「生前贈与をするなら贈与契約書を作ったほうがよい」と聞いたものの、何をどう書けばよいのか分からず手が止まっている方は多いのではないでしょうか。贈与契約書は、誰が誰に、どの財産を、いつ無償で渡したのかを記録に残すための書類です。ひな形の体裁を整えることよりも、贈与の事実がきちんと読み取れる内容になっていることが大切です。
この記事では、贈与契約書に必ず書く記載事項、現金・不動産・株式といった財産の種類ごとの書き方、確定日付や収入印紙の扱い、そして税務署に否認されないための実務上の注意点を、順を追って解説します。相続税の申告をお手伝いする立場から見ても、贈与契約書の有無で説明のしやすさは大きく変わります。
贈与契約書とは
贈与契約書とは、財産を渡す贈与者と、財産を受け取る受贈者が、贈与の内容に合意したことを書面にしたものです。法律で定められた決まった様式はなく、手書きでもパソコン作成でも効力に違いはありません。用紙のサイズや紙質にも制限はありません。
実務でよく誤解されるのが「契約書がなければ贈与が成立しない」という点です。贈与そのものは、財産を無償で与える意思表示と、それを受け取る側の承諾があれば成立します。それでも書面を作るのは、あとから当事者や税務署に対して贈与があった事実を証明するためです。
贈与契約の成立と書面の関係
口頭の約束だけでも贈与は成立しますが、書面によらない贈与は、各当事者が解除をすることができます。ただし、すでに履行の終わった部分については解除できませんe-Gov法令検索 民法第550条。つまり、書面を作らないままの約束は、渡す前であれば一方的に取り消される可能性が残るということです。
逆にいえば、贈与契約書を作っておけば、贈与者の気が変わっても原則として一方的に解除できません。「将来必ず渡す」という約束を確実なものにしたい場合ほど、書面の意味は大きくなります。
贈与契約書が必要な理由
贈与契約書を作る理由は、大きく分けて2つあります。1つは当事者間で約束を確実にすること、もう1つは税務上のトラブルを避けることです。どちらも「あとから困らないための備え」という点で共通しています。
履行前の解除を防ぐ効果
贈与を約束したものの、実際に財産を渡すのは数年先というケースは珍しくありません。書面がなければ、その間に贈与者の意思が変われば約束はなかったことにできてしまいます。書面にしておくことで、受贈者は将来の受け取りを見込んで生活設計を立てられます。
実務では、贈与者が高齢で判断能力の低下が心配される場合に、意思がはっきりしているうちに書面を残しておく意味は特に大きいと感じます。認知症が進んでからでは、そもそも新たな贈与契約を結ぶこと自体が難しくなります。
税務調査における証拠としての役割
相続税の税務調査では、亡くなった方から家族へのお金の動きが必ずといってよいほど確認されます。そのとき「これは10年前に贈与したものです」と口頭で説明しても、裏づけがなければ主張が通りにくいのが実情です。贈与契約書は、その財産がすでに受贈者のものになっていることを示す客観的な資料になります。
申告のご相談で多いのは、通帳の入出金だけが残っていて、贈与だったのか貸付けだったのか説明できないというケースです。贈与契約書と振込記録がそろっていれば、説明の負担は大きく減ります。
贈与契約書の記載事項
贈与契約書に最低限盛り込むべき項目は決まっています。次の5点がそろっていれば、書面としての役割はおおむね果たせます。
| 贈与者と受贈者 | 双方の氏名と住所を記載します。住民票や印鑑証明書の表記に合わせると、後日の確認がしやすくなります。 |
|---|---|
| 贈与する財産 | 現金なら金額、不動産なら登記事項証明書どおりの表示、株式なら銘柄と株数を書き、どの財産か特定できるようにします。 |
| 贈与の日付 | 合意した年月日を記載します。実際に話し合った日と一致させ、さかのぼって作らないことが重要です。 |
| 引渡しの方法と 時期 |
いつまでに、どの方法で渡すかを書きます。預貯金であれば受贈者名義の口座への振込と明記します。 |
| 署名と押印 | 贈与者と受贈者の双方が署名し、押印します。自筆の署名があると本人が関与した証拠になります。 |
贈与する財産の特定方法
もっとも間違いが多いのが財産の特定です。「現金100万円程度」「自宅の土地」といったあいまいな書き方では、どの財産をいくら渡したのかが読み取れません。金額は1円単位まで正確に、不動産は所在・地番・地目・地積までを書き写します。
贈与契約書の本文に並べる項目は、次の順序で組み立てると読みやすくなります。
- 表題として「贈与契約書」と記載する
- 贈与者と受贈者の氏名を挙げ、贈与の合意があったことを書く
- 贈与する財産の内容を具体的に書く
- 引渡しの時期と方法を書く
- 契約書を作成した年月日を書く
- 贈与者と受贈者それぞれの住所・氏名の署名欄と押印欄を設ける
署名押印と作成の方法
署名は、可能な限り本人が自筆で行ってください。氏名をパソコンで印字して押印だけを行う方法でも書面としては成立しますが、本人が内容を理解して署名したことを示す力は弱まります。印鑑は認印でも構いませんが、実印を使い印鑑証明書を添えておくと、より確かな資料になります。
契約書は同じものを2通作成し、贈与者と受贈者がそれぞれ1通ずつ保管するのが一般的です。受贈者が自分の分を自分で保管していること自体が、贈与を受けた自覚があったことの裏づけになります。
未成年の子や孫へ贈与する場合
受贈者が未成年のお子さまやお孫さまの場合は、本人だけで契約を結ぶことはできません。未成年者が法律行為をするには法定代理人の同意が必要と民法第5条に定められており、親権を行う者は子の財産に関する法律行為について子を代表すると民法第824条に定められています。
そのため、贈与契約書には受贈者本人の氏名に加えて、親権者の署名押印を入れます。受贈者本人の氏名の下に「親権者(父)氏名」「親権者(母)氏名」の欄を設け、親権者が代理していることが分かる形にしてください。親権は父母が共同して行うのが原則ですので、父母がそろっている場合は2人とも署名押印しておくと確実です。
財産の種類別の書き方
贈与する財産の種類によって、契約書に書くべき情報と、契約後に必要な手続きが変わります。ここでは代表的な3つの財産について整理します。
現金・預貯金の贈与
もっとも多いのが現金や預貯金の贈与です。契約書には金額を明記し、引渡し方法として受贈者名義の預金口座への振込を指定します。手渡しでも贈与は成立しますが、記録が残らないため税務署に対する説明が難しくなります。
振込を受ける口座は、受贈者本人が普段から使っていて、通帳とキャッシュカード、届出印を本人が管理しているものを選んでください。ここを誤ると、契約書があっても贈与が認められない原因になります。
不動産の贈与
土地や建物を贈与する場合は、登記事項証明書を手元に置き、所在・地番・家屋番号・種類・構造・床面積などをそのまま書き写します。持分の一部を贈与するときは「持分2分の1」のように割合も明記します。
贈与契約書を作っただけでは登記名義は変わりません。契約後に贈与を原因とする所有権移転登記を法務局へ申請する必要があります。法務局は所有権移転登記申請書の様式と記載例を贈与の場合についても公開しています法務局 不動産登記の申請書様式について。登記は贈与者と受贈者が共同で申請するため、双方の協力が必要です。
株式の贈与
株式を贈与するときは、銘柄・株数・証券会社名などを記載して対象を特定します。上場株式であれば証券口座間の移管手続き、非上場株式であれば会社への名義書換えの請求が必要です。
株式の譲渡は、取得した者の氏名または名称および住所を株主名簿に記載しなければ、株式会社その他の第三者に対抗することができませんe-Gov法令検索 会社法第130条。契約書を作ったまま名義書換えを忘れると、贈与の効果を主張できない場面が出てきます。
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確定日付と収入印紙
贈与契約書の証拠力をさらに高めたい場合や、不動産を贈与する場合には、確定日付と収入印紙という2つの論点が出てきます。どちらも見落としやすいところです。
公証役場で確定日付を取る方法
確定日付とは、その日にその文書が存在していたことを公的に証明する仕組みです。登記所または公証人役場で私署証書に日付のある印章を押してもらうと、その日付が確定日付になりますe-Gov法令検索 民法施行法第5条。作成日をさかのぼって書いたのではないかという疑いを避けたいときに有効です。
手続きは、作成済みの贈与契約書を公証役場へ持参して請求するだけです。手数料は1件につき700円と定められていますe-Gov法令検索 公証人手数料令第37条。費用の負担は小さいため、金額の大きい贈与では取得を検討する価値があります。
収入印紙が必要になるケース
贈与契約書のすべてに収入印紙が必要なわけではありません。印紙が必要になるのは、原則として不動産を贈与する場合です。不動産を同一性を保持させつつ他人に移転させる内容の契約書は、対価を受けるかどうかを問わず第1号の1文書に該当し、贈与は無償契約であるため土地の評価額を書いても記載金額には当たりません国税庁 土地贈与契約書。
第1号文書で契約金額の記載のないものの印紙税額は200円です国税庁 No.7101 不動産の譲渡・土地の賃貸借・消費貸借・運送等に関する契約書。つまり不動産の贈与契約書には200円の収入印紙を貼り、消印をします。
一方、現金や預貯金の贈与契約書は、印紙税額の一覧表に掲げられた第1号文書から第4号文書までのいずれにも当たらないため、収入印紙は不要です国税庁 No.7140 印紙税額の一覧表(その1)第1号文書から第4号文書まで。印紙を貼っていないからといって契約が無効になるわけではない点も、あわせて押さえておいてください。
否認される典型パターンと作成後の手続き
贈与契約書を作っていても、税務調査で贈与と認められないことがあります。書面があること自体がゴールではなく、書面の内容と実際のお金の管理状況が一致していることが求められます。
名義預金と判断されるケース
典型的なのは、子や孫の名義で口座を作って入金しているものの、通帳と印鑑を贈与者が管理し続けているケースです。受贈者が口座の存在を知らず、自由に使える状態にもなければ、財産の支配は移っていないと見られます。国税庁も、相続税の申告書を作成する際に誤りやすい事例として、被相続人以外の名義の財産(預貯金)を挙げています国税庁 相続税の申告書作成時の誤りやすい事例集。
このような預金は名義預金と呼ばれ、名義が家族であっても実質的に亡くなった方の財産として相続税の課税対象に含めることになります。贈与契約書を作ったら、通帳・印鑑・キャッシュカードは必ず受贈者本人が管理してください。
関連コラム名義預金が相続税でバレる理由と申告漏れを防ぐ対策▸
毎年作成する場合の注意点
毎年少しずつ贈与していく場合は、贈与のたびに贈与契約書を作成してください。1枚の契約書に「毎年100万円を10年間贈与する」と書いてしまうと、扱いが変わってしまうためです。
国税庁は、毎年100万円ずつ10年間にわたって贈与を受けることが贈与者との間で契約されている場合には、契約をした年に定期金に関する権利の贈与を受けたものとして贈与税がかかると示しています国税庁 No.4402 贈与税がかかる場合。一方で、毎年その都度贈与契約を結び、各年の贈与額が基礎控除額110万円以下であれば贈与税はかかりません。金額や時期を毎年少しずつ変えておくと、あらかじめ決まっていた贈与ではないことが説明しやすくなります。
関連コラム暦年贈与とは?110万円の非課税枠と7年加算の注意点▸
作成後に必要な手続き
贈与契約書を作ったら、書いたとおりに財産を動かします。預貯金であれば契約書に記載した期日までに振込を実行し、通帳に記録を残します。不動産であれば所有権移転登記を、株式であれば名義書換えを行います。
そして、贈与を受けた財産が基礎控除額を超える場合は、贈与税の申告が必要です。贈与税の申告と納税は、原則として財産をもらった人が、もらった年の翌年の2月1日から3月15日までに行うことになっています国税庁 No.4429 贈与税の申告と納税。申告書の控えも、贈与の事実を示す資料として契約書と一緒に保管しておいてください。
関連コラム贈与税の申告手続き|期限と必要書類・e-Taxでの提出方法▸
まとめ
贈与契約書は、贈与者と受贈者の氏名住所、贈与する財産、贈与の日付、引渡しの方法、双方の署名押印という5つの要素を押さえれば作成できます。財産の特定をあいまいにしないこと、日付をさかのぼらせないことが、書面の信頼性を左右します。
財産の種類ごとに、不動産なら登記と200円の収入印紙、株式なら名義書換えという追加の手続きが伴います。毎年の贈与では1年ごとに契約書を作り直し、通帳と印鑑は受贈者本人が管理してください。この2点を守るだけでも、税務調査で説明に困る場面は大きく減ります。
贈与の内容や金額によっては、相続時精算課税制度との比較や将来の相続税への影響もあわせて考える必要があります。具体的なケースは税理士へのご相談をおすすめします。
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- e-Gov法令検索 民法第550条
- e-Gov法令検索 民法施行法第5条
- e-Gov法令検索 公証人手数料令第37条
- e-Gov法令検索 会社法第130条
- 法務局 不動産登記の申請書様式について
- 国税庁 土地贈与契約書
- 国税庁 No.7101 不動産の譲渡・土地の賃貸借・消費貸借・運送等に関する契約書
- 国税庁 No.7140 印紙税額の一覧表(その1)第1号文書から第4号文書まで
- 国税庁 No.4402 贈与税がかかる場合
- 国税庁 No.4429 贈与税の申告と納税
- 国税庁 相続税の申告書作成時の誤りやすい事例集
贈与契約書のよくある質問まとめ
Q.贈与契約書は手書きとパソコン作成のどちらがよいですか。
A.どちらでも効力に違いはありません。法律上の決まった様式はなく、パソコンで作成して印刷したものでも有効です。ただし署名だけは本人の自筆にしておくと、本人が関与した証拠として強くなります。
Q.贈与契約書に押す印鑑は実印でなければいけませんか。
A.認印でも契約書としては成立します。ただし実印を使い印鑑証明書を添付しておくと、本人が押印したことを示す資料になります。金額の大きい贈与や不動産の贈与では実印をおすすめします。
Q.贈与契約書は毎年作る必要がありますか。
A.毎年贈与する場合は、そのつど作成してください。1枚の契約書で毎年一定額を何年間贈与すると約束すると、契約をした年に定期金に関する権利の贈与を受けたものとして贈与税がかかります。
Q.贈与契約書に収入印紙は必要ですか。
A.不動産を贈与する契約書は第1号の1文書に当たり、契約金額の記載のないものとして200円の収入印紙が必要です。現金や預貯金の贈与契約書は課税文書に当たらないため、収入印紙は不要です。
Q.確定日付を取るにはどうすればよいですか。
A.作成した贈与契約書を公証役場へ持参して請求します。私署証書に日付のある印章を押してもらうことでその日付が確定日付になり、手数料は1件につき700円です。
Q.贈与契約書があれば税務署に否認されませんか。
A.契約書があっても、通帳や印鑑を贈与者が管理し続けている場合は名義預金と判断されることがあります。振込で記録を残し、受贈者本人が口座を管理している状態にしてください。