住所地の市区町村で取得することになります。協議書に押した印と印鑑証明書の印影が一致していなければ添付の意味をなしませんので、押印の段階から実印を用いる点を相続人の間で共有しておくと手戻りが避けられます。
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担保提供と物納手続
国税は金銭で一時に納付することが原則です。しかし、申告等により納付することになった相続税額または贈与税額が一定額を超え、納期限までに金銭で納付することを困難とする事由がある場合には、申請書を提出のうえ担保を提供することにより年賦で納める延納が認められています。物納についても、申請書及び物納手続関係書類を提出のうえ、一定の相続財産で納付することが認められています。国税庁 延納・物納申請等
この担保提供関係書類と物納手続関係書類のうち、実印の押印及び印鑑証明書の添付を求めている書類が、押印の見直しの対象外として残されています。担保に供する財産の種類によって求められる書類は異なりますので、申請を検討される場合は早めに手引きで範囲を確認しておくことをおすすめします。
代理人による請求手続
代理人が納税証明書の交付請求を行う場合、委任状への押印は不要となりました。オンラインで交付請求する方法では、電子委任状を添付することで代理人が受け取ることも可能とされています。国税庁 G-1 納税証明書の交付請求手続
一方で、マイナンバーを含む特定個人情報の開示請求や閲覧申請の手続きでは、実印の押印と印鑑登録証明書等の添付によって委任の事実を確認する取扱いが続いています。同じ「代理人による請求」でも、扱う情報の性質によって求められる確認の厳しさが変わる点に留意してください。
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実務上の留意点
実務では、押印欄のある古い様式が手元に残っていることがあります。この点について、国税庁ホームページに掲載している申告書等の様式は順次押印欄の無い様式に更新されているものの、押印欄のある様式も引き続き印刷して使用できるとされています。過去に入手または印刷した押印欄のある様式を使用しても差し支えなく、押印が不要である税務書類に任意で押印しても、押印の有無によって効力に影響が生じるものではありません。
また、振替依頼書やダイレクト納付利用届出書については、金融機関からの求めに応じて金融機関届出印、いわゆる銀行印の押印が引き続き求められています。e-Taxを利用して提出する場合は押印が不要です。印鑑証明書とは別の話ですが、「押印は全廃された」と理解していると窓口で差し戻される場面ですので、あわせて押さえておくとよいでしょう。
法人の印鑑証明書については、取得に手間がかかる点も計画に織り込んでおきたいところです。窓口で受け取る際には印鑑カードの提示が求められるため、印鑑カードの所在が分からないまま当日を迎えると、その場では交付を受けられません。設立直後や代表者の交代直後は、カードの引き継ぎ状況を早めに確認しておくと安心です。
なお、必要な書類の範囲は、適用を受ける特例や提供する担保の種類によって変わります。判断に迷う場面では、手元の資料だけで結論を出さず、まずは税理士にご相談ください。
まとめ
税務署への届出と印鑑証明書の関係は、原則と例外を分けて理解すると整理できます。法人設立届出書や異動届出書といった日常的な届出には印鑑証明書の添付は求められておらず、登記事項証明書の添付も平成29年4月1日以後は不要になりました。税務関係書類への押印も、令和3年4月1日以降は原則として要しないこととされています。
例外として実印の押印と印鑑証明書の添付が残っているのは、担保提供関係書類及び物納手続関係書類のうち一定の書類、相続税及び贈与税の特例における財産の分割の協議に関する書類、そして特定個人情報の開示請求等に係る委任状です。いずれも、財産の帰属や委任の事実を厳格に確認する必要がある手続きという共通点があります。
印鑑証明書そのものは税務署ではなく、法人であれば法務局、個人であれば市区町村で取得するものです。手続きの入口を取り違えると余計な時間がかかりますので、提出先と発行元を分けて確認してください。個別の事情によって必要書類は変わりますので、具体的なケースは税理士へのご相談をおすすめします。
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参考文献
- 国税庁 C1-8 異動事項に関する届出
- 国税庁 C1-4 内国普通法人等の設立の届出
- 国税庁 法人設立届出書等について、手続が簡素化されました
- 国税庁 税務署窓口における押印の取扱いについて
- 国税庁 No.4158 配偶者の税額の軽減
- 国税庁 延納・物納申請等
- 国税庁 G-1 納税証明書の交付請求手続
- 法務局 会社・法人代表者の印鑑証明書を取得したい方
税務署と印鑑証明書に関するよくある質問
Q. 税務署への届出に印鑑証明書は必要ですか。
A. 法人設立届出書や異動届出書といった日常的な届出については、印鑑証明書の添付は求められていません。異動届出書の添付書類は「なし」とされており、法人設立届出書の添付書類は定款、寄付行為、規則又は規約の写しとされています。
Q. 法人の印鑑証明書はどこで取得できますか。
A. 会社・法人の代表者の印鑑証明書は登記所、すなわち法務局で交付を受けます。印鑑提出者本人であればオンラインでの交付請求も可能で、窓口で受け取る際には印鑑カードの提示が必要です。税務署では発行されません。
Q. 税務関係書類の押印はいつから不要になりましたか。
A. 令和3年度税制改正により、令和3年4月1日以降、一定のものを除いて押印を要しないこととされました。除かれたのは、担保提供関係書類及び物納手続関係書類のうち実印の押印及び印鑑証明書の添付を求めている書類と、相続税及び贈与税の特例における添付書類のうち財産の分割の協議に関する書類です。
Q. 相続税の申告で印鑑証明書が必要になるのはどのような場合ですか。
A. 配偶者の税額軽減の適用を受ける場合、申告書等に遺産分割協議書の写しを添付するときは、相続人全員の印鑑証明書(遺産分割協議書に押印したもの)もあわせて添付する必要があるとされています。印鑑証明書は各相続人が住所地の市区町村で取得します。
Q. 登記事項証明書の添付はいつから不要になりましたか。
A. 平成29年度税制改正により、平成29年4月1日以後、法人設立届出書や収益事業開始届出書など対象の届出書等への登記事項証明書の添付が不要となりました。同時に、異動届出書等の提出先も異動前の納税地の所轄税務署長に一本化されています。
Q. 押印欄のある古い様式を使っても問題ありませんか。
A. 過去に入手または印刷した押印欄のある様式を使用しても差し支えないとされています。押印が不要である税務書類に任意で押印しても、押印の有無によって効力に影響が生じるものではありません。


